「事後の報償金」でなく 「 Profits Interest(利益持率)」で、 事前の 相当の対価問題に対処し、 Open Innovationを推進する米国 第七回日本知財学会 2009.6.14 @東工大大岡山 株式会社ニコン 齋藤旬 ホームページ;『LLC制度研究会』管理人 社会にとって大事なのは、 Inventionではなく、経済発展を伴うInnovationであり、 技術者のミッションは特許の獲得ではなく、 「有益財を産む可能性」をアピールし、 Open Innovation Partnershipの一員(A partner)となり、利益持率を獲得することである。 1 あらまし はじめに;背景説明日本の会社法・税法・会計法は諸外国に比べ30年遅れている 0. 「利益持率(Profits Interest)」とは… 1. 「利益持率」;Open Innovationの要 2. 「利益持率」;「Non arm’s length経済」に属す る 3. 日本は、「Non arm’s length経済」未導入 4. すなわち、我が国にとって Open Innovation 実現は前途多難 2 利益持率とは • 発明の価値;「利益額×寄与率」;事後に判明 • しかし、事前にも「博打」としてなら寄与率決定 は可能 • 例えば…もし将来、利益実現したならば 「利益の30%の分け前を当該技術者のものと する」と、Partner達が事前に話し合って決める。 • この様な、予想寄与率をProfits Interest; 「利益持率」と、米国Internal Revenue Code (内国歳入慣例)では呼んでいる。 3 「Open Innovationとは社外の複数の技術を活用して行うもの」として日本人には知られているが、これは正確ではない。 Open Innovationはポーカーである 「上手くいくかどうか分からない社外技術」を「あれやこれや」組み合わせ、試行錯誤して行うのがOpen Innovation • • • • • Innovationの博打性; 「社外技術をいろいろと取っ替え引っ替えに、取捨選択」 これらの技術調達を、「売買取引」で行うと… 「お金がかかりすぎる」 「搾取が横行」 結局… Non arm’s length取引、つまり、 「利益持率」と引き替えに、所望技術の使用権を 権利者から入手するという取引が要。 ないし 4 「搾取の横行」;売買取引の失敗例 ホラー小説家鈴木光司の「リング」のリメーク権 2001年、米国Dream Works LLCに百万ドル で売却した。 その後Dream Works LLCは2億5千万ドルの 興行収益を得た。 鈴木光司氏は0.4%しか得られなかったこと になる。 5 Non arm’s length取引による調達 私どもは、貴社の課題を 解決するのが仕事。 Win-Winをモットーとします。 エーッと、でもー、おたくさん 一体どんな製品や サービスを売ってくれるの? 「売る」ことは しません! PARTNER 取引をします。 ウチも買わな いよ!ただ、 「ガツガツかき 集める」だけさ。 福澤諭吉になったつもりで和訳すれば,,, Partner A Partner B Profits Interest 利益持率 ;事業活動後に成果にあずかる権利 Profits Contribution Profits Contribution Contribution in kind 特有財役出資 Interest in kind Interest in kind ;その事業で必要とされる役務や 知財や技術や資金や設備などを Partnership AB 出資し合う事。 in kind 「関係性」によって有効となったナニナニ 6 「経済」はヒトとヒトの間で取り交わす「取引」で成り立っている。 「取引」とは、何かと何かの交換のことであり、二種類ある。 何と何を 比較するのか 絶対評価, 相対評価 評価の場 税務当局 は 所得税 課税 Arm’s length取引 お金 と 財・サービス・権利 お金による 絶対評価 public market 利益が生まれる 取引と見なす 課税される Non arm’s length取引 財・サービス・権利 と 財・サービス・権利 具体的財・サービス・ 権利同士の相対評価 one of private markets 利益は生まれ ていない取引と見なす 課税されない (取引時には) (後日、利益が生まれれば、それはPartnerに パススルーされ、その合算所得に課税される。) 日本の法律では、取引は全てArm’s length取引と見なされる。 独立企業間原則;Arm’s length Principle 7 Dream Works LLC設立(1994年) 譲渡益税 日本ならば、 百億円;500億円×20% が 即座に 課税 される このケースでは、スピルバーグ等の役務価値は500億円と等価と評価された 100% 合計$1000M $100M 90% 80% Profits Interest 60% 70% 60% $700M スピルバーグ等 ポール・アレン その他 50% 40% 30% 20% 10% $200M 0% 出資金額 Profits Interest 8 Economic Entity 第四の経済主体;Partnership Business Corporate、家計、政府、そしてPartnership 21世紀経済のイメージ 外縁部; Arm’s length経済 を媒介にした経済 public market 中心部; Non arm’s length経済 a lot of private markets 9 Marketとは、 「共通の価値物差しを持った集団」 その内部で「取引」が成立する集団 ① 活働目的が、「衣食住」の充足にあった時代; →public market ② 活働目的が、 「衣食住」充足 + 「個々人ごとの豊かさ」の追求 に移っていく時代; →public market + a lot of private markets Private marketとは、 「ある特定のテーマで、共通の価値物差しを持った集団」のこと。 