平成23年6 月10日 交通賠償における後遺障害認定について 弁護士 伊 豆 隆

平成24年2月17日
財団法人日弁連交通事故相談センター
弁護士
伊
豆
隆
義(東京弁護士会)
ケーススタディ1 後遺症事案
後遺症
疾病や負傷による急性期の症状が治癒した後も、身体や
精神の機能などに障害が残存すること、その障害。
後遺障害
自動車事故による傷害がなおったとき(施行令2条2
号。)に残存する障害 で、
施行令別表記載の各等級に該当し、自賠責保険の給付対
象となる障害の残存が認められるもの。
労働能力喪失率の立証(逸失利益)
後遺症慰謝料額の立証
 自動車事故による傷害がなおったとき(施
行令2条2号。)に残存する障害
①
なおったとき=症状固定のとき
「なおったとき」とは、傷病に関して行われる医学
上一般に承認された治療方法(以下「療養」と言
う。)をもってしても、その効果が期待し得ない状
態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然
的経過によって到達すると認められる最終の状態
(症状の固定)に達したときをいう。
②
残存する障害
「残存する障害」とは、「当該傷病と相
当因果関係を有し、かつ、将来においても
回復困難と見込まれる精神的または身体的
な毀損状態であって、その存在が医学的に
認められ、労働能力の喪失を伴うもの。
(昭和50年9月30日基発第565号参
照)
症状固定とは
医学用語ではなく、後遺障害による
損害算定のための法律上の概念。
労災保険で、「治癒」として、休業補
償給付から障害補償給付に切り替えて
いるのとパラレルに考えられる 「治
癒」は健康状態に戻ったことを意味す
る「完治」ではない。
「症状固定」とは一般的な治療を行っても、
その治療効果が期待できない状態で、言
い換えれば、将来における症状の回復改
善が期待できなくなった状態であり、投
薬や理学療法により一時的に症状がよく
なっても再び戻ってしまう場合を含む。
従って、後遺障害診断書の症状固定日の
記載に絶対的意味があるわけではない。
「障害の永久残存性」自賠責保険後遺
障害診断書「障害内容の憎悪・緩解
の見通し欄」に注意。
 相当な期間の治療がなされること
「医学的に証明ないし説明可能」

「労働能力喪失を伴う」
減収ない場合は?
現実的な労働能力の喪失をいっているの
ではなく、平均的労働能力を意味し、年
齢、職種、知識、経験、減収の有無に
よって影響をうけない。
実際には、個々の職業との関係で労働
能力には影響ないとされる場合でも、
平均的能力の喪失は等級表に該当する
かぎりある。
 「後遺障害等級表に該当する」
後遺障害の「等級の認定は、原則とし
て労働者災害補償保険における障害の
等級認定の基準に準じて行う。」
(平成13年12月21日金融庁・国
土交通省告示1号。)
「労災補償 障害認定必携」をもとに
運用(青本259)。
現在の損害賠償実務は、基本的に自賠責
保険と自賠責保険の上積み保険としての
任意保険の実務運用によって成り立って
いる。
任意自動車保険の支払いも、自賠責保
険の後遺障害の認定を前提になされてい
る。
自賠責保険の後遺障害の認定抜きに後
遺障害事案の解決はない。
但し、裁判所を拘束しない。最判平成18
年3月30日判時1928号36頁 判例タイム
ズ1207号 70頁(資料1)
事故発生
症状固定
積極損害
治療費・付添費など
将来介護費用等
消極損害
休業損害
(狭義の)逸失利益
慰謝料
入院慰謝料
後遺症慰謝料
ⅰ
認定主体
形式面 自賠責保険会社
実質面 損害保険料率算出機構(JA自賠責共済は、J
A共済連)
ⅱ
後遺障害認定が行われる場合
