原子炉耐震設計指針の 策定・見直し過程と課題 小山研究室 3021-6021 塚本可奈子 研究目的 『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指 針』は、1981年7月20日に当時の原子力安全 委員会が定めたものである。 原子力安全委員会では、2001年7月3日に 「原子力安全基準専門部会」に「耐震指針検討 分科会」を設置し、原子力施設の安全性や耐震 性を規定した耐震設計審査指針等の見直し作 業に着手した。 この研究では、それらの策定・見直し過程と課 題について考える。 研究方法 これまでの耐震指針検討分科会検討状況等から、 原子力安全委員会事務局において整理された耐 震設計審査指針改訂に関する内容をまとめ、現 行の指針の内容と比較する。 事務局整理案に対する意見や対案についてまと める。 分科会とワーキンググループ 耐震指針検討分科会では、「発電用原子炉施設の耐震設 計」及び「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手 引き」について、最新知見等を反映し、より適切な指針とする ために必要な調査審議を行う。 ・指針へ反映すべき最新知見の抽出・整理 ・検討の結果、必要に応じて新指針の作成 検討方法としては、3つのワーキンググループを設置して、各 ワーキンググループに関わる検討項目に関する最新知見を 整理しまとめる。これらの内容に基づき分科会が検討し、必 要に応じて新指針を作成する。 ワーキンググループ WGでは、耐震指針検討分科会において新知見・新技術の指 針への反映の必要性について検討するにあたって、必要な各種 知見等の整理作業を行う。 基本WG・・・耐震安全目標及び確率論的安全評価(地震PSA) の導入等の検討に必要な各種知見等の整理作業を行う。 施設WG・・・荷重(地震力)と耐力の評価法に関する最近の知見 の反映、並びに第四紀層地盤立地及び免震・制振構造の導入 等の整理作業を行う。 地震・地震動WG・・・地震動評価法及び設計用地震の想定に関 する最近の知見の反映、並びに地震発生・地震動の確率論的 評価法の導入等の検討に必要な各種知見等の整理作業を行う。 耐震設計審査指針の高度化・改訂の骨子 について 1. 2. 3. 4. これまでの分科会の検討状況等から、耐震設計審査指 針の高度化・改訂において適切であると考えられる骨子 を、原子力安全委員会事務局において整理した。 指針の位置付け 適用範囲 基本方針 耐震設計の方針について (1)耐震設計上の重要度分類 (2)耐震設計に用いる地震動 指針の位置付け 事務局整理案 現行指針 「本指針は、「発電用軽水炉型原子炉施設 「本指針は、発電用原子炉施 に関する安全設計審査指針」(以下「安 設の耐震設計に関する安全 全設計審査指針」)において定められて いる安全設計上の要求のひとつである 審査を行うに当たって、その 「安全機能を有する構築物、系統及び機 設計方針の妥当性を評価す 器は、その安全機能の重要度及び地震 るため安全審査の経験を踏 によって機能の喪失を起こした場合の安 まえ、地震学、地質学等の 全上の影響を考慮して、耐震設計上の 知見を工学的に判断して定 区分がなされるとともに、適切と考えられ る設計用地震力に十分耐えられる設計 めたものである。・・・ であること。」に関して、「適切と考えられ なお、本指針は、今後さら る設計用地震力に十分耐えられる設計」 に新たな知見と経験の蓄積 について、その設計方針の妥当性を評価 によって、必要に応じて見直 するための安全審査における判断基準 を定めたものである。」 される必要がある。」 耐震設計は安全設計の一環として行われるものである から、当然のこととして、関連する諸指針すなわち、立 地審査指針、安全設計審査指針、安全機能の重要度分 類、安全評価審査指針等と整合したものでなければな らない。 この案についての修正案 「なお、本指針は、今後さらに新たな知見と経験の蓄積 によって、必要に応じて見直される必要がある。 」 ↓ 「なお、本指針は、今後の新たな知見と経験の蓄積に 応じて、それらを適切に反映するように見直される必 要がある。」 適用範囲 現行指針 「陸上の発電用原子炉施設に適用される。しかし、これ以外 の原子炉施設にも本指針の基本的な考え方は参考となるも のである。なお、本指針に適合しない場合があってもその理 由が妥当であればこれを排除するものではない。」 事務局整理案 「本指針は、今日までの軽水炉に関する経験と技術的知見に 基づき、原子炉施設を構成する建物・構築物の主要部分が 原則として剛構造による耐震設計がなされ、かつ、重要な建 物・構築物が岩盤その他の十分な支持力を有する安定した 地盤に支持される発電用軽水型原子炉施設への適用を前 提として定めたものである。」 