監修 東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座 教授 e-learning#1 澤田 康文 Q1 販売名・一般名のチェック! 処方とエピソード 処方1 処方オーダリング 11月1日 神経内科 73歳の男性(初回) アリセプト錠(3mg) 1回 1錠(1日1錠) 1日1回朝食後服用 14日分 『患者は軽度のアルツハイマー型認知症であると診断されている。 お薬手帳に貼付された血液検査データを見る限り、肝機能に異常はない。』 患者インタビュー このお薬は初めてですね? 薬剤師 はい。実は、軽度のアルツハイマーと診断されまして、 今回はじめて処方していただきました。 お薬の飲み方については、先生から何か聞かれていますか? 薬剤師 e-learning#2 『最初は副作用が出やすいので、少ない量からはじめますが、 次の診察の時には量を増やします。それから、水なしでも飲める 錠剤を出しておきます。』と言われました。 患者の家族 患者の家族 Q1 販売名・一般名のチェック! 問題 この処方は医師に対する疑義照会、確認もしくは患者への服薬指導が必要です。 以下の問題に答えてください。 対処すべき問題点は何ですか?正しいと思われる番号を選択してください。 1 1日3mgの開始量は、肝障害患者に対する投与量であり、肝機能が正常な場合は1日5mgが 開始量である。 2 処方せん通りにアリセプト錠3mgを調剤するが、医師の説明は不適切なので、コップ半分以上 の水で服用するよう、指導しなおす必要がある。 3 軽度のアルツハイマーの場合、1日3mgが維持量なので、次回増量するという患者への説明に 問題がないか、処方医に確認することが望ましい。 4 アリセプト錠は水なしで服用することはできないので、医師の処方意図は、水なしで服用できる アリセプトD錠3mgではないか確認する。 回答 正解は4です。 アリセプト錠は水なしで服用することはできないので、医師の処方意図は、水なしで 服用できるアリセプトD錠3mgではないか確認する。 e-learning#3 Q1 販売名・一般名のチェック! 問題 「アリセプトには複数の剤形があります。」以下の問題に答えてください。 アリセプトの剤形として使用可能なものはどれですか。(複数選択可) 1 普通錠 5 細粒剤 2 口腔内崩壊錠 6 ドライシロップ 3 注射剤 7 内服ゼリー 4 坐剤 回答 e-learning#4 正解は1、2、5、6、7 です。 1.普通錠 5.細粒剤 2.口腔内崩壊錠 6.ドライシロップ 7.内服ゼリー Q1 販売名・一般名のチェック! 鑑査のポイント 適切な剤形が選択されているか確認してください 【アリセプト】 錠・D錠・内服ゼリー:3mg、5mg、10mg アリセプト錠 アリセプトD錠 アリセプト細粒 細粒:0.5% ドライシロップ:1% アリセプト内服ゼリー アリセプトドライシロップ 図1.アリセプトの各種剤形の外観(細粒以外は、5mg製剤を掲載) 患者が「水なしで服用できる錠剤を出します」と処方医から説明されていることから、処方意図は口腔内 崩壊錠であることが考えられます。しかし、口腔内崩壊錠ではなく普通錠が処方されていることから、 確認が必要と思われます。 アリセプトD錠は水なしで服用することも可能ですが、高齢者では唾液の量が少ないことが多く、 崩壊までに時間がかかったり、崩壊後に飲み込めない場合もあります。添付文書の「適用上の注意」にも 記載されているとおり、寝たままの状態では、水なしで服用させないこととなっています。なるべく「少量の 水と服用する」ことをお勧めください。 e-learning#5 Q1 販売名・一般名のチェック! 対策のポイント アリセプトの剤形とそれらの生物学的同等性について知っておく必要があります アリセプトの5種類の剤形は、いずれも生物学的に同等であると考えられており、投与後の血中濃度推移に、 剤形間の差異は認められていません(図 2、図 3)。 さらに、D錠を水で服用した際と水なしで服用した際の血中濃度推移にも、差異は認められていません(図 2)。 (ng/mL) 12 血 漿 中 ド ネ ペ ジ ル 塩 酸 塩 濃 度 (ng/mL) 14 :錠5mg(水とともに服用) :D錠 5mg (水なしで服用) 10 血 漿 中 ド ネ ペ ジ ル 塩 酸 塩 濃 度 :D錠 5mg (水で服用) 8 :錠 5mg (水で服用) 6 4 2 0 0 12 24 48 72 96 144 時間(hr) 図 2. 健康成人にアリセプトD錠 5mg又はアリセプト錠 5mgを単回 経口投与した時の平均血漿中濃度推移(mean±SD、n=12) e-learning#6 :ドライシロップ1%0.5g 12 (水に懸濁して服用) 10 :ドライシロップ1%0.5g (粉末のまま水とともに服用) 8 6 4 0 0 24 48 72 96 120 144 168 時間(hr) 図3. 健康成人男子にドライシロップ1% 0.5g及び錠5mgを 単回経口投与した時の平均血漿中濃度推移(mean±SD、n=12) Q1 販売名・一般名のチェック! 対策のポイント アリセプトD錠は、崩壊性試験において、おおむね15~30秒間ですみやかに崩壊することが知られて います(表 1)。 表 1. アリセプトD錠の崩壊試験結果 製剤 崩壊時間(秒) アリセプトD錠 3mg アリセプトD錠 5mg アリセプトD錠 10mg 15~18 15~23 17~27 エーザイ社内資料 試験方法と結果 試験は一般試験法に従い行った。 しかし、錠剤が補助盤に張り付いて判定が困難なため、補助盤を用いない方法とした。 e-learning#7 Q1 販売名・一般名のチェック! 疑義照会 照会の必須度 必須 「患者さんのご家族のお話によりますと、今回『水なしで飲める錠剤を出す』と説明を受けられたとのこと です。今回はアリセプト錠が処方されておりますが、水なしで服用可能で、普通錠と同じ体内動態を示す 製剤として、口腔内崩壊錠であるアリセプトD錠がございます。どのようにいたしましょうか?」 照会結果 変更あり アリセプト錠(3mg)1回 1錠(1日1錠)1日1回朝食後服用 アリセプトD錠(3mg) 14日分 処方医が意図した剤形は口腔内崩壊錠であったが、アリセプトの錠剤であれば口腔内崩壊錠だと思い こみ、商品名に特に気を配らずに錠剤を処方してしまったとのことであった。 口腔内崩壊錠の特性と服用法について、薬剤交付時に患者に説明した。 まとめ e-learning#8 アリセプトには普通錠、D錠、細粒、内服ゼリー、ドライシロップと多くの剤形が ある。患者ごとに適切な剤形を選択する必要がある。 Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 処方とエピソード 処方1 処方オーダリング 11月14日 神経内科 69歳の女性 アリセプト錠(5mg) 1回1錠(1日1錠) 1日1回朝食後服用(粉砕してください) 14日分 『患者は軽度のアルツハイマー型認知症と診断され、アリセプト錠5mgを服用していた。』 患者インタビュー 患者さんは、錠剤を飲むのは苦手ですか? 薬剤師 そうなんです。なかなかうまく飲み込めないので、先生に『つぶして 飲ませても良いですか』と聞きましたら、『それならはじめから薬局で つぶしてもらえるように処方せんに書いておきます』とおっしゃって くださったので…… 患者の家族 e-learning#9 Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 問題 この処方は処方医に対する疑義照会が必要です。 以下の問題に答えてください。 処方医に対する疑義照会内容の際の説明として、正しいと思われる番号を選択してください。 (複数選択可) 1 アリセプトには細粒剤・ドライシロップが市販されているので、この患者さんの場合は、細粒剤 もしくはドライシロップの使用も選択肢の一つです。 2 アリセプト錠を粉砕すると服用時に苦みを感じます。一方、アリセプトD錠は、口腔内で速やか に崩壊し、アリセプト錠を粉砕した場合と比べて苦みを感じにくいです。 3 アリセプト錠を粉砕して投与するのであれば、ジュースなどの甘い飲料に溶かすことで苦みは ほとんどなくなりますので、そのように患者さんに説明いたします。 4 嚥下困難な患者さんにはアリセプト内服ゼリーもありますが、錠剤を粉砕した時と同じく苦みが 強いので、苦みが苦手な患者さんにはおすすめできません。 回答 正解は 1、2 です。 1. アリセプトには細粒剤・ドライシロップが市販されているので、この患者さんの場合は、 細粒剤もしくはドライシロップの使用も選択肢の一つです。 