環境経済・政策学会 日本の「公平」なカーボン・バジェット および温室効果ガス排出削減目標 2014年9月14日 東北大学 明日香壽川 [email protected] 1 Kuramochi T., Asuka J., Tamura K., Fekete H., Höhne N.(2014) “Japan’s mediumand long-term GHG mitigation pathways under the carbon budget approach”, IGES Working paper 2014-02. 2 1.目的 3 2度目標達成に必要な人類全体の炭 素排出許容量(カーボン・バジェット) のもと、いくつかの公平性基準を用い て日本のカーボン・バジェットおよび GHG排出削減目標を定量的に明らか にする。 4 2.背景 5 「不患貧、患不均」 (孟子) 6 Ecofysの研究者による整理および 試算 • Hohne et al. (2013)が、2度目標達成に必 要な各国の2010年比での2030年GHG排出 量に関する複数の既存の試算値を整理 • Ecofysが2度目標達成に必要なオーストラ リアとEUのカーボン・バジェットと数値目標 をモデル計算 7 IPCC AR5 (1) • カーボン・バジェットと公平性が大きくク ローズ・アップ • Hohne et al .(2013)を参照して、 一人あたりGDP 一人あたり排出量 歴史的累積排出量 低排出者の削減免除(発展の権利) などを「公平性基準」として記述 8 IPCC AR5 (2) • 一方、限界削減コスト均等や対GDP削 減コスト割合均等を「公平性基準」とし ては位置づけていない • そもそも限界削減コスト曲線は、モデル 間での格差が非常に大きい →「限界削減コスト均等」を重視してきた 日本へのインパクト大きい 9 国際交渉の進捗 • ADP議長テキストに、「公平性基準などを用 いるなどして自らの目標の妥当性を説明す べき」という趣旨の文章が入った • 恐らくEU・米・中は来年3月に数値目標発表 • シンクタンク連合などが各国目標を“評価”す る予定 10 3.方法 11 概要 • EcofysのEVOC model ver.8を用いて試算 • 2度目標達成のためのカーボン・バジェット (1990年〜2100年)を1800 GtCO2eqと設定 • 3つの努力(負担)分担方法 • 日本政府の2020年目標(1990年比3.1%増 加)と2050年目標(1990年比80%削減)をレ ファレンス 12 カーボン・バジェットの考え方 Annual GHG emissions [MtCO2e/yr] A1 + A2 + A3 = Total carbon budget A2 + A3 = Remaining carbon budget A3 = E(t,end) * (t,end-t,base-1) A2 = 0.5* (E(t,base)-E(t,end))*(t,con-t,base) t,con = 2*A2/(E(t,base)-E(t,end)) + t,base E(t,base) A1 A2 E(t,end) A3 t,start t,base Time [yr] t,con t,end 出典:Feteke et al. (2013) 13 3つの努力分担方法 名称 収縮と収斂 (CPE: Converging per Capita Emission) 内容 全ての国は、累積排出量が世界全体の2度目標達成のカーボ ン・バジェットを超えないよう確保しつつ、それぞれの一人当た り排出量を今後数十年間の間に同じにする。 同一の一人当たり排出量への収斂を要求するものの、途上国 共通だが差 異化された収 は、自国の一人当たり排出量が特定の閾値に達した後に排 斂(CDC: Common but Differentiated Convergence) 出削減が要求される。これにより各国の一人当たり排出量、 開発レベル、歴史的な責任に基づいた差異化を行う。 能力(所得)及び責任(1990年以後の排出量)の二つを組み 温室効果開 発権利(GDRs: 合わせ、ある閾値以下の所得者の排出は発展の権利として Global Development Rights) 免除して分担する。富裕で一人あたり排出量の大きい国は、 貧しくて一人あたり排出量の小さい国よりもカーボン・バジェッ トが小さくなる。 14 4. 結果 15 日本のカーボン・バジェットの大きさ 努力分担方法 日本のカーボン・ すでに使ったカー バジェット ボン・バジェッ (1990-2100年. (1990-2013年) Gt-eCO2e) 残っているカー 2014年からも同量のGHG ボン・バジェッ 排出を続けた場合にカー ト(2014-2100年. ボン・バジェットがゼロ Gt-eCO2e) になる時期(年) CPE 54 57% 23 2032 CDC 51 61% 20 2029 GDRs -25 Overspent Overspent Overspent 69 45% 39 2043 政府公約 (NCA: Nationally Committed Amount; Reference) 16 日本の排出経路(1) 2020年から排出削減を行う場合 MtCO2e/yr 1,500 Ref_NCA: Scenario B Budget_CPE: Scenario B 1,000 Budget_CDC: Scenario B 51Gt 500 16Gt 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 0 17 日本の排出経路(2) 2014年から排出削減を行う場合 MtCO2e/yr 1,500 Ref_NCA: Scenario A Budget_CPE: Scenario A 1,000 Budget_CDC: Scenario A 51Gt 500 16Gt 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 0 18 日本の2030年の“公平”な排出量 2014年から排出削減を行う場合(1990年比%) Year 政府公約 CPE CDC NCA (Reference) 2020 +3.1 -21 -26 -11 2030 N.A. -54 -66 -30 2050 -80 -95 -95 -67 19 5. 