① 加害者請求(自賠法15条)
② 被害者請求(自賠法16条)
③ 事前認定
ⅲ 不服申し立て制度
①
異議申立;損保料率機構内の組織による不服
審査
申立先 ;事前認定の場合は任意保険会社
被害者請求の場合は自賠責保険会
社
異議申立がなされると、
異議申立がなされると、提出書類は調査事務所に送付
され、調査事務所の属する地区本部または損調業務本
部の稟議を経て結論が出る。同本部の後遺障害等級の
審査結果に対して異議申立がなされると、専門医の参
加する自賠責保険後遺障害審査会で審査される。
②
紛争処理の申請(自賠法23条の5第1項)
一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機
構(http://www.jibai-adr.or.jp/)に対し
て紛争処理の申請をする。→青本311
資料2(紛争処理申請書書式)
モデル事例1
モデル事例
1
(1)事故日
平成20年9月1日
(2)事故概要
自家用車で走行中の甲(被害者・団体
職員事故時31歳固定時32歳年収5
00万円)が、赤信号に従い停止して
いたところ、後方から進行してきた乙
運転の普通乗用車が追突し、甲が負傷
した。
(3)
治療経過・症状経過
【初診時】診断日平成20年9月2日
① 事故当日にA整形外科を受診、傷病名は「外傷
性頸部症候群」と診断された。
②
は
診断書の症状経過・治療の内容および今後の見通し
「交通事故にて受傷。翌日頸部痛・頭痛を訴え来院。
安静指示、保存的加療す。」
と記載されている。
③
主たる検査所見
『初診時X-P
④
初診時の意識障害
⑤
既往症および既往障害
⑥
後遺障害の有無
なし
未定
なし
異常なし』
欄に
【中間時】平成20年10月1日~平成21年
9月20日
⑦
傷病名
「外傷性頸部症候群」
⑧ 診断書の症状経過・治療の内容および
今後の見通し 欄には
「腱反射 正常
病的反射(―)。
ジャクソン・スパーリングテスト(+)左首
付根から左肩甲骨に放散痛。
保存的加療を継続
疼痛に対して神経ブロック施行」と記載
。
⑨ 主たる検査所見
MRI異常なし
X-P 異常なし
【終診時】
⑩
傷病名
「外傷性頸部症候群」
平成21年10月1日
診断日
中止
⑪ 診断書の症状経過・治療の内容およ
び今後の見通し 欄には
「腱反射 正常
病的反射(―)。
ジャクソン・スパーリングテスト(+)
左首付根から左肩甲骨に放散痛。
頸部痛および頭痛残存。
疼痛に対して神経ブロック施行」
⑫
主たる検査所見
H21.10.1
なし
後遺障害診断書
X-P及びMRI異常
(4)
自賠責保険の認定
①
結論
②
理由
非該当。
本件は、初診時から症状固定時
まで、頸部痛、頭痛を訴え、ジ
ャクソ・スパーリングテスト(
+)左首付根から左肩甲骨に放
散痛 とされているが、腱反射
は正常、病的反射はなく、画像
所見からは、申請者の訴える症
状を医学的に説明することはで
きない。
外傷性頸部症候群、頚椎捻挫、頸部挫傷、
あるいはむち打ち症などの診断がなされて
いる。
外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドライン調査報告
書;
(社)日本交通科学協議会のむち打ち損傷研究会
 「外傷性頸部症候群と診断して何らの不都合はないが、
推測される受傷機転に応じて、生理的可動域を超えた
と思われる場合は頸椎(部)捻挫、それ以下の場合に
は頸椎(部)挫傷と区別して病態別に診断した方がよ
り正確といえる。」

むち打ちという用語が使われることについて
は、「ヘッドレストもなく、本当に鞭のよう
に大きく頭部を振られたケースを除けば、鞭