2. アリセプト錠を粉砕すると服用時に苦みを感じます。一方、アリセプトD錠は、粉砕 してもアリセプト錠と比べて苦みを感じにくいです。 e-learning#10 Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 問題 アリセプトD錠やアリセプト内服ゼリーには、苦味を感じにくいような製剤加工が されています。 以下の問題に答えてください。 アリセプトD錠の苦味をマスクするための製剤加工として正しいものはどれですか。 1 ドネペジル塩酸塩を細粒とし、その細粒を水溶性の皮膜でコーティングしている。 2 アニオン性高分子であるカラギーナンの苦味隠蔽効果を活用している。 3 ワックスの一種を溶融し、その中にドネペジル塩酸塩を分散して固化している。 4 pH調整剤によりpHを塩基性とすることで、ドネペジル塩酸塩の溶解を抑制している。 回答 正解は 2 です。 アニオン性高分子であるカラギーナンの苦味隠蔽効果を活用している。 e-learning#11 Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 鑑査のポイント アリセプトに、ドライシロップ剤が追加されました。(2013年6月発売) 服薬コンプライアンスに優れ、介護者負担も軽減できる用時懸濁製剤です。 ① 細粒剤で問題となる飛散による飲み込みにくさ、包装に残留して飲み残す、 こぼしやすいといった点を解消・軽減できます。 ② 粉末を水に懸濁して液体として服用することができます。そのため、服薬困難な 患者様(水分誤嚥を除く)にも有用です。 粉末のままでも服用しやすいドライシロップ剤です。 ① 一般的な服用方法である「水とともに服用」することもできます。 ②原薬濃度を1%としたことにより、0.5%細粒剤と比較して製剤の服用量を半減し、 患者様の服薬負担及び介護負担の軽減が期待できます。 e-learning#12 Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 鑑査のポイント アリセプトD錠と内服ゼリーには苦味を防ぐための添加物が含まれています ドネペジル塩酸塩は、水に溶けると激しい苦味、口腔内のしびれを生じます。このため、アリセプトD錠 およびアリセプト内服ゼリーには、苦味等の不快な味を隠蔽するために、カラギーナン(図1)が配合されて います[特許登録]。カラギーナンは、アニオン性高分子の一種であり、お菓子のゼリーなどに使用されて いる海草由来のゲル化剤です。 O HOH2C -O3SO O O O O OH 図 1. κカラギーナンの化学構造。 分子内にアニオン性の –OSO3基を有する。 e-learning#13 OH Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 対策のポイント アリセプトの苦味と、製剤添加物について知っておきましょう ドネペジル塩酸塩(2mg/mL)と各種高分子化合物を混合した場合の苦味マスキング効果が、2名の被験者 において検討されています。その結果、κカラギーナンは、顕著な苦味隠蔽効果を示しました(表1)。 この苦味隠蔽の機構としては、塩基性のドネペジルが、酸性多糖類と相互作用することで、溶液中の 遊離型ドネペジル濃度が減少するためであると考えられています。 表1. ドネペジル塩酸塩に対する各種高分子化合物の苦味隠蔽効果。2mg/mLのドネペジル塩酸塩溶液を 5mLとり、これに各種高分子化合物50mgを溶解し、官能試験を行った結果を示している。 試料/被験者 ドネペジル塩酸塩(D) D+κカラギーナン D+コンドロイチン硫酸 D+デキストラン硫酸 A B 苦味 しびれ 苦味 しびれ +++ +++ +++ +++ + ± + + ++ ++ +++ ++ + ± + + (+++;とても苦い/しびれる、++;苦い/しびれる、+;少し苦い/しびれる、±;何か感じる、-;何も感じない) [特許公報 特許第5053228号 より] e-learning#14 Q2 組成・性状・有効成分のチェック! 疑義照会 照会の必須度 必須 「今回、患者さんはアリセプトの錠剤が飲みにくいということで、錠剤を粉砕するようにとの処方が出されて いますが、アリセプトの成分であるドネペジル塩酸塩は非常に苦味が強い物質です。錠剤を粉砕しますと、 かえって苦味で服用しにくくなる可能性があります。ドライシロップ、細粒剤もしくは、苦味をマスクする 添加剤が含まれたアリセプトD錠かアリセプト内服ゼリーでしたら、錠剤を服用するのが苦手な患者さん にも服用しやすいと思いますが、いかがでしょうか?」 照会結果 変更あり アリセプト錠(5mg) 1回1錠(1日1錠) アリセプト内服ゼリー(5mg) 1回1個(1日1個) (粉砕してください) 1日1回朝食後服用 14日分 処方医は、ドネペジル塩酸塩の強い苦味について知識がなかった。 処方は、アリセプト内服ゼリーに変更になった。 まとめ e-learning#15 ドネペジル塩酸塩は強い苦味を持つが、アリセプトは、カラギーナンを用いて 内服ゼリー、D錠の苦味を解消している。製剤特性を把握しておくことが適正な 服薬指導、疑義照会につながる。 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 処方とエピソード 処方1 処方オーダリング 4月1日 神経内科 80歳の男性 アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後服用 28日分 患者インタビュー 患者は中等度のアルツハイマー型認知症だと診断されていた。 お父様のいつものお薬がでています。最近、いかがですか? 薬剤師 そういえば、昨日出かけるときに靴ひもをどうしても結べず、しかも左 右間違えて靴をはいていたんです!本人は真面目な顔をしているの。 面白いでしょ。 患者の娘 e-learning#16 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 問題 この処方は処方医に対する疑義照会が必要です。 以下の問題に答えてください。 この患者家族の話を、投薬にあたった薬剤師はどのように判断すれば良いと思いますか?正しいと思われる 番号にチェックをつけてください。(複数選択可) 1 ユーモアが出てきて良かった。 2 順調で、現状維持のようだわ。 3 様子がおかしいのでアリセプトを減量した方がいいのかもしれない。 4 もう少し様子を聞いてみよう。病状が進行しているのかもしれない。 5 とにかく医師に報告しなければ。 回答 正解は 4、5 です。 4. もう少し様子を聞いてみよう。病状が進行しているのかもしれない。 5. とにかく医師に報告しなければ。 e-learning#17 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 鑑査のポイント アルツハイマー型認知症の症状は徐々に進行していくため 、症状が悪化して いないか、新たな周辺症状が出現していないかを患者や家族に確認し、 症状が進行してきた時には、どのような症状が現れるのかを把握しておきましょう。 服を着る時に手助けが必要 (靴ひもが結べない、シャツの袖やえりのボタンを自分で留められない、左右間違えて靴をはく) 入浴の際に手助けが必要 (お風呂に入るのを嫌がる、お湯の温度、量の調節ができない、自分で髪を洗えない、お風呂から出ても きちんと体を拭けない) お手洗いの後、水を流すのを忘れる 失禁 このような症状が現れてきたら、高度アルツハイマー型認知症へ進行している可能性 があります(次ページ参照)。 e-learning#18 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 鑑査のポイント FASTによるアルツハイマー型認知症(AD)の自然経過 FAST4: 軽度のアルツ ハイマー型認知症 認 知 症 症 状 の 強 さ ●同じことを何回も言う、聞く ●しまい忘れや置き忘れが目立つ ●夕食の準備や買い物で失敗する ●季節に合った服を自分で選べない ●お風呂に入ることを時々忘れる ●家の近所以外では迷子になる ●服を着る時に手助けが必要 FAST5:中等度のアルツハイマー型認知症 (靴ひもが結べない、シャツの袖やえりのボタンを自分で留め られない、左右間違えて靴をはく など) ●入浴の際に手助けが必要 (お風呂に入るのを嫌がる、お湯の温度、量の調節ができない、 自分で髪を洗えない、お風呂から出てもきちんと体を拭けない) ●お手洗いの後、水を流すのを忘れる ●失禁 FAST6:やや高度のアルツハイマー型認知症 FAST7:高度のアルツハイマー型認知症 軽度AD 2年間 中等度AD 1.5年間 FAST:Functional Assessment Staging e-learning#19 高度AD 5年間 罹病期間 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 鑑査のポイント おくすり手帳用「生活のご様子 確認票」も利用しましょう。 