この案についての意見 「これ以外の原子炉施設にも本指針の基本的な考 え方は参考となるものである。 」 ↓ これ以外の原子力施設に対しても本指針の基本的 な考え方は参考になるが、各施設の特殊な条件を 十分考慮しなければならない。 「前提」とされた剛構造と岩盤等の支持は、明示した ほうが良い。 基本方針 現行指針 発電用原子炉施設は想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな 事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していなければならない。ま た、建物・構築物は原則として剛構造にするとともに、重要な建物・構築物 は岩盤に支持させなければならない。 事務局整理案 原子炉施設は、地震により発生する可能性のある放射線による環境への 影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに、適切と考えられる設 計用地震力に十分耐えられる設計がなされること。さらに、原子炉施設は、 敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学 的知見から原子炉施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する おそれがあると想定することが適切である地震動による地震力に対しても、 当該原子炉施設のうち安全防護施設を含めた枢要な施設についてその 安全機能が損なわれることがないよう設計がなされること。 解説事項 「原子炉施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生するおそれが あると想定することが適切である地震動」を十分な考慮をもって適切に策 定した場合においても、その他震動を上回る地震動が発生する可能性 は否定できない。したがって耐震設計を行うに当たっては、この「残余の リスク」が存在することを十分認識しつつ、それを実務上可能な限り小さく するよう考慮することが望まれる。 この案についての意見 「剛構造と岩盤支持を条件にはしない」という議論があったが、以下の理由 により、明示的に規定してよいのではないか。 ・分科会のこれまでの議論は、剛構造と岩盤支持のケースに関してであ り、そうでない場合の技術的検討をほとんど行っていない。 ・地震動増幅特性の点で岩盤支持のほうが有利である、等。 「残余のリスク」については、指針改訂の骨格に関する議論が一通り終わっ てから、もう一度審議することを強く望む。 耐震設計の方針について (1)耐震設計上の重要度分類 現行の指針に規定されている耐震設計上の重要度分類(耐震重要度分 類)と、「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する 審査指針」に規定されている安全機能に着目した重要度分類(安全重 要度分類)の整合性について、施設WGで検討した内容をふまえ、指針 改訂に際して、指針間の整合性を重視するとの観点から、耐震重要度 分類も安全重要度分類の規定に準じて、3分類としてはどうか。 (2)耐震設計に用いる地震動 安全確保の基本的考え方を踏まえ、地震動の策定方 針について、以下のような考え方の提案 「基準地震動(Ss)」 敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地 震学及び地震工学的見地から、極めてまれではあるが 発生するおそれがあると想定することが適切な地震動 →「敷地ごとに策定する(サイト固有の)地震動」と「震源を 特定せず想定する地震動」の二者を検討し、原子炉施 設の耐震設計に適用すべき「基準地震動」を、水平方向 に加え鉛直方向についても策定する 「敷地ごとに策定する(サイト固有の)地震動」につ いては、「過去の地震」、「活断層の調査・評価」等に 基づき、設計用地震動を選定し、サイトに最も大き な影響を及ぼすと考えられる地震による地震動を策 定する。 「震源を特定せずに想定する地震動」については、 内陸地殻内の地震のうち、地表地震断層を伴わな い過去の地震の震源近傍の観測記録を基に応答ス ペクトルを設定する共通の考え方を提示。 今後の活動内容 引き続き、原子力安全委員会の資料の整理・分 析を行う。 原子炉耐震設計指針の策定・見直しを行い、そ の問題点や課題について検討する。
© Copyright 2024 ExpyDoc