褥瘡対策

あすか山訪問看護ステーション
瀧井 望
#在宅褥瘡は必ず減らせる
我が国における褥瘡対策は日本褥瘡学会の設立やそ
の後の行政の対応が奏功し医療施設においては世界に
類をみないほど、その有病率は激減した。しかし在宅療養
者の褥瘡有病率はいまだ5.45%(2010年調査)と高く、
皮下組織や筋肉に至る深い褥瘡は後を絶たない。
日本褥瘡学会では医療施設の有病率を減少させた実績を
基に、在宅医療にも病院と同様に人材育成とネットワーク
の構築、予防機器の導入、ガイドライン等の策定による褥
瘡対策の標準化を図ることができれば、褥瘡は必ず減ら
せると確信し2005年より在宅褥瘡予防管理対策委員会
を設置し活動を継続している
真田弘美
引用文献 在宅褥瘡予防治療ガイドブック
医療施設
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2002年 褥瘡対策未実施減算一日につき5点
2004年 褥瘡患者管理加算 20点
重度褥瘡報告義務化
2006年 褥瘡ハイリスクケア加算500点
2014年 在宅患者訪問褥瘡管理指導料750点
褥瘡ハイリスクケア加算改正250点
訪問看護
2009年 特別管理加算の対象に重度の褥瘡追加
2012年 褥瘡ケア等の専門性の高い看護師による訪
問看護の評価(12,850円/月)
週4以上の訪問看護が可能患者の要件緩和
長時間訪問看護加算の新設
外泊(1泊2日以上)の訪問看護の新設
在宅の創傷被覆材の保険算定要件見直し
2014年 訪問看護管理療養費の算定要件に褥瘡に関す
る危険因子の評価や、創の評価、看護計画
を作成・実施・評価を行うことが追加され、
7月1日現在にて、実施状況報告書を提出する
こととなった
・有病率 : 7.6%
・年齢 :10代5%、50~60代24%、70~80代52%
90代19%
・要介護度1~3:5%、要介護度4~5(医療保険含)95%
・部位: 仙骨部・尾骨部40% その他60%
・深達度: ステージⅠ~Ⅱ65%、ステージⅢ以上
35%
・訪問看護開始時褥瘡保有者:55%
・ターミナル期:25%
平成26年2月(1か月)利用者数262人
作成方法、計画例
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「現在なし」の選択をした時は、「過去なし」か「あり」か
をチェック、ありの場合は部位を選択
「現在あり」の選択をした時は、部位を選択し、さらに、
訪問看護開始時にはすでに褥瘡ができていた場合、
開始時の褥瘡の深さと、現在の褥瘡の深さをチェック
する。また、訪問看護利用中に褥瘡が発生した場合、
褥瘡発生日を記入し、発見時の深さと、現在の深さを
選択する
多発褥瘡については最も深い褥瘡について記載する
日常生活自立度ランクB以上を評価
その他危険因子評価、できない、ありが一つでもある
場合に褥瘡の状態の評価チェック、看護計画立案をする
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ベッド上とイス上で患者をアセスメントする
自力体位変換とは自力で身体の向きを変えることを
指す。本人の意思を問うものではなく、実際にできて
いるか否かを評価する。
座位姿勢の保持とは、特に姿勢が崩れたりせず座れ
ることを指す。
座位時の除圧とは自分で姿勢を変えることができるこ
とを指す。
得手体位(自分の好みの体位)があり、その姿勢を
ずっととりやすい場合も自力体位変換、できないとす
る。
仙骨部の場合左の
図で軽度以上
 体圧測定40mmhg
以上
 その他骨突出(尾骨、
坐骨結節、大転子、
腸骨稜)円背が外観
上明らか
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四肢の関節可動域に制限があることを指す
関節可動制限とは関節の屈曲拘縮、伸展
拘縮、変形などをいう
血液検査データがある場合、Alb3.0g/dl未
満またはTP6.0/dl未満
 自分で食事を摂らない。
 必要なカロリーを摂取していない。
 著名な体重減少 通常時体重74%以下高度
75~85%中等度 85~90%軽度
 浮腫や貧血(Hb11.0g/dl以下)がある

多量の汗をかく
 臀部皮膚が尿で濡れている時間がある
 便が臀部皮膚に付いている時間がある

上記のどれか一つでも該当すれば、皮膚湿潤
ありとなる
浮腫とは褥瘡局所以外の部分で皮下組織内
に組織間液が異常に貯留した状態をさす。
 下腿前面頸骨部、足背、背部などで指の圧
痕が残るか確認