症状確認票はFAST※をもとに作成しており、患者様の重症度がわかるようになっています。 サイズ:92×117mm 確認した日付を記入 できます。 具体的な症状が 重症度別に 記載されています。 軽度 中等度 高度 認知症の症状が 進行したと考えら れます。 生活のご様子確認票 はFAST(Functional Assessment Staging) を元に右記5項目に 注目し、作成しました。 e-learning#20 気 付いたこと を ご記入いただき、 主治医の先生と 情報交換する スペースとして ご活用ください。 ※FAST:Functional Assessment Staging アルツハイマー型認知症の重症度を判定することを目的としている Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 対策(代替薬など)のポイント 薬剤師が医師に疑義照会する、または患者家族から医師に説明してもらうなど、今の状況を医師に伝え、 次の段階の治療を考慮しましょう。高度アルツハイマー型認知症に適応があるコリンエステラーゼ阻害薬 はドネペジル塩酸塩(アリセプト)だけですので、アリセプトを10mgに増量するという対応になります。 さらに、高度アルツハイマー型認知症の周辺症状の一つとして嚥下障害が今後現れることがありますので、 投薬時には常にコンプライアンスを確認し、必要に応じてD錠やドライシロップ剤、ゼリー製剤への処方 変更を医師に提言してください。 疑義照会 照会の必須度 推奨 先生にはお話されなかったとのことでしたので、ご連絡させていただきます。ご家族のお話によると、 最近、患者さんは服を着る時に手助けが必要であったり、左右の靴をはき違えたりしておられるようです。 病状が進んでいるように思われますが、いかが致しましょうか?アリセプトは、高度のアルツハイマー型 認知症に対して、10mg錠が使用可能です。 e-learning#21 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? 照会結果 変更あり 処方2 処方オーダリング 4月1日 神経内科 アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後服用 28日分 14日分 次回の受診日に検査を行い、改めて処方を考えるという医師からの回答であった。ただし、処方日数は 14日分に変更となった。 <参考> 本事例では、家族の話から治療中の中等度アルツハイマー型認知症患者の病状が進行しているのを 発見し、医師に増量を提案するというものでしたが、未治療のアルツハイマー型認知症患者を投薬時や 家族からの訴えによって発見し、受診勧奨を行うのも薬剤師として重要な役割です。以下で示したような 患者の振るまいを見つけたら、患者に受診を促しましょう。 薬局でみられる認知症の傾向 服薬し忘れを取り繕う 薬を飲み間違える 「薬を盗られた」と訴える 小銭で払えず紙幣を出す 堂々と万引き! 服装がちぐはぐ 「今日は何日でしたっけ?」と聞いても「1月の…。えっと、今日はカレンダーを見てないからわからないわ」とごまかすことがある。 「昨日もお会いしましたよね?」などとあえて間違った質問を何度かしてみる。 「そうですね」と話をあわせてくるようなら、認知機能の低下が疑われる。 NIKKEI Drug information 2011.01 NPO法人アビリティクラブたすけあい 香丸 眞理子 第6回 保険薬局マネジメントセミナー e-learning#22 Q4 もしかしたらアルツハイマー型認知症? まとめ e-learning#23 アルツハイマー型認知症や高度のアルツハイマー型認知症の発見も薬剤師の 重要な役割。段階を踏まえた認知症の特徴をよく認識し、受診勧奨や服薬量の 増量につなげることが望まれる。 Q5 用法及び用量のチェック! 処方とエピソード 軽度のアルツハイマー型認知症患者に継続的に3mgが処方されている、72歳の男性 処方1 4月1日 神経内科(前回の処方、初回) アリセプト錠3mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 処方2 4月15日 神経内科(今回の処方、2回目) アリセプト錠3mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 『患者は軽度のアルツハイマー型認知症であると診断されている。』 患者インタビュー この薬を飲み始めてから、お腹の調子などどうでしょうか? 薬剤師 特に変わったところは見られていないようです。 患者の家族 e-learning#24 Q5 用法及び用量のチェック! 問題 この処方は医師に対して疑義照会が必要です。 疑義照会の対象となる問題点は何ですか?正しいと思われる番号を選択してください。 1 アリセプトの服用時期は夕食後でなければならない。 2 アリセプトの初回の1日投与量が少なすぎる。 3 アリセプトの2回目の1日投与量が少なすぎる。 4 アリセプトは投与開始2週間後に休薬を行わなければならない。 5 アリセプトの初回の1日投与量が多すぎる。 回答 正解は 3 です。 3. アリセプトの2回目の1日投与量が少なすぎる。 e-learning#25 Q5 用法及び用量のチェック! 鑑査のポイント 承認された用法・用量どおりの増量が行われているか確認してください 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症に対するアリセプトの用法・用量 『通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。』 用法・用量に関連する使用上の注意 『3mg/日投与は有効用量ではなく、消化器系副作用の発現を抑える目的なので、 原則として1~2週間を超えて使用しないこと。』 国内の軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症患者を対象とした後期第Ⅱ相試験1)において、初回 から5mg/日を投与した群の消化器系症状の発現率(因果関係なしを含む)は12.5%であり、プラセボ群の 1.7%と比較して約7.4倍でした。 そこで、消化器系症状の発現を抑えるために、軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症患者を対象と した第Ⅲ相試験2)では、3mg/日を1週間投与した後に5mg/日に増量されました。その結果、消化器系症状 の発現率は5mg/日群(最初の1週間は3mg/日)で14.7%、プラセボ群で8.4%であり、約1.8倍と抑えられ ました。(なお、第Ⅲ相試験において消化器系症状の発現率が高くなった理由として、介護日誌を使用して 詳細に有害事象を収集したためと考えられています。) 一方、国内の軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症患者を対象とした後期第Ⅱ相試験 1) の層別 解析(投与前の認知機能が正常に近い(ADAS-Jcogが15点未満)症例を除いた解析)において、認知機能 の変化は3mg/日群とプラセボ群とで差が認められませんでした(次ページ参照)。 したがって、3mg/日は有効用量ではありません。この後期第Ⅱ相試験では5mg/日が臨床推奨用量と 示唆され、引き続き実施された第Ⅲ相試験において5mg/日の効果が証明されています。 e-learning#26 1)本間昭ら, 臨床評価, 26(2): 251-284, 1998. 2)Homma A et al., Dement Geriatr Cogn Disord, 11(6): 299-313, 2000. Q5 用法及び用量のチェック! アリセプト5mgと3mg投与時のADAS-Jcogの経時変化1) (点) -6.0 -5.0 投 与 開 始 時 と の 得 点 の 差 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 アリセプト5mg群(n = 41) アリセプト3mg群(n = 45) プラセボ群(n = 45) Mean±S.E. NS:p>0.05 *:p<0.05 (プラセボ群、3mg<5mg群) ※max t 検定 改善 0.0 1.0 2.0 3.0 悪化 群間比較※ NS 0 4 NS 8 評価時期 * 12 * 最終 (週) <http://qa.eisai.jp/medical/detail.asp?baID=3&nodeid=373&faqid=336> e-learning#27 1)本間昭ら, 臨床評価, 26(2): 251-284, 1998. Q5 用法及び用量のチェック! 