サブプライム問題と内外の経済・金融動向 2007年12月15日 みずほ総合研究所 経済調査部長 前 中 正 行 Ⅰ.同時好況を謳歌してきた世界経済 Mizuho Research Institute Ltd 1.高成長を持続する世界経済 ⇒ 最近3年間(2004年以降)の世界経済は5%前後の成長テンポを維持、IMFの世界経済見通し(2007年10 月発表)はサブプライム問題の影響を織込んで成長率見通しを下方修正したが、それでも2008年の世界 全体の成長率は4.8%のハイペースを維持 ⇒ ①長期低迷からようやく脱け出した日本、②先進地域3極の中で最も元気のいいユーロ圏、③中国をは じめとするBRICsなど、濃淡はもとより存するが、こうした世界同時好況はまさに三十数年ぶりの出来事 【 図表1:世界のGDPと成長率推移 】 【 図表2:IMFの世界経済見通し(2007年10月) 】 (%) (billions of U S dollar) 60,000 50,000 6% O ther C ountries Japan European U nion U nited S tates W orld( 右目盛) 5% 40,000 4% 30,000 3% 20,000 2% 10,000 1% 0 0% 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 ( 注) 2006年以降は見込み値またはIM F予測値 ( 資料) IM F © 2006年 世界 先進国 米国 EU 日本 NIEs 新興国 アフリカ 中東欧 ロシア 中国 インド ASEAN4 中東 5.4 2.9 2.9 3.2 2.2 5.3 8.1 5.6 6.3 6.7 11.1 9.7 5.4 5.6 2007年 5.2 2.5 1.9 3.0 2.0 4.9 8.1 5.7 5.8 7.0 11.5 8.9 5.6 5.9 2008年 4.8 2.2 1.9 2.5 1.7 4.4 7.4 6.5 5.2 6.5 10.0 8.4 5.6 5.9 改定幅 ▲ 0.4 ▲ 0.6 ▲ 0.9 ▲ 0.3 ▲ 0.3 ▲ 0.4 ▲ 0.2 0.3 ▲ 0.2 ▲ 0.3 ▲ 0.5 ▲ 0.1 0.4 (注)07、08年はIMF予測。改定幅は07年7月予測からの改定幅。 (資料)World Economic Outlook 1 Mizuho Research Institute Ltd 2.供給と需要の両面で世界経済の枠組は変貌した ⇒ 90年代以降のグローバリゼーション(国際的な市場統合)の進展の中、①供給能力の飛躍的な増大、② 成長エンジンによる巨大な需要が具現されたことによって、世界経済の枠組は大きく変貌 ⇒ 最近の日本経済の回復も、(企業セクターと金融セクターの自助努力、及び小泉改革もさることながら) 主たる原因は世界経済の拡大に支えられた外需の牽引と円安傾向によるものとの認識が適切 【 図表3:世界経済のパラダイムシフトと日本経済への影響 】 日本経済の復活 世界経済の枠組の変化 <供給サイド> <需要サイド> ・90年代以降のグローバリゼーションの流れ ⇒ グローバルマーケットの統合とボーダーレス化 ⇒ 安価な労働力が大量流入、生産能力が急増 ・情報ネットワークの構築による技術革新 ⇒ I T革命による生産性の向上 ・「新しい成長の軸」としてのB RIC s ⇒ B R IC sによる需要拡大、世界成長の牽引 ⇒ 貿易及び直接投資を通じて、経済成長の メリットが世界中に拡大・波及 ①企業セクターの自助努力による「三つの 過剰」の克服・解消 ②金融セクターの再生を通じたシステミック リスクの除去と健全化 ③日銀による記録的な低金利の長期継続 (いわゆるゼロ金利政策) ①インフレ期待の低下による世界的低金利傾向 ②世界的な人件費低下圧力(=労働分配率の低下) 世界中の企業部門にとって 望ましい環境が顕現 ①企業セクター及び金融セクターのバランス シート調整の完了 ②内外金利差に支えられた構造的な円安 ③世界的な「パイの拡大傾向」の持続 好影響 ①約30年ぶりの「世界同時好況(G lobal G row th)」の実現 ②「低金利」と「株高」の両立 ③グローバルマネーフローの拡大(=過剰流動性の発生) ③海外景気の好調(G lobal G row th)による 輸出の堅調(=外需による成長牽引) 回復実感は乏しいが「いざなぎ景気」を 上回る景気回復過程を実現 2 © Ⅱ.