重イオン衝突直後 ー Glasmaの物理 福嶋 健二 (理研BNL理論研究センター) Thanks to Larry, Raju, Francois, Tuomas, ... April 2007 at Heavy-Ion Cafe 何が(理論の)問題か? 時間を遡っていくと・・・ 例えば、宇宙(ビッグバン) □ 特異点 インフレーション 熱平衡 □ 標準ビッグバン宇宙モデル COBE,WMAP 例えば、重イオン衝突(リトルバン) □ 特異点 膨張・不安定 熱平衡 □ (熱平衡以前の)標準理論? 観測量? April 2007 at Heavy-Ion Cafe 期待されること 標準モデルを作ったら、もっと面白いことが 分かるかも知れない 宇宙では・・・ □ 初期量子揺らぎ インフレーション 古典的密度揺らぎ 宇宙の構造 見えた! COBE April 2007 at Heavy-Ion Cafe WMAP 標準理論を作ろう 理論の常套手段は、端から攻める □ (例) N = 1 から 2 ができたら(無理なら)次は ∞ □ (例) t = ∞ または 0 では t = 0 極限(衝突直後)から始めよう 理論は知っている QCD □ QCDは複雑過ぎて解けない。 □ Lattice QCDは実時間を扱えない。 t = 0 の極限で役に立ちそうな近似は? April 2007 at Heavy-Ion Cafe 高エネルギーハドロン物理 近似の説明をする前に・・・ Bjorken x とか wee parton とか・・・必要 原子核 P+=E+Pz ~ ∞ パートン p+= xP+ 原子核はパートン(parton)から成る □ 構成子クォーク NcA □ 仮想クォーク □ グルーオン 一般的に高エネルギーハドロン物理 ではハードとソフトの分離が重要 ♦ ハード x が大きい ♦ ソフト x が小さい wee parton ふらふらの粒子成分 April 2007 at Heavy-Ion Cafe wee parton の性質 ローレンツ収縮 □ 超高エネルギー原子核は単純に潰れたパン ケーキではなく縦方向の構造を持つ。 □ 不確定性 Dp+ Dx- 量子補正 □ 大きな x を持ったグルーオン □ 少し小さな x を持ったグルーオン □ もう少し小さな x を持ったグルーオン・・・ どこまで増える? April 2007 at Heavy-Ion Cafe 飽和(saturation) 高速で走っている重イオン原子核を考えよう。 x の小さなパートンがうじゃうじゃいる。 パートン同士が重なり合って「飽和」する。 深非弾性散乱 □ 単純なキネマティクスでどんな x を持った パートンを見ているか分かる。 □ Diffractive Scattering s が大きく t が小さい □ パートン同士が重なり合う「スケール」の存在 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 重イオン衝突の場合 Qs2 は横パートン密度を表している。 この原子核を低い分解能で”見る” パートンの重なり合う 1/Q >> 1/Q (例えば dipole) s ”解像度” ~ 1/Qs パートンがギチギチ詰まってる 2 1/3 Qs ~ A 古典的 (カラーグラス凝縮) 質量数 ~A 高い分解能で”見る” 1/Q << 1/Qs パートンはスカスカ x ~ pt s ~ 10-2 x があまりはっきりしない 飽和スケール 深非弾性散乱より Qs Q0 ( x0 / x) A1/ 6 ~ 1-2GeV for A=197 April 2007 at Heavy-Ion Cafe よくある質問(1) カラーグラス凝縮は”ある”のですか? これは「(高速で動いている)電荷のまわりに 電場(磁場)が”ある”んですか?」と質問する のと同じこと。 アナロジー □ QED 古典電磁場 (WW-approx.) □ QCD カラーグラス凝縮 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 原子核のまわりの古典場 静止している場合 高速で動いている場合 April 2007 at Heavy-Ion Cafe よくある質問(2) ではカラーグラス凝縮の古典的記述はどの x 領域から使えるんですか? 電荷の周りの電磁場を古典的に扱えるのは どんなときで、量子的に扱うべきなのは どんなときなのだろうか?(エネルギー依存) 電荷分布を”見る”プローブの分解能に依存。 □ 例えばプローブのスケールが 1/Q なら Qs(x) > Q となるような x から。 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 熱平衡・仮定 いま興味あるのは熱平衡化のプロセス。 