該特定テーマ関連の財・サービス・権利に関して、「非・お金」、例えば「一般に対 しては“未だ”換金性の無い、財産・サービス・権利」での「取引」が可能となること が特徴。 10 元来、経済の原型はNon arm’s length。 商業ルネサンス期(11世紀)の欧州、Commenda契約 例えば、「Partnership の原型」の一つ、商業ルネサンス期の Commenda 契約では commendator と呼ばれる定住投資家(sedentary investor)が tractator と呼ばれる巡回共同 事業者(traveling associate)に財産・資金を前渡し(advance)する。その後 tractator は自ら の役務を拠出する。つまり例えば、預かった財産・資金を持って遠方まで旅に出る。そして、 その遠方地において貿易を行い「利益」を作り、再び commendator のもとへ戻ってくる。そ の後「利益」は分配され、commendator は四分の三を、tractator は四分の一を受領する。 この例ではつまり、tractator が出資した役務の価値は commendator が出資した財産・資金 の価値の三分の一であると両者の間で決定されたのだ。この様に Equity(出資され た財・サービス・権利)とは、良く見知った仲間達だけ、つまり「内部者達」だけが等価価 値を見積もるものだったし、また、金銭という絶対的尺度ではなく、具体的な役務や財産と 比較した上で、それの何倍ないし何割に相当するという具合に「相対的尺度」で見積もるも 「自分達だけで、仲 のだった。すなわち Equity は Non arm’s length な経済に属していた。 間内で」、「相対的尺度」で見積もるものだったのだ。 Par t ner ship と は、共通の利益を実現するために、資産や役務を組み 合わせようとする二人以上の人間によって合意された契約である。 LLC制度研究会WebSite、 コラム#22『Credit Culture, Equity Culture』より抜粋 Partner A 何らかの 何らかの Benefit Contribution Partner B 何らかの 何らかの Benefit Contribution Partnership AB 11 …ところが、 1929年 大恐慌から 1939年から1945年 第二次大戦 のころ、 Arm’s length経済 へと一変。 最近も、きな臭い動きが... 12 保護主義の嵐が吹き荒れる時 代 1933年、国際租税ルールに独立企業原則が成立@国際連盟 Corporate所得税(日本で言う法人税)の盛衰史 欧米と日本の比較 欧米 11世紀 日本 イタリアを通じてPartnership制度が欧州に広まる。 Partnership制度の800年間 興 19世紀 英米においてCorporate(株式会社)制度の発明 1894年 米議会でCorporate所得税制度が可決された。 Corporate所得税(日本で言う法人税)の歴史は僅か70年間だった。 盛 衰 1867年 大政奉還。急激な資本主義化始まる。殖産興業。 1887年 個人所得税法創設。 1913年 米憲法16条修正。Corporateに納税の義務。 1893年 会社法創設 1914年 第一次世界大戦勃発 1894年 日清戦争勃発 1933年 国際租税ルールに独立企業原則が成立@国際連盟 1899年 渋澤栄一の薦めにより、法人所得税法創設 1939年 第二次世界大戦勃発 1958年 米アイセンハワー政権によりS Corporate制度創設。 1940年 戦時下,新法人税法創設 大増税改革。 1977年 米ワイオミング州で世界初のLLC制度創設。 1947年 GHQ,シャウプ勧告により直税三法;法人,贈与,相続 盛 盛 1980年 米,ミルトン・フリードマンがCorporate所得税廃止を提案 1960代 高度経済成長を経験。 盛 1997年 米、Check the Box制度創設。LLC設立が簡単に。 1980代 バブル経済を経験。ジャパン アズ No.1と呼ばれる。 盛 2000年 Hansmann, Kraakman『株式会社法制史の終焉』 1990代 “失われた10年“を経験。(米は空前の好景気。) 2005年 米IRSのペツカ等が「C Corporateの凋落」を発表。 2007年 「2006年度税収、30%が法人税収」 6月1日日経 2007年 米財務省『企業税制と国際競争力』『21世紀の米国企業税制の 競争力を改善する方法』でCorporate所得税廃止を提案 2007年 政府関係者も、Partnership減税に関心示す。 