08SNA 第10章の紹介 宇南山 卓 神戸大学大学院経済学研究科 資本勘定とは? • 資産価値の変動を記録した勘定の一つ • 資本勘定 • 金融勘定 • その他の資産量変動勘定 • 再評価勘定 ⇒ これらの合計が貸借対照表の変動となる • 「居住者制度単位によって取得ないし処分された非金融資産 の価値を記録し、貯蓄および資本移転に起因する正味資産 変動を示す(10.2)」 フローとストック ストック: 前期末貸借対照表 フロー: 資本勘定 取引外: その他の資産 量変動勘定 フロー: 金融勘定 時間 取引外: 再評価勘定 資本調達勘定 ストック: 今期末貸借対照表 調整勘定 資本勘定の構造 総資本形成 総固定資本形成 貯蓄 在庫品変動 貴重品の 取得マイナス処分 固定資本減耗 (マイナス) 資本移転(受取) 非生産資産の 取得マイナス処分 バランス 項目 純貸出(+) /純借入(-) 資本移転(支払) (マイナス) 正味資産 の変動 日本における資本調達勘定の例 (単位:10億円) 平成21年度 項 目 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 総固定資本形成 (控除)固定資本減耗 在庫品増加 土地の購入(純) 純貸出(+)/純借入(-)((1.6+1.7-1.8)-(1.1-1.2+1.3+1.4)) 2009 14,923.0 19,640.8 124.2 -8,223.0 27,156.5 資産の変動 14,339.9 1.6 貯蓄(純) 1.7 資本移転(受取) 1.8 (控除)資本移転(支払) うち資本税 16,011.0 183.7 1,854.8 1,349.8 貯蓄・資本移転による正味資産の変動 14,339.9 2009年度確報・制度部門別資本調達勘定・家計 貯蓄 • Para 18 に説明あり • 可処分所得の使用勘定から繰り越されたバランス項目 • プラスの場合 • 非金融資産や金融資産の取得 • 負債の返済 に使われる可処分所得部分を表わす • マイナスの場合 • 最終消費支出が可処分所得を超過している金額 • 資産の処分や新規負債の発行によって賄われる • 日本の国民経済計算では「所得支出勘定」から利用可能 資本移転 • Para 19 および 200-210 に説明あり • 資本移転とは以下のどちらか、または両方の手段による移転 • 移転を支払う当事者が資産を処分または金融債権手放す • 移転を受け取る方の当事者が資産(現金または在庫以外)を取得 • 反対給付のない移転 • しばしば規模が大きく、また不定期な移転 • ただし、資本移転とみなされる必要条件ではない • 経常移転か資本移転かが分類困難なら経常移転とする • 可処分所得には影響を与えず「貯蓄行動」とは別のモノ • 具体例 • 資本税(相続税・贈与税) • 投資交付金 • 負債の取り消し (債権者と債務者の双方の合意によるもののみ) • 一方的な負債の抹消は「その他の資産量変動勘定」 経済資産と境界 経済資産 売却不能な貴重品 所有権が確立できない自然 売却可能な貴重品 自然生成資産 非生産資産 今期生産 された財 既存資本の改良 維持・修理 小型の道具 に取 係得 わ及 るび 費処 用分 最 終 費 用 育成生物資源 在庫 契 ラ約 イ・ セリ ンー スス ・ 家計以外が所有 家計が所有 中間消費 消費財 持家 耐久消費財 固定資産 • 固定資産とは、1年を超えて生産で使用される財・サービス • 耐久消費財を含まず • ただし持家は含む • 小型の道具類は含まず • 相対的重要性に応じて柔軟に対応すべき • 既存の固定資産の処分はマイナスの取得(マイナスの総固定 資本形成)とみなされる • 所有権の移転費用は「買い手の取得した固定資本」の一部となる • 買い手の取得した固定資本 > 売り手の処分した固定資本 • 非居住者が買った場合も「名目的な居住者」が取得したとみなされる • 外国に輸出されると売り手のマイナスの総固定資本形成だけが記録される • 車両が家計に売られると、 • 売り手:マイナスの総固定資本形成 家計:消費支出 既存資産の改良 • 既存資産の改良(para 43) • 生産能力を増加させる • 耐用年数の延長 ⇒ 既存資産の価値の増加 • 改良のための支出は固定資産として扱われる • 固定資本減耗の対象も改良後の資産価値 • 通常の維持・修理(中間消費とみなされる)との区別は明白ではない • 維持・修理は定期的であり、選択の余地がない • 維持・修理は予想耐用年数を変化させない • 大規模な改修・改造・改築、ソフトウェアの拡張は、改良である • 自然状態にある土地の改良については別項目とする • 新規固定資産の創出として扱われる(後述) 資産の取得及び処分に係わる費用 • 固定資産の購入手続きは複雑 • 法的所有権の確立のための法律家の関与 • 技術的なチェックのためのエンジニアの関与 • 購入価格に含まれないが配達と設置に関して多額の費用 • 発生する費用は総固定資本形成の価値の不可欠部分 • 例示はpara 52 の a – f を参照 • 新規所有者の貸借対照表には、これらの費用を含めて記録する • 新規資産および既存の資産の双方に適用 • 新規所有者の予測保有期間中に、固定資本減耗の中で償却 • 資産の処分に関して発生する費用 • 取得に対して発生する費用と類似しているもの(これは中間消費?) • 生産寿命の終わりに発生する重大な費用は「最終費用」として別項目 資産の価値と固定資本減耗のイメージ 資産価値 保有予定期間 取得費用の固定資本減耗分 取得費用 物理的な固定資本減耗分 物理的な 固定資本 そのもの の価値 最終費用の固定資本減耗分 最終費用を考慮しない 資産価値 時点 最終費用を考慮した 資産価値 資産価値はマイナス 最終費用の支出 =資本形成 資本形成の記録時点:原則 仕掛品=在庫 固定資産 所有権の移転 完成 設置・稼働開始 資本形成の記録時点:自己勘定 固定資産 資本量と生産 能力が乖離 設置・稼働開始 完成 資本形成の記録時点:前払い 固定資産 前払い金 契約の成立 前払い金の支払い 代金の清算 設置・稼働開始 完成 =所有権の移転 固定資産の種類と注意点 (1) • 住宅 • 恒久的家具も含む・トレーラーハウス等も含む・老人ホーム等も含む • その他の建物と構築物 • 住宅以外の建物 • 刑務所・病院・学校は住まいを提供していても「住宅以外」 • その他の構築物 • 護岸堤、堤防など隣接する土地の改良を目的としたものも含む • 高速区道路・港湾・滑走路なども含む • ・・・つづく • 土地改良の後に 土地の改良 • 土地改良とは(para 79) • 土地の量、質、生産性を大きく改善させる(劣化を避ける)行動の結果 • 整地、水平化工事、井戸や水溜りの掘削といった活動 • 改良前に存在していた非生産土地資産とは区別される • 固定資産のカテゴリーとして表章される • 生産資産の改良は既存資産そのものの増加として評価されていた • 非生産資産に係わる所有権移転費用と類似した扱い • 非生産資産の価値の一部とはされず、別項目として計上される (para 173) • 土地の改良に含まれないもの • 護岸堤、堤防、ダム、大規模灌漑システムの構築などは「土地に不可欠 のものではない」ので「その他の構築物」に分類される • 「建設用地を整地・整備するための費用は、新規住宅(およびその他の 建物と構築物)の費用の一部であり、したがって、建物の価値に含まれ る。」(para 70) 「がれき処理」はどこに分類されるのか? • がれきを放置すれば、土地として利用できない • 土地の改良? • がれき処理後に何を建築するのか? • 堤防・道路・公園等 • 「その他の構築物」? • 住宅が建設される • 「住宅」? • 用途が決まらない場合は? 固定資産の種類と注意点 (2) • 機械・設備 • 輸送機械 • 情報通信機器 • 電子制御を利用する機器、またそれらの機器の一部を形成する電子部品 • 実務的には、コンピューターハードウェアおよび通信機器に限定 • その他の機械・設備 • 兵器システム • 軍艦、潜水艦、軍用機、戦車、ミサイル輸送車および発射台等のような 車両やその他の設備 • 砲弾、ミサイル、ロケット、爆弾などの一回限り使用可能な兵器のほとん どは、軍事在庫 • 高い破壊能力を持つ特定の種類の弾道ミサイルなどは固定資産 • 侵略者に対する持続的な抑止サービスを提供するものだから 育成生物資源 • 育成生物資源とは • 動物資源および樹木、作物、植物資源 • 自然成長と再生が直接の制御、責任、および管理の下にある • 制御・責任・管理のもとになければ「非生産非金融資産」の「自然資源」 • 繰り返し生産物を生み出すもの • ただ一度の作物のみを生産する場合は含まない • 食肉のために育成される動物・材木用の立木は「在庫」 • 成熟までに長時間を要する動物や樹木は「仕掛品」 • 固定資産の記録時点の原則を適用 • 固定資本減耗は自然的原因に由来するものを含む • 加齢による価値低下など • 自然災害(疫病・汚染・干ばつ・ハリケーン)は「その他の資産量変動」 知的財産生産物 • 知的財産生産物とは • 知識の使用が法的手段などで制限されている • 開発者が自らの利益のために、売買や生産活動に利用可能 • 研究、開発、調査または革新の結果 • 原本とコピーは区別する必要がある • 所有者以外にもたらされる波及効果は評価しない • 知的生産物の種類 • 研究・開発 • 鉱物探査と評価 • コンピューター・ソフトウェアとデータベース • 娯楽、文学、芸術作品の原本 • その他の知己財産生産物 知的財産生産物に関する注意点 • 研究・開発には人的資本は含めない • 研究開発の価値は、その期待経済的便益で決定すべき • 原則として、所有者に経済的便益を提供しない場合は、中間消費 • 政府による研究開発の場合など • 市場価値が観測できなければ、失敗したR&Dを含め費用合計で評価 • 鉱物探査の費用は知的財産生産物の取得とみなす • 自己勘定や前払いでなくとも支出された時点で資本形成とみなす • 探査から得られた情報は、それを得た者の生産活動に影饗を与えるから • ソフトウェアは一年を超えて生産に使用する場合には固定資産 • ライセンスを得た場合でも一年以上使う場合には固定資産 • 市場で購入されたソフトウェアは購入者価格で評価 • 社内(インハウス)で開発されたソフトウェアは、推定基本価格、もしくは基本 価格の推定が不可能な場合は生産費用によって評価 • データベースの費用にはデータの取得・作成費用は含まない 在庫 • 在庫品の変動とは • (在庫に繰り入れた価値額-在庫から引き出された価値額)-在庫品と して保有中に当該会計期間内に生じた経常性損失 • 在庫されている間に価格が増加すれば保有利得として計上 • 貯蔵期間中の時間の経過とともに、その特性を変化させる場合貯蔵に よる価値の増加は生産として扱う • 一般的物価水準と比較して財の価格が上昇することが期待されるケース • 秋まき小麦や熟成度をもったワイン • 会計期間中の価値の増加のうち、予想された水準が「貯蔵の生産」 • この水準からの乖離部分が、保有利得または損失 • 在庫品の種類 • 原材料・仕掛品(育成生物資源に関する仕掛品・その他の仕掛品)・製 品・軍事在庫品・再販売品 非生産非金融資産の取得マイナス処分 • 非生産・非金融資産とは • 自然資源 • 契約・リース・ライセンス • 買い入れのれんおよびマーケティング資産 • 自然資源の取得・処分 • 土地・鉱物およびエネルギー資源・非育成生物資源・水資源・その他の 自然資源 • 自然資源の所有者は居住者単位とみなされる • 非居住者単位が購入した場合は名目居住者を仲介させる • 大使館や国際機関の事務所の購入は例外 • 取引費用は別の項目として計上される 契約、リース、ライセンス • 契約、リース、ライセンスは、以下を条件として資産となる • a. 契約、リース、ライセンスの条件に含まれる、資産の使用またはサービス の提供についての価格がそうした契約、リース、ライセンスがない場合にお ける、その市場価格とは異なること。 • b. 契約の一方の当事者が、この価格差を法的および実務的に実現可能で あること。 • 契約、リース、ライセンスの種類 • 市場性のあるオペレーティング・リース • 建物のまた貸しのような固定資産と関連付けられる第3者財産権 • 自然資源の利用許可 • 漁獲割り当てのような自然資源と関連付けられる第3者財産権 • 特定活動の実施許可 • (一般的には)政府が与える、独占利益を生み出すような許可 • タクシーの営業許可・カジノの営業許可など • 将来の財・サービスに関する排他的権原 • 将来の財・サービスを固定価格で購入する契約など、第2者義務を第3者に譲渡 することが可能な場合の項目 • サッカー選手の契約・特定作家の新規作品に関する独占出版権など のれんとマーケティング資産 • 「のれん」とは • 資産・負債によって評価された法人企業の純価値に対する上乗せ分 • 法人企業構造の価値、さらに労働力、経営、企業文化、流通ネットワー ク、顧客基盤のひとつの集合体がビジネスに対してもつ価値を反映 • 他の資産から分離された価値をもたない • 資産を互いに組み合わせて使用することによる付加分 • 当該法人企業の売却価値から、資産、負債を控除して導出 • 残余として推定されるため評価における誤差脱漏も反映される • ほとんどの法人企業において存在する • SNAでその価値が記録されるのは、通常、法人企業全体の売却など、 市場取引によって証明される時に限られる
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