2008年3月 八戸工業高等専門学校 放射線挙動シミュレーション 高エネルギー加速研究機構 放射線科学センター 波戸芳仁 例1 ベータ線を物質に打ち込む ベータ線 • ベータ線は物質で止まってしまうか?通り抜 けるか? • 物質の内部でどのような反応が起こるか? 条件設定 1.5 eV *電子ボルト: 放射線源 90Sr-90Y ベータ線 最大エネルギー エネルギーの単位 電位差1 Vで加速され た電子のエネルギー MeV = 106 eV 2.3 MeV* 物質 アルミニウム • ベータ線は物質で止まってしまうか?通り抜けるか? • 物質の内部でどのような反応が起こるか? → 放射線挙動の計算機シミュレーション 2.3 MeV ベータ線→Al 1cm 空気 Al 空気 ベ ー タ 線 源 • 50本入射→透過せず • 3本反射 • X線8本発生(黄色) 2.3 MeV ベータ線→Al 0.25cm 空気 Al 空気 ベ ー タ 線 源 • 50本入射→27本透過 アルミ板厚さによる透過ベータ線本数 の変化 60 透過ベータ線本数 50 40 30 20 最大飛程 10 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 アルミ板厚さ (cm) 0.5 0.6 シミュレーションコード:EGS • 103eVから1012eVの電子(ベータ線)、光子(ガン マ線、エックス線)と物質との相互作用の計算 • EGS5: 2006年公開、著者:平山、波戸、 Bielajew, Wilderman, Nelson • 対話型実行プログラム+飛跡表示プログラム – EGSを利用 – http://rcwww.kek.jp/research/shield/education.html からダウンロード可能 ベータ線と物質との相互作用 ベータ線にとって、物質はどのように見えるか? →ベータ線にとっては、物質は原子核と電子。 →原子、原子核、放射性物質とは? 私たちの体をふくめ、自然界のすべてのものが原子からできて います。 例えばこの花をかたち作っている主要な元素として炭素があります。 陽子 中性子 電子 炭素原子 原子番号 = 陽子の数 質量数 = 陽子の数 + 中性子の数 陽子 中性子 電子 炭素原子 原子番号 = 陽子の数 質量数 = 陽子の数 + 中性子の数 40K (カリウム ― 40) 陽子 中性子 不安定な原子核 40Ar (アルゴン ― 40) β-線 (高速の電子) 安定な原子核 放射性同位元素 (ラジオアイソトープ:RI) 同位元素 (アイソトープ) 安定同位元素 (ステーブルアイソトープ) ラジウム ラドン ポロニウム 鉛 ラジウム このように、不安定な原子核が放射線を出していくことを 「崩壊」あるいは ラドン 「壊変」といい、カリウム40やラジウム226の ような物質は放射線を出す能力を持っているという意味で、 ポロニウム 「放射能をもつ物質」、「放射性物質」と呼ばれています。 鉛 ベータ線と物質の相互作用 拡大 5mm ベータ線と原子核、電子との相互作用 電子 電子 電子 e e e 核 e 電子 2.電子と電子の非弾性散乱 エネルギーを失う。 1.原子核による電子の散乱 (ラザフォード散乱):方向を大きく変える。 電子 電子 e 制動X線 e 核 e 制動X線 3.制動X線の発生 例2 ガンマ線を物質に打ち込む ガンマ線 • ガンマ線は物質で止まってしまうか?通り抜 けるか? • 物質の内部でどのような反応が起こるか? 条件設定 1.5 eV *電子ボルト: 放射線源 60Co ガンマ線 平均エネルギー エネルギーの単位 電位差1 Vで加速され た電子のエネルギー MeV = 106 eV 1.25 MeV* 物質 アルミニウム • ガンマ線は物質で止まってしまうか?通り抜けるか? • 物質の内部でどのような反応が起こるか? → 放射線挙動の計算機シミュレーション 1.25 MeV ガンマ線→Al 5cm 空気 ガ ン マ 線 源 Al 空気 反射→ 直接線 ←散乱線 • 50本入射 • 透過:直接線24、散乱線13; 反射2 1.25 MeV ガンマ線→Al 10cm 空気 Al ガ ン マ 線 源 透過:直接線11、散乱線8; 反射4 空気 1.25 MeV ガンマ線→Al 20cm 空気 Al ガ ン マ 線 源 透過:直接線4、散乱線3; 反射1 空気 アルミ板厚さによる透過ガンマ線本数 の変化 透過ガンマ線本数 Y(直接線のみ) 100 Y = 38 exp (-0.11 X) 10 1 0 5 10 15 20 25 アルミ板厚さ X (cm) 30 35 40 ガンマ線と物質との相互作用 ガンマ線にとって、物質はどのように見えるか? →最も多いのは、自由電子。 →次に、原子核または原子。 