PowerPoint プレゼンテーション

がんの生物学から治療へ
-Bench to Bedside-
1.がんに関する新しい概念
がん幹細胞
がん組織微小環境の意義
2.がんに対する新しい治療
マイクロアレイ解析を用いる癌の化学療法感受性予測
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
平成22年
北海道医療大学
小林 正伸
癌の分子生物学
-Bench to Bedside-
1.がんに関する新しい概念
がん幹細胞
がん組織微小環境の意義
2.がんに対する新しい治療
マイクロアレイ解析を用いる癌の化学療法感受性予測
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
がん幹細胞(Cancer Stem Cells)とはなんぞや?
そもそも幹細胞(Stem Cells)とはなんぞや?
造血幹細胞による血球系の維持
ー正常な生体における幹細胞の意味ー
赤血球の寿命はおよそ120日とされており,120日ですべ
て入れ替わる.好中球の寿命は半日程度とされており,
血小板の寿命は10数日.末梢で失われていくこれらの血
球の喪失分を造血幹細胞が補充しているとされる。
血球細胞は毎日1011個以上
が失われていくが、造血幹
細胞の増殖と分化によって
血球減少をきたさずに数を
維持している。造血幹細胞
は、リンパ球や好中球、マ
クロファージ、赤血球など
すべてに分化しうる多能性
を保持している。
幹細胞(多分化能,自己複製
能を持つ細胞)による恒常
性の維持
幹細胞システムによる大腸の恒常性維持
-正常な生体における幹細胞の意味生体の各臓器は、古い細胞が脱落して新
しい細胞によって取り換えられて機能を
維持している。細胞の補充を担当してい
るのが、組織幹細胞と呼ばれている臓器
特異的な幹細胞である。
左の図は、大腸粘膜細胞の増殖による古
い大腸粘膜細胞の脱落を補充するメカニ
ズムを示した。
陰窩に存在する幹細胞の位置、
幹細胞から形成されるコロニー、
模式図を示す。
ほぼすべての臓器で組織幹細胞が存
在し、恒常性の維持に働いている。
癌幹細胞仮説
急性骨髄性白血病細胞をCD34+, CD38-細胞集団とCD34+,
CD38+ 細胞集団に分離し、5000個のCD34+, CD38-細胞集団をマ
ウスに移植すると白血病になった。一方50万個のCD34+, CD38+
細胞集団ではできなかった。(Nature Med., 1997)
この報告が癌幹細胞の存在を示唆する世界最初の報告
左の実験では、ヒト乳癌の腫瘍細胞を、CD24を低発現、CD44を
高発現する細胞集団と両方を高発現する細胞集団に分離すると、
CD24を低発現、 CD44を高発現する細胞集団では200個を
NOD/SCIDマウスに移植すると腫瘍を形成した。一方両方を高発
現する細胞集団を2万個移植しても腫瘍は形成されなかった。(M.
Al-Haji, et al., PNAS, 2003より)
・これらの事実から、癌細胞が増殖能力の高い造腫瘍性の高い細胞集
団と増殖能力の低い細胞集団に分離できることがわかった。
・また、造腫瘍性の高い増殖能力のある細胞集団こそ正常の幹細胞に
似た細胞であり、がん幹細胞と言える存在と考えられた。
脳腫瘍と癌幹細胞
Medulloblastomaでは、CD133強陽性
細胞がCD133低発現細胞集団の間に
散在している。
Medulloblastomaの細胞をFACSにて
CD133高発現細胞集団とCD133低発
現細胞集団に分離できる。
上記で分離した細胞を浮遊させた状態で培
養(増殖能力の低い細胞は死滅する)する
と、
CD133高発現細胞集団はコロニーを形成し
てくるが、CD133低発現細胞集団は増殖し
てこない。
髄芽腫にも幹細胞集団が存在する。
癌幹細胞と発癌に関する現在の仮説
組織幹細胞もしくは一過性増殖細胞レベルで癌化のスタートが切られ、過形成組織が
形成されるが、癌幹細胞にさらに遺伝子異常が追加されて、癌組織が形成される。
幹細胞の自己再生能の維持にはニッチを形成する微小環境が重要な役割を担って
いる。
癌幹細胞は抗癌剤耐性?
