企業法Ⅰ 講義レジュメNo.07 株式会社の設立 テキスト参照ページ:271~321p 1 Ⅰ 意義 • 株式会社の設立は、株式会社という一個の団 体を形成し、これに法人格を取得させる手続 である • 株式会社の実体は、その根本規則である定款 の作成、その構成員(社員)である株主の確 定、出資の履行、取締役等の機関の具備によ り形成され、設立の登記がなされると、株式 会社は法人格を取得し、成立する(49条・3 条):準則主義 2 株式会社の設立の特徴 • 株式会社においては、ある程度多数の者が株主 となることが予定されており、株主相互間に人 的信頼関係が存在することが前提とされていな いため、設立事務を担当する機関として発起人 が置かれ、成立後の会社の機関として設立時取 締役等が選任され、また、株主が会社債務につ き間接有限責任しか負わないため、成立後の会 社の財産的基礎を形成し、債権者を保護するた めに、設立の段階で出資が履行されている必要 がある • 持分会社とりわけ合名会社の設立手続と比較3 Ⅱ 設立の種類(25) • 発起設立:設立時発行株式の全部を発起 人が引き受ける方法(25Ⅰ①) • 募集設立:設立時発行株式の一部を発起 人が引き受けるほか、設立時発行株式を 引き受ける者の募集をする方法(25Ⅰ②) ※設立時発行株式:株式会社の設立に際して発行 する株式 4 株式会社設立の実態 • わが国においては、従来、①個人企業がその組 織を法人化するために(法人成り)、または、②大 企業が特定の営業部門を子会社として分離独立 させるために(分社化)、株式会社が設立されるこ とが少なくなかった。これらの場合、設立時に多 数の者から出資を募る必要は必ずしもないため、 発起設立によることで足りる。そこで、会社法の 立法過程においては、募集設立の方法の廃止も 提言されていた。しかし、設立時から株主とはな りたいが、発起人とはなりたくないといった実務上 のニーズがあるとの理由により、募集設立の方 法も維持されることとなった。 5 Ⅲ 株式会社設立の手続 • 株式会社設立手続の流れについては、次の スライドを参照。 • 56条までが発起設立に関する規定 • 57条以下は募集設立に関する規定 – 発起人だけで設立するのではなく、他人を巻き込 む設立方法であるため、発起設立に比べて規律 が厳格となっている 6 株式会社誕生までの流れ 会社設立の企画:会社設立の企画者として定款を作成し、署名した者=発起人 (26Ⅰ)→1名でよい(H2年までは7名以上必要とされた) 根本規則である定款の作成と認証:まず発起人が定款を作成・署名し公証人 の認証を受ける(26、30) 設立時発行株式に関する事項の決定(32):以上は両者の手続に共通 株主の確定 出資の履行 (資本の充実) 機関の具備 (選任) 発起人による全株式 の引受け:発起設立 変態設立事項 がある場合 全額の払込(34) ・裁判所による検査役の選任 検査役による調査 設立時役員等の 検査役の報告(33) ・設立時取締役等による調査 選任(38) (46、93・94) 設立の登記=法人格の取得:会社の誕生(49) 発起人による一部株 式の引受けと株式の 募集:募集設立(57 ~) 全額の払込(63) 創立総会(65以下): 設立時役員等の 選任など 7 1:発起人による定款の作成 • 株式会社を設立するには、まず発起人が定款を作 成しなければならない(26Ⅰ) • 発起人:会社の設立の企画者として定款に署名 (電子署名を含む(26Ⅱ))した者→複数人存在す る場合は発起人組合(民法上の組合契約)を形 成:設立中の会社の機関として会社の設立のため に必要な行為を行う。 • 設立中の会社:発起人が定款を作成し、各発起人 が少なくとも1株以上株式を引受けることで成立す る将来の会社の前身(自然人の場合の胎児のよう な存在):権利能力なき社団(自ら会社として成立する ことを目的とする) 8 発起人組合 • 発起人が複数存在する場合、発起人は、設立手続 に入る前に、株式会社の設立を目的(営業を目的 とするものではない)とする民法上の組合契約(民 法667条以下)を締結し、組合契約の履行(組合の 業務執行)として、定款の作成、株式の引受け、設 立事務の執行等の株式会社の設立に関する諸行 為をするものと解されている • 組合の業務執行は原則として発起人の過半数に よって決する(民670Ⅰ)が、常務については、各組 合員が単独で行える(民670Ⅲ) • ただし、発起人全員の同意が要求される行為もあ る(32、58) 9 発起人による株式の引受 • 各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行 株式を1株以上引き受けなければならない(25Ⅱ) • 設立時発行株式の引受けに係る意思表示には、 民法93但書および94Ⅰの規定の適用はない (51Ⅰ):意思の欠缺による無効の主張は許されな い(募集設立における株式引受人も同様) • 発起人は、株式会社の成立後は、設立時発行株 式の引受の錯誤無効、詐欺・強迫による取消はで きない(51Ⅱ) 10 設立中の会社 • 設立中の会社とその後に成立した会社とは、形式 的には別個の存在であるが、実質的には同一の 存在であり、発起人が会社設立のために取得し、 または負担した権利義務は、会社の成立前は形式 上発起人(発起人組合)に帰属しているが、会社の 成立後は形式上も当然に(格別の移転行為を要す ることなく)成立後の会社に帰属する(判例・通説: 同一性説) →ただし、成立後の会社の財産的基礎を危うくするこ とのないように、発起人が為した行為の効果が会 社に帰属する範囲が問題になる 11 論点:発起人の権限の範囲 ① 株式会社の設立のために法律上必要な行為(定款の作 成、設立時発行株式の引受け、出資の履行、設立時役 員等の選任等)に限定されるとする見解 ② ①の行為に加えて、株式会社の設立のために経済上必 要な行為(設立事務所の賃借、設立時発行株式を引き 受ける者の募集の広告等)にまで及ぶとする見解 ③ ①および②の行為に加えて、いわゆる開業準備行為(株 式会社が成立後すぐに営業を行えるように、土地・建物 を取得したり、原材料を仕入れる等の行為:財産引受は 通常これにあたる)にまで及ぶとする見解 ④ これに対して、④成立後の株式会社の営業行為につい ては、発起人が株式会社の成立前にこれをなす権限を 有しないことに異論はない(979条1項参照) 12 2:定款の内容 • 定款の作成とは、株式会社の活動および組織の根 本規範を確定し、それを書面に記載(電磁的記録 で作成した場合には、記録)することを意味する • 定款は、法定の事項を記載して発起人全員が署名 等をし、かつ、公証人の認証を受けなければ、その 効力を生じない(30Ⅰ) • 公証人の認証を受けた定款(原始定款)は、株式 会社の成立前においては、一定の場合(33Ⅶ・Ⅸ・ 37Ⅰ・Ⅱの規定による場合)を除き、変更すること ができない(30Ⅱ) 13 2:定款の内容 定款の意義:会社の根本規範自体(実質的意 義)とそれが記載された書面または電磁的記録 (形式的意義)という意味を持つ II. 絶対的記載事項:定款に必ず記載しなければな らず、記載しなければ定款全体が無効となる事 項(27) III. 相対的記載事項:定款に記載しなくても定款自 体の効力には影響はないが、定款に記載しなけ れば、その効力が認められない事項 IV. 任意的記載事項:定款に記載しなくても効力が 生じるが、会社が任意に記載した事項 14 I. 絶対的記載事項(27) 1. 目的:利害関係者が株式会社の事業内容を確知 しうる程度に明確かつ具体的記載が必要 2. 商号:「株式会社」の文字を用いなければならな い 3. 本店所在地:本店がある独立・最小の行政区画 (会社の住所となる:4) 4. 設立に際して出資される財産の価額またはその 最低額:最低資本金制度は廃止された 5. 発起人の氏名または名称及び住所 6. 発行可能株式総数(37):設立時発行株式の総数は、 発行可能株式総数の4分の1を下回ることができない (同条3項。但し、設立しようとする株式会社が公開会社 15 でない場合を除く) 相対的記載事項 • 株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の 定め(107Ⅱ①)など会社法の規定の中に散在して いる(29参照) • 特に会社の設立に関して重要なのが28条に規定 されている「変態設立事項」である。