教科書

はじめて学ぶ建物と火災
第1章 建物火災に対する安全
第2章 火災は意外と多い ー 火災の実態
第3章 ものが燃える ー 火災の現象
第4章 火災の被害を小さくするために
第5章 火・煙から人をまもる ー 避難安全
第6章 火災の拡大を防ぐ ー 延焼防止
第7章 火災に耐える建物をつくる
3.1 ものが燃える
・燃焼の3要素:①可燃物,②酸素,③熱源
→ 熱 ・ 光 ・ ガス ・ 煙 など
・着火:燃えていない可燃物が燃え始める
・引火:口火によって,可燃物から生じる
可燃ガスが空気と混合し燃え始める
・発火:口火がなく,可燃物に空気中で
エネルギーだけを与えて燃え始める
・引火温度:①木材,②アクリル,③ウレタン
燃焼と生成物
可燃物の引火温度と発火温度
着火温度
・ 着火時間:
物質の熱伝導率と密度と比熱の積に比例
← 小さいものが早く着火
・着火しやすい材料:
① ポリウレタン,②ポリエステル,③木材
・燃焼熱:
物質の単位重さ当りの燃焼発熱量 (kJ/g)
・燃焼熱の大きい材料:
① メタン,②ポリエチレン,③ポリスチレン
可燃物の引火温度と熱物性値
引火温度
引火温度
可燃物の引火温度と熱慣性
可燃物の燃焼熱と単位酸素発熱量
燃焼初期の発熱速度
主な家具類の燃焼速度
ベビーベッド
主な材質の発熱速度の差異
3.2 火が拡がる
・壁近くの火災:炎は高温で密度が小さいので
上方へ広がり,壁やカーテンは燃え易い
・斜面の火災:
火炎が斜面に沿って広がるため燃え易い
・窓からの噴出火災: 各階に高さ90cm 以上の
耐火構造の腰壁か50cm 以上の庇を設ける
・火災旋風: 関東大震災や戦争中の空襲などで,
市街地火災により局地的に低気圧が発生して
火炎が竜巻になる → 非常に多くの死者を出す
発火場所と火炎の高さ
本所被服廠跡での火災旋風
フラッシュオーバーの発生原因
① 居室などの閉鎖した空間で火災が進行
② 火炎が上昇して天井が高温になり,
その放射熱で室内の可燃物がガスを放出
③ ごく短時間で室内の可燃ガスが発火して
次々と引火し,部屋全体が火災となる
④ 部屋全体が600~1000℃の高温になり,
不完全燃焼でCOガスが大量に発生する
フラッシュオーバー現象
フラッシュオーバーの直前
天井からの放射熱
フラッシュオーバーの発生
可燃ガスが発火
バックドラフトの発生原因
① 倉庫などの窓がない空間で火災が進行
して,酸素がなくなり無炎燃焼となる
② 消防隊などが扉を開けると,酸素を含ん
だ外気が流入する
③ 少しの時間後,可燃ガスに火が着く
④ 大きな火炎が扉から噴出する
扉付近の人は非常に危険になる
バックドラフト現象
3.3 熱が伝わる
・伝熱の3形態: ①対流 ②伝導 ③放射
・対流:
物質(主に空気)の移動による熱の移動
→ 高温な空気ほど軽いので上昇する
・表面熱伝達:
高温な固体表面と空気(煙)との間の伝熱
→ 伝熱量は温度差に比例
・伝導:物質の表面温度に差がある場合に,温度が高い
方から低い方へ熱が移動
・熱伝導率λ:物質の熱の通し易さ →単位時間の熱量
は Q = λ A (T1-T2)/D ( kW )
→ 鋼:λ=0.05 (kW/mK),コンクリート:0.0014
スギ:0.0001,空気:0.000025
・放射熱:物体の表面から発散する熱量で,
絶対温度(温度+273℃)の4乗に比例する
・吸収率(放射率):物体に注がれる放射熱の
うち物体に吸収される熱の割合,(=放射率)
3.3 熱が伝わる
伝熱の3形態
第4章 火災の被害を小さくする
ために -感知と消火-
4-1 火災の感知警報
4-2 消火の基礎
4-3 消防活動
4-4 防火設備の維持管理
4-1 火災の感知警報
熱感知器
(1)定温式:高熱によりバイメタルが湾曲
(2)差動式:温度差により感熱室の膜が膨張
煙感知器
(1)光電式 :煙粒子が散乱光を増加
(2)イオン化式 :煙粒子がイオン電流を減少
(3)光電式分離型:煙粒子が通過光量を減少
定温式 熱感知器
外気の高熱によりバイメタルが湾曲
差動式 熱感知器
外気との温度差で感熱室の膜が膨張
光電式・煙感知器
煙粒子が散乱光を増加させる
イオン化式・煙感知器
煙粒子がイオン電流を減少
光電式・分離型感知器
煙粒子が通過光量を減少
自動火災報知設備
• 自動火災報知設備:
感知器の感知情報により出火室の
火災を表示して,警報ベルを鳴らす
• 非常モードへの移行:
防火管理者が現地で火災を確認して
防火対策の作動や119通報
• R型受信機: ⇔ P型受信機(ゾーンのみ)
火災感知した部屋の位置を知らせる
(1)火災発生の感知と表示