ソフトな粒子(横運動量 pt がせいぜい 1GeV くらいまで)のダイナミクスが、初期熱平衡化 プロセスでは支配的だと「仮定」する。 興味ある部分のダイナミクスは重イオン衝突 直後は「カラーグラス凝縮」として記述できる。 (縦)膨張のため希薄になって t ~ 1/Qs 程度で 古典的記述は不十分になる。(decoherence) April 2007 at Heavy-Ion Cafe Glasma = Glass + Plasma 時空発展と”グラズマ” 初期量子揺らぎ グラズマ不安定性 プラズマ不安定性 熱平衡化 April 2007 at Heavy-Ion Cafe グラズマの理論側面(シナリオ) t = 0 でのカラー電磁場を計算できる。 カラー電磁場のエネルギー密度を計算できる。 t = 1/Qs 程度までなら時間依存性もわかる。 □ 量子揺らぎを入れないと「ブースト不変解」 □ 揺らぎを入れるとブースト不変性を破る揺らぎが 指数関数的に増大していく。(グラズマ不安定性) □ 初期揺らぎは「ゼロ点振動」で与えられる。 ↑について定性的に話したあと、いかに定量 的解析計算をするか説明します。(理論向き) April 2007 at Heavy-Ion Cafe 理論と模型 カラーグラス凝縮=ツリーレベル近似 Z [ DA ] Wx1 , x2 [ 1 , 2 ] exp i S YM [ A] - i d 4 x 1 A- + 2 A+ Eikonal approx. O[ A] [ D ]Wx1 , x2 [ 1 , 2 ] O[ Acl[ ]] Stationary-point approx. Wx1 , x2 [ 1 , 2 ] ~ Wx1 [ 1 ] Wx2 [ 2 ] Factorization ... assumed ( x) W [ ] ~ exp - dx 2 g 2 2 2 2 2AR 2 A McLerran-Venugopalan model 数値計算では 0.5GeV (Au-Au) にとり g 2 を仮定している 構成子成分が主 原子核は薄いパンケーキで近似 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 数値計算 Lappi-McLerran t ~ 0.1fm April 2007 at Heavy-Ion Cafe 描像 衝突直後は「縦波場」だけ (衝突前は横波場だけ) 原子核の上には「横波場」だけ 「横波場」だけ 縦座標 z ~ ラピディティ t h 長距離ラピディティ相関 「縦波場」だけ 場のエネルギーを計算できる 理論の問題 April 2007 at Heavy-Ion Cafe エネルギー密度 Tuomas Lappi a に依存? t を有限にして a 0 を取り なさい・・・ e ~ 130GeV/fm3 April 2007 at Heavy-Ion Cafe グラズマ不安定性 グラズマの解はブースト不変。(ラピディティに 依存しない) 初期条件がラピディティに依らなかった。 ブースト不変CGC解のまわりでラピディティ に依存した”揺らぎ”を手で入れてみる。 時間発展させると”揺らぎ”が指数的増大。 CGC解は非等方的。ph = 0 pt ~ Qs 非等方的→等方的(熱平衡のひとつの指標) April 2007 at Heavy-Ion Cafe 数値的な不安定性の証拠 Paul Romatschke & Raju Venugopalan 不十分? 揺らぎを白色雑音 現実的でない・・・ 実は t の小さい ところは非常に 難しい(理論) April 2007 at Heavy-Ion Cafe 不安定性と揺らぎ ”量子”揺らぎの”古典的”成長 安定なポテンシャル 波動関数 不安定ポテンシャル 急激な変化=特異点 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 定性的シナリオ 衝突初期はブースト不変縦波場だけが存在。 ブースト依存揺らぎに対して不安定。 グラズマ不安定性(タイムスケール?)。 量子揺らぎが不安定性の”タネ”。 古典的記述 t < 1/Qs 縦圧力の成長 プラズマ不安定性 熱平衡化。 理論では、まだ、不安定性が”ありそう”程度 までしか確定していない・・・ April 2007 at Heavy-Ion Cafe 理論計算 いろいろな困難があって、数値計算の結果は 注意しないといけない。 少し真面目に計算しようとすると、すぐに赤外 発散および紫外発散の問題に直面する。 エネルギー密度は”ある程度”計算できる。 