建築材料科学

11.建築材料の音響特性

音の伝播速度

音速c(一般則)
c
Vm

M  s
  Vm
M  r
M:分子量、 Vm:分子容積
βs:断熱圧縮率、βr:等温圧縮率
γ=βr/β

材料
音速(m/s)
空気(1気圧、20℃)
343.5
水
1,460
ゴム
35~230
E
木材
3,300

コンクリート
3,500~5,000
ガラス
4,000~5,000
大理石
3,800
鉄
5,000
固体の場合
c
E:ヤング係数(弾性係数)、≒1/βs
11.建築材料の音響特性

音の反射


入射角θ1=反射角θ
屈折率=sinθ1/sinθ2=c1/c2
θ2:屈折角
c1,c2:物質1,2中の音速

凹凸の反射面の場合



波長が短い場合
波長が長い場合
凹凸の個々の面から反射
凹凸がない場合と同様の反射
反射損失(物質1から物質2に垂直に入射)
 c1 1  c2  2
反射損失=I(反射)/I(入射)= 
 c1 1  c2  2
I:音の強さ
ρ1,ρ2:物質1,2の密度



2
11.建築材料の音響特性

音の吸収

音波の減衰(吸収)


物質中の音の伝播→熱に変換→無方向に損失
音源からx点の音の強さ
I  I s exp 2x 
Is:音源における音の強さ
α:音の吸収係数
∝f2(振動数の2乗に比例)
∝1/c3(音速の3乗に逆比例)
∝1/ρ(密度に逆比例)
リラクセーションの大きい物質ほど大きい
構成物質の粒子寸法と波長との関係に依存
11.建築材料の音響特性

音の回折




音の伝播空間に障害物がある場合に、音が背後に回り
込み到達する現象
障害物が小さいほど顕著
波長が長いほど顕著
可聴範囲の波長:2cm~10m(身近な物体の寸法)

現実的な音場を複雑にしている(直接音、反射音、回折音)
11.建築材料の音響特性

音響特性

一重壁の吸音・反射・遮音
I=R+A+S
I:入射音の強さ(エネルギー)
R:反射音の強さ(エネルギー)
A:吸収エネルギー(熱)
T:透過音の強さ(エネルギー)

吸音率
a=(I-R)/I=(A+T)I

透過率
τ=T/I

透過損失(単位:dB)
TL=10log10(1/τ)=10log10(I/T)
=20log10(pi/pt)
pi:入射音圧、pt:透過音圧
→吸音
→吸音
→吸音
11.建築材料の音響特性

多孔質吸音材料

軟質繊維材料



繊維間空隙を伝播→材料内部に侵入→空気粘性や摩擦で減衰
低温域から高温域の吸収能
ロックウール、グラスウールのフェルト状織物
 材料が厚いほど吸音率大

カーペット
 毛足が長いほど吸音率大、中高音を吸収

気孔材料

連続気孔組織
 入射音が材料内部まで侵入
 発泡ウレタン
材料自体も軟質で吸音性能大

独立気孔組織
 発泡スチロール板、気泡コンクリート板
 独立気泡で硬質のため、吸音性能低い
11.建築材料の音響特性
11.建築材料の音響特性

吸音材料

多孔質吸音材料

表面反射率が小さい








→反射しにくい
表面積が大きい
表面が柔軟である
通気性がある
空隙が材料内部まで迷路のように達している
材料中の音速が小さい →吸収係数が大きい
密度が小さい
→吸収係数が大きい
無機材料の吸収係数<有機材料の吸収係数
軟質繊維材料、気孔材料
11.建築材料の音響特性

板状吸音材料(薄膜状吸音構造)

板材・薄膜材/空気層/剛な壁面
→ 屈曲板振動 → 材料の内部摩擦
 80~300Hzの低温域を選択的に吸収
 硬質板状材料 合板、硬質繊維板、石こう板、石綿スレート板
 硬質・緻密、通気性ない

多孔質板状材料(繊維をフェルト状)
 背面を剛な壁面に密着

吸音性小
膜状材料
 ビニルシート、通気性のない織物・紙
11.建築材料の音響特性
11.建築材料の音響特性

板状吸音材料(薄膜状吸音構造)

共振周波数(fres)で最大吸収
f res

1  1.4  105
K


m  La

1

2
Hz
m:板の単位面積質量(kg/m2)、La:空気層の厚さ(m)
K:板の剛性に関する係数

長方形板で周辺が固定支持の場合
K
 Et
12 1  2
4

2

2
2

 p   q  

     

 a   b  

2
a,b:板の辺長、t:板厚、E:弾性係数、ν:ポアソン比、p,q:任意整数


板が薄い場合、膜構造の場合
板が厚く、背後空気層が大きい場合
K=0
f res 
1
2
K
m
Hz
11.建築材料の音響特性

孔あき吸音材料(孔あき板吸音構造)

