チューリング伝説

チューリング計算限界を超える
星野 力
元筑波大学
@なつこん 2014.7
アラン・チューリングの人生
• 1912年生まれ。英国の数理学者、自然哲学者。
コンピュータ科学の創始者
• コンピュータの基本モデル「チューリング・
マシン」を提唱。計算不能なことがあること
を証明した(24歳)
• ドイツのエニグマ暗号を解読。英国を救った
国家的英雄
• チューリング・マシンの実現:ACEの開発
アラン・チューリングの人生(続)
• 人工知能の判定基準「チューリングテスト」を
提唱
• ホモセクシャルとして有罪判決。謎の自殺を遂
げた(1954年)。英国首相は有罪判決を謝罪し
名誉回復(2009年)
• 1960年代より計算理論と人工知能の発展。
チューリング賞の創設
• チューリングのインパクトは自然科学・哲学の
広範囲におよんでいる。2012年、生誕100年祭
が世界中(日本を除く)で開催された。
チューリング・マシン
数学者=計算手(Computer)の心理モデル
原理的に計算できないことがある
計算できないことがある
計算プログラムとデータ
入力
この計算が停止するかどうかを(実際に計算
しないで)判定するプログラム
……こういう万能のプログラムは存在しない
証明:この停止判定プログラム自身を自分へ
入力する(自己参照)と矛盾が生じる。
原理的に計算不可能な例;
万能ウイルス判定プログラム
万能コピペ判定プログラム など
計
算
可
能
限
界
計
算
可
能
限
界
??バベルの塔??
チューリング
計算不能
Simulation &
Turing test
チューリング計算可能
Applications
Software
Hardware
チューリングマシン
TM
生命・自然
など
記号化・論理記述で
きないものすべて
チューリングマシンの上に
IT世界は築かれた ⓒ
T.Hoshino
人間らしさのテスト?
チューリング・テスト
コンピュータ
人間(男、女)
文字
通信
(1950年)
審査員
• 審査員がコンピュータと人間を区別できるかというゲームを
やって、客観的な判断をしよう
われわれは外見だけから判断している;
犬・猫 神経細胞 ICチップ ソラリスの海 電気羊のアンドロイド
チューリングの予言:
「50年後には審査員の30%以上をだませるだろう」
本物に似ていなくても結構かわいい
「不気味の谷」を越えなくてもいい
チューリングの予言:
「レディたちがコンピュータをお供に
散歩していて、“今朝、うちのかわい
いコンピュータはこんなことを言った
のですよ”と語り合うかもしれない」
(1951年 知能機械、異端の理論)
感
動
類似度
不
気
味
の
谷
チューリングの死後半世紀の現在
• 原理的に計算可能でも
現実に計算困難・計算不能な問題が多い
記号化も論理化もできない
膨大な計算時間を要す
…探索における組み合わせ爆発
…多次元・多変数・多時点・複雑
並列スパコンも電力限界
なぜコンピュータは遅いのか
遅さの原因
デジタル
逐次的
万能
限界を超えるには
→→→
→→→
→→→
アナログ
並列
専用
たとえば
エニグマ暗号解読専用
チューリング・ボンベ
チューリングのこだわり;
自己参照する自意識の謎
• チューリング(計算機構と知能 1950年)
「自意識を特定しようとする試みにはある種の
パラドックスがある」
…これは自己参照の矛盾か
「この「」の中の文章は全部ウソ」
「クレタ人の一人、預言者自身(エピメニデス)
が次のように言った。 “クレタ人はいつもうそつき
、……”」
……新約聖書「テトスへの手紙)より
デカルト劇場(自己観照)
重なり
「自分を観ている自分」を観ると、参照ループ
が生じる。しかし、ほとんどの人は、自己を客
観視している。
例:悪事を働いた自分を反省している自分を
客観的に見ている。
自己参照の例;自己増殖の謎
•動的コピー:生きている自分が
自分をコピーすると、
•コピーされた自分は、また同時に
自分をコピーし、無限後退に陥る
•避ける方法(再帰定理);
•静的コピー:自己の設計図(遺伝
子)をコピーすること
•ノイマンの自己増殖オートマトン
自己参照しない自己複製の方法(再帰定理)
次の行の文のコピーを2つ作り、停止せよ
次の行の文のコピーを2つ作り、停止せよ
上の最初の行の文章にしたがうと、自己複製
次の行の文のコピーを2つ作り、停止せよ
次の行の文のコピーを2つ作り、停止せよ
ができる。自分自身ではなく2行目の自分の設計図
(遺伝子)をコピーしている
自意識の不思議さ;日常的な例
• なぜ酒に酔って意識を失うのか?
• 気圧がさがるとひどく酔う。意識は物理現象か?
• 全身麻酔薬キセノン(不活性ガス)で意識を失うの
はなぜ?
…ライナス・ポーリングが興味を持って研究した
いのちとは何か?
ユニークな【自意識】
• 【自意識】=自分固有の自意識。世界の認識主体
•
【 】つき自意識は永井均さんによる
• 死後、全世界は消滅する?それとも存続している?
• 脳をコピーしたら、【自意識】はどちらへ移るのか?
• われわれはどこから来たのか?死後どこへ行く?
• 実証主義者だったチューリングの自殺の理由は?
•
死別した親友モルコムと交わした会話
チューリングはイマジネーションの源
グレッグ・イーガン
『オラクル』
(2000年)
「ひとりっ子」ハヤカワ文庫に収録
オラクル=計算可能かどうかを教えてくれるチップ
生命と計算の論争は、現実のエピソードに近い
登場人物;
ロバート・ストーニー: チューリング。数学者・物理学者
ヘレン : 別の分岐の未来からきた女のアンドロイド
ジャック・ハミルトン: ケンブリッジの教授・作家で
『ナスニア』国を書いている。
ほか、チューリングネタのフィクション;
ニール・スティーブンスン「クリプトノミコン」ハヤカワ文庫
ロバート・ハリス「暗号機エニグマへの挑戦」新潮文庫
「幻」「ロカ」
by
星野
SFとして書いていません
• 「幻」シリーズ
自己参照と矛盾、アキバ戦争。チューリング、
ヴィトゲンシュタインなど哲学ネタ。NFN大賞
1次通過、2次落選。
• 「ロカ」シリーズ
「幻」と同じ入口。レビー小体錯視。出口は
ロカとの闘い。落選したときHPに置く予定。