興 盛 盛 13 米国、戦争中は企業に重税 Corporate所得税の発明国 C orporate所得税収の全税収に占める割合の推移 (米国) 単位;百万ドル 1,800,000 データ出所; ホ ワイトハ ウ ス ホ ー ム ヘ ゚ー ジ O ffice of M anagem ent and B udget, The B udget for FY2008,H istoricalTables 1,500,000 1,200,000 60.00% 太平洋戦争 朝鮮戦争 50.00% ヴェトナム戦争 40.00% 900,000 30.00% 600,000 20.00% 300,000 10.00% 0 0.00% 1934 1939 1944 1949 1954 1959 1964 1969 1974 1978 1983 1988 1993 1998 2003 全税収(国税。ただし社会保険・退職年金の歳入を除く) C orporate所得税収 割合 14 日本、戦後は一貫して企業に重税 法人税収が全税収に占める割合の推移 (日本) 単位;百万円 60,000,000 データ出所; 国税庁ホ ー ム ヘ ゚ー ジ 統計情報 長期時系列(昭和24年~) 50,000,000 なお2006年は、全税収=49.07兆円、法人税収=15.8兆円とした。 60.00% 50.00% 40,000,000 40.00% 30,000,000 30.00% 20,000,000 20.00% 10,000,000 10.00% 0 0.00% 1948 1952 1956 1960 1964 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 全税収(国税) 法人税収 割合 15 主要税源; 『日本は法人所得税、米国は個人所得税、欧州は消費税』 データ出所;財務省HP 各種税金の資料 国際比較に関する資料 所得・消費・資産等の税収構成比の国際比較(国税+地方税) (注) 1. 日本は平成18年度(2006年度)予算ベース、諸外国はOECD“Revenue Statistics 1965-2004”による。 2. 所得課税には資産性所得に対する課税を含む。 16 まとめ 1. 「利益持率」概念がOpen Innovationの要 2. 「利益持率」概念は、「Non arm’s length経 済」に属する 3. 日本には「Non arm’s length経済」そのもの が未だキチンと導入されていない 4. つまり、我が国にとってOpen Innovation 実 現が前途多難であることを説明した。 社会にとって大事なのは、 Inventionではなく、経済発展を伴うInnovationであり、 技術者のミッションは特許の獲得ではなく、 「有益財を産む可能性」をアピールし、 Open Innovation Partnershipの一員(A partner)となり、利益持率を獲得することである。 17 背景1;もはや米国産業利益の大半はPartnership という会社形態によって生み出されている。 米国産業利益に占める割合 もはや株式会社が会社形態 の究極ではない。 Partnership会社の良さとは、 1)全体利益最大化の後、個別利益最大化を 図るという流れの徹底。 Profits Interest (ある種の出来高払い制度;利益持率) 2)役務拠出者の権利強化。 3)協業すればするほど税金が安くなる 「税務会計自由」→“負の所得税”の活用 Par t ner ship 全体で負の所得税! Partnershipとは、共通の利益を実現するために、資産や役務を組み 合わせようとする二人以上の人間によって合意された契約である。 Partner A 出典;Tom Petska, et.al., “An Analysis of Business Organizational Structure and Activity from Tax Data” 何らかの 何らかの Benefit Contribution Partner B 何らかの 何らかの Benefit Contribution Partnership AB Partnershipが、日本人には未知のNon arm’s length経済 に属する会社形態である、と認識することが何より重要。 18 背景2;米国Partnershipの税務会計自由 米国Law school必修教科書;『Corporate and Partnership Taxation』より • A partnership generally is free to select its own accounting method. Partnershipは、原則としてその税務会計方法を自由に選んで良い。 (教科書p.439、IRC§703(b)) • C Corporations generally must use the accrual method of accounting. C Corporationは、原則として発生主義の税務会計を使わなければならない。 (教科書p.109、IRC§448(a)) Partnershipは租税回避の主要ツール。 租税回避は米国民の権利。(1935年の米国最高裁 Gregory v. Helvering判決) この判決で「経済的実体;Economic Substance があるならば租税回避は正当化される。」