1 国際リニアコライダーのための 衝突点ビーム形状モニタの研究開発 ~ Research and development of an interaction-region beam profile monitor for the interaction linear collider ~ 佐藤 優太郎 イントロダクション • 国際リニアコライダー • ペアモニタ 研究内容 • ビームサイズ測定方法の研究 • ペアモニタのための読み出し回路の開発 国際リニアコライダー (ILC) • • • • 電子・陽電子衝突型線形加速器 重心系エネルギー : 最大 500 GeV (アップグレード ~ 1 TeV) 積分ルミノシティ(4 年間) : 500 fb-1 ビームサイズ: (σx, σy, σz) = (639 nm, 5.7 nm, 300 μm) 陽電子源 衝突点 減衰リング 電子用主線形加速器 電子源 陽電子用主線形加速器 → 高ルミノシティを維持するには、 衝突点でのビームの状態を把握することが重要 衝突点ビーム形状モニタ 「ペアモニタ」 2 3 衝突点ビーム形状モニタ 「ペアモニタ」 ペアモニタ + e- e+ beam 電子・陽電子の ヒット分布 0 e- beam e磁場 ビームパイプ -10 e e + Y [cm]10 測定原理 • ビーム衝突時に電子・陽電子ペアが大量に生成。 • バンチの作る電磁場により電子・陽電子ペアが散乱。 → 散乱された電子・陽電子ペアがビーム情報を持つ。 -10 0 X[cm]10 衝突点ビーム形状モニタ 「ペアモニタ」 バンチの電磁場による散乱 e+ e- (バンチ静止系での電場 E’) E=γE’ B = γβbE’ 受ける力 : eE(1+ββb) 陽電子は斥力 → 散乱 電子は引力 → 振動 特徴 • 非破壊型ビームモニタ • 加速器の運転への素早いフィードバックが可能 デザイン 半径 : 10 cm • 単層のシリコンピクセル検出器 ピクセルサイズ : 400μm × 400μm センサー厚さ : 200 μm 4 5 シミュレーションによるビームサイズ測定方法の研究 6 シミュレーションセットアップ パラメータ 衝突点 • • • • 重心系エネルギー : 500 GeV 交差角 : 14 mrad 磁場 : 3.5 T + anti-DID ツール : CAIN (電子・陽電子ペアの生成) Jupiter (トラッキング) • ビームサイズ : (σx, σy, σz) = (639 nm, 5.7 nm, 300 μm) • バンチ当たりの粒子数 : 2 x 1010 行列計算を用いた方法により、 ビームサイズ(σx, σy) とずれ(δy) を測定。 (要求精度 : ~10 % 以下) BeamCal (カロリーメータ) も用いて、 測定精度の向上を図った。 (セルサイズ5mm×5mm) ペアモニタ σy×δy σy σx 行列計算を用いたビームサイズ測定方法 測定変数のテイラー展開を用いて、ビームパラメータを測定する。 測定変数(M) ビームパラメータ(X) 1次の項 2次の項 逆行列を掛けて、ビームパラメータは求められる。 ビームパラメータに対して良い相関を示す測定変数を探した。 7 8 測定変数 1 : 総ヒット数 Nall 総ヒット数の逆数 1/Nall 電子・陽電子ペアの数はルミノシティにほぼ比例するため、 総ヒット数Nall はビーム情報を持つ。 • ルミノシティ L σx [nm] 639 702.9 798.75 958.5 σy [nm] 総ヒット数Nall はσx とσy に大きく依存している。 9 測定変数 2 : 最大半径 Rmax σx [nm] 639 958.5 最大半径Rmax [cm] 動径方向の分布がσx によって大きく変化する。 → 最大半径 Rmax : 全ヒット数の97.5 % を含む半径 半径 R [cm] 最大半径Rmax はσx に大きく依存している。 σy [nm] 5.7 11.4 17.1 σx [nm] 10 測定変数 3 : ヒット数の比 Nd/Nall σy が大きくなると、真上(下)方向に散乱される数が減少する。 σy [nm] 5.7 11.4 17.1 e+ f e+ f [rad] Nd/Nall ヒット分布 d Nd/Nall を定義 σx [nm] 639 702.9 798.75 958.5 σy [nm] 11 測定変数 4 : ヒット数の比 NU/ND δy 0 0.4 1.0 δy が大きくなると、上下で散乱される割合が変化する。 