生命工学・生命倫理と法政策 - UTokyo OpenCourseWare

医事法2009
 東京大学法学部 21番教室
[email protected] 樋口範雄・児玉安司
第12回2009年7月8日(水)16:50ー18:30
臓器移植と脳死―とりわけ子どもの臓器移植について
1 臓器移植法の経緯と現状を知る
2 イギリスでは? アメリカでは?
3 わが国での議論をいかに分析するか
参照→http://ocw.u-tokyo.ac.jp/
1
医療と法への視点
医療の問題
Access
Quality
Cost
2
死に瀕している人から見て
 Access
まだ死亡していないのに「治療」を打ち切られ
る恐れ
 Quality

同様に、最善の措置が得られない恐れ
 Cost

コストも、保険制度外とされて、個人負担とな
る恐れ

3
臓器提供を待つ人(死に瀕して
いる人)から見て
 Access
小児については、現行法はアクセスを拒否

海外へ しかしそれも困難に
 Quality

小児については、質以前の問題

移植医療では、日本は一定の水準あり
 Cost

アクセスさえあれば一定の治療は保険で

社会的負担は?→移植医療推進の意義

4
臓器移植法
 議員立法として提出され、1997年4月24日に衆議院で可
決。参議院では、1997年6月17日に一部修正の上可決さ
され、衆議院に回付。衆議院では、参議院からの修正回
正回付案に同日同意が与えられ、成立。法律の施行日
日は、1997年10月16日。
 付則第二条 この法律による臓器の移植については、こ
、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行
施行の状況を勘案し、その全般について検討が加えられ
られ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるべき
べきものとする。
 脳死臓器移植件数 提供81例(平成21年2月9日更新)
5
)
現行法
第2条 死亡した者が生存中に有していた自己の臓器
の移植術に使用されるための提供に関する意思は、
尊重されなければならない。
第5条 この法律において「臓器」とは、人の心臓、
肺、肝臓、腎臓その他厚生労働省令で定める内臓及
び眼球をいう。
第6条 医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術
に使用されるために提供する意思を書面により表示
している場合であって、その旨の告知を受けた遺族
が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないと
きは、この法律に基づき、移植術に使用されるため
の臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同
じ。)から摘出することができる。
6
現行法
6条2項 前項に規定する「脳死した者の身体」とは
、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘
出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機
能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたもの
の身体をいう。
 3 臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一
項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に
従う意思を書面により表示している場合であって、
その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒
まないとき又は家族がないときに限り、行うことが
できる。
 4 臓器の摘出に係る第二項の判定は、これを的確
に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上
7
現行法
第11条 何人も、移植術に使用されるための臓器を
提供すること若しくは提供したことの対価として財
産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約
束をしてはならない。
第20条 第11条第1項から第5項までの規定に違
反した者は、5年以下の懲役若しくは500円以下
の罰金に処し、又はこれを併科する。
(経過措置)第4条 医師は、当分の間、第6条第1項に規定す
る場合のほか、死亡した者が生存中に眼球又は腎臓を移植術に使用
されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該
意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺族が当
該眼球又は腎臓の摘出について書面により承諾しているときにおい
ても、移植術に使用されるための眼球又は腎臓を、同条第2項の脳
死した者の身体以外の死体から摘出することができる。
8
http://www.jaam.jp/html/report/report-zoki990517.htm
臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドラ
イン)平成9年10月厚生省保健医療局(平成10年6月一部
改正)
第1書面による意思表示ができる年齢等に関する事項
第2遺族及び家族の範囲に関する事項
第6角膜及び腎臓の移植の取扱いに関する事項
第7臓器摘出に係る脳死判定に関する事項
第11その他の事項 1 公平・公正な臓器移植の実施
2 法令に規定されていない臓器の取扱い
3 個人情報の保護
4 摘出記録の保存
5 検視等
9
6 組織移植の取扱い
第1書面による意思表示ができる年齢等に関する事項
臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。
以下「法」という。)における 臓器提供に係る意
思表示の有効性について、年齢等により画一的に判
断することは難しいと考えるが、民法上の遺言可能
年齢等を参考として、法の運用に当たっては、15
歳以上の者の意思表示を有効なものとして取り扱う
こと。
知的障害者等の意思表示については、一律にその意思
表示を有効と取り扱わない運用は適当ではないが、
これらの者の意思表示の取扱いについては、今後さ
らに検討すべきものであることから、主治医等が家
族等に対して病状や治療方針の説明を行う中で、患
者が知的障害者等であることが判明した場合におい
ては、当面、法に基づく脳死判定は見合わせること 10
第2 遺族及び家族の範囲に関する事項
1 臓器の摘出の承諾に関して法に規定する「遺族」
の範囲については、一般的、類型的に決まるもので
はなく、死亡した者の近親者の中から、個々の事案
に即し、慣習や家族構成等に応じて判断すべきもの
であるが、原則として、配偶者、子、父母、孫、祖
父母及び同居の親族の承諾を得るものとし、喪主又
は祭祀主宰者となるべき者において、前記の「遺族
」の総意を取りまとめるものとすることが適当であ
ること。ただし、前記の範囲以外の親族から臓器提
供に対する異論が出された場合には、その状況等を
把握し、慎重に判断すること。
2 脳死の判定を行うことの承諾に関して法に規定す
る「家族」の範囲についても、上記「遺族」につい 11
第6 角膜及び腎臓の移植の取扱いに関する事項