という「経済的実体法理」が形成された。 米国には、 「 Law Firmが自社開発の租税回避スキームを売るビジネス」が存在。 (金子宏、増井良啓 著 『租税法 第12版』 110pp) 19 19 Arm’s Length (用語集;QuickTaxWeb 親密さを排除できる距離 より) 簡単に言えば、、、 他人関係間の取引 • Arm’s length transaction; 個々の利益のために行動する人々の間での取引 a transaction between persons in which each acts in their own self-interest. • Non-Arm’s length transaction; 仲間関係間の取引 “関係性”例えば、一つの家族、血縁や結婚や(法的または事実上の)養子縁組で繋がっ た人々の様な関係性をもった人々の間で行われる取引 Non-arm's length transactions include transactions between people who are related, such as members of a family, or anyone connected by blood relationship, marriage, or adoption (legal or in fact). 用語集;QuickTaxWeb では、 Corporate = Arm’s length entity であり Partnership = Non-arm’s length entity である。 20 まさにPartnershipは、第二のPublic Administration(行政)なのである。 Partnershipは税を納めない。 Capital gainがPartner達にAllocate(Pass through)され、Partner達が納税する。 「資金の現実の移動は伴わない」ことに注意されたい。 「負の所得税」も可能 ちなみに・・ 米国のNPOはPartnership形態を 取るのが通例。この場合、Capital gainが生じてもそれはPartner達 にはAllocateもDistributeもされな い。(非分配制約) 結果、NPO Partnershipは自動 的に所得税免税となる。Capital GainはNPO内に内部蓄積されて いくし、そのCapital GainはNPO Partnershipそのものの「所有財」 となる。 Capital Loss Business Corporates Capital Gain もし、Capital LossがPartnershipに 計上されると、それはやはりPartner 達にAllocateされ、個々のPartnerの 「他所で得た所得」と合算される。つ まりこの場合「減算」され、その減算 された合計所得額に課税される。 即ち、「Partner達の所得税の減額」 が起こる。 Partnerships Capital Gain 家計 Families Capital Loss 税 負の所得税 政府 Governments (中央・地方) 21 二種類のCapital Gain Corporate capital gain と Partnership capital gain • Corporateの場合;株等の譲渡益 例; 一株千円の株を千株購入し、一年後、一株二千円で 千株売却すれば、Capital gain=百万円である。 • Partnershipの場合;実際の事業利益 例;Capital accountがそれぞれ Partner A; 二億円、Partner B; 三億円 のPartnership ABが、ある年に2.5億円の費用をかけて 商品を作り、その年の内にその商品を5億円で売却した、 つまり5億円の収入があったとすると、事業利益=2.5億円。 Partnership ABの Capital gain=2.5億円 Partner Aの Capital gain=1.0億円 Partner Bの Capital gain=1.5億円 22 Partnership制度が普及すると、 GDPよりもGNPの方が 国にとって 重要になる 源泉国(Source State); 当該企業の恒久施設が存在する国 居住国(Resident State); 資金等の非役務の出資者が居住する国 この例では、源泉国;米国、居住国;日本である。 この企業がPartnershipであれば、産み出す利益 は源泉国をパススルーし居住国のPartnerのものと なる。 この企業がもし、資金Partner達だけで構成され ているPartnershipであるなら、利益は全て日本 のものである。 出典:東京法令『政治と経済資料2009』page200 他方、Corporateであれば、国際的に合意されて いるArm’s Length Principleにより、Corporateの 産む利益は、先ず源泉国に所得税を納める。そ の後、税引後利益から居住国に住む出資者に配 当を支払うことになる。 つまり、先ず米国にCorporate Income Taxが納 められる。その後、税引後利益から配当が、日本 に住む株主に支払われる。 23
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