対策(代替薬など)のポイント 承認された用法・用量どおりに投与量の漸増を進言してください アリセプトのように漸増投与しなければならない薬については、医師がその用法・用量をきちんと認識して いなかった場合、うっかり忘れていた場合、認識していたが処方入力ミスをした場合など、様々な理由で 不適正な処方となり得ます。また、副作用が発現した場合には医師が意識的に承認外の処方を行うことも 考えられます。 問題の処方では、患者に消化器症状などの副作用は発現しておらず、3mg/日で継続する特段の理由は ないと考えられますので、疑義照会が必須となります。 疑義照会 照会の必須度 推奨 「処方されていますアリセプトは、1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量することになっています。 また、1日3mgは有効用量ではなく、消化器系副作用の発現を抑える目的なので、原則として1~2週間を 超えないこととされています。今回は前回と同じ1日3mgのままですが、よろしいでしょうか?」 e-learning#28 Q5 用法及び用量のチェック! 照会結果 処方変更あり アリセプト錠 3mg 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 処方医は、アリセプトが初めて使用する薬だったため、アリセプトは漸増投与しなければならないことを 忘れていた。3mg/日から5mg/日に増量することとなった。 患者の家族には副作用(消化器系症状)が見られた場合には申告するように指導した。 まとめ e-learning#29 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症には 1日1回アリセプト3mgから 開始し、1-2週間後に維持量5mgに増量する。 Q5 用法及び用量のチェック! 処方とエピソード 高度のアルツハイマー型認知症患者に継続的に5mgが処方されている、68歳の男性 処方1 6月1日 神経内科(初回の処方) アリセプト錠3mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 処方2 6月15日、29日 神経内科(前々回、前回の処方) アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 1日1回 朝食後 14日分 処方3 7月13日 神経内科(今回の処方) アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 『患者は1ヶ月半前に高度のアルツハイマー型認知症であると診断され、アリセプトの 服用を開始した。これまで、3mg/日を2週間服用後、5mg/日を4週間服用している。』 e-learning#30 Q5 用法及び用量のチェック! 患者インタビュー このお薬を飲むようになって胃の調子が悪いとかお腹の調子などは いかがですか? 薬剤師 変わったことは特にないようです。 患者の家族 今回はいつもと同じお薬ですが、先生から何かお聞きでしょうか? 薬剤師 いえ、特には。いつものを出しておきますとおっしゃっていました。 患者の家族 e-learning#31 Q5 用法及び用量のチェック! 問題 この処方は医師に対して疑義照会が必要です。 5-B.疑義照会の対象となる問題点は何ですか?正しいと思われる番号を選択してください。 1 アリセプトの初回の1日投与量が多すぎる。 2 アリセプトは前回に増量すべきであった。 3 アリセプトを5mg/日で継続する意図が明らかではない。 4 アリセプトは6週間投与した後の2週間の休薬が行われていない。 5 アリセプトの服用時期は食前でなければならない。 回答 正解は 3 です。 3. アリセプトを5mg/日で継続する意図が明らかではない。 e-learning#32 Q5 用法及び用量のチェック! 鑑査のポイント 承認された用法・用量どおりの増量が行われているか確認してください。 高度アルツハイマー型認知症に対するアリセプトの用法・用量 『通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与す る。高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。』 用法・用量に関連する使用上の注意 『10mg/日に増量する場合は、消化器系副作用に注意しながら投与すること。』 〈参考〉アリセプト国内高度AD第Ⅲ相試験 有効性について、認知機能を評価する SIB 得点※ の最終時の変化量は、5 mg/日群、10 mg/日群とも に、プラセボ群と比較して有意な改善が認められています。 しかし一方、全般的臨床症状を評価する CIBIC plus※ では、10 mg/日群では有意な改善効果が認め られましたが、5 mg/日群では有意な改善までは至りませんでした。 e-learning#33 Q5 用法及び用量のチェック! 高度アルツハイマー型認知症を対象とした プラセボ対照二重盲検比較試験 【対象】 高度アルツハイマー型認知症患者325例にアリセプトまたはプラセボを投与した。 そのうち、 安全性解析対象例 302例(5mg群:101例 10mg群:96例 プラセボ群:105例) 有効性解析対象例 290例(5mg群: 96例 10mg群:92例 プラセボ群:102例) を解析対象例とした。 本試験の高度アルツハイマー型認知症とは 「高度アルツハイマー型認知症患者」とは、以下の基準を満たしたものを対象とした。 DSM-Ⅳによりアルツハイマー型認知症と診断され、改訂版Hachinskiの脳虚血スコアで 6点以下の患者のうち、以下の基準を満たすもの。 (1)観察開始日(投与4週前)のFASTが6以上の患者 (2)観察開始日(投与4週前)のMMSEが1~12点の患者 【方法】 アリセプト5mg、10mg、またはプラセボを1日1回経口投与した。投与期間は24週。なお 5mg 群 は 最 初 の 2 週 間 は 3mg/ 日 を 投 与 し 、 そ の 後 5mg/ 日 に 増 量 し た 。 10mg群は最初の2週間は3mg/日、その後4週間は5mg/日を投与し、6週後より10mg/日 に増量した。 【評価項目】 (1)SIB(認知機能) (2)CIBIC plus(臨床症状評価) 高度アルツハイマー型認知症承認申請資料 Q5 用法及び用量のチェック! 高度アルツハイマー型認知症を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験 ■SIBの平均変化量の推移 (点) 8 アリセプト10mg群 6 投 与 4 直 前 2 か ら 0 の 変 -2 化 量 -4 アリセプト5mg群 * * * 改善 * * * * * プラセボ群 Mean±S.E. *:p<0.001 対プラセボ群 共分散分析 ※SIB(Severe Impairment Battery): 高度に障害された認知機能を評価する ための検査。社会的相互行為や記憶、 見当識、注意、実行など9項目で構成 さ れ 、 患 者 と の 面 接 に よ り 100 ~ 0 点 (正常→重度)で評価します。 悪化 -6 (n数) アリセプト10mg群 アリセプト5mg群 プラセボ群 e-learning#35 臨床成績 観察開始 投与直前 8 16 24 最終 71 84 81 92 95 101 評価時期(週) 91 94 101 92 95 101 85 91 97 77 83 85 高度アルツハイマー型認知症承認申請資料 Q5 用法及び用量のチェック! 