日本のアフリカ援助の課題 -タンザニアにおける援助協調- 2006年2月9日 FASID国際開発援助動向研究会 在タンザニア日本大使館 横林 直樹 はじめに(プレゼンのポイント) サブ・サハラ・アフリカ援助概略 タンザニアの経済状況・開発戦略 一般財政支援の理想と現実 日本の課題 1.アフリカ援助概略 独立以降過去40年間の経験 内戦・部族紛争等による政情不安(植民地政 策の負の遺産) 産業化の失敗(一次産品に過度に依存した 経済構造) 重債務貧困国(対外援助への過度の依存) 危機的な脆弱性(人間開発の極端な遅れ) 援助の考え方の推移 60年代 70年代 構造派 80年代 90年代 新古典派経済学 ケインズ学派 インフラ 03+ 新制度派 HIPC MDGs 貧困削減戦略 主流になった援助分野の課題 マルチ・セクター マルチ・カントリー 農業 人間開発 経済政策・マネジメント ガバナンス 原典:世銀(Strategic Framework for Assistance to Africa 2004) 図1: ア フリカ、 ア ジ ア 、 ラテ ンア メリカの 一人当たりGNPの推移 6,000 5,000 ドル 4,000 3,000 東アジア・大洋州 細線:ラ米 2,000 1,000 点線:中国 実線:アフリカ 0 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 出典:平野克己『図説アフリカ経済』(2002年 日本評論社)p8(図1-2)を再現。 ラ米データは、98, 99年度が世銀"World Development Report"各年版、 それ以外はUNDP"Human Development Report"各年版より抽出。 図5: ア フリ カ、 ア ジ ア 、 ラテ ンア メリ カに対する FDI (外国直接投資)及び無償資金援助 10億ドル 100 FDI:ラテンアメリ カ・カリブ海 90 80 FDI:東アジア・ 大洋州 70 60 50 40 30 20 太点線:無償 資金援助:ラテ ンアメリカ・カリ ブ海 細点線: 無償資金 援助:東 アジア大 洋州 無償資 金援助: アフリカ 細実線FDI: アフリカ 10 0 83 85 87 89 91 93 95 97 99 出典:出典:平野克己『図説アフリカ経済』(2002年 日本評論社)p94(図 4-14)及びp98(図4-19)を組み合わせて再現。 失敗からの教訓 紛争の解決、政治的安定の確保 ガバナンスの改善 政府のオーナーシップに基づいた開発戦略の策定と実 施(貧困削減戦略) 人間開発の強化 → 貧困削減 経済の多様化(農業セクター停滞のbreakthrough)、競 争力の強化、投資環境の整備 → 経済成長 援助国との緊張感のあるパートナーシップ(効果的援助 に向けた飽くなき努力) 2.タンザニアの経済状況・開発戦略 61年 独立、67年 アルーシャ宣言(自立更正) 80年代前半 経済危機、86年にIMFと和解 90年代前半 再び経済危機:複数政党制導入 95年 ムカパ大統領就任:行財政改革の進展 へライナーレポート 援助協調の進展(セクタープログラム) 98年 MDF(Multi Debt Relief Fund) 00年 PRSP:第1次貧困削減戦略 01年 PRBS:一般財政支援 05年 NSGRP:第2次貧困削減戦略 JAS:Joint Assistance Strategyの議論開始 キクウェテ大統領就任:改革路線を踏襲 タンザニアの特徴 人口3千5百万人、国土は日本の2.3倍 GDP約1兆円、国家予算4千1百億円(仙台市一般会計程度) 一貫して最貧困国 (一人当たりGDP200-300ドル) 社会主義時代の統制経済の経験とその破綻 80年代以降の恐慌経済(インフレ)、腐敗の横行 HIPC=国家の破産(巨額債務、G8による帳消し) 長期の経済建て直しと健全化の必要性 政治的な安定は大きなメリット 鉱業、観光業が急成長、その他産業は長期停滞 タンザニアの貧困削減戦略 (1)第1次PRS(00年-04年) 7分野への優先的支援 教育(特に初等教育)、保健、農業、水、道路、司法、 HIV/AIDS (2)第2次PRS(05年-09年) NSGRP(National Strategy for Growth and Reduction of Poverty) 3つのクラスターへの支援 (イ)成長と所得貧困の削減 (ロ)生活と社会福祉の改善 (ハ)ガバナンスとアカウンタビリティ 3.一般財政支援の理想と現実 対タンザニアGBSファクト 目 的:貧困削減戦略の実現 方 法:援助資金を政府の一般会計に直接投入 開始年:2000/01会計年度。