不安定性はこれからの課題・・・ April 2007 at Heavy-Ion Cafe 少し理論向け t = 0 からの展開 (near-field expansion) ♦ Proposed by Fries-Kapusta-Li ♦ 実はあまりうまくいかない・・・ 解くべき方程式系 初期条件 の関数 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 初期条件 衝突前の場 特異点 衝突後の場 (1) i ( 2) i T. Lappi April 2007 at Heavy-Ion Cafe t = 0 でのエネルギー密度 縦方向のカラー磁場 (計算してみると)電場=磁場 結果が L または a に依存? Lappi の数値計算とはコンシステント 連続極限はどうやって取るのか? 原子核サイズに依存していいのか? April 2007 at Heavy-Ion Cafe 描像ふたたび 衝突直後は「縦波場」だけ (衝突前は横波場だけ) 原子核の上には「横波場」だけ 「横波場」だけ 縦座標 z ~ ラピディティ t h 長距離ラピディティ相関 「縦波場」だけ 場のエネルギーを計算できる 理論の問題 April 2007 at Heavy-Ion Cafe t = 0 からの展開 縦波 横波 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 展開できない! t の展開は t ではなく t /a が支配的 a が小さい(連続極限)とき高次項ほど大きく なってしまう。 この展開は log(x) の x=0 のまわりの展開に 似ている。 April 2007 at Heavy-Ion Cafe Log-Ansatz t = 0 のまわりで log(t ) の発散 □ 原子核を薄いパンケーキで近似したせい(?) t = 0 のまわりで展開すると log(L/a) [log(L/a) + # (t /a)2] ということは・・・ □ まだ証明したわけではない(できるかも知れない) □ a 0 の極限をとれる! April 2007 at Heavy-Ion Cafe 数値計算を(わりと)再現 Tuomas Lapii ふたたび April 2007 at Heavy-Ion Cafe 本当に原子核サイズに依るのか? 計算結果 L は赤外のカットオフ・・・ 本当は閉じ込めスケールでは? 従来の数値計算より小さい? April 2007 at Heavy-Ion Cafe まとめ・その1 ここまでのはなし □ ブースト不変CGC解は理解した □ 赤外発散・紫外発散が入っている □ 有限のt で紫外発散は問題ない □ 赤外発散は閉じ込めスケールでカットオフ? ここからのはなし □ ブースト不変性を破るゼロ点振動 □ どうやって計算するのか? □ どんな揺らぎなのか? April 2007 at Heavy-Ion Cafe 初期揺らぎと不安定性の成長-1 最も簡単な例=逆さ調和振動子 初期揺らぎ=ガウシアンを仮定 時間発展=伝搬関数 広がりの平均値 あるいは・・・ April 2007 at Heavy-Ion Cafe 初期揺らぎと不安定性の成長-2 波動関数 □ 配位空間での広がり ウィグナー関数 □ 配位空間での広がり □ 運動量空間での広がり 不確定性関係 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 初期揺らぎをどうやって決めるのか? 直感的に分かり易いのは「座標変数」と「共役 変数」の間の不確定性から求める方法。 スカラー場の理論 ”波動関数” April 2007 at Heavy-Ion Cafe 基底状態 消滅演算子で基底状態は消える。 解 ウィグナー関数 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 別の(より普通の)導出法 ハミルトニアン シュレーディンガー方程式 ゼロ点振動解( E0=ゼロ点エネルギー) April 2007 at Heavy-Ion Cafe こういうことをQCDでやろう 近似(仮定) □ 高エネルギーで相互作用が弱い ♦ 古典的描像を使うために必要 ♦ 揺らぎよりむしろCGCの基本仮定 □ 揺らぎを小さいと思って(運動方程式を)線型化 ♦ (非線型)相互作用を無視 ♦ 調和振動 ♦ 大きな揺らぎがあったらCGCの古典描像が??? April 2007 at Heavy-Ion Cafe QCDゼロ点振動 波動関数 ウィグナー関数 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 不確定性関係 初期揺らぎ h 広がり ~ 1/ 速さ ~ April 2007 at Heavy-Ion Cafe まとめ・その2 ここまでのはなし □ 衝突初期ではグルーオンの密な状態 □ コヒーレントなカラー電場・磁場が縦方向に (平行に=アノマラス!)伸びている。 □ 純粋状態(コヒーレントな状態)のまわりでの量子 揺らぎ(熱揺らぎではない!) □ 量子揺らぎを特徴付けるエネルギースケールは 縦波数(運動エネルギー) ここからのはなし □ どうやって”不安定性”を理解するのか? April 2007 at Heavy-Ion Cafe プラズマ不安定性 ワイベル(フィラメンテーション)不安定性 electron motion e electron Fluctuations in Bz induced current Bz Bz e Bz Bz Initial Bz is amplified! 等方化(アイソトロピゼーション) 熱平衡 April 2007 at Heavy-Ion Cafe どうやって定式化するか? ヒント Paul Romatschke & Tony Rebhan □ ソフト(不安定モード)とハード(背景)に分離 □ ソフトは”場”・ハードは”粒子” □ 横方向の運動エネルギー項を無視して線型化 April 2007 at Heavy-Ion Cafe Romatschke-Rebhan 不安定性は遅い・・・ t > 1/Qs の物理 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 古典方程式だけではどうか? CGCと揺らぎ □ ソフト(不安定モード)とハード(背景場)に分離 □ ソフトは揺らぎ・ハードはCGC □ 非可換理論なので”粒子”がなくても、背景場から カレントが出てくる。 CGC t < 1/Qs の物理 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 基本方程式 運動方程式より CGCに誘発されたカレント ~ dA CGC入り伝播関数の逆 でもあるしカレントからのCGCへのフィードバック ここから dAi について解いてCGCで平均を取 れば答えが分かる(原理的には・・・) April 2007 at Heavy-Ion Cafe 微分方程式の解 固有値 > 0 I i ( t ) 1500 Re I i 5 ( x) 1000 500 2 4 6 8 10 -500 J i ( | |t ) 固有値 < 0 400 Re J i 5 ( x) 200 2 4 6 8 10 -200 平均値は < 0 -400 April 2007 at Heavy-Ion Cafe 簡単な例 Exp- x は > 0 に対して減衰解 ところが平均値が正であっても・・・ d e e - t e - ( - ) 2 - t t 2 / 4 e はじめのうち (t が小さい)は平均値のまわり が効いているが、あとで(t が大きい)揺らぎ が引っ掛けた増幅解が効いてくる。 April 2007 at Heavy-Ion Cafe さっきの例に戻ると・・・ = 5 で について分散 1 で平均してみたら d e - ( -1) 2 Re J i 5 ( t ) 400 200 5 10 15 20 -200 初めのうちは振動解が支配的だが時間が経 つにつれて増幅解が効いてくる。 期待値と分散だけ計算すれば良い・・・ □ 赤外・紫外発散の問題 April 2007 at Heavy-Ion Cafe CGC-ワイベル不安定性 乱雑なCGC背景場のもとで、平均的に減衰 されるカレントのまわりで、増幅されるカレント もCGCアンサンブルに含まれる。 時間が経つと増幅成分が生き残って成長。 □ つまり不安定性が成長するにはどうしても時間が 掛かって仕方がない。 タイムスケールは・・・? □ 赤外発散、紫外発散だらけ・・・ □ Log-Ansatz のような簡単なトリック・・・? □ (少なくとも解析的には)定量的計算は困難 April 2007 at Heavy-Ion Cafe このはなしのまとめ 相対論的重イオン衝突初期の高密度グルー オン状態は古典的運動方程式で記述できる。 古典的運動方程式の中にはいろんな物理が 含まれている。(おどろき!) 原子核をパンケーキ近似したらブースト不変 解が出てくる。 ブースト不変解のまわりで急速に成長する モードがあるようだ。 定量的計算にはまだまだ困難がある・・・ April 2007 at Heavy-Ion Cafe いくつかの問題 本当に不安定性が熱平衡化を促進している ならば、その実験的証拠は? CGC場からの直接的観測量は? □ 初期の縦方向場(ラピディティ相関) □ 古典場からの粒子生成 古典場的記述から粒子的記述にどうやって 移り変わっていくのか?統一的記述は? □ CGCの dilute regime への拡張 April 2007 at Heavy-Ion Cafe
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