日本語學文獻選讀 (大学院)

日本語學文獻選讀
(大学院)
5月10日(月・一)~
担当 神作晋一
1
文章と文体
ここでは、「文章」「文体」について、
各項目について一通りの紹介をした
いと思います。
2
荻野綱男編(2007)『現代日本
語学入門』 P.74~99


1 はじめに
2 指示詞








3
4
5
6
7
2-1 指示詞の全体像
2-2 現場指示
2-3 文脈指示
接続詞
直接形と間接形ー情報のなわ張りー
文章・談話とテンス・アスペクト
さまざまな文章・談話
さまざまな文体
3
1 はじめに
文章・談話・テキスト
言語の単位
アプローチの仕方

4
談話・テクスト・文章


複数の文があるまとまりをもって展開され
ている言語単位
ほぼ同義で使われる




談話
テクスト・文章
の傾向がある
話し言葉
書き言葉
「文章・談話」として一括して扱う。
5
談話・テクスト・文章





複数の文による言語単位 discourse
談話:英米の言語学。話し言葉的
テキスト:欧州諸国の言語学。書き言葉的
文章:伝統的な国語学。書き言葉的
※談話分析・テキスト言語学・文章論
6
談話・テクスト・文章

狭義の文法論:文が最大の単位



しかし 文は
結束性のある文章・談話の中に位置づけら
れて機能する



⇒文法論:語が、句から節、文にいたる単位にど
のように統合されるか。
結束性⇒ある内容的なまとまりを有するもの
状況や場という言語外の要因の中で働く
⇒言語の分析の単位が拡大されるのは必然
7
談話・テクスト・文章

文章・談話のアプローチの仕方




文章談話全体の構造や働きを分析する研究
文のレベルでは説明のしきれない言語形式の
機能を文章・談話のレベルからとらえようとす
る研究
文体についての研究
ダイクシス(deixis)
8
2 指示詞
2-1 指示詞の全体像
2-2 現場指示
2-3 文脈指示

9
2 指示詞




言語形式の基本的な意味と機能
⇒通常は文のレベルで
文章・談話のレベルから分析する必要が
あるもの。
⇒指示詞、接続詞、終助詞
10
2-1 指示詞の全体像


指示詞:いわゆる「こそあど言葉」
現場指示:指示対象が発話の現場に存在す
る


(1)ここはわたしの家です。〈現場指示〉
文脈指示:文章談話中の前後のどこかに存在
する



(2)A:今朝東京駅でジョンさんに会いました。
B:{*この/その/*あの}人、誰ですか?
〈文脈指示〉
11
2-1 指示詞の全体像
(3)指示詞の全体像 ←体系だっている
事物
場所
方向
連体
連用
コ系
コレ
ココ
コッチ
コノ
コウ
ソ系
ソレ
ソコ
ソッチ
ソノ
ソウ
ア系
アレ
アソコ アッチ
アノ
アア
12
2-2 現場指示


話し手、聞き手、指示対象:
対立型:


話し手(コ系)と聞き手(ソ系)の心的領域が峻
別される
融合型:



話し手と聞き手の心的領域が峻別されない。
共有場所はコ系
領域外 近いところはソ系、遠いのはア系
13
2-2 現場指示
(4)a 対立型
話し手
聞き手
コ系
ソ系
ア系
(4)b 融合型
話し手・聞き手
コ系
ソ系
ア系
14
2-2 現場指示



コ系:話し手の領域を指示
ア系:話し手の領域外を指示
ソ系:





聞き手の近くにあるもの:対立型を意識
「その/*あの鉛筆」
話し手と聞き手が近くにいる:融合型を意識
(話し手と聞き手)運転席と助手席
「そこで止めよう」
15
2-2 現場指示








常にコ系が軸になる
コ系が話し手の領域に
関わっている形態の反映
(5) ソ系とコ系
a そんなこんな(*そんなあんな)で
b そうこう(*そうああ)しているうちに…
c 破片がそこここ(*そこあそこ)に散らばっている。
(6) ア系とコ系
a ああだこうだ(*そうだああだ)と言う。
b あの世とこの世(*その世とあの世)
c あれこれ(*それあれ)と忙しい
16
2-3 文脈指示




(8)
A:「今日、東京駅でジョンソンという方に会い
ました。」
B:「え、誰ですか。{その/*あの|人?}」
話し手(B)が指示対象を知らない場合は、
ソ系が適切。

聞き手(ここではA)のみが知っている場合
17
2-3 文脈指示




(8)
A:「今日、東京駅でジョンソンという方に会い
ましたよ。 {*その/あの}人、相変わらずで
したよ。」」
B:「ああ、そうだったんですか。{ *その/あ
の|人はかわらないでしょうね。}」
話し手も聞き手も指示対象を知っている場合
はア系が適切。
18
3 接続詞



接続詞:文頭に位置して、前の文脈とその
文の内容との関係を示す語
文章・談話レベルの観点で見る
さまざまな品詞からの転成で成り立つ




動詞:したがって、よって、要するに、すると
名詞:一方、反対に、おまけに、
副詞:たしかに、さらに
接続助詞:けれども、
19
3 接続詞
(9)接続詞の主たる類型

