農業農村工学会シンポジウム 平成23年8月9日(火)仙台市 「東日本大震災の津波による農地塩害と取組み方向」 農地塩害と除塩技術の研究 北里大学 嶋 栄吉 講演概要 1.津波の被害 2.東日本大震災での農地被害 3.塩害とは 4.塩害の事例 5.除塩の研究 ~干拓地での研究を中心に~ 6.塩害調査 ~青森県沿岸域~ 7.除塩対策 8.おわりに 1.津波の被害 ・日本付近での主な被害地震:有史以来421回 (理科年表,2010年より) ・江戸時代以降の主な津波被害:28回 (日本の自然災害,1998年より) 朝日新聞 2011.6.10 2.東日本大震災での農地被害 津波により流失や冠水等の被害を受けた 農地の推定面積 県名 青森 岩手 宮城 福島 茨城 千葉 合計 耕地面積 (ha) 156,800 153,900 136,300 149,900 175,200 128,800 900,900 流失・冠水 被害面積 田耕地面 畑耕地面 等被害推 割合(%) 積(ha) 積(ha) 定面積 (ha) 79 0.1 76 3 1,838 1.2 1,172 666 15,002 11.0 12,685 2,317 5,923 4.0 5,588 335 531 0.3 525 6 227 0.2 105 122 23,600 2.6 20,151 3,449 平成23年3月29日農林水産省:http://www.maff.go.jp/j/tokei/saigai/pdf/shinsai.pdf 3.塩害とは(1)原因と影響 引用:農林水産省農村振興局http://www.maff.go.jp/j/press/nousin/saigai/pdf/110414-01.pdf 3.塩害とは(2)~影響~ 1)作物生育への影響 ・作物の吸収阻害 ・作物の生育障害 2)土壌への影響 ・膨潤,分散による透水性の低下 4.塩害の事例1)昭和34年伊勢湾台風 ・昭和34年9月26日 ・三重,愛知,岐阜で高潮の被害 →被害面積約32,000ha ・高潮が最大で4.5m ・電気伝導度(EC)*1) 表層10〜17dSm-1 →多量の塩分 *1)電気伝導度:溶液に入れた電極間の電気抵抗の逆数, イオンの活量に比例,間接的に水溶液の全塩類濃度の大まか指標 引用:土壌肥料学会 http://jssspn.jp/info/nuclear/post-23.html 4.塩害の事例2)平成11年台風18号 ・平成11年9月,台風18号 ・九州各県と山口県 →海水が流入した農地の被害面積は1,426ha ・泥土(ヘドロ)の堆積:1.0〜11.5m ・EC 圃場の作土 :0.12〜2.3 dS m-1 堆積した泥土:2.0〜13.0 dS m-1 引用:土壌肥料学会 http://jssspn.jp/info/nuclear/post-23.html 4.塩害の事例3)その他 ・平成16年8月30日台風16号,香川県 →被害圃場のEC ニンジン畑:0.19〜1.0 dS m-1 水田 :0.24〜1.3 dS m-1 ・平成20年2月24日,富山県東部の暴風雨 →浸水した作土EC 水田:0.5〜2.5 dS m-1 引用:土壌肥料学会 http://jssspn.jp/info/nuclear/post-23.html 4.塩害の事例4)スマトラ沖地震津波 ・2004年12月26日,スマトラ島西方沖地震 (マグニチュード9.1〜9.3) ・インドネシア、タイなどで高さ10m以上の津波 ・堆積物の厚さ20cm以下 ・降雨が十分で,排水施設の整備水田,高い透水性 →半年から2,3年で回復 ・排水システムの損壊:3年間で3,000~7,000 mmの積算降 水量があっても除塩が不十分 →塩害農地の除塩:降水量や灌漑水量だけでなく、圃 場の排水条件も重要 引用・参考文献:1)土壌肥料学会 http://jssspn.jp/info/nuclear/post-23.html 2)http://www.fao.or.jp/topics/others/sumatra.html 3)久米ら,2004年12月の巨大津波によるインドタミルナドゥ州の農地における塩性化 被害と回復評価,農業農村工学論文集,266,19-24(2010) 4)池浦 弘,津波被災農地の除塩に関する情報の提供,2011 5.