自然と暴力

愛知大学名古屋校舎2006年度春学期
「思想文化総論」
人はなぜ暴力をふるうのか(第2回)
自然と暴力
フロイト「文化への不満」について
法学部 竹中克英
アウシュヴィッツ (Auschwitz)*
2015/9/30
思想文化総論(第2回) 竹中克英
2
ベトナム戦争*
2015/9/30
思想文化総論(第2回) 竹中克英
3
テロ*
2015/9/30
思想文化総論(第2回) 竹中克英
4
社会暴力*
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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ジークムント・フロイト*
(Siegmund Freud, 1856-1936)
オーストリアの精神分析学者。オー
ストリア・ハンガリー二重帝国に属し
ていたモラビア地方の小都市フライ
ベルク (現、チェコのプシーボル) に
ユダヤ商人の息子として生まれる。
神経病理学者を経て精神科医となり、
神経症研究、自由連想法、無意識研
究、精神分析の創始を行い、さらに
精神力動論を展開した。(from Wikipedia)
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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講義構成
 0 はじめに
 1 文化と人間の欲動
 2 文化とエロス
 3 文化と破壊本能
 4 おわりに
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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0 はじめに
 0.1 ヨハン・ガルトゥングの平和学
 0.2 暴力・攻撃性・破壊性
 0.3 人間の破壊性と文化の歴史性
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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0.1 ガルトゥングの平和学
現代にあふれる暴力、人間はこの暴力を克服し、平和を作り出すこ
とができるだろうか?
ヨハン・ガルトゥング (1930- )
ノルウェイ平和学者
 平和と暴力
 ガルトゥングの暴力概念
直接的暴力
構造的暴力
文化的暴力
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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暴力の定義(ガルトゥング)*
「ある人にたいして影響
力が行使された結果、彼
が現実に肉体的、精神的
に実現しえたものが、彼
のもつ潜在的実現可能性
を下まわった場合、そこ
には暴力が存在する。」
(五頁)
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「暴力は[……]可能性と
現実とのあいだの、つま
り実現可能であったもの
と現実に生じた結果との
あいだのギャップを生じさ
せた原因、と定義され
る。」(六頁)
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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0.2 暴力・攻撃性・破壊性
 自然的攻撃性
 人間的攻撃性


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防衛的攻撃性
破壊的攻撃性
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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図表 攻撃性の区別*
動 物
自然的攻撃性
動物的・本能的攻撃性
人 間
自然的攻撃性
人間的攻撃性
防衛的攻撃性
良性の攻撃性
破壊的攻撃性
悪性の攻撃性
肯定的暴力
否定的暴力
共同体容認的攻撃性
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
共同体破壊的的攻撃性
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0.3 人間の破壊性と文化の歴史性
 暴力の現実的・社会的抑制の問題
 暴力の原因の克服の問題
 文化の歴史性と暴力
 社会構造的暴力の問題
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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1 文化と人間の欲動
 1.1 共同体・文化の起源
 1.2 文化の機能と文化への不満
 1.3 欲動理論の新たな展開
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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1.1 共同体・文化の起源
 ロマン・ロラン「大洋的感情」へのフロイトの反論
 文化の起源




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外界(自然)、肉体、自然的本能(欲動)の克服
ホッブス:「万人の万人に対する闘争」
フロイトの文化概念
強者に対する弱者の連帯的反抗
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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1.2 文化の機能と文化への不満
 個々の人間の利己的な関心:欲求の充足
 人間にとっての苦痛と不快と文化の発展



自然的外界(災厄・苦難)
肉体(苦痛・不快)
法社会的諸制度(不満・敵意)
 文化の課題


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文化の課題は、個々の人間を「最終的に[……]人類へ統合
する」ために共同体の維持・発展をいかに実現するかにある。
共同体形成的エネルギーの確保と共同体破壊的エネルギー
の遮断
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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2 文化とエロス(1)
人間は「生の本能」(エロス)と死の本能(破壊本能)によって駆り立てら
れる「機械」に他ならない。
2.1 エロス