サブプライム問題とその衝撃 Mizuho Research Institute Ltd 1.そもそもサブプライム・ローンとは何であるか? ⇒ サブプライムローン(2006年末残高9.6兆ドルの住宅ローンのうち1.3兆ドル)はFICOスコアが低位である 「信用力の低い借り手向け」の住宅ローンであり、 (相当程度は重複すると思われるが)必ずしも「低所 得者向け」に限ったものではない ⇒ 確たる定義はないが、①過去12ヵ月以内に30日以上延滞が2回以上または過去24ヵ月以内に60日延滞 が1回以上あり、②過去24ヵ月以内に抵当権実行や債務免除あり、③FICOスコア660以下等の要件が 一般に挙げられているところ 【 図表4:FICOスコアで考慮される項目 】 【 図表5:FICOスコアの分布状況 】 30% 27% 資金使途 25% 10% 新規与信額 返済実績 10% 20% 18% 35% 15% 15% 取引年数 13% 15% 12% 10% 8% 30% 5% 5% 負債額 2% 0% (資料)myFICO ~499 500~549 550~599 600~649 650~699 700~749 750~799 ( 資料) m y FIC O © 800~ 3 Mizuho Research Institute Ltd 2.住宅価格の上昇中は「問題」は顕在化せずに済んでいた ⇒ 当初金利を抑えたり元本返済を猶予するといった初期返済負担を軽減した商品が主流となったため、返 済能力を軽視した借入が増加、当初の利払いを無事に実行すればFICOスコアが改善するので、信用 力不足に悩む借り手にとっては「信用力を改善できる商品」として認識された面あり ⇒ また、金融機関としても証券化によるオフバランス化が可能なため、結果として貸出審査が甘くなった面 があり、商品特性を充分説明せずに販売した例も多数あった模様 ⇒ 住宅価格が上昇している間は担保余力増加による追加借入も可能であったため、問題は顕在化せず 【 図表6:サブプライム「問題化」の伏線 】 【 図表7:サブプライムローンの普及状況 】 貸し手の事情 借り手の事情 証券化を通じオフバラ化が 可能なので、アセット毀損 リスクを取らずに済む 当初期間の利払いを 実行できればFICO スコアが改善される 信用力の面でハイリスクな 借り手ほど、好んでサブ プライムローンを活用する ようなインセンティヴが働く 制度的背景 インセンティヴ モラル・ハザードの発生 市場の失敗 140 14% 135 12% 130 10% 125 8% 120 6% 貸出姿勢が安易に流れ、 回避すべきリスクも背負い込む インセンティヴが働く 逆選択の発生 住宅取得能力指数 (右目盛) 16% 4% サブプライム比率 (左目盛) 115 110 2% 105 0% 100 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 (注)サブプライム比率はローン件数ベース。住宅取得能力 指数は元利返済負担が収入の25%の場合を100。 同指数が高いほど取得能力が大きい。 (資料)全米不動産協会、全米住宅ローン協会 ローンの質的劣化 4 © Mizuho Research Institute Ltd 3.サブプライムローン延滞率の上昇テンポは昨年後半から加速、「問題」として顕在化 ⇒ 住宅価格の上昇鈍化・下落によって「担保価値上昇→貸出余地増加→借り手のキャッシュイン」というこ れまでのサイクルが停止または逆回転、ローンの質的劣化が急速に進行 ⇒ 住宅価格上昇率が鈍化し始めた2006年半ばから貸出条件見直しによる延滞率は上昇基調、 2007年4~ 6月期の延滞率は14.82%まで上昇 ⇒ サブプライムローン不良債権化は米国自動車産業の低迷とも関係しており、自動車産業への雇用依存 が高い地域ほど、「自動車産業の業況不振→地域の雇用・賃金環境の悪化→返済能力・信用力低下→ 延滞発生」を通じて不良債権化が進みやすかった(本件は地域産業問題としての側面も無視できない) 【 図表8:住宅ローンの延滞率 】 【 図表9:不良債権比率と自動車産業の関係 】 (%) 20 ウィスコンシン 18% サブプライムARM 18 16% アイオワ 14% 16 14 12 10 8 サブプライムFRM 6 プライムARM 4 2 0 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 (資料)全米住宅ローン協会 © オハイオ サウス・カロライナ 不 12% 良 債 10% 権 8% 比 6% 率 4% ミシガン インディアナ ケンタッキー カンザス テネシー アラバマ コネチカット ワシントン R 2 = 0.23 2% 0% 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 非農業部門における輸送機器製造業の雇用シェア (注)雇用シェアは2006年12月。