1 第4回岐阜建築鉄骨技術交流会 (かんたん構造講義) 第3部 その1 柱崩壊と梁崩壊 (塑性設計の話) 塑性設計の概要 那由多デザインオフィス 多田 昌司 2 柱崩壊と梁崩壊とは 柱、梁のどちらが先に塑性変形するか ということです。 塑性変形を考慮した設計法を 塑性設計と言います。 3 よく、昭和56年の建築基準法改正以前に建てられ た建物は、耐震強度が低いと言われます。 しかし、改正によって、想定地震力が引き上げられ たわけではありません。 昭和56年の改正の内容は、 ・バランスの悪い建物を制限した ・塑性設計を取り入れた この2点に集約できます。 (1) 塑性変形とは 最初の状態 引っぱる 弾性変形 力をぬく さらに引っぱる 塑性変形 力をぬく 4 5 弾性と塑性 応力(N/mm2) 1000 780N/mm2鋼 800 590N/mm2鋼 600 590N/mm2高性能鋼 400 塑性領域 200 弾性領域 途中で力を抜いても、 元の形に戻らない 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 6 しつこいですが 元の形に戻らないとは どういう事でしょうか? 塑性変形した例 普通はこんな変形まで考えません 7 もういちど弾性と塑性 応力(N/mm2) 600 400 200 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 8 (2) 塑性設計するわけ 塑性領域まで使っても、それほど 耐力が大きくなるわけではありません では、いったい、何のために 建築では、塑性変形まで 考えるのでしょうか 9 10 地震荷重の特殊性(1) 大きな物体が振動すると、 その上の小さな物体は大きく揺れます。 11 地震荷重の特殊性(2) 地震は、地球の一部が揺れ動く 長野 金沢 福井 京都 富士山 岐阜 大津 名古屋 豊橋 津 静岡 浜松 東海地震 東南海地震 南海地震 そのエネルギーは 広島原爆 千~数万個分 12 どうやら、われわれは とんでもないものを相手にしているらしい ということが、わかってきました。 まともに太刀打ちできる相手ではないので、 その力をうまく逃がす工夫が必要です。 地震力をうまく逃がした例 法隆寺 五重塔 13 14 法隆寺の五重塔が どうやって地震力を逃がしているのかは いろいろな説がありますが そのひとつは 組み合わされた部材が擦れあうことで エネルギーを吸収している というものです。 ではなぜ、エネルギー吸収が有効なのでしょう エネルギーと運動の関係 大きな質量の運動が、小さな質量に伝わると、 運動(速度)が増幅される しかし、エネルギー吸収があると、増幅が少ない 15 鋼材の塑性変形で吸収できるエネルギー 仕事によるエネルギー量 = 力×移動距離 つまり、エネルギーは下図の水色の面積に等しい 応力(N/mm2) 600 400 200 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 16 17 エネルギー吸収によって、 建物に伝わる振動がへる ただし、これは現在では 仮説のひとつにすぎません。 しかし、鋼の大きな塑性変形能力が 鉄骨造の耐震性を高めているのは まちがいないようです。 (3)どんなとき塑性設計するのか 現在の建物は、次の3つのうちの、どれかの方法で設計されています。(*1) ル ー ト 建物 規模 計算方法 1 小規模 許容応力度計算 2 超高層 以外の すべて 3 許容応力度計算と 保有水平耐力計算 想定 その他の条件 地震力 0.3G 仕口破断の防止 強度指向型 0.2G ~ 0.3G 仕口破断の防止 柱脚の破壊防止 靭性に富む柱梁 バランスの良い 建物 仕上げ材脱落の 防止 靭性指向型 0.2G 1.0G 仕上げ材脱落の 防止 塑性設計型 (*1)平成12年の建築基準法改正で、これらと大きく異なる計算 方法(限界耐力設計法)が追加されました。 18 ルート1の設計 強度指向型 強く作ることで塑性設計を免除 • 規模等 : 小さいものに限る (階数3・高さ13m・軒高9m・スパン6m・延面積500㎡ 以下) • 計算方法 : 許容応力度計算のみ • 地震力 : 0.3G(通常の1.5倍) • 塑性の考慮 : 仕口の破断防止 19 ルート2の設計 20 靭性指向型 個々の材に十分な伸び性能を 持たせることで全体的な塑性設計を免除 ・規模等 : 超高層以外すべて。ただしバランスの良い 建物に限る(偏心率、剛性率の制限) ・計算方法 : 許容応力度計算のみ ・地震力 : 0.2G ただしブレースの割合に応じて最大0.3G ・塑性の考慮: 仕口の破断防止・柱脚の破壊防止・座屈防 止、局部座屈防止(板厚の制限) ・その他 : 仕上げ材脱落の防止(過大な変形禁止) 21 ルート3の設計 塑性設計型 保有水平耐力計算による塑性設計 ・規模等 :超高層以外すべて ・計算方法 :許容応力度計算と保有水平耐力計算 ・地震力 :許容応力度計算 0.2G 保有水平耐力計算 1.0G (ただし伸び能力に応じて0.25~0.55倍に低減) ・塑性の考慮 :個別の制限はない (すべて、保有水平耐力計算で考慮) ・その他 :仕上げ材脱落の防止(過大な変形禁止) (4)塑性設計から見たSN鋼 降伏比 YR = YP / TS 応力(N/mm2) 600 破断伸び 400 引張強度 TS 200 降伏点強度 YP 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 22 