白血病幹細胞集
団を純化して細
胞周期を観察す
ると、静止期に
入っている細胞
が多く、これが抗
癌剤耐性となる
機序の一つと考
えられる。
白血病幹細胞は抗癌剤投与によって
も大部分が生存している。
白血病幹細胞は骨稜近辺に存在する
が、ここの細胞は生存している。
Ishikawa et al.,
Nature Biotechnology, 2008, 21/10, onlineより改変
従来の治療と癌幹細胞を標的とした治療
従来の治療法では、抗癌剤耐性の癌幹細胞が生き残ってしまい、再
発の元となっている。(耐性の機序の一つはニッチ)
今後の治療においては、癌幹細胞や癌幹細胞を守っているニッチ
を標的としてたたく治療法が必要となる。
小括その1
1.癌幹細胞仮説は、抗がん剤によって99.9%
の癌細胞を殺しても0.01%が残存すると再
発するという癌化学療法の限界をよく説明
できる。
2.癌幹細胞仮説は、今後の治療法の開発に
は癌幹細胞という少数の特殊な細胞集団
を標的として探索すべきであることを示唆
する。
増殖休止期の問題(抗がん剤耐性)
幹細胞を守るニッチの問題(本態は?)
陰に隠れた黒幕を叩け!
癌の分子生物学
-Bench to Bedside-
1.がんに関する新しい概念
がん幹細胞
がん組織微小環境の意義
2.がんに対する新しい治療
マイクロアレイ解析を用いる癌の化学療法感受性予測
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
がん細胞=自律増殖する細胞(環境に影響されない)
酸素と栄養なしには生存できないという点では正常
細胞との差はなく、実際がん組織では血管新生や嫌
気性代謝などの機構が発達している。
その意味では、がん細胞も酸素と栄養(グルコース)
の確保のためには環境に適応しなければならない。
細胞はどのように生きているのか?
赤血球は毛細血管で酸素を血漿
中に放出する。酸素や栄養素を
含んだ血漿が動脈側で組織中に
移動し、細胞に酸素や栄養をわ
たす。代わりに2酸化炭素など
を受け取った組織液は静脈側で
血管内に戻る。
細胞は周囲の組織液中から酸素と栄
養を取り込み、酸化反応を介してエネ
ルギーを産生し、生きている。
血液からの酸素と栄養の供給によっ
て、あらゆる細胞が生きていける。
酸素とグルコースの代謝によるエネルギー産生
細胞内に取り込まれたブドウ糖は、
細胞質内の解糖系を経てアセチル
-CoAとなり、ミトコンドリア内の
クエン酸回路に入る。細胞は、通
常ブドウ糖と酸素を同時に取り込
んでおり、1モルのブドウ糖と6モ
ルの酸素より36ATPが合成される
が、このうち2ATPは細胞質内で
34ATPはミトコンドリア内で生成
する。これが、細胞内におけるエ
ネルギー産生機構である。
グルコースを解糖系で分解してエネルギーを得る系(嫌気性代謝)と、
酸素を利用して酸化反応によってエネルギーを得るTCA回路の2経路
がある。
癌治療における兵量攻め
造影剤を動脈内に注入してレン
トゲン写真をとると,左のよう
に腫瘍全体に造影剤が染まって
見える。これらが腫瘍血管と呼
ばれている。
癌細胞であっても、正常細胞と
同様に酸素とグルコースからエ
ネルギーを産生して生き延びて
いる。
この栄養血管を遮断できれば癌治療は可能?
肝癌の肝動脈塞栓療法
(TAE:transcatheter arterial embolization)
肝左葉に腫瘍濃染像を認める
TAE後、腫瘍濃染像が消失
(赤の矢印で囲まれた部分).