打ち損傷という病名は不適当と言わざるを得
ない。患者に誤った過大な不安を与える点で
はむしろ加害的な病名とすらいえ、日常臨床
では使うことをやめるべき診断名といえる。
このことはすでに国際学会でも共通の認識と
なっているが、カナダ・ケベック報告では鞭
打ち関連病態と呼ばれている。」
(資料3)
「脊椎」と「脊髄」;骨と神経
脊椎; 頸椎(C)・・・・・7個の椎骨
胸椎(T)・・・・12個の椎骨
腰椎(L)・・・・・5個の椎骨
仙椎(S)・・・・・5個の椎骨が癒合
尾骨
椎間板;椎体と椎体の間にある線維軟骨組織。

椎体の前面に前縦靭帯、後面に後縦靭帯が密着。

棘上靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯。

脊髄; 脊柱管内を走行、第1頸椎から第1腰椎
の高位まで存在(それ以遠は馬尾)。

中枢神経;脳と脊髄
末梢神経;脊髄から分岐した神経
神経根;前根・後根が合流、脊髄から末梢
神経に分枝する部分。
前根は運動神経、後根は感覚神経。
頸髄から分岐する神経根は上肢の運動・感覚を支配。
腰仙髄部の神経根及び馬尾は、下肢と陰部の運動・
感覚を支配。
 頸椎;上位頸椎
・・・第1頸椎(環椎、C1)
・第2頸椎(軸椎、C2)
;下位頸椎
・・・第3頸椎~第7頸椎(C3~C7)
 8対の神経根;当該神経根は椎体の上位より
出る。
 ex.C5神経根はC5/6椎間の上から出る。
 第5頸髄神経から第1胸髄神経までの神経根
は腕神経叢を形成する。
ⅰ 局部の神経症状
12級;局部に頑固な神経症状を残すもの
→障害の存在が医学的に証明できる
もの (他覚所見の存在)
14級;局部に神経症状を残すもの
→障害の存在が医学的に説明可能な
もの(医学的には証明できなくとも
自覚症状が単なる故意の誇張でない
と医学的に推定されるもの)
平成15年改正で、「12級は『通常の労務に服す
ることはでき、職業制限も認められないが、時
には労務に支障が生じる場合があるもの』及び
14級は12級よりも軽度のものが該当する。」と
の記述となるが、実務は変わらず。
末梢神経系統の障害の場合;原則12級が上限
(例外あり;RSD・カウザルギー・CRPS
等)
脊髄の障害の場合;1級~12級(労災補償障
害認定必携 参照)
ⅱ
他覚所見とは
「他覚所見には画像所見も含むが、
これに限られるわけではない。種々
の神経学的検査の結果も他覚所見と
いえる」
自賠実務と裁判実務の違い
「自賠責実務では、検査などによる異常
所見が存在するだけでは、神経系統の障
害があるとまでは言えないとして14級あ
るいは等級非該当とされる事例でも、判
決においては、異常所見が存在するので
被害者の訴えが裏付けられるとして12級
の認定を受ける例が少なくない。」
交通事故におけるむち打ち損傷問題』
(栗宇一樹・古笛恵子編・(株)保険毎
日新聞社発行(以下「交通事故における
むち打ち損傷問題」という))P176~
P177
・裁判所12級認定例→ほぼ半数が自賠責
で12級認定。
残りは自賠責14級ないし非該当。
・裁判所14級認定例→
ほとんどが自賠責で14級認定。
・裁判所非該当事例→
ほとんどが自賠責でも非該当。
自賠責で認定された等級→特段の事情の
ない限り、一応の立証あり。
『
自賠責で認定された等級→特段の事情
のない限り、一応の立証あり。
(『リーガル・プログレッシブ・
シリーズ5 交通損害関係訴訟』(佐
久間邦夫・八木一洋編・(株)青林書
院発行)P153~154)
Ⅰ 画像
① レントゲン検査・CT
・骨傷の有無・後縦靭帯骨化症の有無等の確認に有
用
・頸椎前彎消失、局所後彎、脊柱管狭窄は?