Depth 深さ
Exudate 滲出液
Size
大きさ
Inflammation/Infection 炎症/感染
Granulation tissue 肉芽組織
Necrotic tissue 壊死組織
Pocket ポケット
Rating 採点
日本褥瘡学会が2008年に公表したもので、2002年
に開発されたDESIGNツールを複数患者の褥瘡が比
較できるように改良されたものである。
軽度はアルファベットの小文字、重度はアル
ファベットの大文字で表す。
深さ(D)は勘定に入れず、E~Pまでの6項目を
点数化し、0~66点の合計点を計算する。重
症度が高いほど高得点となり、治療に伴い点数
が減少すれば、改善傾向を示す。
褥瘡内の最も深いところで判定
 持続する発赤とは
指押し法-発赤部分を指で3秒押し、指を離したとき
白くなる時は反応性充血(真皮深層の微小血管の拡張)
で褥瘡ではない。指を離しても赤い時は血管の破綻によ
り赤血球が漏出しており、不可逆的な阻血障害に陥った
状態で、褥瘡である。
ガラス板圧迫法-現在はプラスチック板を用いること
が多い。透明の定規などでも代用できる。
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真皮までの損傷とは表
皮がはがれ皮膚にごく
浅いくぼみが見られる
状態、面積が広いと毛
穴が見える
皮下組織までの損傷は
脂肪組織に達する深さ
皮下組織を超える損傷
は筋膜、腱、骨膜など
に達するもの
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褥瘡周囲の皮膚に浸軟が見られる場合、滲出液が多
いと思われる。
一日一回ガーゼを変えているが、ガーゼが乾いてい
る部位がないようなときは多量となる。
滲出液を多量に吸収する創傷被覆材を使用した場合
の状態ではなく、ガーゼ相当の被覆材で交換したとし
たら、一日何回のガーゼ交換が必要かで考える。
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皮膚損傷部の一番長いa(cm)とこれに直交する最大
径b(cm)を掛け合わせたものa×bを数値とする。面
積とは異なる。
ポケットを含まない創面、正面から見て見える創面の
大きさ
患者は同じ体位で測定者は同じ部位で測定する
排膿がある場合は細菌培養も考慮する
 エコーやCTも感染の判定に有用

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良性の肉芽とはきれいな赤色で、適度な湿潤環境が
保たれている
壊死組織が除かれていても、白色調や、暗赤色で
あったり、水っぽく浮腫状であったり、大きな粒状で
あったりするのは不良肉芽とする
不良肉芽がなかなか改善しないときは湿潤環境が
整っていなかったり、褥瘡内に再度圧やずれが生じて
いたり、クリティカルコロナイゼーション(限界保菌状
態)の状態の可能性がある

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壊死組織の色(黄色、黒色)だけで判断するのではな
く、柔らかさや、硬さも観察する。
色が黄色や白っぽくても、筋膜や、腱の壊死で硬く固
着しているものは固く厚い密着した壊死組織ありとな
る。
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ポケットも最大径cとそ
れに直交する最大径b
を掛け合わせc×b、そ
れから、褥瘡創面サイ
ズa×bを引いた値の
あてはまるサイズのと
ころにチェック
ポケットの測定をすると
きは攝子や綿棒などで
傷つけないよう注意
適切な体圧分散寝具を使用し、同一体位時
間が続かないように、定期的に体位変換を行
う
 体位変換スケジュールを計画
 自動体位変換付きエアマットレスの導入
 仙骨部、大転子部の褥瘡発生を予防するた
め、30度側臥位を安楽にポジショニングをし
て行う。
 踵部を下腿全体に枕などを挿入し除圧する

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体動で枕がずれてしまう場合は踵用の除圧用具、
または、尿パッドなどを用い手作りの踵や踝の除圧
用具を使用する
頭部挙上時はベッドの屈曲部位と大転子を合わせ、
ベッドの下肢側を先に挙げ、ベッドの頭側を挙げる。
その後背抜き、足抜きを行う
頭部挙上は30度までにとどめる、または可能であ
れば、端座位を取らせるか、椅子へ移動する。
マットレスの底付き減少が起こっていないか確認す
る
円背の場合、浮き上がっている背中からしっかり大
きなクッションで全面的に支え、頭部の体重もきちん
とクッションにかかるよう、子枕などを敷きこむ。
下肢の屈曲拘縮がある場合は大腿部や下腿
それぞれで体重を受けるようにクッションを使
用する
 仙骨部が突出している場合、両方の臀筋の
かわりになるようなクッションを敷きこむ
 仙骨部が突出している場合、柔らかいタオル
ケットなどで筒状のクッションを作り、U字にあ
て、仙骨部を除圧する
 ポジショニング後、摩擦を取るグローブ(ビ
ニール袋でも代用)でクッションや寝具と接し
ている皮膚表面を軽くこするように移動させ
る