あくまで分類の一例

その他の分類

下位分類も可能
a 順接 だから、それで、すると、こうして…
b 逆接 しかし、でも、ところが、だが、なのに…
c 累加 そして、そのうえ、また、それに、おまけに…
d 転換 ところで、さて、それはさておき、ときに…
e 対比 または、あるいは、それとも、というより
f 置換 つまり、要するに、すなわち、例えば
20
3 接続詞

接続詞の研究に多様な可能性



例:文章の構造
例:(人が何かを)理解するときのメカニズム
同じ類型に属する接続詞の特徴の相互の
異同など。
21
3 接続詞

同じ類型に属する接続詞の特徴の相互の異同
など。
 (10)今日は晴れた。{しかし/??ところが}明
日は雨が降るだろう。
 (11)今日は晴れた。{しかし/ところが}明
日は雨が降るそうだ。
 文末のムード形式との共起に違い
1
2
 前後の論理関係だけでなく、 話者の情報と
の関わり方という観点からの分析も必要。
22
矛盾する
3 接続詞
ところが
⇒話者にとって
予想外の事態
が展開された
場合
×だろう
純粋な話者自身
の認識・想像(推
量)
○そうだ
情報を外部から
受け取った(伝
聞)
⇒
23
3 接続詞




一つの接続詞の内部の用法の多様性。
例:「しかし」 逆接の形式
Cf. (いきなり)「しかし、今日は暑いね」
Cf.=confer(ラテン語)
24
4 直接形と間接形
ー情報のなわ張りー




単純な文内で
のレベルでは
分からない
例(設定):ある会社の専務が友人と話している。そこ
へ専務の秘書がやってきて、2人の前で3時から会
議があると告げた。
(12)専務:僕は3時から会議があるから…。
(13)友人:??君は3時から会議があるから…
(14)友人:君は3時から会議がある{ようだね/らし
いね}。だから…。
直接形:「ようだ」「らしい」等の形式のない形
 間接形: 「ようだ」「らしい」等の形式のついている形

25
4 直接形と間接形
ー情報のなわ張りー

情報のなわ張り理論(神尾1990)
 当該の情報の心理的距離が話し手と聞き手そ
れぞれに近いかどうかで文の適切性を判断
(15)情報のな
わ張り理論と文
形式
聞き手の
なわ張り
話し手のなわ張り
内
外
外
A:直接形
D:間接形
内
B:直接ね形
C:間接ね形
26
4 直接形と間接形
ー情報のなわ張りー
聞き手
C
B
A
話し手
D
27
4 直接形と間接形
ー情報のなわ張りー
「ね」を使う
聞き手
「間接形」を
使う
C
B
A
話し手
D
28
4 直接形と間接形
ー情報のなわ張りー


A:(12)専務:僕は3時から会議があるから…。
B:(16)今日はいい天気ですね。



双方に近い情報
C:(14)君は3時から会議がある{ようだね/
らしい}ね。
D:(17)カナダの冬は寒いらしい。



カナダの冬は寒い(話し手の経験)
カナダの冬は寒いね(両者の経験)
カナダの冬は寒いらしいね(聞き手は経験)
29
4 直接形と間接形
ー情報のなわ張りー


文法形式の使用・不使用
話し手と聞き手の、情報との心理的距離と
いう要因を考慮すべき。
30
5 文章・談話とテンス・アスペクト
31
5 文章・談話とテンス・アスペクト




歴史的現在:
過去の事象に記述について、過去時制
(過去形)を用いず、非過去形を用いる。
例:『セロ弾きのゴーシュ』の冒頭部分
『セロ弾きのゴーシュ』偕成社
32
5 文章・談話とテンス・アスペクト

(18)ゴーシュは町の活動写真館でセロを
弾く係りでした。けれどもあまり上手ではな
いという評判でした。上手でないどころでは
なく実は仲間の楽手のなかではいちばん
下手でしたから、いつでも楽長にいじめら
れるのでした。
33
5 文章・談話とテンス・アスペクト






ひるすぎ、みんなは楽屋に円くならんで、今度の町の
音楽会へ出す第六交響曲の練習をしていました。
トランペットは一生懸命歌っています。←赤は非過去形
ヴァイオリンもニいろ、風のように鳴っています。
クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。
ゴーシュも口をりんと結んで、目を皿のようにして楽譜
を見つめながら、もう一心に弾いています。
にわかに楽長が両手を鳴らしました。みんなぴたりと
曲をやめて、しんとしました。
34
5 文章・談話とテンス・アスペクト



