スチームトラップの選択法と保守管理

スチームトラップの
特性と保守管理
スチームトラップの必要性
 なぜ、スチームトラップは必要なのか?
 ボイラーで蒸気を生成した後、装置・タンク・配管
等の蒸気使用装置へと運ばれる移送配管に
は十分な保温を施していても、蒸気の熱は配
管表面から大気へ放出されてしまう。
 この放熱により蒸気の一部分は自身の熱エネ
ルギーを失い、凝縮しドレン(復水)となる
スチームトラップの必要性
 この凝縮したドレンが配管内に滞留していくと、
蒸気の通路がふさがれたりして様々な問題
が発生する。代表的なものではウォーターハンマー
による蒸気配管の破損などが上げられる。
 蒸気が移送された設備では、被加熱物に熱
が伝えられると、蒸気の熱エネルギーは放出さ
れ、凝縮するにつれてドレンが発生し滞留てく
る。このドレンが排出されなければ加熱に時間
が掛かるばかりか、ドレンが滞留しすぎると加
熱ができなくなる。
スチームトラップの必要性
 また、蒸気配管の通気を開始する時、管内を
満たしていた空気や不凝縮ガスが末端まで押
し込まれる。この空気が被加熱物の蒸気ス
ペースに流入すると、蒸気の熱伝導率は著しく
低下し熱効率の低下が伴われる。
スチームトラップの必要性
 スチームトラップの必要性を纏めると以下の
3点が上げられる
1.ドレンを排出すること
2.蒸気を漏らさないこと
3.初期における空気や不凝縮ガスを排出でき
ること
スチームトラップの分類
 スチームトラップは、使用用途によって数種
類の製品を使用する。そのスチームトラップの作
動原理から、3種類に大別されることが分か
る。
1.メカニカルスチームトラップ (フリーフロート式)
2.サーモスタティックスチームトラップ
(温調式・・・バイメタル式)
3.サーモダイナミックスチームトラップ (ディスク式)
メカニカルスチームトラップ
(フリーフロート式)
 メカニカルスチームトラップは蒸気とドレンの
比重差で作動する。つまり、ドレンがスチームトラッ
プ内に流入し溜まってくると、フロートが上昇して
弁が開きドレンを排出する。ドレンが無くなるとフ
ロートが沈降して、蒸気が漏れる前に弁を閉じ
る。
メカニカルスチームトラップ
(フリーフロート式)の作動原理-1
 本体内部にドレン水が
流入すると、フロートは
徐々に回転しながら
弁座から浮き上がる。
フロートが回りながら
上がっていく
蒸気部
フロート
蒸気圧力

弁閉止力(蒸気圧力P
×排出口面積A)<浮
力 ならばフロートは浮き上
がる。
ドレン水部
P
A
オリフィス弁座
ドレン排出口
メカニカルスチームトラップ
(フリーフロート式)の作動原理-2
 ドレンが排出量が
減少してくると、浮
力も減少してくる
ので排出口は閉
止方向になる。ドレ
ン排出口も水でシー
ルされているので
蒸気を漏らすこと
は無い。
フロートが回りながら
閉止していく
フロート
蒸気圧力
P
A
弁閉止
ドレン排出口
サーモスタティックチームトラップ
(バイメタル式)
 サーモスタティックスチームトラップは蒸気とドレンの温度
差を利用して作動する。この温度差を検出す
る感温体(エレメント)により、蒸気式とバイメタル式
に大別できる。
 所内におけるサーモスタティックスチームトラップの大半
がバイメタル式のスチームトラップである為、次項で
はバイメタル式のスチームトラップについて説明を行
う。
サーモスタティックチームトラップ
(バイメタル式)の作動原理-1
 バイメタルの作動原理
バイメタル板は右図に示す通り
膨張係数の異なる2つの金
属を張り合わせて作られて
いる。バイメタル板は熱せられ
ると熱膨張係数が高い金属
が低い金属より大きく膨張す
る性質を利用し、熱せられる
時に生じる力を利用して弁の
開閉動作に用いている。
低膨張側
熱を加えると
高膨張側
高膨張側が
大きく湾曲する
サーモスタティックチームトラップ
(バイメタル式)の作動原理-2
バイメタル

当所内でもっとも多く使用されているス
チームトラップは左図のバイメタル式温調ス
チームトラップです。

通気開始時の管内は温度の低い空気
等がトラップ内にあり、バイメタルは湾曲せ
ず弁体は弁座から離れているので、空
気は弁口を通じて排出される。続いて、
低温ドレンも同じように排出されるがドレ
ン水温が上昇(ドレン量の減少による温
度上昇)してくると、バイメタルは加熱され
次第に湾曲してくるので、弁体は弁座
方向に押されやがて閉止する
サーモダイナミックチームトラップ
(ディスク式)
デスクトラップ上部
の内部構造
弁座
デスク弁
(ステンレス鋼)
(外輪・内輪の二
重構造)