ガンマ線と電子・原子核・原子との反応 散乱光子 θ 光子 e 電子対生成 e 光電子 光子 e 電子 核 電子 コンプトン散乱 光子 散乱光子 e e L殻 e e e K殻 e e e L殻 核 e 核 光電効果 e+ 光子 j 原子 陽電子 e 原子 e e K殻 e e e レイリー散乱 ガンマ線と物質の反応頻度 エックス線 ガンマ線(目安) 103 水 合計 レイリー散乱 光電効果 コンプトン散乱 電子対生成 2 反応頻度 (1/cm) 10 1 10 原子との相互作用 電子との相互作用 原子核との相互作用 100 10-1 -2 10 10-3 10-2 10-1 100 101 光子エネルギー (MeV) 102 例3 ガンマ線を放射線検出器で測定する ガンマ線 • 検出器内部でどのような反応が起こるか? • 検出器からどのような信号が出るか? 条件設定 放射線源 137Cs ガンマ線 エネルギー 662 keV 検出器:沃化ナトリウム 直径 3インチ、厚さ 3インチ 沃化ナトリウム内での相互作用① 空気 沃化ナトリウム 空気 吸収エネルギー:0.232 MeV コンプトン散乱 ガ ン マ 線 源 光子 入射エネルギー: 0.662 MeV 逃げエネルギー:0.430 MeV 電子 沃化ナトリウム内での相互作用② 空気 沃化ナトリウム 空気 コンプトン散乱 光子 ガ ン マ 線 源 光電効果 光子 吸収エネルギー:0.662 MeV(=入射エネルギー) 電子 電子 沃化ナトリウム内での相互作用③ 空気 沃化ナトリウム 入射エネルギー: 0.662 MeV 空気 逃げエネルギー: 0.662 MeV ガ ン マ 線 源 吸収エネルギー:0.0 MeV 沃化ナトリウム検出器の応答関数 =単一エネルギー入力に対する吸収エネルギーの度数分布 1 EGS カウント(/入射光子数) 入射: 662 keV 0.1 全エネルギー吸収ピーク→ 光電効果に対応 吸収エネルギー=0.0 MeV 素通りに対応 コンプトン連続部分 入射エネルギーの一部を吸収 0.01 0.001 0 0.1 0.2 0.3 0.4 吸収エネルギー (MeV) 0.5 0.6 0.7 沃化ナトリウムのCs-137に対する出 Comparison of Photoelectron Spectra 力: 測定とシミュレーションとの比較 6000 3" x3"L NaI(Tl) + 3"PMT Cs-137 662 keV Counts (a.u.) 5000 4000 Exp. FWHM 7.7% Calc. FWHM 7.6% 計算:EGS 3000 計算: EGS 2000 1000 0 0 5000 10000 Photoelectron number 15000 CS-BG-Npevscalc.QPC • 出典 Tawara et al, KEK Proc 2000-20 (2000). 沃化ナトリウム検出器の応答関数② 入射:241Amからの59.5 keVガンマ線 10 カウント(/入射光子数) 10 1 全エネルギー吸収ピーク 光電効果に対応 ↓ 0 K-Xエスケープ ピーク ↓ -1 10 -2 10 コンプトン 連続部分 -3 10 -4 10 -5 10 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 吸収エネルギー (MeV) 0.06 0.07 特性X線の発生とエスケープ 光子① e ② e e L殻 e 核 e K殻 e e e 光子の入射と電離 e e 空 核 L殻 e e K殻 e e e 原子励起状態 (K殻に空孔がある) 特性X線 ④ e 空 e 核 ③ e K殻 e 特性X線の発生 特性X線のエネルギー =K殻束縛エネルギー – L殻束縛エネルギー = 33.2 keV – 4.6 keV = 28.6 keV K-X エスケープピークエネルギー = 59.6 keV – 28.6 keV = 31.0 keV L殻 e e 沃化ナトリウム検出器の応答関数③ 入射:16Nからの6.1 MeVガンマ線 0.1 0.08 全エネルギー吸収ピーク↑ カウント(/入射光子数) シングルエスケープピーク → 0.06 ダブルエスケープピーク↓ 0.04 コンプトン 連続部分 0.02 0 0 1 2 3 4 吸収エネルギー (MeV) 5 6 7 消滅ガンマ線の発生とエスケープ 消滅γ線 陽電子 光子 e+ 核 e 電子 電子対生成での 陽電子の発生 e+ 陽電子 e 電子 消滅γ線 陽電子の消滅と 消滅ガンマ線の発生 消滅ガンマ線のエネルギー = 0.511 MeV シングルエスケープピークエネルギー = 6.1 MeV – 0.511 keV = 5.6 MeV ダブルエスケープピークエネルギー = 6.1 MeV – 0.511 MeV x 2 = 5.1 MeV
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