左の図では矢印のように栄養血管が認められる肝がんをしめす。栄養血
管を塞栓にて閉塞させて、血液供給をストップさせて肝癌細胞の絶滅を
狙った治療法で、腫瘍血管がすべて消失している。
癌のエネルギー代謝は正常と同じか?
造影剤を動脈内に注入してレン
トゲン写真をとると,左のように
腫瘍全体に造影剤が染まって見
える。これらが腫瘍血管と呼ば
れている。
これだけ血管があるのだから,十
分量の酸素と栄養が供給されて
いる!?
血流が悪いから染まるのであって,
むしろ時間あたりの動脈血流量は
少ない。つまり血流は不足!!
癌組織ではTCA回路と酸化的リン酸化を介したエネル
ギー産生が起こりにくい。
できあがった癌組織も低酸素環境下にある
Normal tissue
正常皮下組織
Tumor tissue
癌組織
Adamらの文献(Head Neck, 21:149, 1998)より引用
赤の矢印で示したように正常組織のmedian酸素濃度は50mmHg以上であるが、
癌組織のmedian酸素濃度は10mmHg程度であった。
低酸素下で蛋白発現を調整するHIF-1
の発現制御機構
正常酸素分圧下
核染色
HIF-1α
2重染色
低酸素分圧下
核染色
HIF-1α
2重染色
卵巣癌
TAOV
(Akakura et al., Cancere Res, 2001)
酸素が十分にあるときは、HIF-1
蛋白のプロリンにOH基を付加す
る酵素が働き、ユビキチン化さ
れて分解される。また、アスパ
ラギンにOH基を付加する酵素が
働き、p300と共同で働けなく
なって不活化されてしまう。低
酸素下では、これらの系が働か
ないので、HIF-1が活性化される。
がん細胞はどうして1%酸素でも生きれるのか?
なんとか生きれ
るぞ!
酸素濃度低下
HIF-1
嫌気性代謝
血管新生
血管拡張
細胞
HIF-1 (hypoxia-inducible factor-1)
低酸素下で発現する転写因子
造血
HIF-1
適応のための遺伝子
アポトーシス耐性
この機構はがん特異的なものではない。生体内では、筋肉組織がしばしば
陥る環境であり、実際に筋肉組織では低酸素下では解糖系が中心に働き、
乳酸がたまってくる。筋肉を激しく使った後のだるさは乳酸蓄積による。
低酸素環境下での遺伝子発現
relative copy number/βactin
relative copy number/βactin
(Glucose transporterとVEGF)
mRNA of GLUT1
6
5
4
3
2
1
Glucose
(mg/dl)
0
110
50
30
10
Under normoxia
110
50
30
10
Under hypoxia
低酸素環境下では代表的Glucose Transporter
であるGLUT1発現が亢進する。
Glucose
(mg/dl)
mRNA of VEGF
14
12
10
8
6
4
2
0
110
50
30
Under normoxia
10
110
50
30
Under hypoxia
低酸素環境下では代表的血管新生因
子である、VEGF発現が亢進する。
低酸素・低栄養環境下ではGLUT1やVEGFなどの低酸素・低栄養環
境に対する適応応答に関与する遺伝子の発現が亢進する。
(Natuizaka et al., Exp Cell Res, 2007)
10
鼻咽頭癌のFDG-PET(グルコース取り込みの増加)
本症例は鼻咽頭癌であ
るが、低酸素環境下にあ
るために、グルコース取
り込みに働くグルコースト
ランスポーター(GLUT)の
発現が亢進し、グルコー
スががん特異的に大量
に取り込まれている。
FDG-PETを用いた癌スク
リーニングは、癌におけ
るグルコース取り込みの
増加を利用した方法で
ある。
癌と血管新生
癌細胞は自分自身の増殖のために、酸素と栄養の供給路としての血管新生が必要
になる。低酸素環境下では、転写因子HIF-1による血管新生因子VEGFやFGFの産生
が刺激される。血管新生は,腫瘍局所の血管内皮細胞の増殖によるAngiogenesisと
骨髄由来血管内皮前駆細胞の増殖によるVasculogenesisによって遂行される.