高度アルツハイマー型認知症を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験 ■CIBIC plusの改善度(最終時) 0 50 アリセプト 7 10mg群 (7.8) 35 (38.9) (n=90) 20 (22.2) 27 (28.1) 26 (27.1) 19 (21.1) 9 (10.0) 30 (31.3) 9 (9.4) p=0.151 (n=96) 100(%) 4(4.2) プラセボ群 (n=101) 18 (17.8) 30 (29.7) 34 (33.7) 11 (10.9) 1(1.0) 6(5.9) 1(1.0) Cochran-Mantel-Haenszel 対プラセボ群 大幅な改善 中程度の改善 若干の改善 不変 若干の悪化 p=0.003 アリセプト 5mg群 臨床成績 中程度の悪化 検定例数(%) 大幅な悪化 判定不能 ※CIBIC plus(the Clinician's Interview-Based Impression of Change plus caregiver input): 患者及び介護者との面接により、全般的な臨床症状の変化を評価するための検査。状態のあらましや認知機能など、4領域の患者様の状態を、7段階または判定不能で評価します。 e-learning#36 高度アルツハイマー型認知症承認申請資料 Q5 用法及び用量のチェック! 対策(代替薬など)のポイント 副作用の有無を確認した上で、投与量の漸増について確認をしてください アリセプトのような漸増投与を行う薬については、医師がその用法・用量をきちんと認識していなかった 場合、うっかり忘れていた場合、認識していたが処方入力ミスをした場合など、様々な理由で不適正使用が 起こり得ます。また、医師が意識的に承認外の処方を行うことも考えられます。そのため薬剤師は、薬歴や チェックリストなどを用いて、薬歴を確実に管理する必要があります。 問題の処方では、すでに5mg/日を4週間投与しており、患者の家族の話からは、特に消化器症状の 副作用は認められておりません。10mg増量時の副作用発現軽減を企図して、医師が意図的に5mgの処方 期間を延長している可能性がありますが、10mg/日への漸増が行われない理由について確認するため、 疑義照会が必須となります。 疑義照会 照会の必須度 推奨 「処方されていますアリセプトは、高度のアルツハイマー型認知症の場合、1日5mgを4週間以上投与 してから1日10mg/日に増量することになっています。患者さんは既に1日5mgを4週間服用されていますが、 1日10mgに増量されておりません。何か特段の事情がございますでしょうか?」 e-learning#37 Q5 用法及び用量のチェック! 照会結果 処方変更あり 処方3 7月13日 神経内科(今回の処方) アリセプト錠 5mg 10mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14 日分 7 処方医は、アリセプトは漸増投与しなければならないことを認識してはいたが、患者が既に5mg/日を 4週間服用していることを失念していた。特に副作用も認められておらず、10mg/日に増量することになった。 また、念のため処方日数を7日分に変更し、次週再受診してもらい、消化器系症状を確認することとなった。 患者の家族には副作用(消化器系症状)が見られた場合には申告するように指導した。 まとめ 高度のアルツハイマー型認知症患者には、維持量としてアリセプト10mgを投与 する必要がある。 副作用発現軽減のため、アリセプト5mgで4週間以上経過後に維持量10mgに 増量する。 e-learning#38 Q5 用法及び用量のチェック! 処方とエピソード 高度のアルツハイマー型認知症患者で5mg服用1週間後に10mgに 増量された、84歳の女性 処方1 10月5日 神経内科(前々回の処方、初回) アリセプト錠3mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 7日分 1日1回 朝食後 7日分 処方2 10月12日 神経内科(前回の処方) アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 処方3 10月19日 神経内科(今回の処方) アリセプト錠10mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 7日分 『患者は高度のアルツハイマー型認知症であると診断されている。』 患者インタビュー 今回お薬の量が増えていますが、先生からは何か聞かれていますか? 薬剤師 高度の認知症なので、お薬の量を増やすと聞いています。 患者の家族 e-learning#39 Q5 用法及び用量のチェック! 問題 この処方は医師に対して疑義照会が必要です。 疑義照会の対象となる問題点は何ですか?正しいと思われる番号にチェックをつけてください。 1 アリセプトの初回の1日投与量が少なすぎる。 2 アリセプトは2週間投与した後に1週間の休薬を行わなければならない。 3 アリセプトを10mg/日で投与する場合は、1日2回に分けなければならない。 4 アリセプトを10mg/日で投与する場合は、服用時期は就寝前でなければならない。 5 アリセプトは5mg/日で4週間以上経過しないと10mg/日に増量してはいけない。 回答 正解は 5 です。 5. アリセプトは5mg/日で4週間以上経過しないと10mg/日に増量してはいけない。 e-learning#40 Q5 用法及び用量のチェック! 鑑査のポイント 承認された用法・用量どおりの増量が行われているか確認してください。 高度アルツハイマー型認知症に対するアリセプトの用法・用量 『通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与す る。高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。』 用法・用量に関連する使用上の注意 『10mg/日に増量する場合は、消化器系副作用に注意しながら投与すること。』 e-learning#41 Q5 用法及び用量のチェック! 米国の軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症患者を対象とした2つの第Ⅲ相試験では、5mg/日を 1週間投与後に10mg/日に増量されました。その結果、12週間投与された試験1)では、10mg/日投与群で 悪心(22%)、不眠(18%)、下痢(13%)が、プラセボ群(それぞれ8%、5%、3%)や5mg/日投与群 (それぞれ7%、8%、6%)よりも多く発現し、24週間投与された試験2)でも、10mg/日投与群で下痢(17%)、 悪心(17%)、嘔吐(10%)が、プラセボ群(それぞれ7%、4%、2%)や5mg/日投与群(それぞれ9%、4%、 3%)よりも多く発現しました。一方、これら2試験に引き続いて行われた継続長期投与試験 3) において、 5mg/日を6週間投与後に10mg/日に増量したところ、10mg/日投与群における主な有害事象の発現率は、 プラセボ群とほとんど差が認められない程度にまで減少しました。 以上のことから、国内の高度のアルツハイマー型認知症患者を対象とした第Ⅲ相試験 4) において、 10mg/日の投与方法として最初の2週間は3mg/日を投与し、その後の4週間は5mg/日を投与した後、 10mg/日に増量したところ、副作用の発現率はプラセボ群で21.0%、5mg/日群で28.7%、10mg/日群で 46.9%であり、10mg/日群ではプラセボ群よりも高かったものの、重篤な有害事象はそれぞれ14.3%、 11.9%、10.4%、高度な有害事象はそれぞれ9.5%、2.0%、5.2%であり、3群間で差は認められません でした。 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬による末梢でのコリン作動性作用(ムスカリン様作用)による副作用 (消化器系症状)は、用量依存的に発現率が高くなる可能性があります。消化器症状は漸増投与により ある程度抑えられることが知られていますので、3mg/日から5mg/日に増量し、5mg/日で4週間以上投与 して十分に慣れさせてから、10mg/日に増量する必要があります。 e-learning#42 1) Rogers SL et al., Arch Intern Med, 158(9):1021-1031, 1998. 2) Rogers SL et al., Neurology, 50(1):136-145, 1998. 3) Doody RS et al., Arch Neurol, 58(3):427-433, 2001. 4) Homma A et al., Dement Geriatr Cogn Disord. 25(5):399-407, 2008. Q5 用法及び用量のチェック! 対策(代替薬など)のポイント 承認された用法・用量どおりに、投与量の漸増を進言してください アリセプトのように漸増投与しなければならない薬については、医師がその用法・用量をきちんと認識して いなかった場合、うっかり忘れていた場合、認識していたが処方入力ミスをした場合など、様々な理由で 不適正な処方となり得ます。