血と骨 ~暴力が象徴するもの~ 作成日:2005年6月17日 発表者:川野秀美 坂口喜美 平野由恵 あらすじ 前半・・・ ・1923年4月「君が代丸」の就航以来、大阪に出稼ぎ に来る済州島出身の出稼ぎ労働者が急増。 ・蒲鉾工場は、そうした条件に合う朝鮮人を雇った。 金俊平もその中の一人として蒲鉾工場で働く。 ・ある日、居酒屋に飲みに行くと、そこで働いている女 に俊平は一目惚れする。その女とは、後に妻となる 英姫であった。 ・結婚して数年後、花子と成漢(正雄)が生 まれ、合計5人の子を儲ける。 ・家族を養うという考えのない俊平は、家 族に暴力をふるうようになる。また、酒癖 も悪く、家族は俊平を恐れつつ、不満を 持ちながら暮らすようになる。 ・工場を首になった俊平は仕事もせず、フ ラフラする。 後半・・・ ・戦後になり、金俊平は英姫に金を工面さ せ、娘婿の韓容仁に認可を取らせ、高 信義に工場長をさせ、「朝日産業」という 名で蒲鉾工場を始める。 ・この頃から成漢の金俊平に対する態度 が変化し始める。 ・成漢は無謀ではあるが、金俊平を恐れながら も立ち向かっていこうという態度を見せ始める。 ・金俊平は愛人の清子と暮らしはじめる。この 頃から金俊平は脳神経を冒され、入院する。 ・朝日産業が閉鎖 ・俊平は金貸しに徹するようになる。 清子が死に、新しい日本人の愛 人との間に待望の男の子をもう ける。 北朝鮮に多額の寄付金をし、息 子をつれ、北朝鮮に渡る。 登 場 人 物 金 俊平・・・ • 済州島から大阪へ出稼 ぎ労働に来た朝鮮人。 • 蒲鉾工場を経営して成功 する。 • 究極の自己中心主義で、 何事もすぐに暴力で解決 しようとする。 • 金に対する執着がものすごく強い。 • 家族を養うという認識は全くない。 • 孤独で自分の肉体しか信じていない。 • 女は性の対象としてしか見ていない。 • 日本帝国の植民地支配の所産の破滅的な象 徴とされている。 • 李 英姫・・・ ・済州島出身者 ・10歳年の男と結婚 ・2年後に出奔 ・岸和田の紡績工場で働く ・朝鮮人主任との間に子供 を出産 ・女手一つで店を経営 ・金俊平の妻となる。 ・金俊平とは対極の位置 ・悲惨な生活を凛として生 きる ・済州島の女性の典型的 な性格 成漢・・・ ・金俊平と英姫の間に生ま れた。 ・幼い頃は金俊平を恐れて いた。 ・成長していくにつれて父の 弱点を見抜き、欺くような こともし始める。 ・父に襲われても、ゆうゆう と逃げてしまうまでになる。 ・金俊平にものすごい憎悪を 抱いている。 ・金俊平にとっては自分の影 のような存在になる。 高 信義・・・ ・金俊平にとって唯一のよき理解者。 ・かまぼこ工場の管理を任され、他の職人達からも頼りにされ る存在。 ・同じ考えを持つ人達に共感し、デモの中心人物として参加す るなど正義感が強い。 ・大阪・済州島航路を巡る諍いに巻き込まれ、刑務所にいれら れた。 ・映画では、よわよわしい男であったが、原作本では、正義感の 強い男であった。 韓 容仁・・・ ・英姫の連れ子である春美の夫。 ・英姫に生活の援助を受ける。 ・短気だが、闊達な性格で達弁家。 ・隣組や青年部の会合にも積極的に参加し、朝鮮人ながら リーダー格だった。 ・多少強引ではあるが、人を引きつける力がある。 花子・・・ ・金俊平と英姫の子供。 ・内気な性格 ・自分を犠牲にしようとするところがある。 八重・・・ ・ 色気を漂わせた男に強い印象を与える遊郭の 女 ・借金が多いため夜の仕事をしていた。 ・そこで金俊平と出会う。 ・俊平が八重の借金の請負人となるが、逃げて姿 を消す。 ・後に肺の病気になり死ぬ。 ・金俊平に一番愛されたと思われる女であった。 ・姿を消したあとも、色んな女が出てくるが、ずっと ひきずっていた。 山梨 清子・・・ ・美人ではないが、色白で目が細く、教養のあり そうな女 ・キャバレーに勤めていた。収入だけでは食べ ていけず、時々、客と寝んごろになって、こづか いを稼いでいた。 ・夫を戦争で亡くし、生活の為に俊平の愛人とな る。 ・俊平に、子供を望まれながらも宿すことができ ず、苦労する。 ・後に脳腫瘍にかかり、最後には俊平に殺され る。 時代背景 1.朝鮮人が大阪に渡航した理由 ・大阪は、建設と生産の都市 ・職を求めた人が急激に集中 ・在阪朝鮮人の集落が形成 ・「土方」は大阪が必要としていた職種であっ た。 ・朝鮮半島は日本の植民地下にあり、日本政 府による土地調査事業が行われていた。 ・朝鮮半島の人口が増加していた。 ・土地を奪われた多くの農民は、移住を余儀 なくされた。 在阪朝鮮人の人口動態 君が代丸について ① 君が代丸の始まり・・・ ・1923年2月に尼崎汽船部が大阪済州島航路を 開設した際に就航させたのが第一君が代丸である。 ・1925年9月航行中に台風に遭遇して船長が人 命優先のために浅瀬に座礁させた。 ・1926年日露戦争で獲得されたロシア軍艦改造 して貨客船第二君が代丸を就航させる。 ・君が代丸の船客定員は365名であったが実際は 出稼ぎ船客定員として685名までの乗船が認めら れていた。 ② 君が代丸のライバル出現 ・ 君が代丸などに不満を持った在阪朝鮮人 と済州島在住民が船賃を下げるよう抗議する。 ・東亜通航組合結成 ・東亜通航組合は1930年11月1日に函館 成田商会の龍丸を借り入れ、6円50銭という 運賃で阪済航路に就航させた。 ・ これに対し君が代丸は運賃を12円50銭か ら6円50銭に引き下げ、さらに優待券の添付 などをする。 ・ 渡航労働者のコウ龍丸への支持は圧倒的。 ・ 東亜通航組合は次に1931年12月1日に 伏木丸を就航。 ・ しかしこの伏木丸の就航にはさまざまな弾 圧が行われた。 ・ 日本資本側と警察の親密な関係。 ・君が代丸は伏木丸就航とともに船賃を6円50 銭から3円にまで引き下げる。 ・東亜通航組合は1933年12月1日に伏木丸 の就航停止に追い込まれる。 ・そして尼崎汽船部はこの大阪済州島航路をめぐる闘 争の中で勝ち残り、さらに10年にわたって運航を続 けた。 「帰国事業」について • 1959年8月に北朝鮮の赤十字会と日本の赤十字社との間 で帰還協定が結ばれた。 • 「帰還協定」は7回ほど1年ずつ延長されて1967年まで続 いた。 • 3年ほど中断し、その後、1971年に再度赤十字社において、 帰還協定の有効期間に帰還申請 • 帰国できなかった人達(帰還未了者)に対する暫定的な処置 として「合意書」が結ばれた。 • 新しく帰国を希望する人が出てきた場合のことを考えて「今 後、新たに帰還する者の帰還方法に関する会談要録」という ものも結ばれた。 • 帰国に際し日本側が便宜措置を供与することであ る。 • 便宜措置というのは、船に乗るまでの面倒を日本側 がみるというもの。 • 船の面倒は北朝鮮側がみるという形で行われた。 • 1959年12月に帰国第一船が新潟港を出港した。 • 以後、1985年までに9万人以上が北朝鮮に帰国し た。 ●「帰国事業」がもたらしたもの● ・ ・ 新たな離散家族を発生させた。 単に日本と北朝鮮に家族が分かれている ということではなく、北朝鮮に帰った家族が音 信不通であったり消息不明であったり、何ら かの理由で強制収容所に入れられてしまっ たり、ひどい場合には殺害されていたり、とい うことがで起こっているという大きな問題があ る。 感想 P249(上)「聞く耳を持たずに疾走して行った仲間たち の理性のなさにも腹立ちを覚えた。何事にも感情の起 伏が激しい朝鮮人の性格にはほとほと手を焼く。自業 自得だとさえ思うのだった。しかし、会社のやり方は汚 すぎる。追い詰められた朝鮮人職人たちの心理の裏を 読みとり、三十人ものやくざを雇って待ち伏せするとは 卑劣きわまりない。やり場のない怒りに震えながら惨め な朝鮮人職人たちの姿を見ていた高信義は、これが自 分たちの置かれている現実だと実感した。」 ・・・最悪の自他が起こるまで、深刻に考えず、状況が 悪化していくと、考えるより先に感情で動いてしまいがち な朝鮮人内部の問題と、日本人とは給料も労働条件も 違い、差別的な扱いを受ける不満の両方が強く現れて いると思った。 P200(上)「人間の運とは不思議なものである」 P305「なぜおれがこんな目に遭わなければな らないのか。その理不尽さに高信義は寒気がし た。」 ・・・本人たちの意思とは関係なく、個人の力の 域を超えた時代の流れの力に人々は翻弄され ざるを得なかったのだろうと思った。 平野由恵 P210 「英姫は泣かなかった。乾ききった感情の底に強 い意志をひめてすっくと立っていた。」 ・・・何ヶ月も金俊平から逃げまわり廃寺で産んだ子供も 骸のようになってしまってもまだ大阪へ帰ろうとはしなかっ たのはそれほど金俊平の恐怖の方がひどく辛かったのだ ということが、ひしひしと伝わってくるように思われる。