VEGF阻害薬アバスチンの効果
がんが作り出す血管内皮増殖因子
の働きで、がんに栄養を送るため
の新しい血管が作られる。アバス
チンは、この物質にくっついて働
きを止め、血管ができるのを防ぐ
などして、がんを小さくする。分
子レベルで働くので、分子標的薬
と呼ばれる。
(Am J Patol., 2003; Oncogene, 2003; Cancer Res., 2007)
小括その2
癌細胞の増殖戦略
なんとか生きれ
るぞ!
酸素濃度低下
HIF-1
転移
嫌気性代謝
血管新生
血管拡張
細胞
HIF-1 (hypoxia-inducible factor-1)
低酸素下で発現する転写因子
造血
HIF-1
適応のための遺伝子
アポトーシス耐性
1.グルコース取り込みの亢進、解糖系代謝亢進は、FDG-PET
による癌の診断を可能にしている.
2.腫瘍特異的な血管新生を標的とする血管新生阻害剤が治療
に使われている.
3.低酸素適応応答機構を標的とする治療薬剤の開発。
癌細胞への血液供給など正常細胞の協力を
阻止せよ!
癌細胞の無茶な要求を呑むな!
癌の分子生物学
-Bench to Bedside-
1.がんに関する新しい概念
がん幹細胞
がん組織微小環境の意義
2.がんに対する新しい治療
マイクロアレイ解析を用いる癌の化学療法
感受性予測
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
DNAマイクロアレイ法
ガラスプレートに数千個から数万個の遺伝
子断片を固定させたcDNA microarrayを用
意する。
試料(比較したい正常組織と癌組織)から
mRNAを抽出し、それぞれ赤と緑の蛍光色
素で標識する。
競合的にハイブリダイズする。(mRNA量の
多さにしたがって、赤く標識されたmRNAが
結合すると赤色〜両方同じ量結合すると
黄色〜緑に標識されたmRNAが結合する
と緑とそれぞれのスポットが染まる)
膀胱癌の抗癌剤感受性遺伝子の決定
各列は各症例を表し、各行は遺伝子
を示している。
膀胱がん患者のresponderとnonresponder間で発現の異なる遺伝子を
候補感受性遺伝子として抽出した。
感受性に関連すると考えられた50遺
伝子の発現パターンによって
responderとnon-responderが明確に
分離された。
上部の25遺伝子は、responderで発
現が低下しており、下部の25遺伝子
は、responderで発現が亢進している。
膀胱癌の抗癌剤感受性遺伝子
これらの遺伝子は、DNAマイクロアレイで抗がん剤感受性遺伝子群として同定された。し
かし個々の遺伝子に意味がある訳ではなく、発現亢進は近辺の遺伝子の遺伝子増幅に
関連して取り上げられた遺伝子かも知れない。集団としての組み合わせが意味を持つに
すぎない。
抗癌剤感受性予測と予後との相関
感受性ありと予測された群の28症例では明らかに予後が良好
であり、感受性なしと予測された群では予後が悪かった。
小括その4
1.DNAマイクロアレイなどによって
癌患者個々人の抗がん剤感受性
を予測できる可能性がある。
しかし、癌幹細胞レベルでの癌患者個々人の抗がん剤感受性を検討す
る必要がある。現在の方法では癌組織全体で比較しているが、癌の予
後は癌幹細胞の性格の相違が重要であると考えられつつある。
癌の分子生物学
-Bench to Bedside-
1.新しい概念
癌幹細胞
癌組織微小環境の意義
2.新しい治療
マイクロアレイ解析を用いる癌の化学療法感受性予測
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
分子標的薬の命名方法
[名前の最後につく文字]
●マブ(mab)=モノクローナル抗体
例:トラスツズマブ,ベバシズマブ
●イブ(ib)=インヒビター(阻害薬),小分子薬