また、医師が意識的に承認外の処方を行うことも考えられます。そのため 薬剤師は、チェックリストなどを用いて薬歴を確実に管理する必要があります。 問題の処方では、5mg/日の投与期間が1週間で10mg/日への漸増となりますので、消化器症状などの 副作用が発現する可能性が高く、また、承認された用法・用量とは異なる漸増法となっていますので、 疑義照会が必須となります。 疑義照会 照会の必須度 必須 「処方されていますアリセプトは、1日5mgを4週間以上投与してから1日10mgに増量することになっています。 急激に増量しますと、消化器系副作用が発現する可能性があるため、1日5mgで十分に慣れていただく 必要があります。今回は、1日5mgに増量されてから1週間しか経過しておりませんが、いかがいたしま しょうか?」 e-learning#43 Q5 用法及び用量のチェック! 照会結果 処方変更あり 処方3 10月19日 神経内科(今回の処方) アリセプト錠 10mg 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 7日分 処方医は、アリセプトが初めて使用する薬だったため、アリセプトは漸増投与しなければならないことは 認識していたが、3mg/日 → 5mg/日 → 10mg/日と1週間ごとに増量すればよいと誤解していた。5mg/日を 継続することになった。 まとめ e-learning#44 高度のアルツハイマー型認知症患者に対してはアリセプト5mgから10mgへの 増量は、副作用発現を軽減するため4週間以上かける必要がある。 Q5 用法及び用量のチェック! 処方とエピソード 5mgで継続服用していた患者に副作用が発現したため休薬、4週間後に5mgで再開された、 91歳の女性 処方1 7月8日 神経内科(前回の処方) アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 1日1回 朝食後 14日分 処方2 8月19日 神経内科(今回の処方) アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 『患者は軽度のアルツハイマー型認知症であると診断されており、これまでアリセプトを 5mg/日で継続服用していた。約1ヶ月前に副作用(腹部消化器症状)のため中止されて いたが、今回から再開されることになった。』 e-learning#45 Q5 用法及び用量のチェック! 患者インタビュー 前に来局されてからしばらくたっていますが、なにかございましたか? お腹の調子が悪くなって、お薬の副作用だろうということで、お薬は 中止になっていました。調子も良くなったので、今回からまた同じ 薬を飲むことになりました。 患者の家族 お薬が中止になったのはいつ頃でしたか? 前々回受診した時だったので、4週間前だと思います。 患者の家族 薬剤師 e-learning#46 Q5 用法及び用量のチェック! 問題 この処方は医師に対して疑義照会が必要です。 疑義照会の対象となる問題点は何ですか?正しいと思われる番号を選択してください。 1 副作用で中止してからの休薬期間が短すぎる。 2 副作用で中止した場合、アリセプトは再開してはいけない。 3 アリセプトを再開する場合、1週間投与した後に1週間休薬しなければならない。 4 内服薬は使用できないので、経皮吸収型のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に 変更しなければならない。 5 アリセプトを再開する場合、今回の1日投与量が多すぎる。 回答 正解は 5 です。 5. アリセプトを再開する場合、今回の1日投与量が多すぎる。 e-learning#47 Q5 用法及び用量のチェック! 鑑査のポイント 休薬した後に投与を再開する場合の用法・用量を確認してください。 アリセプトでは、用量依存的に消化器症状の発現率が高くなります。アリセプトによる消化器症状は、 投与初期の血漿中濃度の上昇に起因したコリンエステラーゼ阻害作用に基づく急性症状であると考えられ ています1)。したがって、休薬前の投与量である5mg/日で再開した場合、副作用の発現が懸念されます。 e-learning#48 1)本間昭ら:臨床評価, 26, 251-84(1998) Q5 用法及び用量のチェック! 対策(代替薬など)のポイント 休薬期間が4週間を超えている場合には3mg/日からの再開を検討してください 再開する場合の投与量について検討した臨床試験は行われておらず、明確なデータはありません。 国内の第Ⅲ相臨床試験 2) では、休薬3週間以内ではアリセプトの血中濃度が0になっていないことが 確認されているため、休薬期間が3週間以内であれば5mg/日から再開しても問題ないと思われます。 しかし、休薬期間が4週間を超えている場合や、副作用の発現が懸念される場合などは、3mg/日から 再開することが勧められます。 問題の処方では、休薬期間が4週間であり、5mg/日で再開されていますので、疑義照会が必須と なります。 疑義照会 照会の必須度 必須 「アリセプトを処方されている患者さんですが、副作用のため4週間休薬されていたとうかがいました。 4週間を超えての休薬後にアリセプトを再開する場合、消化器症状などの副作用発現が懸念されますので、 初回の場合と同じように 、1日1回3mgから開始したほうがよろしいかと存じますが 、いかがいたしま しょうか?」 e-learning#49 2)エーザイ社内資料 http://qa.eisai.jp/medical/detail.asp?baID=3&nodeid=373&faqid=326の記載です。 Q5 用法及び用量のチェック! 照会結果 処方変更あり 処方2 8月19日 神経内科(今回の処方) アリセプト錠 5mg 3mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分 処方医は、アリセプトを休薬後に再開する患者が初めてであったため、再開時の投与量について注意を 向けていなかった。副作用の発現が懸念されることから、3mg/日で再開することとなった。 患者の家族には副作用(消化器系症状)が見られた場合には申告するように指導した。 まとめ e-learning#50 5mg/日での継続服用を一旦休薬した場合、休薬期間が4週間を超えている 場合には、副作用発現を回避するため、初期用量3mg/日からの再開を検討 する。 Q5 用法及び用量のチェック! 処方とエピソード レミニール16mg服用中からアリセプト5mgに変更の場合には疑義照会 72歳の男性 処方1 (前回の処方)処方オーダリング 4月1日 神経内科 レミニール錠8mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 14日分 処方2 (今回の処方;初回)処方オーダリング 4月15日 神経内科 アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 7日分 患者インタビュー 患者は中等度アルツハイマー型認知症であると診断されている。 今回、お薬が変更になっていますが、先生からは説明をうけておられますか? 薬剤師 e-learning#51 最初は少ない量から飲んで来たんですが、1日2回飲ませるのを どうしても忘れるのです。それで今回お薬が変更になりました。 患者の家族 Q5 用法及び用量のチェック! 問題 この処方は医師に対して疑義照会が必要です。 疑義照会の対象となる問題点は何ですか?正しいと思われる番号にチェックをつけてください。 1 アリセプトの服用時期は就寝前でなければならない。 2 レミニール錠を16mg/日で服用していたのだから、アリセプトの初回の1日投与量が少なすぎる。 3 レミニール錠を減らしながら、アリセプト錠を併用し、最終的にレミニール錠を止めるような漸減 処方でなくてはいけない。 4 アリセプト処方開始前に2週間休薬が行われていない。 5 アリセプトの初回の1日投与量が多すぎる。 回答 正解は 5 です。 5. アリセプトの初回の1日投与量が多すぎる。 e-learning#52 Q5 用法及び用量のチェック! 鑑査のポイント 他の同効薬から変更する場合、変更時点での他の同効薬の用量が維持用量まで 増量されていても、アリセプト錠は初期用量の3mg/日から開始しなくてはいけません。 