たつ りゅう 辰(竜)にまつわる民話 西の滝の竜 弘法話(香川県) むかしむかし、池田(いけだ)の山に二匹の 竜が住んでいて、毎日毎日、西の滝の村に 降りてきては田畑を荒らしまわりました。お かげで村人たちは、困り果てていました。 ところがある日の事、そこへ旅の途中の弘 法大師が通りかかり、荒れ果てた田 西の滝の竜 弘法話(香川県) 1 畑を見て、そのわけを村人にたずねたので す。 「これは、竜の仕業です。わしらがなんぼ苗 を植えても、竜が荒らしてしまうので、もうど うする事も出来ないのです」 村人たちは涙を流しながら、そう答えまし た。 「それでは、わしがその竜を退治してあげよ う」 「そんな、あの竜は、とても人間の勝てる相 手では」 2 西の滝の竜 弘法話(香川県) 「いや、心配なさるな。だが危ないので、あな たがたはここにいるように」 大師はそう言うと、村人たちが止めるのを 振り切って山を登って行きました。 そして翌朝、 「あのお坊さ ま、竜に食われてしまったんじゃろうか?」 と、村人たちが話し合っていると、大師が両 手に大きなかめをかかえて帰ってきたので す。 「もう大丈夫だ。山の岩の中におった竜 西の滝の竜 弘法話(香川県) 3 を、このかめに封じてきたぞ」 大師の言葉にびっくりした村人たちが、そ のかめの中を見てみると、たしかにかめの 中には小さくなった二匹の竜が閉じ込めら れているではありませんか。 大師は崖に穴を掘ると、その中に竜を閉じ 込めたかめを入れました。 するとかめの中から、二匹の竜の声が聞 こえてきます。 「お坊さま、どうか許して下さい。もう決して、 悪い事はいたしません。もし 4 西の滝の竜 弘法話(香川県) ここから出して頂ければ、これからずっと、 水不足にならないように雨を降らせますか ら」 「そうか。では、約束を守れよ」 大師がそう言ってかめのふたを取ってやる と、二匹の竜はかめから飛び出して、うれし そうに空高く飛び去って行きました。 そしてその後、不思議な事にかめの底から 止めどもなく水が湧き出たそうです。 おしまい 福娘童話集許可転載<http://hukumusume.com/douwa/> 5 西の滝の竜 弘法話(香川県)
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