例:ゲフィチニブ
[マブ(mab)の前につく文字]
●mo=マウスの抗体の意
●xi=異なった遺伝子型が混在するキメラ抗体の意
例:リツキシマブ,セツキシマブ
●zu=ヒト化抗体の意
例:トラスツズマブ,ベバシズマブ
●nu=完全ヒト型抗体
例:パニツムマブ
●tu(m)=腫瘍を標的にしている薬に付く
例:トラスツズマブ
癌の増殖シグナルと分子標的
このシグナル伝達経路の中で、EGF受容体はv-erbと同じもので、癌原遺伝子と
されている。EGF受容体遺伝子の増幅や変異が様々の癌で認められる。Her2も
EGFRとダイマーを形成するレセプターである。ハーセプチンはここに効く。
Rasも有名な癌原遺伝子で、多くの癌で変異が認められる。EGFRが活性化すると、
Ras-GDP.がRas-GTPに変換されて活性化する。
Rafもv-rafのホモロジー蛋白で癌原遺伝子とされている。RafはMEKをリン酸
化して活性化する。活性化したMEKがERKをリン酸化して活性化する。
これらの癌原遺伝子に変異が入ると、癌遺伝子として働き、増殖シグナルを
常時伝える結果、癌化を引き起こすと考えられている。これらが標的となる。
CMLの遺伝子異常
赤の矢印で示した9番染色体と22番染色体の間で相互転座が起こり、9
番染色体上のabl遺伝子と22番染色体上のbcr遺伝子が融合して新しい
bcr-ablタンパクが翻訳される。
慢性骨髄性白血病の治療を一変させたグリベック
ASCO 2006
ほかの病気が原因で死亡した患者を除けば、実に95パーセントの人が5年後も
健在。これは急性期への移行がなくなったことを意味する。治療費に関して
は、ひと月25万~28万円ほどで、患者はそのうちの3割を負担するから、個人
負担はひと月7万~8万数千円である。
癌サポート情報センター(http://www.gsic.jp/index.html)
グリベック耐性の機序
1.BCR-ABL依存的機序
2.BCR-ABL非依存的機序
1)BCR-ABLの下流で働くSrc family蛋白
の恒常的活性化
2)Lyn kinaseやHck kinase の過剰発現
アポトーシスの抑制
BCR-ABL遺伝子に一塩基変異
BCR-ABL遺伝子の増幅
Ablが赤にbcrが青に可視化されてい
るが、グリベックによって治療後、
黄色に染まるbcr-abl融合遺伝子が
増加している。(FISH法を用いて)
(ME Gorre et al., Science, 2001)
In silicoシュミレーションによる耐性克服剤の探索
Bcr−ablの3次元構造を示し
ているが、グリベック耐性
を示すCMLの一塩基変異が
球で示されている。これら
の球がポケットの形を変え
てしまうために、グリベッ
クがポケットに入らなくな
る。
このコンピューターシュミ
レーションを用いてM351T
変異になってもポケットに
入りうる、AMN107が作ら
れた。
Imatinib(グリベック)、Dasatinib(スプリセル)、Nilotinib(タシグナ)
The Oncologist 2008:13:424
PH1陽性急性リンパ性白血病に対するグリベックの効果
フィラデルフィア染色体が陽性のALLでは、多剤併用療法でもほとんど治癒は見込めな
かった。しかし、グリベックの登場によってPh1+ALLの予後は劇的に変わった。
癌サポート情報センター(http://www.gsic.jp/index.html)
Gastrointestinal Stromal Tumor (GIST)とc-KIT
GISTでは90%近くが活性化KITを発現しており、約5−10%が変異PDGFRを発現している。
GISTに対する効果
FDG-PETで調べたGISTの腫瘍を示す。治療前に骨盤内に腫瘍塊
が認められるが、治療後には膀胱にのみ標識が認められ、腫瘍が
