成長支援として 不登校援助を考える 岡山大学大学院教育学研究科 東條光彦 「不登校の未然防止に向けて ~就学前から高等学校までの連携~ 」 岡山県教育庁(2011) http://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/95057_311255_misc.pdf 2010年3月大学卒業者の進路 (内閣府,2012) 中学校卒業 124万人 就 職 0.5万人 高校卒業 115万人 18.6万人 大学卒業 85万人 19.9/56.9× 100=34.97 0.3万人 7.5万人 19.9万人 無業, 一時的 1.4万人 中途退学 7万人 56.9万人 早期 離職者 大学院進学 10.7万人 5.7万人 14.0万人 6.7万人 引きこもりの年齢分布 (厚生労働省,2005) 1200 100 90 1000 955 (n=3293) (%) 800 80 70 760 60 人 数 高齢化 50 % 597 600 466 400 30 321 20 200 0 40 135 10 16 0-12 0 13-15 16-18 19-24 年齢層 25-29 M=26.7±8.2 30-34 35- 小1,中1,高1 での不適応 就労初期 での不適応 学齢期 後の引きこもり 退却現象の意味するものは何か 抱え(続け)ている課題は何か 不登校のきっかけ(内閣府,2009) 教師関係 21% 友人関係 45% 学業不振 28% 社会適応上の個人内リスク ⇒ 対人関係の未熟さ カウンセリングは どのように貢献しようとしているのか ─その役割と限界─ カウンセリング理論における 不適応の背景理解 自己実現自由な感情表現 適応上の問題 自由な感情表現 自 己 成 長 力 社会的圧力 判断・禁止・指示 など カウンセラーの3条件 ─クライエントの潜在能力を引き出す条件 無条件の 共感的理解 肯定的尊重 自己一致 傾 聴 カウンセリングの一般的進め(み)方 会話ベースで クライエント(相談者)の感情体験を重視し つつ カウンセラーとクライエントの「関係」を活か しながら クライエントの自己成長力の「回復」を待つ ⇒児童・生徒の「内的」成長を援助する 実践現場でカウンセリングを行うこと ─困難な問題 問題場面に常に直面している このため当該場面への対応に追われ,クラ イエントの内省を促しにくい 問題認識自体があいまい 年齢や資質によっては言語的なやり取りを 中核とするカウンセリング活動自体が困難 クライエントに会えない場合が結構あるため, 仲介者による間接介入を考えざるを得ない 実践場面で行うカウンセリング活動 ─必要な要素 問題場面への具体的対処が示唆できる 内省よりも行動を指示できる 間接的介入に耐えうる援助の枠組み ⇒を十分意識しておくことが必要となる (風土に合ったカウンセリングの枠組み) それでもカウンセリングは使える!? ─アルコール問題を持つ人への治療から (Harris & Miller,1990) 問題飲酒者を以下のグループに無作為に割り付け 1.すぐに10週間の外来治療に入る:TR群 2.セルフヘルプに関するアドバイス(1回)+読書療法 :SH群 3.待機(10週後から治療):WL群 4.待機+セルフ・モニタリング:WL群 その結果… ─アルコール問題を持つ人への救急治療から (Chafetz et al.,1990) 飲酒による救急受診者を以下のグループに 無作為に割り付け 1.1回カウンセリング(20分以内) +応急処置 BC群 2.標準的応急処置 EP群 こちらの結果は… カウンセリングには「限界」はあるが・・・ カウンセリングは短時間でも効果を持つ 「ちょっとした」カウンセリング的な関わりは, 変化への動機づけを醸成する 「トレーニング」という視点を 意識した成長支援 (従来の)適応支援の考え方 感情体験の明確化 自己課題の洞察 ↓ 内的変容 ↓ 適応的行動へ ここに 直接働きかける 社会的スキル トレーニング 社会的スキルとは,対人関係を形成し、維 持するために必要不可欠な技能 (佐藤,1996) をトレーニングによって獲得する 社会的スキルが欠如していると 不登校の誘因 ←友人関係をめぐる問題 ←学業の不振 ←教師との人間関係をめぐる問題 「抑うつ」「攻撃性」「引っ込み思案」「ス トレス反応」 などのリスクが高まる SST基本プログラム (1セッションの流れ) 1)ウォーミングアップ 2)インストラクション ←「教えられて」 3)モデリング ←「まねをして」 4)リハーサル ←「試してみる」 5)フィードバック ←「結果から学ぶ」 これらを反復実施する SST訓練効果の測定 ─適応指導教室での実践から─ 社会的スキル 「知識の側面」「言語的側面」「非言語的側面」 の3つの側面からなっている。 ⇒参加者の実態を多面的に把握する必要がある。 ①生徒の社会的スキルを測定するもの ⇒生徒自身・第3者によるチェック ②生徒の孤独感を測定するもの ③生徒の行動観察によるチェック SST ─実際にやってみて・・・ 対象者 SSTに参加した63名の小・中学生うち, 訓練前・訓練後のアンケートへの回答 にミスがなく,全5セッション中3回以上 出席した不登校生徒24名 SST(結果2) 社会的スキル(他者評価) 第3者による参加者の社会的スキルについてアン ケート評定の平均得点を実施前・後で比較。 下 位 尺 度 得 点 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 73 72 71 70 69 68 67 66 65 64 63 社 会 得的 点ス キ ル SST前 SST後 Fig1 他者評定による社会的スキル得点の変化 関係参加スキル 関係向上スキル 関係維持スキル 社会的スキル SST(結果3) 社会的スキル(行動評定) SST第1回目と第5回目の生徒の取り組み の様子を複数の評定者により評定。 社 28 会 27 的26 得 ス 25 点 キ24 ル23 尺22 度21 行動評定 20 19 18 SST前 SST後 Fig2 社会的スキル行動評定の変化 孤独感得点の変化 孤 独 感 下 位 尺 度 得 点 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 48 47 46 45 44 43 42 41 40 39 38 1 2 SST前 SST後 Fig3 孤独感・孤独感下位尺度得点の変化 孤 独 感 総 得 点 周囲からの孤立に よる孤独 親密性の欠如によ る孤独 孤独感得点 ま と め 本実践を通して,今回のSSTが児童・生徒 の社会的スキルを改善するだけでなく,主 観的適応感である孤独感の改善にも一定 の効果を示すことが明らかとなった。 特に孤独感の高い生徒において『関係参加 スキル』の改善と,『周囲からの孤立による 孤独』感の減少が認められ,一定の効果を 示した。 適応支援の目的 個人の人格 的成長 ⇒ いわゆる「カウンセリ ング」をイメージした かかわり ⇒ 適応援助 「トレーニング」という 視点でのかかわり たとえば… 不登校にどう関わるのか 事例 1 中学生,男子 不登校状態が長期化し,再登校を意識する がなかなか実現しない。休日,自宅に友人が 来たときには面会し,それなりに楽しく遊んで 過ごすものの,登校の話題を出すと「人に見 られるのが嫌」といった発言をする。 事例 2 中学生,男子 欠席が続いて2ヶ月を過ぎたころから就寝, 起床時間が不規則になり,徐々に昼夜が逆 転した生活に移行。現在は,夕方近くに離床 し,夕食は家族と摂るが,それ以降の時間は 自室でインターネットをして過ごしている。 事例 3 中学生,男子 欠席を始めた当初は,学校から配付されたプ リント等に手をつけようとしていたが,現在は まったく机に向かわず,家人が学習するよう 促しても生返事をするだけになっている。 ストレスの処理過程からみた 不登校生徒の対人感覚 刺激場面 受け止め方 =ストレッサー 脅威場面 予期不安場面 ストレス場面 友達に会う 状態(症状) =ストレス反応 対処可能性 信念・考え方 構え など 何か変に思わ れるかも・・ 主観的・言語的 身体的・生理的 運動的 緊張感 欠席 よく考えられる不登校援助 授業への参加 学校(保健室) 適応指導教室 家 または 授業への参加 学校(保健室) 学校近くの公園 外出 家 ストレスの処理過程からみた 不登校支援の視点 対人関係 トレーニング 友達に会う 認知カウンセリング リラクセーション トレーニング 何か変に思わ れるかも 緊張感 欠席 ここへのかかわり=登校援助 だけでいいのか? 