・骨病変のない場合 → 有用性に疑問
② MRI(磁気共鳴撮影法;磁気と電波による画像
検査法)
・脊髄・靭帯・椎間板の描出に有用
神経学的所見が出現した場合の責任部位の検討
・有用性の限界;急性期の診断、バレ・リュー症状
等
① スパーリングテスト(Spurling test)
頭部を患側に向けて頭頂部から圧迫を加える検
査
障害がある神経根の支配領域に疼痛・しびれ感
が放散
② ジャクソンテスト(Jackson test)
頭部を後屈して頭頂部から圧迫を加える検査
障害がある神経根の支配領域に疼痛・しびれ感
が放散
① 深部腱反射
腱や骨を適度に叩くことにより引き起こ
される反射(上腕二頭筋反射、上腕三頭筋
反射 アキレス腱反射 膝蓋腱反射等)
中枢神経系の障害→亢進
末梢神経系の障害→低下、消失
②
→ 中枢神経系の障害
バビンスキー徴候 等
ホフマン反射・トレムナー反射・ワルテン
ベルク反射は?
病的反射
重力または検者の力に抗して筋肉を動
かせるかを評価(6段階;5=正常、4=良
好、3=やや良好、2=不良、1=痕跡、0
=筋肉の収縮なし)
→
デルマトーム
触覚、温度覚、痛覚、振動覚
等
① 神経伝導速度検査
② サーモグラフィ
③ 関節可動域(ROM)
* 後遺障害として評価されるためには関節可
動域制限の原因が器質的損傷によるものであ
ることが必要→むち打ち損傷による機能的変
化(疼痛・緊張等)を原因とする運動制限は
機能障害ではなく、局部の神経症状として評
価される。
※ Ⅱ~Ⅵの有用性の問題
検査方法、患者の協力の要否 等
『後遺障害等級認定と裁判実務』(P263~P264)参照
12級以上に認定されやすい理想的なパターン
①画像から神経圧迫の存在が考えられ、かつ、
②圧迫されている神経の支配領域に知覚障害などの神経学的
異常所見あり
12級とするには疑問か → 14級か(あるいは非該当か)
①あり、しかし、②がない、あるいは画像と整合しな
14級か
①神経圧迫とはいえないが正常とはいえない所見あり、かつ、
②神経学的異常所見あり
明確な認定傾向は指摘できない例
①なし、しかし、
②神経学的異常所見あり
事故の態様、治療経過、症状の一貫性
等
(ご参考)
「後遺障害等級認定にかかわる医学的基礎
知識」平林洌(『交通事故による損害賠償
の諸問題Ⅲ』 453頁~)
①脊髄損傷
②胸郭出口症候群
③後縦靭帯骨化症
④低髄液減少症
等
① 算定式
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪
失期間に対応するライプニッツ係数」
② 等級と労働能力喪失率
労働能力喪失率表
12級 → 14%
14級 →
5%
③
等級と労働能力喪失期間
「むち打ち症の場合は、12級10年程度、14級で5年
程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具
体的症状に応じて適宜判断すべきである。」(赤い
本71)
「神経機能の障害として頻発する頸部損傷によるむ
ちうち損傷については、自覚症状を主体とするため
喪失期間の決定に困難が伴い、以前から短期間の喪
失期間が認定される扱いがなされていた。最近では
、後遺障害等級12級(他覚的に神経障害が照明され
るもの)該当については、5年ないし10年の、14級
該当については5年以下の労働能力喪失期間を認め
た例が多い。ただし、これと異なる長期短期の期間
での喪失期間を認めた例もあるので、留意を要する
。」(青本102)
(設問1) 自賠責の判断に対して、争う方法。
争うべきポイント。
ⅰ 異議申立か 自賠共済紛争処理機構の紛
争処理申立か 訴訟か
ⅱ 画像所見 からは 異常の証明資料が得
られない場合に、何を主張するべきか。
(設問2) 14級9号が認定されたとした
場合の後遺症に関する損害賠償額の算定。
後遺症に関する損害賠償
ⅰ 後遺症逸失利益の算定
① 基礎収入
② 労働能力喪失率
本件では、団体職員で、事故後減収ない
が逸失利益が認められるか。
③ 労働能力喪失期間と喪失期間に対応し
たライプニッツ係数の選択
本件で、長期間の喪失期間が認められる可
能性はあるか。
ライプニッツ係数(青本246(下段)、
赤い本347)
ⅱ
後遺症慰謝料の算定
モデル事例2
(1)事故日
平成20年11月10日
(2)事故概要
通勤途中自転車で走行中の
甲(被害者・事故時23歳
固定時24歳・女性・公務
員事故前年収300万円)
と対向直進中の乙運転の普
通乗用車が正面衝突し、甲
が負傷した。
(3)
治療経過・症状経過
① 事故当日にA病院に救急送。意識障害あ
り JCSⅢ-200.GCS7.