消失していることがわかる。
蛋白の分解によるシグナル伝達機構
ユビキチンは76アミノ酸からなり、酵母からヒトにいたるまで真核細胞に
普遍的に存在する小さなタンパク質。ユビキチンは標的タンパク質(合成
ミスを起こしたり、寿命を迎えたタンパク質など)に複数個付加することに
より「このタンパク質を壊してくれ!!」という分解シグナルとして働く。
ユビキチンの付加システム
プロテアソームによる分解
ユビキチンシステムは細胞の生存にとって必須のため分子標的には
ならないと予想されていた
NF-kBの活性化とユビキチンシステム
IkB
p50
不活化NF-kB
RelA
増殖シグナル
Ub
Ub
Ub
IkB
p50
RelA
NF-kB
I-kBのユビキチン化
p50
RelA
p50
RelA
NF-kBの活性化
核移行
遺伝子転写
抑制蛋白であるI-kBのユビキチン化・プロテアソームによる分解を介
してNF-kBが活性化され、結果として増殖が誘導される。
ボルテゾミブ(ベルケード)の作用機序
正常状態では、増殖シグナルが入ると
I-kBが分解されて、NF-kBが活性化す
る。その結果細胞増殖が誘導される。
ベルケードはプロテアソーム阻害剤で、
NF-kBの活性化が阻害されるために、増殖
できない。
最近の結果では、不要な蛋白質の蓄積のた
めに細胞死をもたらすと考えられている。
ボルテゾミブの効果
左上の図:ベルケイドを8回投与された患者の血清中のM蛋白の減少を示す。
右上の図:メルファラン単独及びメルファラン+ベルケイドで試験管内でMM細胞
を処理すると、明らかに併用群でアポトーシスする細胞が増加した。
ベルケイドの効果
既に数種類の抗がん剤が使われ、効果のなかった人たち(再発・難治性多発性骨髄
腫)に対して、ベルケードのみを投与する単独療法が検討された。結果として、投与
を受けた約1割の人にがん細胞の消失(完全寛解)、ないしはそれに近い状態が得ら
れた(完全+部分寛解率10パーセント)。また、何かしらの効果があった3割以上の
人では、生存期間が長くなった。
小括その5
1.慢性骨髄性白血病(CML)に特異的なbcr-ablチロシンキナーゼ活
性を阻害するイマニチブ(グリベック)によって、CMLの予後が劇的
に改善された。
2.分子標的としては適当ではないと考えられてきたプロテアソーム
の阻害剤が予想に反して骨髄腫に対して効果的であった。
3.イレッサ投与後の間質性肺炎による多数の死亡例という苦い経
験があるにしても、分子標的治療薬によって新しい治療法の開発
が可能となっている。
癌の分子生物学
-Bench to Bedside-
1.新しい概念
癌幹細胞
癌組織微小環境の意義
2.新しい治療
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
再生医療を取り込んだがん治療
-iPS細胞の利用iPS細胞(Induced pluripotent
stem cells)は、体細胞(主に線
維芽細胞)へ数種類の遺伝子
(転写因子)を導入することによ
り、ES細胞(胚性幹細胞)に似た
分化万能性(pluripotency)を持
たせた細胞のことを指す.
本人の多能性幹細胞を利用でき
る事から、移植に伴う免疫排除
などの問題を考慮する必要がな
く、再生医療の実現化が期待さ
れている.
iPS細胞を用いた疾患原因・治療法の探索
特殊な疾患患者からiPS細胞を樹立し、正常細胞との違いを分子生
物学的に探索し、新しい治療法の開発に結びつける事を狙っている.
iPS細胞を用いた再生医療の実際
iPS細胞を臓器に移植して分化再生
を期待する細胞療法.
iPS細胞を試験管内で培養して臓器
を再形成させて移植する移植療法.
体細胞に遺伝子を導入してiPS細胞が樹立される可能性は0.1%以下であり、この段階で
不死化した細胞を選択している可能性がある.