05/06年度で6年目 支援国:14ドナー バイ:英国、EU、スウェーデン、ノルウェー、カナダ、デンマーク、 オランダ、アイルランド、フィンランド、ドイツ、日本、スイス マルチ:世銀、アフリカ開銀 支援額:6930億シリング(約700億円) 対外援助に占める割合:36% BFと合わせて 約55% 国家予算に占める割合:約16% 各ドナーの一般財政支援投入額 250 150 '2005/06 100 '2004/05 50 '2003/04 日 本 フ ィ ン ラ ン ド ド オ イ ラ ツ ン ダ ス イ ス デ ア ン イ マ ル ー ラ ク ン ド ノ カ ル ナ ウ ダ ェ ー ス ウ ェ ー デ ン E ア 英 U フ 国 開 銀 世 銀 0 05/06年度 最高額は世銀210百万ドル、英国は155百万ドル、日本は5百万ドル 百万ドル 200 期待される成果 援助モダリティー 援助フローの予測性の向上 資金投入メカニズムの調和化 政府とドナーの対話メカニズムの強化 取引費用の削減 経済・行政レベル マクロ経済の安定 行財政改革の推進 (公共サービスの改善、公共財政管理、地方分権化等) 行政府のインセンティブ向上、能力開発の向上 現実の検証(1) レベル1:モダリティ- 援助量の拡大(70%↑ 93/94-03/04) 政府の裁量で管理できる予算の増加(リカレントコスト) 政府の予算プロセスへのalignmentの強化(On budget化) 戦略的課題に関する政府とドナーの対話の促進 レベル2:政治的リーダーシップ 歳入の大幅な改善(89%↑ 93/94-03/04 ) 公共財政管理の改善(IFMSの導入) 公共セクター各種改革プログラムの策定・実施 (公共サービス改革プログラム、地方政府改革プログラム) 現実の検証(2) レベル3:経済・貧困削減 マクロ経済の安定 (平均6%の経済成長、5%以下のインフレ率、 外貨準備高の増加) 優先セクターへの2倍の予算配分(98/99-02/03) 初等教育、保健セクターにおける指標の改善、幹線 道路の補修率の改善 40 図10:タンザニアの消費者物価指数(CPI)変化率 と経済成長率 % 35 消費者物価指 30 25 20 15 10 経済成長率 5 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 0 経済成長率 GDP growth (in real terms) 8 7 Percentages 6 5 4 3 2 1 0 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 貧困ラインの推移 Percentage below the poverty line Percentages 50 40 30 20 10 0 1990 1995 2000 Actual progress 2005 2010 Path to MDG 2015 初等教育就学率 Percentage aged 7 to 13 enrolled in primary school Percentages 100 80 60 40 20 0 1995 1997 1999 2001 2003 2005 幼児死亡率 Rate per 1000 live births Child mortality 160 140 120 100 80 60 40 20 0 1992 1996 Infant mortality rate 1999 2004 Under-five mortality rate プロジェクト援助との比較における利点 政府の優先セクターに集中的に資金を投入することが 可能 政府の予算プロセスへの整合が可能 (MTEF、PERにも対応) 財政的に破綻した国における政府システムの改革 を促進することが可能。 点の成果を面に広げることが可能 (プロジェクトの成果を全国展開する資金が重要) リカレントコストへの対応が可能 (公務員給与、プロジェクト成果の長期的な維持・管理) 一般財政支援の課題 行財政改革への政治的リーダーシップが不可欠 GBSと貧困削減とのリンクは間接的。長期的な取り 組みが必要 輸出産業の促進、民間セクターの活性化はGBSだ けでは達成不可能。成長戦略が不可欠 能力開発への効果は限定的(?) 取引費用の削減は可能か(?) 国民への説明責任の強化が必要 (Donor AccountabilityからDomestic Accountability) JASが目指すもの 共通支援戦略(JAS:Joint Assistance Strategy) 援助総額の50%をGBSに プロジェクトはインフラ、パイロット的、innovativeなも の等に限定 援助予測性の向上(向こう3年間の援助投入量の 事前通報) ドナー間の分業(DOL)。比較優位のある分野に支 援を特化させる 技術協力のアンタイド化、資金のプール化 調達等タンザニア国内の手続きを利用 4.日本の課題 援助協調に対する明確なスタンスを示す プログラム援助に対応する援助モダリティー(GBS、 バスケットファンド)を確立する 我が国の援助モダリティーの援助効果を向上させる 途上国政府の予算、調達、会計監査等国内の手続 きに沿った対応 アンタイド化への対応を早急に検討する 途上国のガバナンスに対する明確なスタンスを示す Thank you for your attention.
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