ベッド上で上方移動などするときはトランス
ファーシート(大きなビニールのごみ袋でも代
用可)などを用い、摩擦抵抗を減少させる
 体圧測定を行い、定期的評価をする。本人や
家族への意識づけにも効果がある
仰臥位時は40mmhg以下
座位時は70mmhg以下
・尿パッドを重ねすぎないよう指導
・シーツは張り過ぎない
・摩擦力排除として骨突出部にポリウレタンフイ
ルムを使用する

座位は坐骨部に高い圧がかかるため、体圧
分散用具は必ず利用する。
*ウレタン=特に姿勢に問題がない患者、全
般の患者
*エア=体重が重い患者で自力でプッシュアッ
プができ、マットレスの圧調整が可能な患者
*ジェル=痩せが著名な患者
 高リスク患者には厚み10cm程度のもの
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90度姿勢(股関節、膝関節、足関節)が保持できるよ
うに体位を整える
車椅子生活者は15分おきにプッシュアップを行う
自力で除圧行為ができない場合は介助者が1時間お
きに姿勢を取り直す
他職種と連携し、機能や生活状況に合わせ、体格に
あった車いすの種類を選択する
腰背部にクッションを使用すると骨盤が前傾しやすく
尾骨や仙骨の圧が減少し、体幹の保持もしやすい
アームレストに腕の体重が十分に乗らない場合はクッ
ションを使用するとよい
皮膚の清潔保持は優しく行う
 皮膚乾燥を予防するため、保湿外用剤を用
いる ヒルドイド、ウレパールなど
 外傷予防のため、医療用テープの使用は最
小限とする
 医療用テープを使用する場合、低刺激のもの
を選択。テープ貼付部に皮膚被膜剤を噴霧
 肌の露出を少なくする
 環境調整として暖房使用時に加湿を行う

シーツは吸水性、熱放散性が高いものを選
択
 発汗時は速やかに皮膚の清潔を図り、寝衣
を交換する
 多汗の原因には感染症等消耗性の疾患が
考えられるので、全身状態に注意を払い主治
医に報告する
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皮膚洗浄後に排泄物が付着する範囲の皮膚に撥
水性皮膚保護材を用いる
リモイスバリア、ワセリン、オイルなど
排泄物の水分吸収が良いパッド、またはパッドへの
吸収を促進するポリエステル繊維綿を用いる
仙骨部へ尿が回らないよう、尿パッドをジャバラ折
にして、尿道口から肛門にあてる
下痢の原因のアセスメントを行い、排便コントロール
洗浄剤を使用するのは一日一回
便失禁が持続する場合はストーマ用皮膚保護材を
使用する(アルカリ性を中和させる効果)
体重測定,BMI測定
体重(kg)÷身長(m)×2
18.5未満痩せすぎ
 栄養アセスメントにSGAあるいはMNAを用
いる
 3日分の食事摂取内容を記入してもらい、摂
取エネルギーを大まかに把握
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低栄養と脱水の有無を評価
栄養危機状態での対応は、一刻も早く、まず500ml
維持輸液の点滴が必要である
一日の水分量と摂取エネルギーを1000ml、
900kcal以上に心がける
脱水の予防には水分、糖分、塩分の補給が必要
褥瘡保有者は食欲不振、嚥下障害を伴うこともあり、
医師に相談した上で、歯科医、ST等に嚥下評価をし
てもらい、安全な栄養ケアを始める
食欲の回復、家族の負担を軽減(経腸栄養も含め)を
した食支援が栄養改善に繋がる
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関節拘縮を予防するために他動運動を行う
PT、OTに訪問を依頼し、適切な他動運動の指導をう
ける
関節拘縮がある場合、体圧分散寝具に加えて、接触
面積を増やし、体圧の分散と姿勢の安定、緊張緩和
を図るために、一人一人の状態に応じて適切にピ
ローを用いる(ポジショニング)
尖足を予防するために布団の重みの対策をする
離床、ADLの拡大を目指す


今年度の診療報酬改正で、訪問看護ステーションに
おいて、訪問看護療養費の算定要件に、日常生活
が低い利用者につき、褥瘡に関する危険因子の評
価を行い、創の評価、看護計画を作成実施評価を
行うことが義務付けられ、7月1日に実施状況報告
書を提出しなければならなくなりました。
制度上求められたから実施するというのではなく、
あすか山訪問看護ステーションとしては、全ての利
用者に対して、しっかりと褥瘡対策管理を行い、在
宅療養者が褥瘡で苦しむことがなくなること(予防)
を目指して頑張っていかなければならないと思いま
す。