これらは、発起 人による濫用の危険が大きいため、定款に記載し たうえで、原則として裁判所が選任する「検査役」 の調査を受けなければならない。調査の結果に よっては定款の変更が強制されうる(33・97)→現物 出資・財産引受につき、濫用のおそれがない場合は検査役による 調査を省略可能 16 変態設立事項:28①~④ ① 現物出資:金銭以外の財産(動産・不動産・債権・有価 証券・無体財産権等)による出資→現物出資者の氏名・ 名称、目的財産、その価額、割当てる株式の種類・数を 記載 ② 財産引受:発起人が設立中の会社のため会社の成立 を条件として特定の財産を譲り受けることを約する契約 →目的財産、その価額および譲渡人の氏名・名称を記 載 ③ 発起人の報酬・その他の特別利益:会社の成立後一時 に支払われる報酬および設立に対する功労に報いるた めに継続的に付与される利益→内容(利益配当・新株 引受けに関する優先権、会社施設利用権等)と受ける発 起人の氏名・名称 ④ 設立費用:発起人が設立中の会社の機関として会社 設立のために支出した費用→会社成立後、発起人は定 17 款に記載した金額の範囲内で会社に求償できる 現物出資 • 規制の趣旨:目的財産が過大評価されると、資本 の充実が害される他、株主間に不公平を生ずるお それがある • 設立時における現物出資は、発起人に限られ(34 と63の対比)、資本充実のための重い責任が課せ られる(52Ⅰ)→目的財産の会社成立時における 実価が定款記載の価格より著しく低い場合、発起 人・設立時取締役は連帯して不足額を会社に対し て填補する責任(不足額填補責任)を負う:過失責 任であるが、立証責任が転換される(52Ⅱ②) 18 財産引受 • 現物出資に関する規制の潜脱手段として利用され るおそれがあり、目的物の過大評価により資本充 実が害され、譲渡人が発起人の場合、株主間に不 公平を生じるおそれがある。 • 財産の引受け:譲受けに限らず、賃貸借契約も含 むとする見解が有力(賃料の設定によっては同様 の危険があるため) • 規制根拠:財産引受は、開業準備行為の一種であり、スラ イドNo12に挙げた①、②説からは、本来発起人の権限で はないが、実際上の必要性から厳格な要件の下で例外的 に認めたものと解する 19 定款に記載のない財産引受:判例 • 設立中の会社の実質的権利能力は、将来会社とし て成立するという目的の範囲に限られる。⇒設立中 の会社の機関としての発起人の権限は、開業準備行為一 般には及ばない。 • 発起人が設立中の会社の執行機関として、かつそ の権限の範囲内の行為を為した場合に限り、当該 行為の効果は成立後の会社に帰属する。⇒法定の 要件を欠く財産引受は無効(絶対的無効)である • 無効な財産引受を成立後の会社が追認しても有 効となるものではない(最判昭42・9・26)。 • 発起人は民117の類推適用により無権代理に準じ た責任を問われうる(百選14~15p)。 20 無効な財産引受の追認の可否 • 学説では成立後の会社による追認を認める見解 が有力。 1. 財産引受規制は会社の利益保護を目的とするもので あり、追認を認めないと、譲渡人に契約の履行を拒む 口実を与え、かえって会社の利益を損なう。 2. 定款に記載のない財産引受は、発起人の権限外の 行為として無権代理行為となり、民113条により追認 は可能である。 • 追認の要件:会社成立後、必要に応じて事後設 立(467)や自己取引(356)等の手続を経て追認 することを認める。 21 会社成立時に未払いの設立費用債務の帰属 • 判例:定款の記載その他の法定要件をみたした設 立費用の範囲内で、成立後の会社に当然に帰属 する。⇒費用総額が定款記載金額を超える場合にどの費 用が会社の債務となるのか決定が困難になる。 • 会社成立後も発起人の債務にとどまるが、定款記 載の範囲で発起人は会社に求償できる(発起人責 任説) • 会社成立後は会社の債務となるが、定款記載の金 額を超える部分は会社は発起人に求償できる(会 社責任説) • 会社成立後は発起人および会社双方の債務とな る:連帯責任(重畳責任説) 22 任意的記載事項 • 定款に記載せず、株主総会決議や取締役会規則等により 定めても、その効力が生じるが、明確性を高める等の目 的のため定款に記載される事項(ただし、法律の規定に違 反しないものに限られる(29)) • 法が定款その他の方法により定めうる旨規定している事 項として、設立時発行株式に関する事項(32)、基準日 (124Ⅲ)、取締役(・委員会設置会社でない会社において は監査役の報酬(361Ⅰ・387Ⅰ)、公告の方法(939Ⅰ:定 款で定めない場合には、官報に掲載してなすものとされる (939Ⅳ))等があり、また、そのような規定はないが、実務 上定款に記載されることが多い事項として、定時株主総会 の招集時期、株主総会の議長、取締役・監査役の員数、 事業年度の定め等がある • 任意的記載事項も、定款に定めた以上、定款変更の手続 (466条・309条2項11号)によらなければ変更しえなくなる 23 3 株式発行事項の決定 設立に際して発行する株式についての具体的な 発行事項は、原則として発起人の多数決により 決する(民670Ⅰ) ただし、以下の重要事項については、発起人全 員の同意により定めなければならない(32) ① 発起人が割当を受ける設立時発行株式の数 ② 前号の設立時発行株式と引換えに払込む金銭の額 ③ 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に 関する事項 機動性の確保のため定款の絶対的記載事項と はされないが、定款に記載することもできる。 24 Ⅳ 発起設立の手続 1. 株式の引受け:設立に際して発行する総株式を発起人 のみが引受ける(25Ⅰ①) 2. 出資の履行:発起人は遅滞なく引受けた株の発行価額 全額を払込取扱機関(銀行・信託会社)に払い込む(3 4)→払込取扱機関の払込金保管証明は必ずしも要求さ れない(募集設立の場合は必要:64と対比) 3. 機関の具備(設立時役員等の選任):38以下⇒設立時 取締役および監査役は、会社が成立することを条件に その機関として選任されるが、会社成立前は、設立中の 会社の監督機関(発起人の行為を監督)として機能する 4. 設立経過の調査(33、46):変態設立事項等につき、検 査役および設立時取締役(監査役)による調査 25 出資の履行 発起人 発起人 ①設立時に発行する株式全部を引受け、その 総額について払込を行う(25Ⅰ①、Ⅱ、34Ⅰ) ②残高証明等の交付(募集設立では 発起人の請求により払込金の保管証 明書の交付(64)) 払込取扱 機関(34Ⅱ) 発起人 ③残高証明または交付された払 込金保管証明書を添付して設立 登記の申請を行う(911) 登記官 ④設立登記申請を受 け審査する ⑤法定の要件をみたして設立手続 がなされていれば登記を行う(49) 会社として成立!! 26 仮装の払込:預合と見せ金 • 総論:会社法は、株式会社の資本充実の要請から、 設立・募集株式の発行(増資)の際の株式の払込 について厳格な規制を課しているが、現実にはさ まざまな形で払込の仮装(形式的に出資の履行が なされたように装うが、実質的には会社の資本が 充実していないみせかけだけの払込)が行われて いる。 • 会社法は、典型的な仮装の払込である「預合」につ いて規制しているが、この規制を潜脱する形の仮 装の払込もなされる。いわゆる「見せ金」と呼ばれ る行為やその変形が出資の払込として有効である か否かが問題となる。 27 預合 ⑥会社から甲が資金 を受け取り、借入金 の返済に充てる Bの役職員乙 ①払込金相当額を貸付(B銀行の甲名義の口座へ) B 払 銀 込 行 取 扱 機 関 ②株金の払込みとして会社名義の口座へ 発起人甲 ①、②は帳簿上の操作にすぎず、現金の移動はない 甲と乙との間に①の貸付金を返済するまで②に入金 した預金を引き出すことができないという約束をする →払込取扱機関からの借財と通謀 ③保管証明書等の交 付 ④会社成立(設立登記) 設立中のA株式会社 ⑤会社の預金の引出 →64Ⅱにより甲乙間 の約束は会社に対し ては主張できない A株式会社(代表取締役甲) 28 預合の効力 • 資本充実の原則に反し無効 • 64Ⅱ(募集設立の場合):払込取扱機関が保管証明 