e+ f e+ f [rad] U NU/ND ヒット分布 δy 0 0.2 0.4 D NU/ND を定義 σy [nm] 12 ビームパラメータの再構成 定義した測定変数 ペアモニタ BeamCal 総ヒット数 Nall 総エネルギー損失 Eall 最大半径 Rmax 平均半径 Rave ヒット数の比 Nd/Nall, NU/ND エネルギー損失の比 ED/Eall, EU/ED ルミノシティ 散乱の大きさ 散乱の方向 測定変数を式に代入して、 2 次までのテイラー展開を用いて、ビームパラメータを測定する。 測定変数(M)を代入 ビームパラメータ(X) テイラー展開の係数 A, B はフィットにより決める。 13 ビームパラメータの再構成 逆行列を掛けて、ビームパラメータを求める。 計算方法 右辺にもビームパラメータ(X) がある。 (0) (1) … 安定するまで、繰り返し計算する。 (n) ビームパラメータの再構成精度 (50バンチのデータ) σx σy δy ペアモニタ BeamCal 3.1 % 9.9 % 9.0 % 4.7 % 17.1 % 9.5 % ペアモニタ + BeamCal 2.8 % 8.6 % 7.4 % ペアモニタのみの測定で要求精度(10 % 以下) を満たしている。 BeamCal と組み合わせることで精度が向上している。 14 ペアモニタのための読み出し回路の開発 15 ペアモニタのための読み出し回路 電子・陽電子ペアのヒット分布を取得するために必要となる、 センサーからの信号を処理する読み出し回路を開発。 要求性能 ILC のビーム構造 1. 時間分解能 : 3.8 MHz 以上 1 トレイン = 2625 バンチ ………………… 2 16 ~ ~ (信号レベルは15,000 電子) 1 … [ 2. 雑音レベル : 1000 電子以下 [ [ (バンチ間隔以上) 1 ms 200 ms 3. 放射線耐性 : 数Mrad / year 以上 4. トレイン内の場所に依存したビームサイズ測定 → トレインを16 分割 して(~164 バンチ)、それぞれの部分で計数して、 トレイン間(~200 ms) に読み出しを行う方式を採用。 これらの要求性能を満たすように回路の設計・製作を行った。 • 回路設計の原案は池田博一氏(JAXA) による。 製造プロセス 2 つの異なる製造プロセスを用いて読み出し回路を試作した。 • CMOS プロセス、SOI-CMOS プロセス (本発表では、SOI-CMOSの回路についてのみ発表する。) SOI(Silicon On Insulator) pixel detector • KEK のSOI pixel グループが開発中の、 センサーと読み出し回路を同一ウェハ上に成型する一体型検出器 高速化 読み出し回路 (Si) 低消費電力 埋め込み酸化膜 低物質量 (SiO ) 2 サブストレート層 (センサー) SOI-CMOS プロセスを用いて読み出し回路を試作した。 (今回は読み出し回路のみを試作) 16 17 試作した読み出し回路 製造プロセス : FD-SOI CMOS 0.2 μm チップサイズ : 2.5 x 2.5 mm2 ピクセル数 : 9 (3x3) ピクセルサイズ : 390 x 350 μm2 回路のレイアウト 読み出しピクセル – 試験的に、ピクセルごとに異なる検出器 容量を負荷 入力 アナログ回路部 増幅器 オフセット電圧 調整回路 デジタル回路部 コンパレータ カウント・レジスタ 1 カウント・レジスタ 2 8ビット・カウンタ カウント・レジスタ 16 … • • • • 試作した回路の動作試験、放射線試験を行った。 出力 18 増幅器の出力確認 増幅器の出力を確認した。 アナログ回路 整形 増幅器 オフセット電圧 調整回路 コンパレータ 200 ns テストパルスのタイミング テストパルスのタイミング 低増幅率 (Cf = 0.1 pF) 高増幅率 (Cf = 0.05 pF) ポールゼロ補償 ON 20 mV ポールゼロ補償 OFF 400 ns 正常な増幅器の出力を確認できた。 20 mV 前置 増幅器 オフセット電圧調整回路 • オフセット電圧調整回路において問題が見つかった。 アナログ回路 前置 増幅器 整形 増幅器 オフセット電圧 調整回路 • ピクセルごとのオフセット電圧の ばらつきを打ち消すために、オフセット 電圧が調整できるようになっている。 設計通りのオフセット電圧の調整が できていないことが確認された。 → 次回試作の課題 コンパレータ オフセット電圧のばらつき 60 mV のばらつき オフセット電圧 [mV] 19 20 8 ビット・カウンタの応答 カウンタの応答を確認した。 デジタル回路部 8ビット・カウンタ • グレイ・コードを使用している。 カウント・レジスタ x16 テストパルスのタイミング (特徴 : 常に1ビットしか変化しない) Q1 • 最大値255 に達した後で 0 に戻らない問題が発覚した。 (254 → 255 → 255 → 254 → 253 → …) Q2 Q3 回路修正を行い、次回の試作では問題点を解決できる。 21 ヒット数の読み出し カウントレジスタを切り換えながら、テストパルスを入力して、 ヒット数を読み出した 。 読み出しピクセル (他のカウント・レジスタも同様の結果) TP入力 読みだされたヒット数 1つのカウント・レジスタの出力 アナログ回路 カウンタ カウント・レジスタ 1 カウント・レジスタ 2 … カウント・レジスタ 16 @4 MHz 入力テストパルス数 要求されている計数率(~3.8 MHz) で、 正しいヒット数を読み出せることが確認できた。 22 雑音評価 Vth [mV] 計数効率 等価雑音電子数を見積もり、雑音を評価する。 しきい値スキャン • コンパレータのしきい値を変えながら、 計数効率を測定し、誤差関数でフィットした。 誤差関数 傾き→増幅率 正電荷 (2.64 μV/e) σ = 0.756 mV Vth=-126 mV 雑音σ Vth 負電荷 (3.14 μV/e) しきい値電圧 [mV] → 等価雑音電子数 ( = 雑音σ / 増幅率) を求めた。 入力電荷 [103 e] 等価雑音電子数 等価雑音電子数 すべてのピクセルの雑音レベルを測定して、 雑音の検出器容量依存性を調べた。 正電荷 負電荷 TSPICE Simulation 検出器容量 [pF] 雑音レベルの要求性能(1,000 電子以下) を 満たしていることが確認できた。 23 24 放射線耐性試験 試作回路にX線を照射して、放射線耐性を調べた。 • X線発生装置 : FR-D (リガク社) @KEK • 標的 : Cu (~8 keVの光子) • 照射量 : 最大2 Mrad 放射線効果 +++++ + +++++ + + + + + ++ + + + + ++ ~260 μm • シングルイベント ~40 nm – 入射粒子によって生じる 200nm 一時的な電流による不具合。 → SOI は高耐性。 • トータルドーズ – 絶縁層に蓄積する電荷による影響 – 照射量に比例 VSUB サブストレート層の電位Vsub によるトータルドーズ補償効果を観測 25 前置増幅器の信号波形 照射前後及びVsub 補償時で、前置増幅器の信号波形を観測した。 • 照射するにつれて、オフセット電圧が下がり、 波高が小さくなり、 時定数も小さくなった。 1 μs 照射前 300 krad 照射後 照射 (Vsub = -1.65 V) Vsub 補償 (Vsub = -1.65 V) 前置増幅器 出力 (Vsub = -4.72 V) サブストレート層の電位Vsub の補償により、 照射前の信号波形に近い形に戻っている。 10 mV テストパルス のタイミング 26 しきい値スキャン 入力電荷 [103 e] 等価雑音電子数 [e] Vsub 補償 Vsub 補償 誤差関数の中央値 Vth [mV] 照射前後及びVsub 補償時で、しきい値スキャンを行い、 増幅率、等価雑音電子数の変化を調べた。 検出器容量 [pF] サブストレート層の電位Vsub の補償により、 照射前の増幅率、等価雑音電子数に回復している。 2 Mrad までの放射線耐性があることを確認できた。 まとめ 27 国際リニアコライダーのための衝突点ビーム形状モニタ 「ペアモニタ」 の 研究・開発を行った。 ビームサイズ測定方法の研究 • ビームサイズ(σx, σy) とずれ(δy) を10 % 以下の精度で測定できることを示 した。 • BeamCal(カロリーメータ) と組み合わせることでさらに精度を向上した。 読み出し回路の開発 • 2 つの読み出し回路を試作し、動作試験、放射線試験を行った。 • SOI-CMOS 試作回路は計数率、雑音レベル、放射線耐性の要求性能を 満たしていることを確認した。 • ただし、カウンタ及びオフセット電圧調整回路は修正が必要。 • CMOS試作回路の動作試験結果については論文(IEEE) にアクセプト。
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