(2)火災発生の警告
防災センター職員の現場作業
① 現場に駆けつけ火災を確認
② 防災センターに連絡
③ 初期消火を行う(消火器など)
④ 部屋の排煙設備を起動
⑤ 人々の避難誘導を行う
防災センター内の職員の仕事
① 現場から連絡を受けて119番通報
② 総合操作盤を非常モードにして
連動制御を開始する,
③ 避難誘導の館内非常放送を行う
④ 防火戸の閉鎖やスプリンクラー稼動の確認
⑤ 非常用エレベータの呼び戻し,
空調設備の停止,排煙設備の稼動など
⑥ 消防隊に引き渡す情報や書類の用意
火災の進行と防火活動
火災の発報からの時間
現場駆け付け
まで約3分
現場到着から
消火栓使用
まで約3分
消防通報
まで約4分
現場到着から
排煙起動
まで約5分
防災センターの総合操作盤
緊急ヘリコプターでの救助
出火からの平均時間
防災情報設備の例
・火災覚知:火災確認後に119番通報
し,消防が火災情報を把握した時刻
・自衛消防団:
各事業所の消防計画で定める
自衛組織←防火管理責任者が管理
・防火システム:
火災安全を保つために各種の防火
対策を体系的に作動する
消防防災通信ネットワーク
4-2 消火の基礎
・消火の原理:燃焼の3要素
(酸素・可燃物・熱エネルギー)
+連鎖反応のどれかを絶つ
・放水による消火:熱エネルギーを奪い
可燃ガスの発生を妨げる
・ABC消火器:粉末の化学物質によって
燃焼の連鎖反応を抑制する
(A:普通火災,B:油火災,C:電気火災)
ABC消火器
消火剤の種類と性能
A:普通火災
B:油火災,C:電気火災
・天ぷら鍋火災:
① 野菜の投入:温度の低下
② 濡れた座布団を被せる:酸素を絶つ
・活性金属の燃焼:
乾燥砂などで酸素を絶つ ← ナトリウム
リチウム,マグネシウム等
・消火器の消火能力:
事務所ビルで炎が天井に届く程度の火災
スプリンクラー設備の構成
・スプリンクラーの構成:
散水ヘッド、アラーム弁、ポンプ、制御装置
・アラーム弁(流水感知装置):
スプリンクラーの配管中にあり,流水を
感知しポンプを起動する + 連動
・閉鎖型湿式スプリンクラー:
ヘッドが72℃になると散水ヘッドから散水
アラーム弁でポンプが起動
スプリンクラー設備の種類
アラーム弁
スプリンクラー設備の種類
・スプリンクラーが散水する炎の高さ:
煙が天井に層ができて,炎が天井まで
達している状態
・スプリンクラーの散水能力:
1分間に70(ℓ)を散水し火災抑制効果は高い,
奏功率も 0.97 と高い
・スプリンクラーの散水障害:
机の下など,スプリンクラーの水がかからない
部分がある
屋内消火栓(1号)
15mのホース
が2本連結
放水量:
130 ℓ/分
口径:40mm
屋内消火栓(2号)
口径:25mm
自動で放水
・屋内1号消火栓:自衛消防隊が3人で使用
→ 放水量が多く消火能力は高い
・屋内2号消火栓:1人で使用できる
が放水量は少ない → 初期消火には有効
・特殊消火設備:CO2消火設備や窒素消火設備
→電気火災や油火災など放水できない場合
・泡消火設備:駐車場など開放された空間で使用
・高天井型スプリンクラー設備:放水銃など
→大きなアトリウムや屋内スタジアムの火災
4-3 消防活動
・消防隊の消防活動:
初期消火できない建物火災は,最終的には
消防隊の消防活動で消火
・消防隊の進入経路:建築物の2面から
アクセスできるのが望ましい → 退路の確保
・非常用進入口:直径0.75×1.2(m) 以上の窓
をはしご車の梯子が架けられる40(m)以内毎
非常用進入口
・非常用エレベータ:←11階or地下3階以上の建物
籠が大きく非常用電源で動く
・消防隊の最前線:階の非常用エレベータロビー
← 防火区画+排煙設備(加圧防煙)
・連結送水管設備:消防隊がホースを連結して
送水する設備 ← コンセント+電話+照明
・無線通信補助設備:消防隊間の双方向通信用
← 地下3,000m2以上or地下4階以上の街
非常用エレベーター
消防活動拠点の設置例(1)
付室
非常用
エレベータ
消防活動拠点の設置例(2)
消防隊用の連結送水管
消防隊のポンプ車が消防用水を加圧して送水する
消防隊用の消防設備
連結送水管
の放水口
加圧防煙設備
の給気口
エスカレータ周りの防火区画
4-4 防火設備の維持管理
・防火設備の信頼性:定期点検と定期報告
← 防火システムとして維持管理が必要
・共同防火管理体制:建物全体で統括責任者
+テナント毎に防火管理責任者と自衛消防隊
・出火直後の操作訓練:
防災センターの火災時の訓練は必要
・消防用設備等の指導: ①建築確認申請時
②施主への引渡し前後,③定期的な検査
防火のセイフティマーク