をなした場合、預合の約束や払込みがなかったことは会 社に対抗できないものとし、払込取扱機関に保管証明を なしたことによる担保責任を負わせて預合を禁圧している – もっとも、預金を引き出した会社がこれを借財した発起人(取締 役になることが多い)に貸付けるなどして資金提供し、発起人が 払込取扱銀行に返済するということが行われると、結局は会社 の営業資金としては使われないことになる • 965条:預合を行った者および通謀して預合に応 じた払込取扱機関の担当者に5年以下の懲役もし くは500万円以下の罰金またはこれらの併科という 29 刑罰を定めている C 銀 行 見せ金〔典型例〕 払込取扱機関以外の第三者 〔銀行に限らない〕 ①払込取扱機関以外の第 三者から借入れ ⑧借入金の返済 ②株金の払込みとして会社名義の口座へ 発起人甲 ③払込金保管証明書の交付 ⑥払込金の 返還 B 払 銀 込 行 取 扱 機 関 ⑦返済資金の 貸付け ⑤返還請求(引き出し) ④会社成立(設立登記) 30 設立中のA株式会社 A株式会社(代表取締役甲) 「見せ金」の意義 • 「見せ金」とは、法律用語ではなく、論者によってそ の範囲は異なる。仮装の払込一般を広い意味で 「見せ金」と呼ぶこともある。 • 仮装の払込①:払込取扱銀行のA支店から借入れ、 B支店の会社の口座に払込む(通謀がないので預 合ではない)場合⇒判例は「見せ金」の変則形態と 見る。 • 仮装の払込②:株式引受人となる第三者に株式払 込資金を会社が融資したり、第三者が他から融資 を受ける際に、会社が保証する場合〔新株発行増 資の場合に行われる〕⇒駿河屋事件など 31 見せ金の効力:無効(通説・判例) • 各行為を部分的に観察すべきではなく、全体として 考察すると、払込は単なるみせかけであって、会社 の資本充実を害する仮装の払込であるという実質 を重視すべきである。 • 預合が規制されたことから、その脱法行為として行 われるようになったという沿革に注目すべきである。 • 但し、借入金による払込や、会社成立後会社が取 締役に貸付を行い、取締役が自らの借入れの返 済にあてることが直ちに違法・無効であるとはいえ ないので、払込として無効な「見せ金」か、否かの 判断基準が問題となる。 32 見せ金の判断基準 • 見せ金か否かは、以下の①~③を総合的に観察 して、株式の払込が実質的には会社の資金とす る意図はなく、単に払込みの外形を装ったものに すぎないものであるかどうかを判断する。 ① 会社成立後、借入金を返済するまでの期間の 長短 ② 払込金が会社資金として運用された事実の有 無 ③ 借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影 響の有無 33 仮装払込と設立の効力 • 払込が仮装であるとして無効とされる場合、 払込がなされていないことになる⇒発起人等 の引受・払込担保責任(旧商192Ⅱ)は廃止 された:任務懈怠責任(53) • 設立時最低出資額(27Ⅳ)につき資本の充 実が確保されれば設立自体に瑕疵はない • 設立時最低出資額が確保されない場合は、 会社は設立無効の訴え(828Ⅰ①)に服する ことになる。 34 払込取扱機関が払込金を返還すべき時期 • 判例、多数説:資本充実の要請は、会社成立時ま で及ぶべきである⇒発起人・取締役は、会社成立 以前には、払込金の返還(引き出し)を請求できな い(最判昭37.3.2)。払込取扱機関は会社成立前 に発起人または取締役に払込金を返還しても、成 立後の会社には対抗できない(民479)。 • 有力説:創立総会が終結すれば会社の実体が完 成したといえるから、設立登記のための登録免許 税の支払いのためなどに創立総会で選任された取 締役が返還請求なしうると解する。 