一般病棟におけるSTAS-Jの 使用経験と今後の課題 医療法人社団 カレス アライアンス 天使病院 外科 中島 信久 日本ホスピス緩和ケア協会 東海北陸支部 STAS講習会 ( 2006.9.23 ) 急性期病棟でSTAS-Jを導入した理由 (札幌社会保険総合病院外科病棟) ・ 周術期患者,重症患者などへの対応に追われ,終末期の患者に十分関わる ことが難しい 。・・・ 多くの急性期病棟で抱えている問題 ・ 終末期の患者と,実際どのように関わったらよいのかがわからない。 ・身体症状に対するケアが主体となりやすい。 ・スタッフの努力が患者のQOLの向上に役立ってていることを実感したり,その内容 に自信を持ったりすることができない。 → 患者,家族へのケアの成果を定期的に評価するための適当な指標が必要。 (但し,業務量の増加は,できれば避けたいところ・・・) → STAS日本語版を用いて終末期の患者のケアの評価を開始 (ステップ 0)。 病院の概要 (札幌社会保険総合病院) 地域 札幌市東部 ( 新札幌 ; 札幌副都心 ) ベット数 274床・・・5階西病棟 51床 (外科;39床,泌尿器科;12床) 平均在院日数 14日 医師数 外科 ; スタッフ6名+研修医2名, 泌尿器科 ; 2名 看護師数 22名 手術件数 外科 ; 約500件/年, 泌尿器科 ; 400件/年 終末期患者数 外科 ; 40-50名/年, 泌尿器科 ; 4-6名/年 カンファランス ・病棟カンファランス ; 毎週火曜日,総回診後 多職種・・・医師,看護師,薬剤師,栄養士,医事課など ・チームカンファランス(看護師); 毎日 導入に際して,「心掛けたこと」, 「目指したこと」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.上からの押し付けで始めない。 ×: 「さあ,今日からこのツールを使ってケアの評価をしましょう」 → 評価すること自体が目的化し,スタッフの負担が増えるだけ 2. 急がず,焦らず,じっくりと普及させる。 導入に際して,十分な準備をし,小規模から始める。 (興味を抱く少数のメンバーで,問題のある少数の患者に対してSTAS-Jを活用) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3. STAS-Jを用いることで,患者ケアの向上のために解決すべきポイントが明確になる。 4. 自らの行うケアの成果を実感でき,その内容に自信が持てる。 (*成功の秘訣は,スタッフがその「良さ」を実感できるか否かにかかっている!!) 5. 楽しい! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ STAS-J導入に向けての4(+1)つのステップ ステップ 0・・・・私自身の準備期 ステップⅠ・・・・2人のコア・ナースとの勉強会 ステップⅡ・・・・医師+コア・ナースにプライマリ・ナースを加えた事例検討 (1例ずつじっくりと) ステップⅢ・・・・コア・ナース+プライマリ・ナースによる事例の蓄積 ステップⅣ・・・・病棟全体での勉強会の開催~病棟全体としての取り組みへ (標準的なツールとして使用開始) ステップ 0 ステップ Ⅰ ステップ Ⅱ ステップ Ⅲ ステップ Ⅳ ’02 10 ~~ ’04 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (月) STAS-J 導入に向けての4(+1)つのステップ ステップ 0 ステップ 0 私自身の準備期 ステップ Ⅰ 終末期の患者に対する独自のオーディット調査 (2002.10~2004.3の18ヶ月間,約60例) ステップ Ⅱ ・ 最終回入院時にSTAS-J評価を行い,治療,ケアを 行う上での問題点を把握 ステップ Ⅲ →→ 「これはいけそうだ!」 →→ ステップ Ⅰへ ステップ Ⅳ ~ ~ 2 3 4 5 6 7 8 9 STAS-J 導入に向けての4(+1)つのステップ ステップ Ⅰ (導入期) ステップ 0 ステップ Ⅰ 2人のコア・ナースとの勉強会 緩和ケアに関心の高い2人の看護師(主任,リーダー格= コア・ナース)と,STAS-Jを用いた手弁当の勉強会 ステップ Ⅱ ・各自で全体の通読 ・仮想症例を用いたdiscussion ステップ Ⅲ →→ STAS-Jの十分な理解 →→ 現場での活用に対する期待感!! ステップ Ⅳ ~ ~ 2 3 4 5 6 7 8 9 STAS-J 導入に向けての4(+1)つのステップ ステップ Ⅱ (事例検討期) ステップ 0 ステップ Ⅰ 医師+コア・ナースにプライマリ・ナースを加えた事例検討 この時期に,終末期の入院患者さんが4~5名入院中。 ステップ Ⅱ それぞれを担当するプライマリ・ナースに,STAS-Jの活用につい て個別に持ちかけ(決して強制ではなく!),関心をもったナース とともに,実際の患者さんについて事例検討を開始した ( 1例ず つ,じっくりと!)。 