関係形成的
利己性・定量性(文化の阻害要因)
 2.2 関係固着的エロスに対する文化の干渉
(「本来的エロス」)
 2.3 関係促進的エロス
(「本来の目的を制限されたエロス」)
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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文化による心理的エネルギーの管理*
人間に与えられている心理的エネルギーの量は限られているか
ら、それらの任務を遂行しようとすれば、男性は自分のリビドーを
合理的に管理配分する他はない。つまり、諸々の文化目的のた
めに使用する心理エネルギーの大部分は、元来は女性および性
生活に向けられていた心理エネルギーからの転用である。(466)
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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2 文化とエロス(2)
文化の個人に対する干渉・強制
 文化による心理的エネルギーの管理配分


性生活(本来的エロス)の制限
性的タブー
 性愛・性愛関係をめぐる社会的・文化的規制


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共同体構成員との同一視現象:異者に対する敵
意
民族的同一感情・国家的団結などの例
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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文化の不満*
疑似家族関係・友情関係の形成
「現実の教えるところによれば文化は、文化への譲歩としてこれ
まで行なわれてきた各種の人的結合にはまだ不満で、共同体の
構成員をリビドーの面でも互いに結びつけようとしており、そのた
めにあらゆる手段を惜しまず、共同体構成員同士のあいだに強
度の同一視現象を生み出すためのあらゆる方法を優遇し、共同
体の絆を友情関係によって強化すべく、本来の目的を制止されて
いるリビドーを大々的に動員している。この目的を達成するため
には、性生活の制限は避けられない。」(466)
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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3 文化と破壊本能
 破壊本能
 文化命令としての隣人愛

攻撃欲動:「万人がたがいに抱いている敵意」
 破壊欲動の外部的放出:戦争
 破壊欲動の内部的放出:罪責感の形成

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超自我による自我攻撃=良心の形成
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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罪責感*
「罪責感は、エロスと破壊ないしは死の欲動との永遠の闘いで
あるアンビヴァレンツの葛藤の表現である」という指摘である」
(485f.)
「父親から始まったものが、集団において完結する。文化が家
族から人類への必然的な発展過程であるとすれば、罪責感の
増大は、人間に生まれつきそなわっているアンビヴァレンツの
葛藤の結果として、また愛と死の欲動との永遠の争いの結果と
して、文化とはきっても切れない関係にあり、ひょっとするとこの
罪責感の増大は、個々の人間には耐えられない程度に達する
かもしれない。」(486)
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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4 おわりに
 ヴィクトール・フランクルの理想主義
 人間:「意味を求める存在」
 「誠実な人間は少数派です。[……]たぶん永遠に少数派
であり、いつまでも勝利を収めることはないでしょう。」
 フロイトの現実的科学主義と文化の未来に対する悲観主
義

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「人間は人間にとって狼である」
思想文化総論(第2回) 竹中克英
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未来への展望*
「私の見るところ、人類の宿命的課題は、人間の攻撃ならびに自
己破壊欲動による共同生活の妨害を文化の発展によって抑えう
るか、またどの程度まで抑えうるかだと思われる。この点、現代と
いう時代こそは特別興味のある時代であろう。いまや人類は、自
然力の征服の点で大きな進歩をとげ、自然力の助けを借りれば
たがいに最後の一人まで殺し合うことが容易である。現代人の焦
躁・不幸・不安のかなりの部分は、われわれがこのことを知って
いることから生じている。そしてわれわれの期待は、「天上の二つ
の力」のいま一方である永遠のエロスが、自分と同じく不死身で
あるこの相手との戦いに負けないよう一所懸命に頑張ってくれる
ことにかかっている。けれども、誰がよくこの戦いの結果と終末を
予見できるであろうか。」(496)
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思想文化総論(第2回) 竹中克英
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