35 権利株の譲渡 • 設立時発行株式の引受後、その出資を履行する ことにより取得する設立時発行株式の株主となる 権利(権利株)の譲渡は、成立後の株式会社に 対抗することができない(35) • 株主名簿等が整備されておらず、名義書換に応 じる態勢もできていない会社の事務処理上の便 宜 • 株券発行会社では、この時点では株券は発行で きず、譲渡の要件として株券の移転ができない 36 発起人の失権制度 • 発起人のうち、出資の履行をしていないものがあ る場合には、発起人は、当該出資の履行をしてい ない発起人に対して、期日(払込催告期日)を定 め、その期日までに当該出資の履行をしなけれ ばならない旨を期日の2週間前までに通知しなけ ればならない(36ⅠⅡ) • 払込催告期日までに出資の履行をしない発起人 は、当該出資未履行分にかかる設立時発行株式 の株主となる権利を失う(36Ⅲ) • 結果として、設立時最低財産額を満たせなければ、 設立無効原因となる 37 Ⅴ 募集設立 • 基本的には発起設立と同様の過程を経て会社を 成立させる手続であるが、発起人が総株式を引受 けるのではなく、発起人が一部を引受け、残りを他 の株主を募集し引受けてもらう点で、利害関係者 が多くなるため、やや手続が複雑になっている • 株式の募集、申込み、割当て、引受け、出資の履 行 • 失権手続 • 創立総会:発起人が招集し、株式引受人の会議体 で取締役・監査役の選任等を行う⇒成立後の会社 の株主総会に相当する設立中の会社の決議機関 38 1 設立時発行株式の引受人の募集 • 設立時発行株式を引き受ける者の募集の決定 – 募集設立を行う旨の決定は、発起人全員の同意によら なければならない(57ⅠⅡ) • 募集をする都度、発起人全員の同意を得て、設立 時募集株式(上記の募集に応じて設立時発行株式 の引受けの申込をした者に対して割り当てる設立 時発行株式)につき、所定の事項を定めなければ ならない(58条1項・2項) 39 設立時募集株式に関する事項 ① 設立時募集株式の数(設立しようとする株式会 社が種類株式発行会社である場合には、その 種類および種類ごとの数) ② 設立時募集株式の払込金額(設立時募集株式 1株と引換えに払い込む金銭の額) ③ 設立時募集株式と引換えにする金銭の払込み の期日またはその期間 ④ 一定の日までに設立の登記がされない場合に おいて、設立時募集株式の引受けの取消しを することができることとするときは、その旨およ 40 びその一定の日 2 設立時募集株式の申込み • 発起人は、設立時募集株式を引き受けようとする 者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合 を除き(61)、設立募集株式の引受けの申込をしよ うとする者に対し、所定の事項を通知しなければな らない(59Ⅰ) • 発起人のうち出資の履行をしていない者がある場 合には、払込催告期日(36Ⅰ)後でなければ前項 の通知をすることができない(59Ⅱ) • 設立時募集株式の引受けの申込みをする者は、 所定の事項(59Ⅲ)を記載した書面を発起人に交 付しなければならない 41 3 設立時募集株式の割当て・引受け • 発起人は、設立時募集株式を引き受けようとする 者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合 を除き(61)、申込者の中から設立時募集株式の 割当てを受ける者を定め、その者に割り当てる設 立時募集株式の数を定めなければならない(60) • 割当自由の原則:どの申込者に何株割り当てるか は、発起人の自由である • 設立時募集株式の引受人(62) • 設立時募集株式の引受けの申込みおよび割当て ならびに61条の契約に係る意思表示には、民93 42 但書および94Ⅰの規定は、適用されない(102Ⅲ) 4 払込金額の払込み • 引受人は、定められた払込期日または払込期間内に、発 起人が定めた払込取扱場所において、それぞれの設立時 募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければな らない(63Ⅰ) • 払込みをしない場合:引受人は、設立時募集株式の株主 となる権利を失う(同Ⅲ)→当然失権 • 発起人は、払込取扱銀行等に対し、払い込まれた金額に 相当する金銭の保管に関する証明書の交付を請求できる (64Ⅰ:払込金保管証明書) • 上記の証明書を交付した銀行等は、当該証明書の記載が 事実と異なることまたは払い込まれた金銭の返還に関す る制限があること(預合い等)をもって成立後の株式会社 43 に対抗することができない(Ⅱ) 5 創立総会 1. 