地域社会論 第5回_2 Ⅴ_2.現代社会 再帰的近代化 11月9日 参考図書 • W.ベック・A.ギデンズ・S.ラッシュ著、 松雄精文・小幡正敏・叶堂隆三訳 『再帰的近代化』而立書房1997年 • 宮台真司著 『日本の難点』幻冬舎新書2009年 【産業化】 • 産業革命以来の生産様式は、かつての農業生 産を主体とした狭い地理的範囲での生産から、商 工業に比重を置き国際貿易を含めた広い地理的 範囲での生産へと移行していった。 • また、科学的管理による生産性の向上は賃金の 上昇・製品価格の引下げをもたらし、これが製品需 要の拡大、生産の大規模化、さらに一層の生産性 の向上へと循環し、資本主義市場経済の高度成長 をもたらした。このメカニズムはフォーディズムと呼 ばれている。 【欲求階層の上昇】 • 産業の発展、消費生活の安定、向上の中 で、A.マズローの言うように、人々の欲求は、 安全・生存から、仲間として・能力ある者とし て人から認められること、そして自己実現へと 向かった。 【価値の多様化】 • こうした中で、人々の欲求は様々な形で現 れ、これまでのやり方には必ずしも縛られな い各人各様の価値が相互に認められるよう になっていった。この結果、あるゆることに相 対的主義的な判断が持ち込まれるようになっ てきた。これがポストモダンの核となる発想で あろう。 【自由の衝突】 • 価値の多様化は、自由の一層の尊重と併 行して進む。しかし、J.S.ミルの言うような愚行 権(他人に被害を掛けなければ何をやっても いい権利)は、単に、暴力的な損傷を与えるこ とを回避するだけでなく、多様な迷惑をも回避 することが要請されるようになり、共生のため の新たな調整システムが求められるようにな る。 【家庭機能の外生化】 • 産業革命以降の経済の発展の中で、生産 手段の所有・管理は一部の者に限られるよう になり、資本家と労働者の分離が進む。また、 これまで、各世帯の中で充足されてきた機能 は、家庭の外部にある企業等の提供する財 サービスによって充足されるようになっていく。 • この結果、家族・地域社会の繋がりが強 かった自給自足的経済から、お金を媒介とし た商取引中心の経済へと移行していった。こ れはF.テンニスの言う、ゲマインシャフトから ゲゼルシャフトへの変化である。 【家族・地域の解体】 • 人々は次第に新たな経済活動を担う都市 へと移動し、世帯の核家族化・単身化が進む とともに、地域での多様な繋がりも次第に解 体していった。 【生活リスクの顕在化】 • 各人の生産手段の喪失や家族・地域社会 の紐帯の弱体化は、生活を脆弱化させてきた。 • 特に、終身雇用体制等の解体、非正規雇用 の増加などの中で、著しい困窮に陥いるもの も目立つようになってきた。 • 失業などを契機として、個々人の生活の脆 弱さが露見することとなり、格差社会が顕在 化し、出生率の低迷、自殺の増大等々多様 な社会問題が噴出している。 【福祉施策の展開】 • この結果、人々が排除されない社会制度の 形成が要請され、多様な福祉施策の展開が 求められている。 【グローバル経済化】 • 他方、情報通信システムの浸透等もあり、 産業経済活動が一層地球レベルで行われる ようになってきている。特に、多くの発展途上 国が経済的離陸を遂げつつあり、先進諸国 経済は、これらの新たな経済活動とどう調和 していくか、困難な課題に入り込んでいる。 • 1972年 【経済活動の自己目的化】 • 企業は、グローバルな経済活動の中で生き 続けるため、専ら、自らの利益確保主眼とし て、人々の生活に必要な財・サービスの提供 やそこに働く人に必要な所得の源泉を提供す ることを二の次としつつある。 • また、金融資本の拡大の中で、企業活動は、 企業の所有者である株主の利益を目的とす るように変わってきている。 • この結果、金融資本を中心として、短期的 利益を狙って、明らかに長期的には存続し得 ない経済システム全体して整合性のとれない 活動も辞さなくなる。 【小さな政府・個人の自立】 • 他方、政府は、人々・企業の税負担の軽減 要請から、社会保障施策を見直し、小さな政 府を指向することとなる。新自由主義の風潮 を一層協調し、社会全体が個人の自立を要 請する。 • この結果、金融資本を中心として、短期的 利益を狙って、明らかに長期的には経済シス テム全体して整合性のとれない活動も辞さな くなる。 【各自の自省 (コミットメント)】 • 各自がそれぞれなりに、社会のあり方を 自省し、それぞれが必要と考える行動を展開 していくことが避けられない。これは近代化の 延長・その折り返し点に現れてきた社会現象 であり、A.ギデンズ等により「再帰的近代」と 呼ばれている。 • 多様化した価値の下では、他者に「何々を すべし」という主張はありえない。 自らの真摯な行動を他者が観察し、共感か ら模倣(ミメーシス)されることによって、自らの 意図を広めていくことができる。 • 自発的なアソシェーション(NPO)が形成され、 必ずしも収益を目的としないボランタリィな活 動が活性化していく。 ≪政治的主張の両極化≫ 【コンサバティヴ】 • これまでのような経済成長を取戻し、人口の 維持増加を指向し、一体となって力強い社会 を形成していく。 • 方向性の物語としては分かり易い。 • 正義論ではコミュニタリアンと親和性があると 考えられる。 【リベラル】 • これまでのような拡大基調は困難であり、経 済的格差など多様な課題の解決を直接的に 図り、多様性を許容した豊かな社会を築いて いく。 • 課題解決のための新たな行動が求められ、 共通認識の形成が難しい。 • 正義論ではJ.ロールズの正義論と親和性が あると考えられる。 【リベタリアン・コミュニタリアン論争 (社会的選択)】 • こうした中で、共に生きていくための新しい 社会秩序が求められている。 • 基本的には、市場活動の基礎の上に、政府 による再分配で調整していくことが考えられて いる。我が国では、その市場が暴走しがちと なり、政府の信頼も欠くため、方向の選択が 極めて困難となっている。 • 世界的には、1970年代初のJ.ロールズの 「正義論」以来、新自由主義のリベタリアンか ら、それぞれの共有文化を基礎とすることを 主張するコミュニタリアンまでの広がった議論 が続けられている。 【熟議か代議か (社会的意思決定)】 • 社会のあり方の選択については、「民主主義」的手続 きによってなされるべきとされている。 しかし、その手続き、可能性自体が定かではない。 公共の場で深く議論(熟議)し収斂させていくことがで きるという見方と、複雑な社会の各人による理解は困 難であり代議制で集約していかざるをえないという見 方が対立している。 我々は、一方で議論をしつつ、一方で各自の判断に よる代議制で社会の方向を定めていく他はないのであ ろう。 ソーシャル・キャピタル • 第二の近代で中間集団から離脱あるいは放逐 • もはや市場や政府ばかりに求めることはできない • 「人を排除しない足腰の強い社会」の基礎として 各人の自発的な行動による多様な繋がりが大切 ⇒ソーシャル・キャピタル (パットナム)
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