ローンデータは2006年10~12月期。 ハリケーン被害の大きかったミシシッピー及びルイジアナを除く。 また雇用シェアが得られない13州の不良債権率は中央値4.9%、 最大8.8%。不良債権は延滞期間が90日以上及び差し押さえ物件。 (資料)米国労働省、全米住宅ローン協会 5 Mizuho Research Institute Ltd 4.サブプライム問題は、証券化スキームを通じて随所に波及 ⇒ サブプライムローンはその約8割が証券化されていると見られ、2004年以降はノンエージェンシーMBS (発行主体が民間で、Ginnie Mae等の保証がない住宅ローン担保証券)がサブプライムローンの普及と軌 を一にして急増 ⇒ また、2006年から2007年上期にかけては、担保証券を複数束ねて(再)証券化したCDO(債務担保証券) の発行も急速に増加 ⇒ 証券化は本来ならばリスク分散を図れる有効な金融技術であるが、今回の局面においては思わぬ側面 を露呈、金融資本市場に激震が走る結果に 【 図表10:住宅ローン証券化の動向 】 3,000 【 図表11:CDO発行額の推移 】 ($ billions) (10億㌦) 200 ノンエージェンシーM B S エージェンシーM B S 2,500 180 世界全体のCDO発行額 160 うちRMBS関連 140 2,000 120 100 1,500 80 60 1,000 40 20 500 0 05 0 96 97 98 99 00 01 02 03 (注)2007年は1~8月のデータを1.5倍して年率換算したもの (資料)S IFM A 04 05 06 © 07 06 07 ( 注) RMBS関連CDOの 担保資産に は RMBS、 CMBS、 CMOs 、 ABS、 CDOs 、 CDS等を 含む。 ( 資料) SI FMA 6 Mizuho Research Institute Ltd 【 図表12:証券化スキームの概要 】 【 M B S ・A B S 組成 】 Loan トランシェ ウェイト サポート AAA 80% 20% (販売) ⇒ AA 5% 15% ⇒ ⇒ Loan ⇒ Loan ・ ・ ・ ・ ・ Loan ・ ・ ⇒ ・ ・ ・ ・ ・ ⇒ ・ ・ 投資家 サブプライムローン プール A 5% 10% ⇒ BBB+ BBB BBBBB 2% 1% 1% 1% 8% 7% 6% 5% ⇒ Equity 5% 0% 【 C D O 組成 】 他の金融資産 トランシェ AAA AA A BBB ウェイト 80% 10% 3% 2% サポート 20% 10% 7% 5% Equity 5% 0% (販売) ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 投資家 (注)図は説明用に簡略化し適当な数値を置いたものであり、実際の事例を正確に表しているわけではない 7 © Mizuho Research Institute Ltd 5.金融市場では「証券化の負の側面」が顕在化 (1)単なる「住宅ローンの焦付き」から「世界の金融市場を揺るがす危機」へ ⇒ 先に見た通り、サブプライムローンは住宅ローン担保証券や債務担保証券に組替・切分けされて投資家 に保有されているが、①リスク・損失の所在が不明、②担保証券の格付に対する信認の揺らぎ、③フェア バリューが不明といった諸問題が市場を大きく撹乱 ⇒ 「地雷が何処に埋まっているか、踏んでみないと判らない」状態であり、早期のアク抜けは期待できず 【 図表13:サブプライム問題・証券化の負の側面 】 原債権としてのサブプライムローン(1.3兆㌦) 証券化の「負の側面」 約8割が証券化 最終投資家から は 原債権は見えない リス ク・損失の 所在が不明 MBS (住宅ローン担保証券) 格付に応じて切り分け (シニア、メザニン、エクイティ) 再証券化 格付の急低下 格付に対す る 信認の揺ら ぎ 流動性の喪失 CDO (債務担保証券) 格付に応じて切り分け (シニア、メザニン、エクイティ) フ ェ アハ ゙リュー が不明 保 有 保 有 最終投資家 (銀行、証券、投信・年金、ヘッジファンド等) 8 © Mizuho Research Institute Ltd (2)米国のMBSは海外投資家が多くを保有、投資ファンドや欧州投資家の傷み具合が気になるところ ⇒ サブプライムローン関連を含むMBSの国・地域別保有状況をみてみれば、ケイマン諸島やジャージー島 といったタックスへイヴン(ヘッジファンドの保有分とみられる)に加え、欧州諸国が上位に顔を出しており、 複数の欧州金融機関及び傘下のファンドが打撃を被り、ECBも法外と思われる規模の流動性供給に踏 み切ったことから、その実態に対して関心が集中 ⇒ また、ECBとFRBが金融市場に対する強い懸念を表明したことは、当初かえって市場の混乱を加速す る結果に 【 図表14:民間のMBS保有状況 】 80 【 図表15:ECB・FRDによる流動性供給 】 【ECB】 「ECBは、通常の流動性供給を行っているにもかかわらず、 ユーロ短期金融市場に逼迫感があることに注意を払っている。 ECBは、状況を注意深く見守るとともに、ユーロ短期金融 市場の安定を確保するために行動を起こす用意がある。」(8/9) (10億ドル) 70 60 50 40 「本日の流動性供給による微調整的な市場操作は昨日実施した 操作に続くものであり、ユーロ短期金融市場の安定を確保 することを目的としている」(8/10) 30 20 10 その他 スイス バミューダ ジャージー島 ベルギー 日本 ドイツ ルクセンブルグ (資料)米国財務省 オランダ 英国 ケイマン諸島 0 【FRB】 「FRBは金融市場がきちんと機能するよう流動性を供給して いる。FRBは、必要に応じて(中略)準備を供給する。 現在の状況では、預金取扱金融機関は、短期金融市場及び 信用市場における秩序の崩壊によって、異常な資金需要に 直面するかも知れない。通常通り、流動性供給のため連銀 窓口貸出は利用可能である。」(8/10) 9 © Mizuho Research Institute Ltd (3)とりわけ欧州では、疑心暗鬼の中で信用不安が急速に拡大 ⇒ 証券化商品を保有するヴィークル(SIV : Structured Investment Vehicleは投資対象の内容が不詳である ことに加え、以下の如きリスクを内包していることも懸念材料 ⇒ ①高格付け維持のためにmark to market(厳格な時価評価)が求められており、資産価値下落に伴って 損切り圧力が賦課されること、②「短期調達・長期運用」のため、流動性逼迫の際には資産売却を迫られ ること等から、スパイラル的な資産縮小と資産内容悪化が発生 ⇒ ABCP発行残高でみたスポンサー金融機関の上位には欧州勢(特に英・独・蘭)が多数名を連ねており、 ヴィークルの損失を、最終的に金融機関が被るのではないかとの疑念も(これまで見られたLibor上昇の 背景としては、金融機関に対するこうした根強い不安感が挙げられるところ) 【 図表16:ヴィークルの資産圧縮・内容悪化 】 【 図表17:スポンサー別のABCP残高 】 市況悪化の悪循環 証券化商品の 価格下落 信用不安下の 流動性逼迫 資産規模の縮小 証券化商品の売却加速 資産内容の悪化 S I Vの特徴 ①投資対象の内容が不詳 ⇒ 商品特性の複雑さが背景に ②m ar k t o m ar ke t の厳格な運用 ⇒ 資産価格が一定以上減価した場合、 損切りルールが発動される ③短期調達・ 長期運用 ⇒ 「円滑な借換」を前提とした調達構造 ・ 損切りルールの発動 ⇒ 減価した証券化商品は 売却されることに ・ 資金繰の困難に直面 ⇒ 証券化商品を売却して 資金調達が必要 ABN Amro ING Bank HBOS HSBC Lloyds TSB BSN Sachsen Deutsche Citibank Fortis Bank Jpmorgan Chase State Street 残高 比率 7.8% 6.5% 6.0% 6.0% 5.6% 4.7% 4.6% 4.6% 4.5% 4.5% 3.4% 3.1% 100.0% (注)米欧コンデュイット、SIVが発行する世界ABCP残高 