脳幹症状認め ICUにて全身管理
頭部CT撮影 大脳基底核および脳室内の小
出血認める。
傷病名 びまん性軸索損傷
② 同月13日 意識レベルJCSⅡ-10
~20で同月30日頃まで推移
③同月20日 頭部MRI撮影 大脳基底核、
脳幹部の損傷を認める。
④同月30日 意識回復。四肢麻痺などの神経
学的症状は認められないが、失調性歩行障害を
認める。見当識障害、健忘状態は持続。
⑤平成21年1月15日 歩行訓練にて歩行状
態改善。
記憶力の著しい障害あり。
易刺激性などの情動障害認める。
⑥ 平成21年2月15日 頭部MRIに
よる画像撮影。
脳室拡大および脳全体の萎縮を認める。
⑦ 平成21年4月5日
WAIS-R
Y-G性格検査
検査困難
⑧ 平成21年4月10日
退院
⑨ 平成21年9月20日
長谷川式
簡易知能評価スケール 3/30
頭部CT MRI 撮影
脳萎縮著名
神経系統の障害に関する医学的所見
日常生活状況報告(表) (裏)
後遺症診断書
(4)自賠責保険の認定
結論 別表二第三級
理由
高次脳機能障害の認定
初診時において、頭部外傷に起因する重度の意識障害があり、画像上も
大脳基底核および脳室内の出血が認められる。
症状経過においても、初診時に重度の意識障害が認められるほか、その
後も高度の精神障害が認められ、画像上、びまん性軸索損傷、脳萎縮、
脳室拡大が確認されていることから、本件事故受傷による脳の器質的損
傷による高次脳機能障害ととらえられる。
障害程度・等級の認定
障害の程度については、記憶や見当識の喪失、人格変化顕著、家族以外の者
に対する他害行動が認められる。精神機能検査についてWAIS-Rは、検
査困難、長谷川式では、19/30であり、知能低下が認められる。食事・
更衣・入浴は大部分介助が必要であり、時々尿便失禁があること、歩行は自
立しているものの、公共交通機関の利用は大部分介助が必要なことから、別
表2-3級と判断。
① 医療・医学分野における高次脳機能障害とは
高次脳機能障害=脳損傷に起因する認知障害全般
② 福祉行政における高次脳機能障害
 「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」
「社会的行動障害」や「全般的な人格障害を
含むもの。」
 身体機能障害者としての福祉サービスと、精
神機能障害者としての福祉サービスの隙間に
ある障害(見落とされやすい障害)として把
握。
③ 民事交通賠償分野における高次脳機能障
害
ア 自賠責保険における「脳外傷における高次脳機能障害認定
システム」(平成13年1月)
行政的な「高次脳機能障害」を「脳の器質性精神障害」と
して後遺障害等級評価を行うもの。
○ 自賠責平成23年報告(資料7)「自賠責保険における後遺
障害認定は、「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損
害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・
国土交通省告示第1号)により、「等級の認定は、原則として
労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行
う」ことが定められている。
この労災認定基準は、厚生労働省労働基準局が行政通達
の形で明示したものであり、この基準において「高次脳機能障
害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRI、
CT等によりその存在が認められることが必要となる」とされ
ており、これを踏まえ自賠責保険においても、高次脳機能障害
として認定を行うためには、脳の器質的損傷の存在が前提とな
る。」(平成23年報告(資料7)2頁)
イ
民事交通賠償における 高次脳機能障害
民事交通賠償においても脳の器質的病変の存在を前提とすると
言ってよいか。
α 画像診断を前提とするもの
(参考) 名古屋地方判平成23年5月13日自保1853号8
頁(高次脳機能障害否定例 資料8)
「(厚生労働省高次脳機能障害者支援モデル事業の高次脳機能障
害診断基準について)上記基準は、厚生労働省の福祉行政的観点から
の基準であるから、実際に生活上の支障が生じ、脳の器質的損傷がM
RI等で確認できなくても、PET等で機能の異常が確認でき、その
ような障害の発症する原因となりうる事故などが存在すれば広くこれ
を認めることができるとすることは、障害者福祉的な観点からは優れ
ているものといえるので、○○医師の・・判断もその意味では正当なも
のであると考えられる。しかし、単に患者を保護するだけでなく、加
害者とされた者に損害賠償責任を負わせることとなる不法行為の認定
の基準としては、これをそのまま採用することはできない。」
β
画像診断なくとも高次脳機能障害をみとめたもの
(参考)東京高判平成22年9月9日交民43巻5号1109
頁(資料9)
プロゴルファーのキャディー(男・固定時33歳)の右上肢のしび
れ、筋力低下、頻尿等の症状(自賠非該当)につき、事故直後の
強い意識障害や画像所見における異常所見、軽度外傷性脳損傷は
遅発性に現れることもあり必ず画像所見に異常が見られるという
ことでもないこと等から、事故により脳幹部に損傷を来した事実
を否定することはできないとし9級10号にあたるとして、67歳ま
で35%の労働能力喪失を認め、心因的要因の影響から3割の素因
減額を行った。
ア 頭部外傷
直接又は間接的に頭部に外力が作用して、頭蓋内外の組
織に器質的ないし機能的損傷を生じるものの総称
・ 開放性頭部外傷
・ 閉鎖性脳損傷(脳外傷)
臨床的分類
脳震盪 頭部への機械的な力による外傷直後の神経機能の障害で
、意識の変化、運動、感覚障害を特徴とする臨床症候群。通常一