考察と展望 20 他の試算・提案との比較 2030年GHG排出削減量(1990年比%) 名称・研究機関 数値目標 備考 エネルギー・環境会議 (エネ環) 23-25 ボトムアップ 、追加対策後 国立環境研究所(2012) 25-35 ボトムアップ(AIMモデル) IPCC AR5; Hohne et al. (2014) 約60 トップダウン、2度目標が前提、複数の 既存論文の中間値 倉持・明日香(2012) エネ環の数値 +10%程度 ボトムアップ 平田・外岡・歌川(2013) 62 ボトムアップ、原発ゼロ Kuramochi et al. (2014) 約60 トップダウン、2度目標が前提、Ecofysモ デル、CPEとCDCのみ CAN Japan(2014) 40-50 トップダウンとボトムアップの両方を考慮 21 今後の展望(1) 1. トップダウンとボトムアップのバランスを どう考えるか? 2. トップダウンは、「2度目標」に大きく依存 3. ボトムアップは、活動量(生産量)、石炭・ 石油火発割合、LNG火発効率、再生可能 エネルギー・省エネ導入量、電炉鋼割合、 海外クレジット購入量などに依存 4. シンクタンク連合による評価と効果は? 22 今後の展望(2) 4. 現在、計画されている石炭火力発電新設 によるロック・インはものすごく問題(1990 年排出量の約5%!) 5. 原発再稼働の影響(ただし、19基動かして も2030年で1990年排出量の約5%を回避 するのみ) 6. 日本はデング熱と災害次第?外圧は効 く?効かない? 23 参考文献 • エネルギー・環境会議(2012)「革新的エネルギー・環境戦略」 http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/ • Fekete, H., Hagemann, M., and Höhne, N. 2013. “Australia’s carbon budget based on global effort sharing, Technical report”, Ecofys Project number: CLIDE13854, Date: 30 May 2013. http://awsassets.wwf.org.au downloadsfs067a_australia_carbon_budget_based_on_global_effort_sharing_24oct13.pdf • • • • • 平田仁子, 外岡豊, 歌川学(2014)「原発にも化石燃料にも頼らない日本の気候変動対策ビジョン[シナリ オ編]省エネルギーを最大限に活用した2050 年の温暖化対策シナリオ, 気候ネットワーク http://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2014/05/japan-climate-vision-2050scenario-ja.pdf Höhne, N., den Elzen, M., and Escalante, D. (2014). Regional GHG reduction targets based on effortsharing: a comparison of studies, Climate Policy, Vol. 14, No. 1, 122 –147. 国立環境研究所AIMプロジェクトチーム(2012)「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会におけ る議論を踏まえたエネルギー消費量・温室効果ガス排出量などの見通し」中央環境審議会地球環境部会 第109回参考資料 http://www-iam.nies.go.jp/aim/prov/2011_committee/ref2(1).pdf Kuramochi T., Asuka J., Tamura K., Fekete H., Höhne N.(2014) “Japan’s medium- and long-term GHG mitigation pathways under the carbon budget approach”, IGES Working paper 2014-02. 倉持壮, 明日香壽川(2012)「革新的エネルギー・環境戦略を考える:活動量の見直し、資源の有効利用、 グリーン投資によって更なる節エネ・CO2排出削減は可能」 IGES Working Paper CC-2012-01 http://pub.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/4163/attach/ IGES_Working_Paper_CC-2012-01.pdf 24
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