角膜及び腎臓の移植に関する法律(昭和54年法律第63号)は、法
の施行に伴い廃止されるが、いわゆる心停止後に行われる角膜及び
腎臓の移植については、法附則第4条により、本人が生存中に眼球又
は腎臓を移植のために提供する意思を書面により表示していない場
合(本人が眼球又は腎臓を提供する意思がないことを表示している
場合を除く。)においても、従来どおり、当該眼球又は腎臓の摘出
について、遺族から書面により承諾を得た上で、摘出することがで
きること。

また、いわゆる心停止後に行われる腎臓摘出の場合においても、
通例、心停止前に脳死判定が行われているが、この場合の脳死判定
は治療方針の決定等のために行われる5の一般の脳死判定に該当する
ものであり、法第6条第2項に定められた脳死判定には該当しないも
のであること。したがって、この場合においては、従来どおりの取
扱いで差し支えなく、法に規定する脳死判定を行うに先だって求め
られる本人の脳死判定に従う等の意思表示及びそれを家族が拒まな
い等の条件は必要でないこと。
12
2009年衆議院で
A案提案者は、中山太郎、河野太郎ほか
 年齢を問わず、脳死を一律に人の死とし、本人の書面
による意思表示の義務づけをやめて家族の同意で提供
できるようにする。
臓器移植の場合のみ脳死を人の死とすることは
維持し、年齢を現在の15歳以上から12歳以上に引き
下げる
B案
C案
提案者は、阿部知子ほか
 脳死判定基準を明確化(厳格化)、検証機関を設置す
る。]
D案
15歳未満の臓器提供についてだけ、家族の代諾
と第三者の確認により可能とする。他は変更しない
。
13
2009年参議院で
A案 衆議院を通過した案
E案(子どもの脳死臨調設置法案)
提案者は、千葉景子、川田龍平ほか
 内閣府に臨時調査会を設置し、子供の脳死判定基準など
について、1年かけて検討する。
A‘案
 A案の内容のうち、脳死を一律に人の死とする点を、現行
現行法と同じ、臓器移植の場合に限って脳死を人の死と
とする内容に修正する。
14
現状の分析
①1997年以来10年以上で80例程度
 脳死移植は明らかに進んでいない その評価?
 さらに子どもの臓器移植は放置
その評価?
②現行法の矛盾
2×2の積極的意思表示システム
脳死判断と移植提供判断の両方
本人と家族の両方
●腎臓と角膜について心臓死後の提供は家族のみ可
能
●自己決定権といいながら家族の関与が大きい
15
現状の分析
A 現状の2×2システムは、脳死移植に対する抵抗