テイル形が使われているところ
⇒あたかも(まるで)眼前の出来事であるかのよ
うに聞き手読み手に生き生きと伝える効果
⇒物語の時間的進行が停止


一つの静止した情景を眼前の事柄であるかのよう
に表現
「た」を用いることで再び時間が動き出す。
35
5 文章・談話とテンス・アスペクト




歴史的現在
脚本のト書き←「セリフ台詞」以外の説明など
実況放送←
過去のことが明白である文章・談話におい
ては、ことさらに過去であることから解放さ
れる。

←わざわざ過去にしなくてもよいということ
36
6 さまざまな文章・談話




文章・談話の単位・構造・特徴について
⇒指標・基準があいまい
⇒多様性ゆえに文章構造についての定見
はない。
文章・談話というものは、どのようなもの
か?
37
6 さまざまな文章・談話




南不二男(1974)⇒
a 表現された形そのもの:問題の言語表現の前後
またはまわりに非言語的時間または非言語的空間
があるという点で外側にくぎりがある。また,言語表
現の内部が時間的・空間的に連続しているという点
で内側が連続している。
b 内容(話題):言語表現の内容に一貫性がある。
c 言語的コミュニケーションの機能:言語表現があ
る一定の言語的コミュニケーションの機能をもってい
る。
38
6 さまざまな文章・談話




d 参加者:言語表現に参加するメンバーが一定で
ある。
e 媒体:言語表現がある一定の種類の媒体を通じ
て現れる。例えば,ある言語表現が1回の電話で
話されるなど。
f 使用言語:言語表現において使用されている言
語(または方言)は一つである。
g 全体的構造:言語表現を構成する要素間の関
係が一定の型をもつ。例えば、「序」「結論」「あとが
き」,「拝啓」「敬具」など。
39
(20)さまざまなジャンルの文章の特徴
c機能 d参加者 e媒体
f使用言 g全体的
語
構造
○
○
a形
b内容
手紙
○
△
△
○
○
一遍の随筆
○
○
○
○
○
○
△
新聞記事(本文)
○
○
○
○
○
○
△
雑誌記事
○
○
○
○
○
○
△
新聞(全紙面)
○
×
×
△
○
○
△
総合雑誌(全体)
○
×
×
△
○
○
△
個人文集
○
△
○
○
○
△
○
多数書き手文集
○
△
○
×
○
△
○
雑誌の広告
○
△
○
○
○
○
△
○
○
○
部・章・節・パラグ
○
○
○
○
ラフなど
○当該の条件がみたされていること
×満たされていないこと
△満たされている場合と満たされていない場合がある
40
6 さまざまな文章・談話



これらは書き言葉に限ってある
すべて「○」になっているのが、「部・章・節・
パラグラフ」である。
その多様性を十分にとらえた視点が必要で
ある。
41
7 さまざまな文体


文体:文章のスタイル
個人的な文体の問題


文章の書き方や作品
例:夏目漱石、森鷗外
42
7 さまざまな文体


文体:文章のスタイル
文章の類型




文章のジャンル
 小説の文体、手紙の文体、新聞の文体
媒体:
 話し言葉、書き言葉
場面
 フォーマルな文体、インフォーマルな文体
文法的
 丁寧体(デス・マス)、非丁寧体(ダ)、中立的
(デアル)
43
7 さまざまな文体

時代という観点




歴史的には、話し言葉(口語)と書き言葉(文章語)
の乖離が著しい
明治以降の教育の普及や民権運動の高まりで、書
き言葉の文体を話し言葉の文体に近づけようとす
る動き。 言文一致運動と日本の近代
例:明治期の口語小説、二葉亭四迷、山田美妙
例:大正期、新聞の社説も口語で。
44
7 さまざまな文体

文体は、文章・談話の構造の問題と関わる


(20)の表など
文体論は学際的な分野でもある

社会言語学、心理言語学の分野など
45
文体的特徴
が違う
7 さまざまな文体
時間の 空間の
即時性 記録性
共有
共有
会話
○
○
○
×
電話
○
×
○
×
手紙
×
×
×
○
電子メール
×
×
△
○
携帯メール
×
×
△
○
チャット
△
×
△
○
察社
も会
増言
え語
て学
い的
るな
考
46
7 さまざまな文体

文体の、その時代の社会の意識





例:司法制度の改革
一般市民が参加することで、法律や裁判の言
葉のスタイルに変革が求められる
例:役所(政府)の言葉
カタカナ語の多用、濫用
言語サービス
47
参考文献












庵功雄(2001)『新しい日本語学入門』スリーエーネットワーク
市川孝(1978)『国語教育のための文章論概説』教育出版
神尾昭雄(1990)『情報のなわ張り理論』大修館書店
甲田直美(2001)『談話・テクストの展開のメカニズム』風間書房
佐久間まゆみ編(2003)『朝倉日本語講座7 文章・談話』朝倉書
店
泉子・K・メイナード(1993)『会話分析』くろしお出版
永野賢(1986)『文章論総説』朝倉書店
野田尚史・益岡隆志・佐久間まゆみ・田窪行則(2002)『複文と談
話』岩波書店
橋内武(1999)『ディスコース:談話の織りなす世界』くろしお出版
ポリー・ザトラウスキー(1993)『日本語の談話の構造分析』くろし
お出版
益岡隆志・田窪行則(1992)『基礎IFI本膳文法一改訂版-』くろし
お出販
南不二男(1974)『現代日本語の橋造』大修館書店
48