2007年4月時点 © (10億ドル) 19.7 16.3 15.0 15.0 14.2 11.9 11.5 11.5 11.3 11.3 8.5 7.9 251.9 (資料)Moody's 10 Mizuho Research Institute Ltd (4)足元で起きているのは「信用収縮の悪循環」 ⇒ ①ヘッジファンドの業績悪化・破綻が発生、②この結果生じた資産の投売りや評価損が金融機関に打撃 を及ぼし、③資金調達の途が閉ざされることでヘッジファンドが更なる苦境に陥るという悪循環が発生 ⇒ 投資家の行動はリスク回避的な方向に大きく傾斜、信用リスクが強く意識される中でクレジット市場が揺 らいでいるのが今回の特徴であり、①インターバンクのリスクプレミアムが残存し、②CP市場もデュレー ション短期化と残高縮小に直面する等、金融市場の安定は未だ前途遼遠 【 図表18:信用収縮の悪循環 】 【 図表19:CP市場の動向 】 (10億ドル) 70 600 (10億ドル) サブプライム ローン問題 ABS/CDOのパフォーマンス悪化 (格下げ、価格の大幅下落) ABCP(1-4days) 新規発行額 (右目盛) 500 目下の焦点としての クレジット市場の混乱 400 ヘッジファンドの実績悪化・破綻 住宅ローンの 全般的悪化 マクロ経済 (家計・企業)の 悪 化 60 CP残高計 50 金融CP新規発行額 (右目盛) 40 300 ヘッジファンドの 資金調達環境 悪 化 30 信用収縮の 悪 循 環 資産の投売り 評価損の発生 ABCP残高 200 20 100 企業の資金調達 困 難 化 金融機関・投資家の 流動性逼迫、 リスク許容度の低下 10 金融CP残高 0 0 06/1 06/7 07/1 07/7 (注)残高は06/1時点(1.7兆ドル)を基準とした変動分。 (資料)FRB 目下の焦点としての 現時点で顕在化は 確認できないが・・・ クレジット市場の混乱 質への逃避 ・国債金利の低下 ・社債スプレッドの上昇 11 © Mizuho Research Institute Ltd 6.米国経済は2008年まで低迷基調を脱し得ず (1)貸出条件見直し(Payment Reset)は今後も持続、実体経済への悪影響は不可避の情勢 ⇒ 貯蓄金融機関監督局(OTS)の議会証言によれば2007年に5,670億ドルのサブプライムローンが条件見直 しを迎え、S&P資料によれば約3,700億ドルが向こう1年間に亘って条件見直しを迎える模様 ⇒ 実体経済への影響(ex 金利負担急増や物件差押による個人消費下押し及びマインドの冷込み)は貸出 条件見直しの都度発生することとなり、短時日での問題解決は困難 ⇒ 政府支援金融機関や民間金融機関による借換促進などペイメント・ショック対策が既に打ち出されている が、ブッシュ政権による新政策(8/31発表)を含め「焼け石に水」の感は否定できず 【 図表20:条件見直しを迎えるサブプライムローン 】 サブプライムローン 新規貸出額 住宅ローンに (10億㌦) 占める比率 2005 4Q 138.9 39% うち 貸出条件 2/1ARM 見直し時期 (10億㌦) 88.5 2007 3Q 2006 1Q 108.0 34% 75.6 2007 4Q 2006 2Q 121.1 28% 84.8 2008 1Q 2006 3Q 98.3 25% 61.1 2008 2Q 2006 4Q 99.0 31% 60.6 2008 3Q 合 計 565.3 * 【 図表21:現状のペイメント・ショック対策 】 1.F a nni e Ma e(連邦住宅抵当公庫)による支援策 3.ブ ッシ ュ 政権による支援策(8/31発表) (1)差し押さえの危機にある借り手向け (1)FHA(連邦住宅局)を通じた支援策 ・貸し手及びサービサーを取り込んだ貸出条件の見直しを実施 ・FHAローン利用時の自己資金額を軽減 (2)ペイメントショックの危機にある借り手向け ・保証対象ローンの上限引上げ ・頭金比率の引下げ、期限前弁済に対するペナルティ徴求の禁止 ・比較的高い信用度を持ちながら条件見直しによって延滞に ・リファイナンスの条件緩和 陥った借り手に対するリファイナンス提供 ・貸出期間の延長(最長30年を40年まで延長) (3)危機を迎える可能性が高い借り手向け ・「主たる住居」向け住宅ローンについて金融機関から債務 ・借り手支援を行っている民間非営利団体への補助金供与 