そして不死化した細胞は、癌化の第一ステップを進んでしまったとも考えられる.
iPS細胞そのものが、不死化した細胞であり、正常の幹細胞は決し
て分化させずに培養する事は不可能とされている.
癌の分子生物学
-Bench to Bedside-
1.新しい概念
癌幹細胞
癌組織微小環境の意義
2.新しい治療
分子標的治療薬の開発
再生医療と癌治療(iPS細胞の可能性)
発癌予防
HP除菌療法の胃癌予防効果
544名の早期胃癌患者(新規お
よび内視鏡治療例)
272名の早期胃癌患者
(除菌療法)
272名の早期胃癌患者
(経過観察)
255名の早期胃癌患者
(除菌療法)
250名の早期胃癌患者
(経過観察)
観察期間:Med 1076 days(34-1277)
観察期間:Med 1041 days(48-1270)
The Japan Gast Study Group
HP除菌の胃癌予防効果
除菌群では9例が2次癌を発症し、コントロール群では24例が
2次癌を発症した。
子宮頸癌とパピローマウイルス
研究デザイン:組織学的に確認された子宮頸部扁平上皮癌の女性 1,918 例と対照女性
1,928 例を対象に子宮頸部細胞を採取し,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づいたアッ
セイ(MY09/MY11 および GP5+/6+プライマーを使用)により,HPV DNA の検出および
型分類を行った.
結果:
1.HPV DNA は子宮頸癌患者 1,918 例中 1,739 例(90.7%),および対照女性 1,928 例
中 259 例(13.4%)に検出された.GP5+/6+プライマーを使用した場合,HPV DNA は患
者の 96.6%および対照者の 15.6%に検出された
2.HPV 型 16 および 18 に加えて,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,73,82
型を発癌型すなわち高リスク型と考えるべきであり,26,53,66 型は発癌性の可能
性が高い型
(N Engl J Med 2003; 348 : 518 - 27 : Original Article.)
パピローマウイルスワクチンの効果
Vaccine (n=276)
Placebo (n=275)
n
Events Incidence per
n
Events Incidence per
100 women-year
100 women-year
Infection with
HPV6
HPV11
HPV16
HPV18
External
Genital legion
CIN
214
214
199
224
0
0
3
1
0
0
0.6
0.2
209
209
198
224
13
3
21
9
2.6
0.6
4.5
1.7
235
235
0
0
0
0
233
233
3
3
0.5
0.5
.16-23 歳の女性にワクチン抗原をアジュバントと共に筋肉に3 回(0,2,6 ヶ月)注射し,被験者の
血中抗HPVL1 抗体の消長,子宮頸部擦過細胞の異常とHPVDNA の有無,子宮頸部異形成
(CIN2/3)の有無を調べた。結果は、ワクチン接種群ではHPVDNA陽性者の数が4名程度であり、
子宮頸部異形成も認められなかった。一方プラセボ群では、HPVDNA陽性者の数が46名、子宮頸
部異形成も3名に認められた。
(Villa et al., Lancet Oncol., 2005)
小括その6
1.HP除菌によって、HP陽性の早期胃癌患者の2次癌発癌の予防が可
能であることが示された。
2.上記の結果は、HP感染の後期の段階でも除菌によって胃癌の発症
を予防できることを意味しており、HP感染の胃癌発症への関与が従
来のIn vitro研究では説明できないことを示唆している。
3.子宮頸癌の発症をHPVワクチンによって根絶できる可能性がある。
米メルク社(萬有製薬)のGARDASILと英GlaxoSmithKline(GSK)社のCERVARIX
が治験中。
中学生への接種が勧められることになるだろうが、1人あたり4万円ほどの経費
が問題になるかも知れない。
今後の課題
1.癌幹細胞の性格・特徴の解明
2.癌微小環境の特徴を標的とした薬剤の開発
3.分子標的薬の持つ限界を克服した新しい薬剤の開発
4.iPS細胞の限界の克服
5.がん予防によって若年性のがん発症は抑えられるだろう
が、高齢化に伴うがん発症まで抑制されるのだろうか?