過性であるが、重傷の脳震盪では、永続的な臨床脱落症状を起こ
すことがある。
脳挫傷 種々の程度の神経組織の破壊と出血を特徴とする外傷性
の神経組織構造の変化
脳裂創 神経組織と血管の断裂を意味し、脳柔膜やくも膜の断裂
を伴うもの
臨床病理分類
局在性脳損傷
広汎性(びまん性)脳損傷
頭部の回転加速度衝撃によって生じる広範囲の脳損傷。
びまん性軸索損傷
神経細胞体から伸びて他の神経組織と連絡している軸索が損傷を受けた
もの
→器質的病変をどうみつけるか?
ⅰ MRI CT で 脳出血像や脳挫傷痕が判明する場合。
ⅱ ⅰは確認できない場合でも脳室の拡大や脳全体の萎縮を確認し、軸
索損傷を推定する。
ⅲ ⅰまたはⅱのいずれもない場合に器質的病変ありとできるのか。
SPECTやPETでの脳内血流の活性程度の画像による判断の
取扱い。
イ
意識障害
グラスゴー コーマ スケール(GCS)
ジャパン コーマ スケール(JCS)
(青本 289参照)
1級
神経系統の機能または精神に著しい傷害を残し、常に介
護を要するもの(別表第一第1級1号)
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動
作について、常に他人の介護を要するもの」が該当し、具体的に
は、身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維
持に必要な身のまわりの動作に全面的介護を要するものが該当。
2級
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介
護を要するもの(別表第二第2級1号)」
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の
動作について、随時介護を要するもの」が該当し、具体的には、
著しい判断力の低下や情緒の不安定などがあって、一人で外出
することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。
身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、
生命維持に必要な身辺動作に家族からの声掛けや看視を欠かす
ことができないものが該当。
3級
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に
服することができないもの(別表第二第3級3号)
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機
能障害のため、労務に服することができないもの」が該当し、具体的
には、自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限
定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。
しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、
円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全く
できないか、困難なものが該当。
5級
神経系統の機能または精神に障害を残し、特に軽易な労務以外
の労務に服することができないもの(別表第二第5級2号)
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができ
ないもの」が該当し、具体的には、単純繰り返し作業などに限定すれば
、一般就労も可能。ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が
変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため、一般人
に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理
解と援助を欠かすことができないものが該当。
7級
神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以
外の労務に服することができないもの(別表第二第7級4号)
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができな
いもの」が該当し、具体的には、一般就労を維持できるが、作業
の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人
と同等の作業を行うことができないものが該当します。
9級
神経系統の機能または精神に障害を残し、服すること
ができる労務が相当な程度に制限されるもの(別表第二第9級
10号)
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、
社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限さ
れるもの」が該当し、具体的には、一般就労を維持できるが、
問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに
問題があるものが該当。
① 算定式
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニ
ッツ係数」
② 等級と労働能力喪失率
労働能力喪失率表
(設問1) 自賠責の判断に対して、争う方法。争うべ
きポイント。
1 本事案の特徴
【初診時】
意識障害の有無 重度の意識障害(刺激をしても覚醒しない状態JC
SⅢ-200.GSC7.)