①早まった脳死判定あるいは誤った脳死判定が行
われることを防止

②残された家族が脳死状態の死を死として受け入
れることの確保

自己決定権はこれらのプロセスが適正に行われる
ことを保障するための手段→15歳での線引きに論
理的破綻
B そもそも脳死を否定する人たち、移植医療自体を
否定する人たち
→ 現行法自体が誤り
●ただし、そのような人には、opt out は認められてい
る。
しかし、このような人は、反対者にopt outを認め16
イギリスでは
Human Tissue Act 2006
 参考:樋口範雄「続・医療と法を考える」130頁
以下
A 死体からの臓器移植に関する需要と供給のギャッ
プ
2005年時点で、臓器移植数は前年と比べて5%減
少し、移植を待つ患者の数は6%増えた。
①世論調査では90%もの高率で臓器移植を支持。
②ところが実際にドナー登録をするのは23%に過ぎ
ない。
③しかも40%のドナー側親族がいざとなると移植に
反対。
④その結果、毎年移植を待つ患者のうち400人以上17
イギリスの2006年法
臓器移植に関する変更
①ドナー登録に掲載されていれば臓器移植に対する同
意として十分だと明記。イギリスでは現在、ほぼ1
450万人がドナー登録しており、それは人口の2
3%にあたる。登録のない人については、定められ
た同意権者が同意。
②法律上は遺族に拒否権がないと明記。
③心臓死移植の場合、移植の同意を得る手続をとって
いる間、臓器保存のための処置を行うことを適法と
明記
④生体間臓器移植については、血族間の移植と非血族
者間の移植の場合の手続が一本化された。独立評価
18
員(independent assessor)が面接調査。
アメリカでは
Uniform Anatomical Gift Act (UAGA) 2006
①UAGA 1968, shortly after Dr. Christian Barnard’s
successful transplant of a heart in November, 1967.
Promptly and uniformly enacted in every jurisdiction.
②Only 26 states enacted the 1987 UAGA, resulting in
non-uniformity. Subsequent changes in each state over
the years have resulted in even less uniformity.
③ The 2006 UAGA is an effort to resolve any perceived
inconsistencies thereby adding to the efficiency of the
current system.
19
★Summary of Changes in the New Act: This revision:
 1. Honors the choice of an individual to be or not to be
a donor and strengthens the language barring others
from overriding a donor’s decision to make an
anatomical gift (Section 8);
 2. Facilitates donations by expanding the list of those
who may make an anatomical gift for another
individual during that individual’s lifetime to include
health-care agents and, under certain circumstances,
parents or guardians (Section 4);
 3. Empowers a minor eligible under other law to apply
for a driver’s license to be a donor (Section 4);
20
4. Facilitates donations from a deceased individual who made
no lifetime choice by adding to the list of persons who can
make a gift of the deceased individual’s body or parts the
following persons: the person who was acting as the
decedent’s agent under a power of attorney for health care
at the time of the decedent’s death, the decedent’s adult
grandchildren, and an adult who exhibited special care and
concern for the decedent (Section 9)...;
5. Permits an anatomical gift by any member of a class where
there is more than one person in the class so long as no
objections by other class members are known and, if an
objection is known, permits a majority of the members of
the class who are reasonably available to make the gift
without having to take account of a known objection by
any class member who is not reasonably available (Sec. 9);
21
6. Creates numerous default rules for the interpretation of a
document of gift that lacks specificity regarding either the
persons to receive the gift or the purposes of the gift or
both (Section 11);
7. Encourages and establishes standards for donor registries
(Section 20);
8. Enables procurement organizations to gain access to
documents of gifts in donor registries, medical records,
and the records of a state motor vehicle department
(Sections 14 and 20);
9. Resolves the tension between a health-care directive
requesting the withholding or withdrawal of life support
systems and anatomical gifts by permitting measures
necessary to ensure the medical suitability of organs for
intended transplantation or therapy to be administered
(Sections 14 and 21);
22
 10. Clarifies and expands the rules relating to
cooperation and coordination between procurement
organizations and coroners or medical examiners
(Sections 22 and 23);
 11. Recognizes anatomical gifts made under the laws of
other jurisdictions (Section 19); and
 12. Updates the [act] to allow for electronic records and
signatures (Section 25).