本邦では、アリセプトの他にガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロン/リバスタッチ)のコリン エステラーゼ阻害薬が、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に対し適応を有します。これらの 薬剤は、主な作用機序は同じであっても、薬理作用が多少異なっていたり、製剤特性が異なるため、 ある薬剤で忍容性が悪かったり(消化器症状、徐脈など)、効果に問題がある場合でも、他のコリンエステ ラーゼ阻害薬に変更することで効果が見られたり、副作用が軽減することがあります。海外では、コリン エステラーゼ阻害薬間の切り替え試験の結果が数例報告されていますが(ガランタミン、リバスチグミン から、アリセプトへの切り替え試験はなし)1)、それらの試験においては、切り替えに際して休薬期間を置か ないまでも、切り替え後の治療薬は最少用量で投与開始することによって症状の改善が見られています。 ただし、前治療薬で副作用発現が認められた場合には、7~14日間の休薬期間をおく方が安全だとも 考えられています。2) e-learning#53 1. Massoud F et al., Int Psychogeriatr, 23(3): 372–378, 2011. 2. Farlow MR, Cummings JL, Am J Med, 120(5): 388-397, 2007. Q5 用法及び用量のチェック! 対策(代替薬など)のポイント 他のコリンエステラーゼ阻害薬からアリセプトへ変更した臨床試験が現時点では行われていないこと 、 他のコリンエステラーゼ阻害薬間における臨床試験での切り替え方法に準じた初回投与量を処方するべき であることを説明します。 疑義照会 照会の必須度 必須 「今回、患者さんのお薬が変更になっております。コリンエステラーゼ阻害薬間の切り替えでは、副作用を 最小限に抑えるために、切り替え後の初回投与量は最少用量から開始する必要があることが、海外で 行われた数例の臨床試験で示されております。それらの試験では、前治療薬で副作用がでていなければ、 休薬期間を空けなくても良いことも示されております。いかがいたしましょうか。」 照会結果 処方3 処方変更あり アリセプト錠 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 3mg 7日分 疑義照会の結果、高齢でもあることから、アリセプトを3mgから始めることになりました。 まとめ e-learning#54 他のアルツハイマー型認知症治療薬からの薬剤変更。どんな場合でも、副作用 発現回避のためアリセプトは初期用量3mgからの開始が必須である。 Q6 相互作用をチェック! 処方とエピソード 心気症状が悪化したためパロキセチンが併用になった、80歳の男性 処方1 (前回の処方)処方オーダリング 11月1日 神経内科 アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 14日分 処方2 (今回の処方) アリセプト錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 14日分 パキシル錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 14日分 『患者はアルツハイマー型認知症であると診断されている。』 患者インタビュー 今日はパキシルという抗うつ薬が処方されていますが、 何か変わったことが起きたのでしょうか? 薬剤師 以前は買い物が好きだったのに最近、さそっても外出しないし、家でじっとして いるのです。食欲もなさそうだし、好きだったテレビも見なくなったので先生に 相談したところ、気分を明るくする薬を出しておきましょうとのことでした。 患者の家族 e-learning#55 Q6 相互作用をチェック! 問題 この処方は医師に対して疑義照会が必要です。 この処方に関して正しいと思われる番号を選択してください。 1 アリセプトとパキシルは併用禁忌である。 2 パキシルはアリセプトの代謝酵素の一つであるCYP2D6を阻害し、アリセプトの血漿中濃度を 上昇させる。 3 アリセプト服用中のアルツハイマー型認知症患者の抑うつ治療のために、全てのSSRIは問題 無く併用できる。 4 アリセプトとパキシルを併用する際には、パキシルを減量しなくてはいけない。 5 アリセプトと併用する際にはフルボキサミンが適切である。 回答 e-learning#56 正解は 2 です。 Q6 相互作用をチェック! 鑑査のポイント SSRIとアリセプトの併用は「併用注意」には設定されていませんが、アリセプトはCYP3A4やCYP2D6により 代謝されるため、CYP3A4及びCYP2D6の阻害作用を有するフルボキサミンマレイン酸塩、CYP2D6の阻害 作用を有するパロキセチン塩酸塩水和物やデュロキセチン塩酸塩との併用により、アリセプトの作用が 増強される可能性が考えられますので、併用時には患者の状態に注意してください。 e-learning#57 Q6 相互作用をチェック! 対策(代替薬など)のポイント 1 アルツハイマー病におけるうつ症状の治療 文献検索では、アルツハイマー病におけるうつ症状の有病率は、使用する診断基準により差があることが 知られていますが、通常50~60%前後とされています。1) アメリカ精神医学会のアルツハイマー病とその他の認知症治療のガイドライン 2)では、アルツハイマー病合 併のうつ病に対するSSRIのエビデンスは確立していないとしながらも、Bupropion、venlafaxine(本邦未発売)、 ミルタザピンなどを推奨しています(ただし、三環系抗うつ薬は使用すべきではないと記載されています)。 うつ病の治療を考える場合には、まずアルコールや鎮静・睡眠導入薬への依存、脳卒中やパーキンソン病 などの神経疾患、甲状腺疾患や心臓病、悪性腫瘍などの身体疾患やステロイドやベンゾジアゼピン系 抗不安薬や睡眠導入薬などの使用がなされていないかを明確にする必要性が述べられています。 一方でこれらの報告とは逆に、パロキセチン塩酸塩水和物投与中の中等度アルツハイマー型認知症患者 にアリセプトを追加投与したところ、興奮と錯乱をきたして攻撃的になったという症例報告もあり3)(この報告 に対して、患者が攻撃的になった理由を両薬剤の相互作用とは断言しかねる、とコメントもあります 4) )、 患者の状態を詳細に把握する必要があります。 SSRIのアルツハイマー病合併のうつ病に対する効果については、多くの臨床試験が行われていますが、 最近のメタアナリシスでは、SSRI(直接解析されているのはセルトラリン、venlafaxine、fluoxetine(本邦 未発売)、ミルタザピン)がアルツハイマー病合併のうつ病に対してプラセボと比較して効果がないことが 示されています5-7)。 以上のことから、現時点で、アルツハイマー病合併のうつ病に対してのSSRIの効果は明確ではないと 考えられます。 e-learning#58 1. Wragg RE,Jeste DV.Am J Psychiatry.146(5):577-87,1989. 2. http://psychiatryonline.org/content.aspx?bookid=28§ionid=1679489の <6. Treatment of Depression>(2012.11 アクセス) 3. Carrier, L.:J. Am. Geriatr. Soc., 47, 1037(1999) 4. Rojas-Fernandez, C.:J. Am. Geriatr. Soc., 48,597-8(2000) 5. Nelson JC et al., J Am Geriatr Soc,59:577-585,2011. 6. Bains J et al., Cochrane Database Syst Rev,4:CD003944.2002. Q6 相互作用をチェック! 対策(代替薬など)のポイント 2 アリセプトとSSRIの薬物動態学的相互作用 SSRIとアリセプトの併用は「併用注意」には設定されていませんが、アリセプトはCYP3A4やCYP2D6により 代謝されるため、CYP3A4及びCYP2D6の阻害作用を有するフルボキサミンマレイン酸塩、CYP2D6の 阻害作用を有するパロキセチン塩酸塩水和物やデュロキセチン塩酸塩との併用により、アリセプトの作用 が増強される可能性が考えられますので、併用時には患者の状態に注意が必要です。これらのSSRIが 使用できない場合の代替薬としては、CYPの阻害作用を持たないエスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ 錠10mg)、塩酸セルトラリン(ジェイゾロフト錠25/50mg)、ミルタザピン(リフレックス、レメロン15mg)、 ミルナシプラン塩酸塩(トレドミン錠12.5mg/15mg/25mg/50mg)などがあります。 