画像所見
頭部CT撮影 大脳基底核および脳室内の小出血
【症状経過】
意識障害レベル 中程度の意識障害(刺激すると覚醒するが刺激を
やめると眠り込む状態 意識レベルJCSⅡ-10~20) が17
日間継続(事故時から20日間意識障害継続)
画像所見
頭部MRI撮影 大脳基底核、脳幹部の損傷
脳室拡大および脳全体の萎縮
【症状固定時】
画像所見 頭部CT MRI 撮影
脳萎縮著名
【精神障害】 症状経過において 見当識障害、健忘状態持続。記憶力
の著しい障害あり。易刺激性などの情動障害。
WAIS-R Y-G性格検査
検査困難
長谷川式 簡易知能評価スケール 19/30
【日常生活の状況】
人格変化顕著。易怒性 他害行為。尿便失禁。
→ 本件事故受傷に伴う脳の器質的損傷に起因する障害
→ 精神機能検査結果
障害の程度については、記憶や見当識の喪失、人格変化顕著、家族以外
の者に対する他害行動が認められる。精神機能検査についてWAIS-
Rは、検査困難、長谷川式では、19/30であり、知能低下が認められ
る。食事・更衣・入浴は大部分介助が必要であり、時々尿便失禁がある
こと、歩行は自立しているものの、公共交通機関の利用は大部分介助が
必要なことから、別表2-3級と判断。
2
争う方法
異議申立か? 自賠共済紛争処理機構の紛争処理申立か?
訴訟提起か?
3 主張のポイント
自賠責は3級の高次脳機能障害を認めているので、1級または2
級が認められないかとの観点での主張。
精神障害の程度。
→ 精神機能検査結果
日常生活状況報告によれば、身体機能は残存しているものの、人
格変化が顕著で、家族以外の者に対しても他害行為が止まらず、
記憶が失われているなど認知機能が著しく低下し、時折、尿便失
禁あり、公共交通機関の利用は大部分介助が必要。
精神障害として別表一 第2級1号以上の可能性高い。
長谷川式簡易知能評価スケールで19点であることの評価
質問内容
1:年齢
2:日時の見当識
言葉の即時記銘
5:計算
3:場所の見当識
6:数字の逆唱
の遅延再生8:物品記銘
4:
7:言葉
9:言語の流暢性
点数の意味
30点満点で、20点以下のとき、 認知症の可能性が高いと判断さ
れる。
認知症の重症度別の平均点
非認知症:24.3点/軽度認知症:19.1点/中等度認知症:15.4点
/やや高度認知症:10.7点/高度認知症: 4.0点
(設問2) 別表1-1級が認定されたとした
場合の後遺症に関する損害賠償額の算定。
ⅰ
後遺症逸失利益の算定
① 基礎収入
24歳女性の基礎収入をどうみるか。
②
労働能力喪失率
③
ⅱ
労働能力喪失期間と喪失期間に対応したライプニッツ係数の選択
後遺症慰謝料の算定
ご清聴ありがとうございました