創立総会:設立時株主(株式会社の成立により株主となる 者)の総会 1. 成立後の会社の株主総会にあたるものであり、会社法の募集設 立に関する規定が定める事項、株式会社の設立の廃止・創立 総会の終結その他株式会社の設立に関する事項に限り、決議 することができる(66) 2. 発起人は、払込期日または払込期間の末日のうち最も 遅い日以後、遅滞なく、創立総会を招集しなければならな い(65Ⅰ) 3. 発起人は、創立総会を招集する場合、所定の事項を定め なければならない(67ⅠⅡ) 4. 創立総会を招集するには、発起人は、原則として創立総 会の2週間前までに、設立時株主に対してその通知をし なければならない(68Ⅰ) 5. 設立時株主の全員の同意があるときは、招集手続を省略 44 できる(69) 創立総会の決議 • 設立時株主は、成立後の株主総会と同様、原則と してその引き受けた設立時発行株式1株につき1 個の議決権を有する(72Ⅰ:但し、同条Ⅱ・Ⅲ参 照) • 但し創立総会の決議は、原則として、当該創立総 会において議決権を行使することができる設立時 株主の議決権の過半数であって、出席した当該設 立時株主の議決権の3分の2以上にあたる多数を もって行う(73Ⅰ) • 譲渡制限株式とする場合や取得条項付株式とする 場合の特則に注意(73ⅡⅢ) 45 創立総会の運営 • 創立総会における議決権行使の方法については、 74~77 • 創立総会における議事等については、78~81条 • 報告総会の決議の省略(82Ⅰ) • 創立総会への報告の省略(83) • 種類創立総会の決議(84・85ⅡⅢ・86参照) • 創立総会は、創立総会の目的である事項(67Ⅰ ②)、定款の変更、株式会社の設立の廃止以外の 事項については決議をすることができない(73Ⅳ) 46 設立に関する事項の報告 • 発起人は、株式会社の設立に関する事項を創 立総会に報告しなければならない(87Ⅰ) • 発起人は、変態設立事項に関する検査役 (33Ⅱ)の報告(同Ⅳ)の内容および弁護士等の 証明(同Ⅹ③)の内容を記載(または記録)した 書面(または電磁的記録)を創立総会に提出(ま たは提供)しなければならない(87Ⅱ) 47 設立時役員等の選任等 • 設立時役員等の選任は、創立総会の決議によって 行わなければならず(88)、創立総会の決議によっ て選任された設立時役員等は、株式会社の成立 の時までの間、創立総会の決議によって解任する ことができる(91) • 累積投票制度や種類創立総会決議による設立時 取締役(または設立時監査役)の選任等について も株主総会と類似の規律となっている(89~92) 48 6 設立時取締役等による調査 • 設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査 役設置会社である場合には設立時取締役および 設立時監査役)は、その選任後遅滞なく、所定の 事項を調査し、調査の結果を創立総会に報告しな ければならない(93ⅠⅡ) • ただし、設立時取締役等の全部または一部が発起 人である場合、創立総会決議でこれらの調査を行 う者を選任できる(94Ⅰ) • 取締役・監査役の「設立調査報告」→設立登記に も添付される 49 7 定款の変更 • 発起人は、設立時募集株式の払込期日または払 込期間の初日のうち最も早い日以後は、定款の 変更をすることができないが(95)、創立総会は、 その決議によって、定款の変更をすることができ る(96) • 設立しようとする会社が種類株式発行会社である 場合の定款変更の手続の特則について99~101 条参照 • 創立総会において変態設立事項を変更する定款 変更をする場合→その変更に反対した設立時株 主の設立時発行株式の引受けの取消しは決議後 2週間以内に限り可能(97) 50 Ⅵ 設立登記 • 株式会社は、その本店の所在地において所定の 期間内(911Ⅰ・Ⅱ)に設立の登記をすることにより 成立する(法人格を付与される)(49・3) • 登記事項(911Ⅲ):定款記載事項とは完全に一致し ない • 登記の効果:会社の成立(法人格の取得)⇒創設的 効力:会社の成立により、発起人が設立中の会社 