しか しさすがの英姫も冬になると寒さと飢えで限界に達し、子 供たちを助けるために大阪に戻る決心をし、大阪に帰っ てきたときのこの英姫の様子からは、何ヶ月もの間極限 のような生活を送ってきて、これからは何があっても、ど んなに辛くても、絶対に生き抜いてやるという英姫の強い 意志が伺え、それと同時に金俊平との生活の中で何かが 吹っ切れたような、強い英姫の意思が感じられた。 P290「『言ってみろ!このわしはきさまの何だ!』『わたしの お父さんです』『何だと、わしのお父さんだと。心にもないこと をぬかしやがって。わしはきさまのお父さんではない!このわ しはきさまの何だ!言ってみろ!』」 ・・・ここから「父という言葉を引き出すために子供の全人格否 定しようとしている」や「金俊平が求めたもの、それは何よりも 強い血の絆だった。血は血によってあがなわれる。」とされて いて金俊平は子供たちに自分が父親であるということを再確 認させ、自分について来いと言っているように思えるが、これ は結局子供たちにとって逆効果であって結果的に成漢はこの 頃から金俊平に対して反抗的な態度を見せ始める。ここの場 面は子供たち、主に成漢のこれから生き方を左右する場面で あり成漢をそちらの方面へ向かわせるような言葉であったと 受け取れる。しかしそれは金俊平の血を受け継いでいる成漢 だからこその変化であったといえると思う。 川野秀美 P125(下)「金、金、金、わしに金の成る木でもある と思ってやがるのか!」 ・・・この言葉は花子が俊平に学費を下さいと言っ た時に言った言葉である。この言葉には、俊平が家 族のためにお金を使いたくないというのがわかる。 そして、お金に関して頼ってくるなと言わんばかりだ。 子が親に教育に関してのお金を請求するという当た り前なことさえ、ままならなくて、かわいそうだと思っ た。金持ちに至るまでには家族の協力があったのに、 いかにも俊平だけが稼いだお金のように言うのは俊 平の性格の悪さが出ていると思った。 P356(下)「こいつは、はよ楽になったほうがえ え」 ・・・これは、俊平が清子を殺す際に言った言葉で ある。俊平は清子が脳腫瘍になってから看病を 頑張っていた。後の方になると看病を放棄する が、俊平の性格からは、とても想像のできない尽 くしっぷりであった。この言葉からは、俊平が看 病に疲れきった想いが込められているのではと 思った。また、子供(あととり)もできないし、先が みえないので、飽きたと思われる。 坂口喜美 まとめ~暴力の象徴するもの~ 金俊平に象徴されるように在日朝鮮人に とって、肉体が資本であり、力であった。 金俊平は日本帝国の植民地支配の所産 の破型的な象徴である。その植民地性のた めに帝国主義所産の暴力がうむ肉体の爆発 をもちながらも、本来あるべき民族的抵抗、 労働争議などの考えから切れているため、そ の力は日本帝国へはむかうことができない。 そのために、日本帝国へ向かうべき怒りや憎悪 が無意識のうちに周辺の家族に向かってしまう。 金俊平の暴力は、家族を身代わりとした帝国へ の無意識の復讐であり、被支配民の流民として 刻印されている植民地性によって歪められたも のである。 在日朝鮮人は外部からの暴力もあるが、内部 の暴力も多い。それは、向かうべき方向を歪めら れた帝国への反抗ではないだろうか。 植民地性 日本帝国 金俊平 向かうべき力 英姫や家族 身代わりに家族に向 けられる暴力 まとめ~本の特徴~ これまでの在日文学とは異なり、日本の帝 国主義に対して、反発・反抗が描かれてい ない。 今までとは違う視点から在日韓国朝鮮人 の生活が描かれていた。 日本帝国主義ということだけでなく、在日 韓国朝鮮人達の中にも問題があるのでは ないかという問いかけがなされている。 作家 梁石日について 昭和11年8月13日生まれ 本名 梁正雄 大阪市猪飼野生まれ 済州島出身 事業失敗後、タクシードライバーなど多くの 職につく 主な作品 平成6年「夜を賭けて」 平成10年「血と骨」 映画「月はどっちに出ている」・・・ノンフィク ション「タクシードライバー日誌」がこれの 原作となっている 映画「家族シネマ」に父親役として出演
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