23
§4. WHO MAY MAKE ANATOMICAL GIFT BEFORE DONOR’S DEATH.
 Subject to Section 8, an anatomical gift of a donor’s body or
part may be made during the life of the donor for the
purpose of transplantation, therapy, research, or education
in the manner provided in Section 5 by:
 (1) the donor, if the donor is an adult or if the donor is a
minor and is: (A) emancipated; or (B) authorized under state
law to apply for a driver’s license because the donor is at least [insert
the youngest age at which an individual may apply for any type of
driver’s license] years of age;
 (2) an agent of the donor, unless the power of attorney for
health care or other record prohibits the agent from
making an anatomical gift;
 (3) a parent of the donor, if the donor is an unemancipated
minor; or (4) the donor’s guardian.
24
 DONOR CARD
 I wish to donate my organs, eyes, and tissue. I give:
 Any needed organs, eyes, and tissue ONLY the
following organs, eyes, and tissue:
 _______________________________________________
_______________________
 Date: ______________________ Donor’s Signature
_________________
25
 DONOR CARD
 I wish to donate my organs, eyes, and tissue. I wish to give (complete










either Section A, B, or C):
Purpose of Gift:
Transplantation or therapy
Research or Education
Both
Subject of Gift:
ALL of my organs, eyes, and tissue
My Organs My Eyes My Tissue
Special Instructions (If none of the above apply), I wish to give ONLY:
_____________________________________________________________
___________
Date: __________________ Donor’s Signature: _________________


26
 DONOR CARD
 I give, upon my death, the following gifts for the purpose







of (choose whichever applies): [ ] only transplantation and
therapy, [ ] only research and education, [ ]
transplantation, therapy, research, or education
For the purposes specified above, I give:
[ ] ALL needed organs, tissues, and eyes; or
(If you checked the box immediately above, you should not
check specific boxes below).
[ ] Organs [ ] Tissues [ ] Eyes
If none of the above applies, I wish to give ONLY:
The following organs and
tissues:_____________________________________
Date: ____________________ Donor’s Signature:
______________________
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 SECTION 8. PRECLUSIVE EFFECT OF ANATOMICAL
GIFT, AMENDMENT, OR REVOCATION.
 (a) Except as otherwise provided in subsection (g) and
subject to subsection (f), in the absence of an express,
contrary indication by the donor, a person other than
the donor is barred from making, amending, or
revoking an anatomical gift of a donor’s body or part if
the donor made an anatomical gift of the donor’s body
or part under Section 5 or an amendment to an
anatomical gift of the donor’s body or part under
Section 6.
 ........
28
§ 9. WHO MAY MAKE ANATOMICAL GIFT OF DECEDENT’S BODY OR PART.

(a) Subject to subsections (b) and (c) and unless barred by Section 7 or 8, an anatomical gift of a
decedent’s body or part for purpose of transplantation, therapy, research, or education may be made
by any member of the following classes of persons who is reasonably available, in the order of priority
listed:
 (1) an agent of the decedent at the time of death who could have made







an anatomical gift under Section 4(2) immediately before the
decedent’s death;
(2) the spouse of the decedent; (3) adult children of the decedent;
(4) parents of the decedent; (5) adult siblings of the decedent;
(6) adult grandchildren of the decedent;
(7) grandparents of the decedent;
(8) an adult who exhibited special care and concern for the decedent;
(9) the persons who were acting as the [guardians] of the person of the
decedent at the time of death; and
(10) any other person having the authority to dispose of the decedent’s
body.
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 (b) If there is more than one member of a class listed
in subsection (a)(1), (3), (4), (5), (6), (7), or (9) entitled
to make an anatomical gift, an anatomical gift may be
made by a member of the class unless that member or
a person to which the gift may pass under Section 11
knows of an objection by another member of the class.
If an objection is known, the gift may be made only by
a majority of the members of the class who are
reasonably available.
 (c) A person may not make an anatomical gift if, at the
time of the decedent’s death, a person in a prior class
under subsection (a) is reasonably available to make or
to object to the making of an anatomical gift.
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