デスク式スチームトラップの代表的
な構造を左図に示す。
本体・弁座・ディスク弁から構
成され弁座は外輪と内輪の同
芯状の形状となっている。
サーモダイナミックチームトラップ
(ディスク式)の作動原理-1
 蒸気が対象装置に送気され
ると、低温ドレンや空気がス
チームトラップへ低速で押し出さ
れる。これらがスチームトラップ
に流入して、ディスク弁を弁座
から離れるように押し上げ
出口から排出される。
ディスク弁が上がる
空
気
排出口
サーモダイナミックチームトラップ
(ディスク式)の作動原理-2
 ドレンの排出が終わり蒸
気がスチームトラップに流入
してくると、この蒸気が
高速でディスク下方の放
射状に流れ始めと同時
にディスク弁が弁座の方
に向かって降り始める。
ディスクが下がっていく
蒸
気
排出口
サーモダイナミックチームトラップ
(ディスク式)の作動原理-4
 なぜ、ディスク弁は下がるのか
 ドレンの排出が終わり蒸気に代わるとディスク弁
の下側を流れる蒸気の速度はドレンよりも速く
なるので、低速域ができ、ディスク弁は弁座へ
引き寄せられる。更に、蒸気はディスク弁の縁
を通り変圧室へと回り込む。 変圧室に蒸気
が回り込むと変圧室内の圧力が上昇し、ディス
ク弁は閉弁する。
サーモダイナミックチームトラップ
(ディスク式)の作動原理-5
 なぜ、ディスク弁は下がるのか

右図に示すように幅の狭い
紙の一辺を持ち唇を近づけ
てその紙の表面を吹くと、
垂れ下がっている紙が起き
上がり、ほとんど真っすぐな
水平状態になる。空気を吹
き付ける前は大気圧が紙
の表・裏両面に均一に作用
し、この紙は自身の重さで
下に垂れ下がっている。
空気を吹き込むと・・・
サーモダイナミックチームトラップ
(ディスク式)の作動原理-6
 空気を吹き付けると、
その空気は高速で紙
の表面を通過し、そこ
に低圧域が発生する。
この時、紙の裏面に
は大気圧が作用した
ままなので、裏面は表
面よりも高圧となり紙
は上へ押し上げられ
水平になる。
垂れ下がっていた紙が
上へ持ち上がる
蒸気使用設備における問題点
➀ ウォーターハンマー
蒸気主管内にドレンが滞留する場所があったり、
滞留する構造であったりすると、急な蒸気の使用量
の増減を行うと、ドレンの塊として一気に押され流れ
始める。
このドレンの流れは、配管内の障害物(バルブ・スト
レーナー等など流れの障害になるもの)に衝突する危
険がある。
このような現象をウォーターハンマーと呼ばれ、強固な
配管やバルブにさえも相当な衝撃を与え、破損を伴う
場合もあるので、急激な蒸気の増減を行わないとと
もに、ドレンの滞留する可能性のある場所に連続排
出型のスチームトラップを選定する。
蒸気使用設備における問題点-2
➁ エアビンディング(空気障害)と空気の排除

蒸気の使用設備が停止すると、蒸気使用設備及び
蒸気移送配管内を占めていた蒸気が凝縮し、その
圧力は大気よりも低い負圧にまで下がる。

これにより、蒸気に代わり空気がフランジガスケット、緩
んだバルブパッキン、ユニオンなどから吸い込まれ、蒸気
使用設備及び蒸気移送配管内を満たす。

当該設備が再通気した時に、この空気が滞留し続
けると、必要温度まで上昇しない問題が生じる。
スチームトラップの保守管理
 スチームトラップの故障診断

目視による診断方法

スチームトラップからの出口配管を大気に開放して、ドレン
排出状態を監視することで、その作動状態をある程
度判定する事ができる。 特に間欠作動のスチームト
ラップではこの方法がかなり有効になる。

ディスク式スチームトラップでは開閉がはっきりしている
ので分かり易いが、フリーフロートやバイメタル式などの
連続排出型では診断し難い。
各種スチームトラップの特性
種 類
利 点
フリーフロート式 磨耗や引っ掛かり
の原因となるリング
スチームトラップ
機構がなく、故障し
難い。
ドレン量や圧力の変
化に関わらず、ドレン
を滞留することなく
排出する
3点支持機構により、
過熱蒸気主管にも
使用可能
欠 点
用 途
非常に激しいウォーター 蒸気主管用
ハンマーによって、フリーフ
ロートが損傷を受ける 最大効率を必要
可能性がある
とする熱交換器
や蒸気使用ライ
凍結により損傷を受 ン
ける恐れがある
極少ドレン用
各種スチームトラップの特性
種 類
利 点
小型である。
バイメタル式
スチームトラップ
空気を効率的に排
除する。
ウォーターハンマーに強い
欠 点
調節が必要。
用 途
低温トレース用
ドレンは蒸気温度以下 計装トレース用
のかなり低い温度に
冷却されるまで滞留 エアベント用
する
ドレン量の変化に対す
る反応が鈍い。
背圧の影響を受ける
各種スチームトラップの特性
種 類
利 点
コンパクトで頑丈な構
ディスク式
造で、ウォーターハンマー
スチームトラップ
欠 点
用 途
入口圧が非常に低い 蒸気主管用(特
時には使用出来ない。 に、高圧や過熱
や凍結に強い。
蒸気)
背圧が入口圧の
スチームトラップの大きさ 50%以上の時には
蒸気トレース用
に比べて、高い排出 正常に作動しない。
能力を持つ。
雨や雪などで冷却さ
幅広い圧力で作動 れ易い使用条件では、
する。
作動サイクルが短くなり
蒸気の漏洩量が増
加する。
目視による作動状況確認
(正常作動)
目視による作動状況確認
(漏洩)
目視による作動状況確認
(容量不足)
排水溝(ピット)へのドレン排出例