23 SS鋼とSN鋼の違い(2) 降伏点強度 引張強度 降伏比 炭素量 破断伸び 特徴 YR(%) C(%) (実測%) YP(N/mm2) TS(N/mm2 SS400 16<t ≦40 235 ≦ 400 ≦ ≦510 --- SN400A t ≦40 235 ≦ 400 ≦ ≦510 SN400B 12<t ≦40 235 ≦ SN400C 12<t ≦40 21 ≦ ほんらい溶接に は使えない --- ≦0.23 21 ≦ 軽微な溶接に耐 えるようCを制限 400 ≦ ≦355 ≦510 ≦ 80 ≦0.20 22 ≦ 溶接用 SM400を改良 235 ≦ 400 ≦ ≦355 ≦510 ≦ 80 ≦0.18 21 ≦ 厚み方向の試験 を義務付け BCR295 12<t ≦22 295 ≦ 400 ≦ ≦445 ≦550 ≦ 90 ≦0.20 27 ≦ (23 ≦) 冷間加工鋼材 ()は t<16 BCP235 16<t ≦40 235 ≦ 400 ≦ ≦355 ≦510 ≦ 80 ≦0.20 22 ≦ 冷間加工鋼材 --- 24 SS400の場合 規格からは、実線のような鋼材もありえます 応力(N/mm2) 降伏点に上限なし 引っ張り強度はこの間に 600 400 200 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 25 SN400B,C , BCP235の場合 応力(N/mm2) 降伏点に上限あり この間が2割以上離 れている 600 400 200 降伏比≦80% 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 26 BCR295の場合 応力(N/mm2) 冷間加工するとはっきり した降伏点が出なくなる (0.2%オフセットを採用) この間が1割以上離 れている 600 400 200 降伏比≦90% 0 0 10 20 30 40 歪み(%) 角型鋼管の規格 SN400B →冷間加工→ BCR295 降伏点強度が上昇 SN400Bと異なる規格 SS400 →冷間加工→ STKR400 降伏点強度が上昇 (平均355N/mm2) が、SS400の規格をそのまま適用 SN400B →冷間加工→ BCP235 加工は角の部分だけ SN400Bと同じ規格 27 28 引っ張り、圧縮を交互にかけた場合 応力 500 (N/mm2) SN400B 引張側 歪み -4 -2 0 圧縮側 -500 2 4 (%) 29 後半へ続く・・・・・・ 30 参考文献 井上一郎 / 建築工構造の理論と設計 / 京都大学学芸出版会 (社)鋼材倶楽部 / 建築構造用圧延鋼材(SN材)JIS G3136-1994 (財)日本建築センター / 冷間成型角型鋼管設計・施工マニュアル 足利裕人 / 力学シミュレーション入門 / 現代数学社 31 最後のスライドです おまけ ページに空きができたので、ここで、建築基準法の 地震力の考え方などを紹介しておきます。 0.2倍 建築基準法では、昭和56年以前は 震度係数=0.2という呼び方で、そ れ以降は層せん断力係数=0.2とい う呼び方で、許容応力度設計で使 う地震力を規定しています。 多少計算方法に違いはあるものの、 どちらも「建物自身の重さの0.2倍 を水平力としてかける」という考 えが基本になっています。 建物重さ 32 33 ≒200ガル これは、建物1階に入ってきた振動として、 0.2G(≒200ガル)の水平加速度を想定する。 と言うことになるのでしょう。建築基準法には、 加速度、ガル、などの言葉は出てきませんが。 1G = 980ガル = 980cm/sec2 です。 最近は、TVでも、大地震のニュースで、ガルを 表示するようになって来ました。建築基準法を 意識しているのかもしれません。 ただし、こちらは地面のゆれ、建築基準法は建 物1階のゆれです。 関東大震災(1923) 十勝沖地震(1968)八戸 宮城県沖地震(1978) 兵庫県南部地震(1995) 330ガル 235ガル 432ガル 818ガル M=7.9 M=7.9 M=7.4 M=7.2 34 とはいえ、多くの方々には、「ガル」よりも「震度」のほうがお馴 染みでしょう。 震度は、昔は、気象台の予報官が、体感で決めていました。 平成8年から加速度地震計を使うようになりましたが、体感で決 めていた時代と整合するように・・・ 1. 地震計の出力をフィルター関数で処理する。 2. 0.3秒以上連続しないピークは取り除く。 3. 対数表示にする。 1 2 振動周期 3 経過時間 35 という手順をふんで決められます。 ガルは地震計の出力そのままですから、震度とはあまり 整合しません。 気象庁のホームページより 36 震度の処理の最後に「対数」があるため、震度が2増 えると、加速度は10倍増える、という関係になります。 つまり、ようやく揺れを感じる震度0の地震と、震度7 の激震を比べると、3000倍も加速度が違うことになりま す。これでは尺度が粗すぎて、建物の設計には使えない わけです。 日本では7段階の震度を使いますが、外国では12段階の 震度を使うところが多いです。外国のニュースを聞くと きは、どの震度なのかに注意する必要があります。 また、震度を使わずマグニチュードだけで表す国もあ ります。これは震源となる地盤が1種類しかない場合は、 それだけで被害の大きさや範囲が決まってしまうからで す。
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