孔あき板




硬質板(硬質繊維板、金属板)に貫通孔
リブ構造・スリット構造の表面仕上げ
表面仕上げ材/空気層(通気性のある薄膜、繊維質吸音
材料)/剛な壁面
特定周波数の吸音





音波の入射→孔前面に音圧→孔内の空気の振動
背後の空気層はバネの役割
孔部の空気は重りの役割
共鳴周波数成分の加振力(圧力)→共鳴振動→粘性摩擦による
エネルギー消費→吸音
孔部の前後に繊維類などの抵抗材を配置→運動摩擦の促進→
広範囲の周波数の吸音
11.建築材料の音響特性
11.建築材料の音響特性
11.建築材料の音響特性
11.建築材料の音響特性

孔あき吸音材料(孔あき板吸音構造)

孔あき板の共鳴周波数
f0 
c
2
O
t La
c:音速、O:開口率(=πd2/4D2)、D:円形孔のピッチ
t’=t+0.8d、t:板厚、d:円形孔の直径、La:空気層の厚さ
11.建築材料の音響特性

孔あき吸音材料(孔あき板吸音構造)

スリット板の共鳴周波数
f0 
c
2
O
t   La
a,b:スリットの長辺、短辺の長さ、B:スリット間隔
O:スリット開口率(=b/B)、δ=Kb(開口端補正値)
スリット長aが有限の場合、
1 2
2a
K
スリット長aが無限の場合、



loge
b
P 

K  loge  cos ec


2 

2
11.建築材料の音響特性

反射材料(反射構造)

全ての周波数音を一様に反射するのが望ましい


表面硬質、平滑
曲げ剛性大
 コンクリート壁
 モルタル・石こうプラスター塗布板
 厚く重い硬質板
11.建築材料の音響特性

遮音材料(遮音構造)

単板

一重壁の質量則(透過損失∝質量)
 入射音波→壁体の振動→反対側の空気を駆動→音波
 角振動数ωの音圧piが面密度mの壁に入射する場合の運動方程
式(仮定:壁厚は音の波長に比較して十分小さい)
pi+pr-pt=jωmv
pr:反射音圧、pt:透過音圧、v:壁の振動速度、 j   1
 音圧/音響インピーダンス=壁の両側の空気の粒子速度=壁の振
動速度(壁の振動速度はその両側面で空気の粒子速度に等しい)
(pi-pr)/ρc=pt/ρc=v
ρ:空気の密度、c:音速
11.建築材料の音響特性
pi+pr
pt
圧力は方向性がなく、面に対しては
垂直に作用する
11.建築材料の音響特性

遮音材料(遮音構造)

単板

入射音圧と透過音圧の比

透過損失
pi
j m
 1
pt
2 c
2
2





I

m

m
 


   10 log

TL  10 log   10 log1  
2 c  
S
 2 c 

 

 2fm 
 20 log
  20 log fm  43
 2  415 
I:入射音の強さ、S:透過音の強さ、f:振動数
 音の強さ(=p2/ρc)
 伝搬方向に垂直な単位面積と単位時間に流れる音のエネルギー
11.建築材料の音響特性

遮音材料(遮音構造)

単板

コインシデンス効果(板状材料では1000Hz以上の周波数)あり
 材料に、ある周波数の音波が斜めから入射すると、その材料の屈
曲振動(波長)と入射音波の振動(見掛けの波長)とが一致し、一種
の共振状態を起こし、透過損失が低下する現象
 材料の振動波の速度

E
cb  2hf
12 1   2






1/ 2
h:厚さ、E:ヤング係数、ρ:密度、σ:ポアソン比
 コインシデンス周波数(コインシデンス効果の生じる周波数)
f 
c2
2h sin2 

12 1   2
E

c 


c

 b

sin



11.建築材料の音響特性
11.建築材料の音響特性

遮音材料(遮音構造)

複合板

異種材料の張合せによる各種サンドイッチ構造
→粘性増加→コインシデンス効果の低減


重量に比し遮音効果高い
間仕切壁、扉
11.建築材料の音響特性

遮音材料(遮音構造)

多重構造体



各種板状材料、コンクリートブロック、鉄筋コンクリートの組合せ
壁
各構成壁独立、間隔10cm以上
中空二重壁の共鳴透過周波数
f rmd
1

2
k
1

M 2
k M 1  M 2 
1

M 1M 2
2
 2 c 2

 d

 m1  m2 

 mm
1 2

m1、m2:2枚の壁体の面密度
d:中空層厚さ
k:中空層の空気層のバネ定数(=2ρc2/d)
 共鳴透過周波数を可聴音域より低くする→遮音効果を高める
 面密度を大きくする
 中空層を厚くする
11.建築材料の音響特性