のために取得または負担した権利義務は、特別な 移転行為なくして当然に会社に帰属する(同一性 説) 51 株式会社の成立の効果 • 発起人は、出資の履行をした設立時発行株式の 株主となり(50Ⅰ)、設立時募集株式の引受人は、 払込みを行った設立時発行株式の株主となり (102Ⅱ) • 設立時役員等は成立後の株式会社の役員等とな る • 権利株の譲渡制限が解除される(35・50Ⅱ参照) • 発起人および株式引受人は、株式会社の成立後 は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの 無効を主張し、または詐欺もしくは強迫を理由とし て設立時発行株式の引受けの取消しをすることが できなくなる(51Ⅱ・102Ⅳ) 52 Ⅶ 設立に関する責任 • 不健全な株式会社の設立(過小資本等)は、会社 債権者および株式引受人(将来の株主)等の利益 を害するため、「発起人・設立時取締役・設立時監 査役」に厳格な刑事罰および過料の制裁を科すと ともに、これらの関与者および現物出資・財産引受 に関する証明等を行った弁護士・不動産鑑定士等 に会社または第三者に対する重い民事責任(損害 賠償・価格填補責任)を課すことで、会社設立の健 全性を確保する。 53 1.会社に対する責任 1. 資本充実責任:発起人・設立時取締役 1. 財産価額填補責任(52ⅠただしⅡ)→証明または鑑 定評価を行った弁護士等も無過失を立証しない限り 連帯責任を負う(52Ⅲ) 2. 発起設立では過失責任、募集設立では無過失責任 (103Ⅰ) 2. 任務懈怠責任:発起人、設立時取締役・設立時 監査役(53Ⅰ) 3. 責任の実現:会社が自ら責任を追及しない場合、 株主にいわゆる代表訴訟提起権が認められる (847) 54 2.第三者に対する責任 • 発起人、設立時取締役または設立時監査役 が、会社の設立に関し、その任務を行うにつ き悪意または重過失があった場合、これに よって会社以外の第三者に生じた損害につ いても連帯して賠償責任を負う(53Ⅱ) 55 3.擬似発起人の責任(103Ⅱ) • 擬似発起人とは:原始定款に発起人として署名し ていないため、発起人ではないが、株式募集の広 告等の株式募集に関する文書または電磁的記録 に自己の氏名または名称および会社の設立を賛 助する旨の記載または記録を為すことを承諾した 者(創立委員・顧問・設立賛助者などの肩書きが使用され る) • 発起人とみなされ52~56及び103Ⅰの責任を負 う(禁反言の法理に基づく責任)→株式引受人の保 護を目的 • 発起設立では株式引受人の募集を行わないので この責任は問題にならない。 56 Ⅷ 会社の不成立および設立無効 • 会社の不成立:設立手続が設立登記まで至らずに 挫折し、会社が法律上も事実上も存在するに至ら なかった場合→発起人は会社の設立に関してなし た行為につき無過失の連帯責任(払込まれた出資 金全額を返還する等)を負い、設立費用は全額発 起人の負担となる(56) • 設立無効:設立登記により形式的に会社が成立し た場合であっても、法定の要件をみたしていないた め無効となる場合⇒法的安定性の確保が要請され るため「設立無効の訴え」の制度を設けた。 57 設立無効の訴え • 無効原因:①定款の絶対的記載事項に重大な瑕疵があ ること、②公証人による定款の認証がないこと、③発起人 全員の同意による設立時発行株式に関する事項の決定 がないこと、④創立総会の開催がないこと等 • 設立無効の訴え:設立の無効は、訴えによっての み主張できる⇒登記の日から2年以内に、株主、取 締役、清算人、監査役、委員会設置会社の執行役 に限り提起できる(828Ⅰ①、Ⅱ①):出訴期間の制 限、提訴権者の制限 • 判決の対世効(838)と遡及効の制限(839):無効 判決が確定すると、会社は解散の場合に準じて清 58 算される 設立無効の訴え • 訴えの管轄(835)、担保提供命令(836)、弁 論等の必要的併合(837)については、株主 総会決議取消の訴え等の場合と同様(会社 の組織に関する訴えの一つ:834) 59
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