免除を受けた場合、免除相当額を非課税とする(現行は課税 2.Wa s i ng ton Mutua l による支援策 所得扱い) ・30年固定金利ローンへの借換促進(0.5%の金利減免を実施) 370.6 * (2)税制変更 ・上記対策の原資として20億ドルを見込む (3)新たな差押を回避するため民間カウンセリングリファイナンス 組織と協力 12 (資料) Standard & Poor's、 MBA © Mizuho Research Institute Ltd (2)住宅市場の調整は更に長期化の可能性、逆資産効果も大きな懸念材料 ⇒ 厳しい調整が続いている住宅市場について、在庫率が適正水準と目される4.1ヵ月(97年~04年の長期平 均)まで低下する時期をシミュレーションすれば、「2007年内の調整終了」は到底不可能 ⇒ 年内調整終了のためには非現実的な販売急回復もしくは着工大削減が必要となり可能性は僅少、メイン シナリオは「2008年の夏~秋に漸く終了」であるが、サブプライム問題による住宅ローンのタイト化が販売 と着工を同時に下押しすれば、2009年まで長期化する可能性も ⇒ 今起きていることはストック調整であるため利下げ効果も大きくは期待できず、住宅価格下落による逆資 産効果が消費の足を引っ張るリスクにも充分な留意が必要(ex.FRBのワーキングペーパーはホームエク イティローンによるキャッシュインが2006年の消費を1.9%相当押上げたと試算) 【 図表22:住宅在庫率低下のシミュレーション結果 】 (カ月) 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 【 図表23:住宅価格上昇の消費押上げ効果 】 ①年内回復ケース (=着工横這い+販売+64% or販売横這い+着工▲34%) ②販売横這い+着工大幅減(▲20%)ケース ③緩やかな調整ケース(販売+5% +着工▲5%) ④調整長期化ケース(販売・着工ともに▲10%) 97~04平均 4.1カ月 07Q2 Q3 ① Q4 08Q1 ③ ② Q2 ④ Q3 Q4 ( 注) 各ケ ース の 販売・ 着工の 変化率は 前期比年率。 ( 資料) みずほ 総合研究所 © 09Q1 Q2 (2000/1=100) 住宅価格指数 (個人消費比%) 240 3.0 220 (点線は先物) 2.5 200 2.0 180 160 1.5 140 1.0 住宅含み益の現金化による 120 個人消費押し上げ分(右目盛) 0.5 100 80 0.0 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 (注)住宅価格指数は2007年4~6月期まで実績、 同年7~9月期は7月実績を利用。それ以降は 直近日の先物価格。 (資料)S&P、CME、FRB 13 Mizuho Research Institute Ltd (3)深刻な影響は未だ見られないが、不透明感が高まれば企業部門の減速傾向が強まるリスクも ⇒ 足元の状況は、企業会計不信に揺れた2002年~2003年(cf.企業会計不信も格付不信も、金融市場のイ ンフラに対する信認の揺らぎという意味では同一)や、住宅市場の調整が始まった2006年半ばから2007 年前半の時期と類似しており、企業業況・景況感が予想以上に下振れするリスクあり ⇒ ISM指数は製造業、非製造業ともに低下し、設備投資の先行指標である設備投資関連新規受注・ 出荷 動向も既に横這いとなっていることからも、企業マインドの行方は予断を許さず ⇒ また、企業部門全体では手元資金が潤沢だが、CP市場の逼迫に見られる如く、クレジットのタイト化は 楽観できず( 「金融システムへの不安」よりも、「企業金融への不安」の方が目下の大事) 【 図表24:米企業の業況・景況感(ISM指数) 】 70 【 図表25:企業部門のフィナンシャルギャップ 】 5% 企業会計不信・イラク開戦 4% 65 非製造業 3% 2% 60 1% 55 0% 製造業 -1% 50 45 02/6 自動車在庫調整 住宅投資調整 03/6 04/6 05/6 -2% -3% 06/6 07/6 ( 注) 50を 上回れば「 前月比改善」 、 下回れば 「 前月比悪化」 。 ただし 製造業は業況、 非 製造業は景況感。 ( 資料) 米I S M協会 © -4% 55 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 ( 注) [ 設備投資-( 内部留保+在庫評価調整) ] ÷名目GDP。 但し 、 分子は非農業非金融企業 部門、 分母は非金融企業部門。 網掛けは景気後退期。 ( 資料) 米国商務省、 F R B 14 Mizuho Research Institute Ltd (4)欧米金融機関の貸出姿勢も厳格化、ファンドの行動にも圧力が ⇒ FRB7月調査によれば、米銀のモーゲージローンの融資態度はS&L危機がピークを迎えた90年代初頭 に匹敵する水準まで既に厳格化しており、企業向け貸出についても3年半振りに引締めに ⇒ ①これまでの好況によって企業は総じてキャッシュリッチであること、②バランスシートも健全度を高めて いること等からも、マクロ的なクレジットクランチが強く懸念される状況ではないが、投資ファンドがレバレッ ジを低下させる動き(=de-leverage)に出る可能性あり ⇒ ひとたび始まったリスク評価の適正化・厳格化の動きと併せて、これまでのようなグローバルマネーフロー の拡大も次第に変調を示していく可能性あり 【 図表26:米銀の企業向け貸出態度の推移 】 ( %) 70 60 大企業向け 50 中堅企業向け 40 小企業向け 30 引締め 20 10 0 -10 -20 緩和 90/Ⅰ 90/Ⅲ 91/Ⅰ 91/Ⅲ 92/Ⅰ 92/Ⅲ 93/Ⅰ 93/Ⅲ 94/Ⅰ 94/Ⅲ 95/Ⅰ 95/Ⅲ 96/Ⅰ 96/Ⅲ 97/Ⅰ 97/Ⅲ 98/Ⅰ 98/Ⅲ 98/Ⅳ 99/Ⅱ 99/Ⅳ 00/Ⅱ 00/Ⅳ 01/3 01/Ⅲ 02/Ⅰ 02/Ⅲ 03/Ⅰ 03/Ⅲ 04/Ⅰ 04/Ⅲ 05/Ⅰ 05/Ⅲ 06/Ⅰ 06/Ⅲ 07/Ⅰ 07/Ⅲ -30 (注1)貸出態度調査は通常四半期ベースで実施(但し最大年6回) グラフは「前回調査以降、融資基準を厳しくした銀行数から緩くした銀行数を差し引いた 数字が全体に占める比率」 (注2)大規模企業向けと中規模企業向けは、97年第3四半期調査以降大・中規模企業向けとして統合 (資料)米銀の融資担当者に対する融資態度聞取り調査(FRB) © 15 Mizuho Research Institute Ltd (5)米国景気は当面もたつき、潜在成長率を下回る成長テンポで推移 ⇒ 住宅価格下落による資産効果の剥落や建設部門での雇用調整を主因として個人消費の鈍化は必至の 情勢とみられ、これらの問題は相当期間に亘って米国経済に翳を落とす可能性が大 ⇒ 2007年の米国経済の実質成長率は7~9月期の一見堅調な仕上がりによって2%台には乗るが、景気の ボトムとみられる2008年上期には+1.8%まで減速する公算(リセッションとまでは言わないが、本格的回 復はかなり後ずれ) ⇒ 金融政策は当面は引下げモードを継続せざるを得ない状況、金融資本市場の動揺が収まらない中で、 2008年入り以降はインフレの安定もあって利下げが正当化されやすい環境に 【 図表27:米国経済の見通し・総括表 】 GDP 個人消費 住宅投資 設備投資 在庫投資(億ドル) 政府支出 財・サービスの純輸出(億ドル) 財・サービスの輸出 財・サービスの輸入 国内最終需要 コア個人消費支出デフレーター<前年比> 経常収支 (億ドル) <対名目GDP比> 2006年 (実績) 2.9 3.1 ▲4.6 6.6 403 1.8 ▲6,245 8.4 5.9 2.7 2.2 ▲8,115 ▲6.2 2007年 (予測) 2.1 2.9 ▲16.9 4.5 98 2.0 ▲5,643 7.8 2.2 1.8 2.0 ▲7,514 ▲5.4 (注)暦年の値は前年比、半期の値は前期比年率の各伸び率。網掛けは予測。 経常収支は、半期が季節調整値、暦年はその合計。対名目GDP比は年率。 (資料)米国商務省、米国労働省 © 2008年 (予測) 2.4 2.1 ▲15.9 4.4 208 3.0 ▲5,113 7.8 2.8 1.8 1.8 ▲6,575 ▲4.5 2006年 上期 下期 3.3 1.7 3.1 2.9 ▲3.3 ▲17.5 8.5 3.2 449 357 2.2 1.5 ▲6,334 ▲6,156 9.8 7.8 7.6 3.3 3.1 1.5 2.1 2.3 ▲4,062 ▲4,053 ▲6.2 ▲6.1 2007年(予測) 上期 下期 1.8 3.3 3.2 2.2 ▲15.5 ▲19.3 3.4 8.2 30 166 1.6 3.4 ▲5,930 ▲5,356 5.9 11.8 1.6 2.1 1.9 2.0 2.2 1.9 ▲3,879 ▲3,635 ▲5.7 ▲5.2 (単位:%) 2008年(予測) 上期 下期 1.8 2.4 2.1 1.9 ▲18.7 ▲5.9 3.0 3.7 110 305 2.7 3.0 ▲5,113 ▲5,113 6.9 5.7 2.5 4.2 1.5 2.0 1.8 1.8 ▲3,375 ▲3,200 ▲4.7 ▲4.3 16 <補論> デカップリング論の妥当性を考える Mizuho Research Institute Ltd 1.途上国の景気の自立性は相応の水準に達している ⇒ 世界経済連関表を作成し、各国・地域の最終需要1単位の増加が自国・地域の域内及び域外にどの程 度波及するかを求めれば、発展途上地域の生産誘発効果は域内・域外ともに高いことが判明 ⇒ 米国経済減速のインパクトは他地域の高成長で一定程度は打ち返せるだろうが、米国からの影響波及 が「遮断」されている訳ではない(基本的にはデカップリング論は妥当性を有するが、世界経済が米国経 済失速の影響から無縁であるといった理解は誤り) ⇒ 米国経済の減速によって世界経済には相応のインパクトが伝わるであろうが、世界経済全体が失速する ような事態にまでは至らないのではないか 【 図表28:レオンチェフ逆行列による生産誘発効果(2006年) 】 From 米国 米国を除く 先進国 発展途上国 アジア 欧州 中東 その他 米国 1.59 0.04 0.08 0.02 0.05 0.06 米国を除く 先進国 0.10 1.65 0.27 0.24 0.19 0.07 アジア 0.14 0.14 3.54 0.13 0.24 0.10 欧州 0.02 0.09 0.06 4.07 0.10 0.02 中東 0.03 0.05 0.18 0.03 3.89 0.02 その他 0.14 0.08 0.25 0.06 0.10 4.51 誘発効果合計 2.03 2.04 4.39 4.55 4.57 4.77 域外への誘発効果 0.44 0.39 0.85 0.48 0.68 0.26 To 発 展 途 上 国 (=誘発効果合計-域内誘発効果) 17 © Mizuho Research Institute Ltd 2.エマージング地域のファンダメンタルズもこの10年間で大幅に改善してきた ⇒ 欧州、アジア及び中南米の各地域について「外貨準備額/名目GDP」及び「経常収支/名目GDP」の 推移をみれば各地域ともに顕著に上昇、個別国(相対的に小国が中心)でみれば欧州と中南米の一部 に脆弱性なしとしないが、90年代後半に比すれば格段の改善 ⇒ ①最近の世界同時好況による体力の蓄積、②国際金融機関の指導による各国経済運営の規律性向上 等が背景か ⇒ 「域内景気の自律性」のみならず、最近の世界同時成長の過程で外部からのショックに対する耐久力も 相応に備わってきている状況 【 図表29:エマージング地域のファンダメンタルズ指標の推移 】 45% 40% 35% 欧州 アジア 中南米 8% 欧州 アジア 中南米 <外貨準備額/名目GDP> 6% <経常収支/名目GDP> アジア通貨危機 ロシア危機 アジア通貨危機 ロシア危機 4% 30% 25% 2% 20% 0% 15% -2% 10% -4% 5% 0% © 20 06 20 05 20 04 20 03 20 02 20 01 20 00 19 99 19 98 19 97 19 96 19 95 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 -6% 18 Mizuho Research Institute Ltd © みずほ総合研究所 本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引の勧誘を目的としたものではありません。 本資料は、弊社が信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、弊社はその 正確性・確実性を保証するものではありません。本資料のご利用に際しては、ご自身の判断にてなされま すようお願い申し上げます。 19 ©
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