ⅩⅥ_2.現代社会 再帰的近代化

地域社会論 第5回_2
Ⅴ_2.現代社会 再帰的近代化
11月9日
参考図書
• W.ベック・A.ギデンズ・S.ラッシュ著、
松雄精文・小幡正敏・叶堂隆三訳
『再帰的近代化』而立書房1997年
• 宮台真司著
『日本の難点』幻冬舎新書2009年
【産業化】
•
産業革命以来の生産様式は、かつての農業生
産を主体とした狭い地理的範囲での生産から、商
工業に比重を置き国際貿易を含めた広い地理的
範囲での生産へと移行していった。
• また、科学的管理による生産性の向上は賃金の
上昇・製品価格の引下げをもたらし、これが製品需
要の拡大、生産の大規模化、さらに一層の生産性
の向上へと循環し、資本主義市場経済の高度成長
をもたらした。このメカニズムはフォーディズムと呼
ばれている。
【欲求階層の上昇】
•
産業の発展、消費生活の安定、向上の中
で、A.マズローの言うように、人々の欲求は、
安全・生存から、仲間として・能力ある者とし
て人から認められること、そして自己実現へと
向かった。
【価値の多様化】
•
こうした中で、人々の欲求は様々な形で現
れ、これまでのやり方には必ずしも縛られな
い各人各様の価値が相互に認められるよう
になっていった。この結果、あるゆることに相
対的主義的な判断が持ち込まれるようになっ
てきた。これがポストモダンの核となる発想で
あろう。
【自由の衝突】
•
価値の多様化は、自由の一層の尊重と併
行して進む。しかし、J.S.ミルの言うような愚行
権(他人に被害を掛けなければ何をやっても
いい権利)は、単に、暴力的な損傷を与えるこ
とを回避するだけでなく、多様な迷惑をも回避
することが要請されるようになり、共生のため
の新たな調整システムが求められるようにな
る。
【家庭機能の外生化】
•
産業革命以降の経済の発展の中で、生産
手段の所有・管理は一部の者に限られるよう
になり、資本家と労働者の分離が進む。また、
これまで、各世帯の中で充足されてきた機能
は、家庭の外部にある企業等の提供する財
サービスによって充足されるようになっていく。
•
この結果、家族・地域社会の繋がりが強
かった自給自足的経済から、お金を媒介とし
た商取引中心の経済へと移行していった。こ
れはF.テンニスの言う、ゲマインシャフトから
ゲゼルシャフトへの変化である。
【家族・地域の解体】
•
人々は次第に新たな経済活動を担う都市
へと移動し、世帯の核家族化・単身化が進む
とともに、地域での多様な繋がりも次第に解
体していった。
【生活リスクの顕在化】
•
各人の生産手段の喪失や家族・地域社会
の紐帯の弱体化は、生活を脆弱化させてきた。
•
特に、終身雇用体制等の解体、非正規雇用
の増加などの中で、著しい困窮に陥いるもの
も目立つようになってきた。
•
失業などを契機として、個々人の生活の脆
弱さが露見することとなり、格差社会が顕在
化し、出生率の低迷、自殺の増大等々多様
な社会問題が噴出している。
【福祉施策の展開】
•
この結果、人々が排除されない社会制度の
形成が要請され、多様な福祉施策の展開が
求められている。
【グローバル経済化】
•
他方、情報通信システムの浸透等もあり、
産業経済活動が一層地球レベルで行われる
ようになってきている。特に、多くの発展途上
国が経済的離陸を遂げつつあり、先進諸国
経済は、これらの新たな経済活動とどう調和
していくか、困難な課題に入り込んでいる。
• 1972年
【経済活動の自己目的化】
•
企業は、グローバルな経済活動の中で生き
続けるため、専ら、自らの利益確保主眼とし
て、人々の生活に必要な財・サービスの提供
やそこに働く人に必要な所得の源泉を提供す
ることを二の次としつつある。
• また、金融資本の拡大の中で、企業活動は、
企業の所有者である株主の利益を目的とす
るように変わってきている。
•
この結果、金融資本を中心として、短期的
利益を狙って、明らかに長期的には存続し得
ない経済システム全体して整合性のとれない
活動も辞さなくなる。
【小さな政府・個人の自立】
•
他方、政府は、人々・企業の税負担の軽減
要請から、社会保障施策を見直し、小さな政
府を指向することとなる。新自由主義の風潮
を一層協調し、社会全体が個人の自立を要
請する。
•
この結果、金融資本を中心として、短期的
利益を狙って、明らかに長期的には経済シス
テム全体して整合性のとれない活動も辞さな
くなる。
【各自の自省 (コミットメント)】
•
各自がそれぞれなりに、社会のあり方を
自省し、それぞれが必要と考える行動を展開
していくことが避けられない。これは近代化の
延長・その折り返し点に現れてきた社会現象
であり、A.ギデンズ等により「再帰的近代」と
呼ばれている。
•
多様化した価値の下では、他者に「何々を
すべし」という主張はありえない。
自らの真摯な行動を他者が観察し、共感か
ら模倣(ミメーシス)されることによって、自らの
意図を広めていくことができる。
• 自発的なアソシェーション(NPO)が形成され、
必ずしも収益を目的としないボランタリィな活
動が活性化していく。
≪政治的主張の両極化≫
【コンサバティヴ】
• これまでのような経済成長を取戻し、人口の
維持増加を指向し、一体となって力強い社会
を形成していく。
• 方向性の物語としては分かり易い。
• 正義論ではコミュニタリアンと親和性があると
考えられる。
【リベラル】
• これまでのような拡大基調は困難であり、経
済的格差など多様な課題の解決を直接的に
図り、多様性を許容した豊かな社会を築いて
いく。
• 課題解決のための新たな行動が求められ、
共通認識の形成が難しい。
• 正義論ではJ.ロールズの正義論と親和性が
あると考えられる。
【リベタリアン・コミュニタリアン論争
(社会的選択)】
•
こうした中で、共に生きていくための新しい
社会秩序が求められている。
•
基本的には、市場活動の基礎の上に、政府
による再分配で調整していくことが考えられて
いる。我が国では、その市場が暴走しがちと
なり、政府の信頼も欠くため、方向の選択が
極めて困難となっている。
•
世界的には、1970年代初のJ.ロールズの
「正義論」以来、新自由主義のリベタリアンか
ら、それぞれの共有文化を基礎とすることを
主張するコミュニタリアンまでの広がった議論
が続けられている。
【熟議か代議か (社会的意思決定)】
•
社会のあり方の選択については、「民主主義」的手続
きによってなされるべきとされている。
しかし、その手続き、可能性自体が定かではない。
公共の場で深く議論(熟議)し収斂させていくことがで
きるという見方と、複雑な社会の各人による理解は困
難であり代議制で集約していかざるをえないという見
方が対立している。
我々は、一方で議論をしつつ、一方で各自の判断に
よる代議制で社会の方向を定めていく他はないのであ
ろう。
ソーシャル・キャピタル
• 第二の近代で中間集団から離脱あるいは放逐
• もはや市場や政府ばかりに求めることはできない
• 「人を排除しない足腰の強い社会」の基礎として
各人の自発的な行動による多様な繋がりが大切
⇒ソーシャル・キャピタル (パットナム)