e-learning#59 Q6 相互作用をチェック! 疑義照会 推奨 「この度、アリセプトと併用するようにパロキセチンを御処方になっておられますが 、パロキセチンは アリセプトの主な代謝酵素でありますCYP2D6を強力に阻害します。従いまして、併用によりアリセプトの 血漿中濃度が上昇する可能性があります。薬物動態学的に相互作用のない代替薬としては、エスシタロ プラムシュウ酸塩、ミルタザピンなどがありますが、如何いたしましょうか」 照会結果 変更あり パロキセチンはエスシタロプラムシュウ酸塩に変更となった。 処方2 まとめ e-learning#60 アリセプト錠 5mg 1錠 1日1回(1回1錠) 朝食後服用 14日分 パキシル錠 20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 14日分 レクサプロ錠 10mg 1錠 1日1回(1回1錠) 夕食後服用 14日分 アリセプトは主に肝代謝酵素CYP3A4やCYP2D6で代謝される。 CYP3A4やCYP2D6を阻害するフルボキサミンマレイン酸塩、CYP2D6の阻害 作用を有するパロキセチン塩酸塩水和物やデュロキセチン塩酸塩との併用に より、アリセプトの作用が増強される可能性がある。 Q6 相互作用をチェック! 処方とエピソード リバスタッチパッチとの併用処方(外用剤との併用は可能と思いがち) 69歳の男性 処方1 前回(12月1日) 老人科より アリセプトD錠(5mg) 処方2 今回(12月15日) 1回1錠(1日1錠) 1日1回朝食後服用 28日分 老人科より アリセプトD錠(5mg) リバスタッチパッチ4.5mg 1回1錠(1日1錠) 7枚 1日1回朝食後服用 7日分 1日1回1枚貼付 『患者は中等度のアルツハイマー型認知症のため、2カ月以上アリセプトD錠(処方1)を 服用していたが、今回処方2に変更となった。』 e-learning#61 Q6 相互作用をチェック! 患者インタビュー 今回、お薬が追加になっていますが、先生からは何か説明を 受けられましたか? 薬剤師 はい。最近になって、食欲がなくなってきて、本人も胃の調子があまり 良くないと言うものですから、先生に相談しましたら、似たようなお薬で 貼り薬もあるので変えてみましょうと説明されました。ただし、貼り薬は 少ない量からはじめないといけないので、貼り薬の量が増えるまでの 期間は、今までの飲み薬も続けて出しておきますとのことでした。 e-learning#62 患者の家族 Q6 相互作用をチェック! 問題 この処方は処方医に対する疑義照会が必要です。 以下の問題に答えてください。 疑義照会の対象となる問題点は何ですか?正しいと思われる番号にチェックをつけてください。 1 アリセプトD錠からリバスタッチパッチに切り替えるときは、アリセプトD錠を減量しながらリバス タッチを増量する必要がある。 2 アリセプトD錠とリバスタッチパッチは、併用することができない。 3 アリセプトD錠を使用している患者がリバスタッチパッチに切り替える場合は、アリセプトD錠を 中止するとともに、リバスタッチパッチは一般的な初期用量の4.5mgではなく、維持量の9mgまた は13.5mgから開始する。 4 貼付剤としては、ドネペジル塩酸塩の貼付剤も市販されているので、そちらを用いた方がよい。 5 食欲不振などの消化器症状を有する患者に対しては、リバスタッチパッチは投与できない。 回答 正解は 2 です。 2. アリセプトD錠とリバスタッチパッチは、併用することができない。 e-learning#63 Q6 相互作用をチェック! 問題 アリセプトD錠とリバスタッチパッチは、併用することができません。 以下の問題に答えてください。 アリセプトD錠とリバスタッチパッチが併用できない理由として、正しいものはどれですか。 1 リバスタッチパッチにより、アリセプト(ドネペジル塩酸塩)の代謝が阻害され、血中濃度が著しく 上昇するため。 2 リバスタッチパッチの適応患者は、経口剤が服用できない患者に限定されているため。 3 両剤とも コリンエステラ ーゼ阻害作用を有し 、悪 心、嘔 吐等の 胃 腸障害 、また 、「 重大な 副作用」である徐脈、心ブロック等が発現したり、重篤化する可能性があるため。 4 両剤とも「重大な副作用」として肝機能障害が知られており、併用により重篤な肝障害が発現 した症例が報告されているため。 回答 正解は 3 です。 3. 両剤ともコリンエステラーゼ阻害作用を有し、悪心、嘔吐等の胃腸障害、また、「重大な 副作用」である徐脈、心ブロック等が発現したり、重篤化する可能性があるため。 e-learning#64 Q6 相互作用をチェック! 鑑査のポイント ドネペジル塩酸塩は、他のコリンエステラーゼ作用を有する同効薬との併用 は できません アリセプトの「使用上の注意」の「相互作用」の項においては、他のコリンエステラーゼ阻害薬との併用に ついて「禁忌」あるいは「併用注意」との規定はありません。しかし、「2.重要な基本的注意」に、「(4)他の アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有する同効薬(ガランタミン等)と併用しないこと。」と規定されて います。すなわち、コリンエステラーゼ阻害薬は、消化管障害や消化性潰瘍、徐脈、心ブロックなどのコリン 作動性の副作用を発現する可能性があり、これらの副作用が両剤の併用により発現したり、重篤化する 危険性があります。 このように、両者の併用は、安全性の観点から回避すべく規定されており、リバスチグミン経皮吸収型製剤 (リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ)の医薬品添付文書にも同様の記載があります。 e-learning#65 Q6 相互作用をチェック! 対策のポイント コリンエステラーゼ阻害薬には、経皮吸収型の製剤もありますが、アリセプトとの 併用はできません リバスチグミン経皮吸収型製剤(リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ)は、アリセプトと同じくコリンエステ ラーゼ阻害作用を有するアルツハイマー型認知症治療剤の外用剤ですが、有効成分は皮膚から吸収され、 全身循環に移行して作用を示す、いわゆる経皮吸収型製剤です。したがって、全身作用性の副作用を 考慮する必要があります。 表1.アリセプト錠とリバスチグミン経皮吸収型製剤の副作用頻度(%) 副作用の種類 アリセプト錠1) (n=3,697) アリセプト錠2) (n=386) リバスチグミン経皮吸収 型製剤(n=858) 心臓障害 徐脈 心室性期外収縮 0.24 0.08 0 4.92 0.26 1.30 3.7 0.6 0.8 胃腸障害 嘔吐 悪心 下痢 便秘 腹痛 3.73 0.65 1.76 0.78 0.19 0.14 17.10 6.99 8.03 4.92 1.04 0.26 16.0 9.0 8.7 2.0 1.5 0.8 1)軽度及び中等度アルツハイマー型認知症患者における値(承認時と使用成績調査の合計)。 2)高度アルツハイマー型認知症患者における承認時の値。 [アリセプトおよびリバスタッチパッチのインタビューフォームより] e-learning#66 Q6 相互作用をチェック! 疑義照会 照会の必須度 必須 「患者さんが消化器系の症状を気にされていることから、先生は今回、外用剤のリバスタッチパッチへの 変更を考慮されているかと思います。しかし、両剤はいずれもコリン作動性の副作用があることから、 同時併用することはできません。また、内用剤のアリセプトを外用剤のリバスタッチパッチに変更することで、 消化器系の副作用を軽減できるというエビデンスもありません。いかがいたしましょうか。」 照会結果 変更あり アリセプトD錠(5mg) リバスタッチパッチ4.5mg 1回1錠(1日1錠) 7枚 1日1回朝食後服用 1日1回1枚貼付 7日分 リバスタッチパッチは中止となった。 消化器系の副作用については、継続して経過観察していくこととした。 まとめ コリンエステラーゼ阻害薬には外用剤(経皮吸収型製剤)が存在する。 外用剤における副作用の発現頻度は低くない。 外用剤であれば併用しても大丈夫だと思いがちだが、同効薬の併用は 避けるべきである。 e-learning#67
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