除塩の研究(1) ○戦前(~1945) ・大野(1931)湛水,暗渠による除塩対策 (山口県干拓地,生育収量調査) ・小林(1938)不良土壌の発現原因 (茨城県干拓地,土壌改良試験) ・三須(1939)干拓地土壌の化学性 (朝鮮半島干拓地,土壌調査) ・川島(1940)九州干拓地の土壌特性 (佐賀・熊本県の干拓地,土壌調査) ・永田(1943)塩分地土壌の改良実験 (台湾南部,土壌調査) *)参考文献:石川重雄(1991):干拓地土層の構造発達と農地化過程に関する研究 5.除塩の研究(2) ○戦後(1945~) 1)除塩に関する基礎的・実証的研究 ~児島干拓地を中心とた研究の蓄積~ ・久保田ら(1955)作物生育障害試験 ・細田ら(1959)層位別の理化学特性 ・米田ら(1959)水田粘土層での除塩 ・米田ら(1964)干拓地土壌の生成的土壌分類法の提案 ・徳弘ら(1965)石灰施用効果試験 *)参考文献:石川重雄(1991):干拓地土層の構造発達と農地化過程に関する研究 5.除塩の研究(3) 2)除塩の促進方法の総合的検討 ・宮本ら(1974),福島(1976),長堀ら(1975),天谷ら(1982) 川田(2000),兼子ら(2002) ①排水溝と暗渠による排水 ②乾燥亀裂の発達促進 ③土壌団粒化 ④耐塩性植物(アシ・アカザ類など)の導入 ⑤灌漑水により洗浄効果 ⑥水田と畑作の交互利用による除塩 3)児島湾干拓地での水利慣行 →「3湛3落1排」 (1サイクル:3日間湛水+3日間落水+7日目完全排水→乾湿の繰り返しと洗浄) *)参考文献:石川重雄(1991):干拓地土層の構造発達と農地化過程に関する研究 6.塩害調査(1) 青森県奥入瀬川南岸地区での塩分濃度調査 原図:長利ら(2011年調査データ 未発表) 6.塩害調査(2) 青森県奥入瀬川南岸地区での塩害の状況 写真提供:長利ら(2011年3月調査) 6.塩害調査(3) 青森県奥入瀬川南岸地区での塩害調査 写真提供:長利(2011年5月調査) 6.塩害調査(4) ~センサーによる連続観測の概要~ 1)機種:デカゴン社 5TE 2)測定項目(センサー) ・土壌水分 ・地温 ・ECセンサー 3)センサーの埋設深さ ・10,23,31.5,39,47cm 4)デカゴン社以外の設置機器 ・外気温,湿度 ・カメラ(撮影枚数:1枚/1時間) 5)研究グループ:長利ら(2011年7月~) 6.塩害調査(5) ~観測状況~ 土壌水分・温度・ECセンサーの設置と連続観測 写真提供:長利(2011年7月) 6.塩害調査(6) 青森県奥入瀬川南岸地区での水田 写真提供:長利ら(2011年6月,7月調査) 7.除塩対策(1)基本 1)リーチング: ・湛水による土壌浸透水で塩類の洗脱・除去 2)カルシウム系塩の投入(客入): ・Na+イオンをCa2+イオンに置換, ・透水性の低下,団粒破壊を抑制 3)排水強化: ・素掘水路と暗渠排水の活用 ・リーチング効果の向上 7.除塩対策(2) 引用:農林水産省農村振興局 http://www.maff.go.jp/j/press/nousin/saigai/pdf/110414-01.pdf 7.除塩対策(3) 引用:農林水産省農村振興局 http://www.maff.go.jp/j/press/nousin/saigai/pdf/110414-01.pdf 7.除塩対策(4) 引用:農林水産省農村振興局 http://www.maff.go.jp/j/press/nousin/saigai/pdf/110414-01.pdf 7.除塩対策(5) ~除塩対策の模式図(塩分を下方に抜く場合)~ 引用:農村工学研究所 http://www.nkk.affrc.go.jp/2011fukkoushien/fukkyuuhouhou/nouchi/joentaisaku.html 8.おわりに 1)干拓地での研究・技術の活用 2)水利慣行の活用と整備 ①水利システム(施設)整備 ・用水路,排水路(暗渠) ②用水確保 ・リーチングのための用水
© Copyright 2024 ExpyDoc