不登校支援は成長支援 対人関係,学業 物事の受け止め方 ここに「登校」 精神身体的反応の制御 があるかも =個人の中・長期的課題 ⇒今年度できること(さしあたりの目標) ⇒次年度届きそうな目標 ⇒次の学校でなら可能性がある課題 スモール・ステップの原理 かなり大変だけどや りようによっては手が 届きそうな目標 難しい ちょっとだけがん ばればできそう なこと 今、できていること 簡単 スモールステップの原理にもとづく 不登校支援 対人関係 トレーニング 認知カウンセリング リラクセーション トレーニング 友達に会う 何か変に思わ れるかも 緊張感 欠席 それぞれに スモールステップ がある たとえば・・・ 対人関係 トレーニング 認知カウンセリング リラクセーション トレーニング 友達に会う 何か変に思わ れるかも 緊張感 簡単な「主張」行動 から練習 受けとめかたの リアリティを吟味 わかりやすい呼吸 訓練を習慣化する お気づきかもしれませんが・・・ 事例1~3は 同一ケースです 社会的行動(事例1) 生活習慣(事例2) 学習行動(事例3) それぞれに課題 ⇒それぞれにステップがある スモール・ステップの原理 っていうけど… かなり大変だけどや 「できていること」がない!? りようによっては手が ex.1)朝起きられない 届きそうな目標 ex.2)誰とも話さない ちょっとだけがん ばればできそう なこと 今、できていること 24時間寝ている? 本当に誰とも? どんなチャンネルでも? 夕方には起きている お母さんとは話す メールでなら先生とも 午前中に離床し 更衣している 生活の実態を描写し,洗いなおしてみる 昼までには 起きている ⇒スタートラインが鮮明になる ようにする 起きる時間を 大雑把に 夕方 5時ころに 起きてくる 決める 児童・生徒への助言を考える どんなことができそうなのか一緒に考える 「犯人探し」はしない ・・・・その場合の“コツ”は やさしいことから積み上げていく じっくりと取り組む(時には一時的撤退も) クライエントのよい点を見つけ励ます という姿勢 不登校支援の基盤として 長期的不登校の背景に生体リズムの乱れ (佐野・新開,2003) 生活改善による意欲の向上(瀬川,1998) ⇒教育基盤としての家庭への介入の必要性 ⇔長期化による家族自体の低下 教育への無関心 保護者の エンパワーメント ここでもやはり まずは・・・ 学校の話題・・・ 指導ではなく隣人とし ての関係作り 日常的要望事項の伝達 定期的コンタクト 単独でのコンタクト 難しい 共同訪問 それを介しての伝達 コミュニケーション可能 な外部者の発見 連絡の拒否 簡単 保護者への助言を考える どんなことができそうなのか一緒に考える 「犯人探し」はしない ・・・・その場合の“コツ”も 解決のための具体的工夫に視点を置く じっくりと取り組むことを訴え続ける 保護者のかかわりのよい点を見つけ励ます という姿勢 課題についてのステップと行動連携 ━自分の考えを伝えたいとき 編 相手の反応を確かめ ながら,自由に,いろ いろな表現で伝える ステップアップ ふれあい教室でしかできないこと 友だちに話しかけ ないで済むように 努力する 学校でしかできないこと 家でしかできないこと 認知行動療法 最近のトレンド マインドフルネス認知療法(Mindfulnessbased cognitive therapy:MBCT) 弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy:DBT ) ⇒患者の情動体験への支持,気づき をうながす+各種のコントロールスキル ≒カウンセリングの目指すかかわり +スキルトレーニング カウンセリングスキルと治療結果 40 (Valle,1981) 35 30 再 25 発 率 20 ( % ) 15 L M H 10 5 0 6M 12M 18M 24M どんなふうにかかわられるのかが重要 つまり 現実的かつ効果的な 適応援助の姿勢は 十分に話を「聴く」態度 を基盤に クライエントの課題は何か を見立て 中・長期的見通し を(目当て)考えたうえで 直近の問題に解決,対応していく そのための有効な具体的方略の一つがスキ ルトレーニングという視点 不登校支援のポイント(まとめ) いくつかの側面から児童生徒の現状評価を行 う⇒改善の芽を探る 「それぞれに」無理のない目標を設定する⇒ス モールステップを「作る」イメージを持つ 何をすればいいかについて,児童生徒自身の イメージを使う⇒効果的な質問技術の活用 指導者はゴールを「意識」し続ける
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