ステップ Ⅲ ステップ Ⅳ ~ ~ 2 3 4 5 6 7 8 9 事例紹介 [ 34歳男性,独身,スキルス胃癌術後,癌性腹膜炎,予後1ヶ月 ] * プライマリ・ナース: 10年目 ( 内科7年,外科3年目 ) * 初回評価時の問題点: ・STASで評価を行うにあたり,看護情報の不足が判明(特に家族情報) ・患者,家族の病状認識 ( 治る可能性への期待 ) (#5-③,#6-③) ・患者-家族間の問題; 父親(同時期に舌癌に罹患)が,息子の病状を受容できずにいる 父,子の間にいる母親の不安,狼狽 (#7-③,#8-②) * STASによる継続アプローチとその成果: ・医師からの継続的なICや看護支援により,病状を理解,受容 → 在宅生活への希望 (#5-①,#6-①,#7-①) ・辛い立場にある母親を援助 →母親が思いを表出できる,患者-母親間の関わりが深まる (#7-①,#8-①) ( #5-③,#6-③,・・・はSTAS日本語版の項目の番号とスコアリング結果 ) STAS-J 導入に向けての4(+1)つのステップ ステップ Ⅲ (事例蓄積 期) ステップ 0 ステップ Ⅰ コア・ナース+プライマリ・ナースによる事例の蓄積 コア・ナースの指導,助言のもと,STAS-Jを用いた介入対象を 徐々に増やしていく。 ステップ Ⅱ ただし,まだ準備期なので,同時期にSTAS-Jの対象とするのは 1~2名とし,じっくり検討した。 ステップ Ⅲ *この段階になると,医師は困ったときに相談を受ける程度の役 割となる。 ステップ Ⅳ ~ ~ 2 3 4 5 6 7 8 9 STAS-J 導入に向けての4(+1)つのステップ ステップ Ⅳ ステップ 0 ステップ Ⅰ 病棟勉強会の開催 ~ 病棟全体としての取り組みへ (標準的なツールとして使用開始) ステップ Ⅱ 半数以上の看護師がSTAS-Jを経験したところで,まとまった 勉強会を開催 ステップ Ⅲ ただし,医師からは概略の説明のみ 勉強会のメインは看護師による事例報告とそれに続くQ&A ~ STAS-Jが日常の仕事の中で普及 ステップ Ⅳ ~ ~ 2 3 4 5 6 7 8 9 STAS-J導入のポイント A. 導入への準備 ・上からの押しつけで始めない! ( 評価すること自体が目的化する危険性 ) ・まず最初は小規模から! ( 数名のメンバーで,いま問題となっている1例1例に対してSTAS-Jを用いる ) ・関心を持った仲間を徐々に増やしていく。 ・病棟全体で運用開始となった後も,限られた業務量の中で,対象を限定して行う。 B. 評価方法 ・評価は週に1(~2)回の頻度で,基本的にプライマリー・ナースが継続して行い, それを基にチームカンファランスで話し合う。 ・評価の度にデータシートを用い,必要な情報はコメントとして空欄に記載する。 ( 温度板などに数値を一覧にして示すことはしていない ) C. 成功の秘訣は,その「良さ」をスタッフが実感できるか否かにかかっている!! STAS-J導入から3ヶ月・・・ 看護師さんたちの声 (n=17) ・STAS-Jを紹介されたときの印象: ・「有用」;14,「無用」;0,「どちらでもない」;3 ・使用した後の印象: ・「使いやすい」;2,「難しい」;14,「どちらでもない」;1 ・患者の問題点を把握する助けになる(11) ・症状などの変化を明確にする助けになる(5) ・ケアの成果が数値化されることで,今まで曖昧であった自分たちのケアの 内容を客観的に捉えることができるようになった(3) ・STASで評価するのに結構な時間がかかる(2)/業務量の増加(0) ・自分がする評価の妥当性への疑問,不安 ( 本当に正しい評価か )(6) ・評価に対する恐れ ( 自分の評価を他のスタッフはどう見ているのか )(2) ・痛みなどの身体症状コントロールよりも,病状認識やコミュニケーションが問題点 として浮かび上がってくることが多かった(5) 各施設,部署からの「現場の声」 これまでに,STAS-Jの取組みを通じて関わってきた施設,病棟などの スタッフの方々との話し合いの中から教えてもらったこと。。。 Ⅰ. 「導入」を円滑に進めていくためには・・・ Ⅱ. 「継続」するのは難しい!? Ⅰ. 「導入」を円滑に進めていくためには・・・ ① コアになるスタッフの確保(複数) ・・・・・これが無いと始まりません!! ② コアスタッフがめでたく誕生したら・・・ 中堅や,若くてもやる気のあるスタッフ(プライマリ・ナース)の中から, “STASマスター”を増やしましょう! <具体的なやり方> ⅰ) ステップⅡで示したように,実際の患者さんを対象として,プライマリ・ナース 1人ずつを直接指導しながら,STASを習得させていくのもよいが・・・ ⅱ) コアスタッフが先生役となって,数名のスタッフと「スコアリングマニュアル」を 用いた勉強会を行い(寺子屋方式),STASを理解した仲間を増やしていくと いう方法もある。 ③ 一緒に話し合える医師を見つける! 導入当初,限られた症例を対象としている段階では,こうした医師が1人いることで, ことはスムースに進むようです。 (「“継続”のためのカギを握る働き」もしてくれます・・・次のスライドへ!) Ⅱ. 「継続」するのは難しい!? ① 新規の患者さんへの評価を行いながら,別の患者さんの評価を続けていくためには, たくさんのエネルギーが必要です!! <ここでのポイント> STAS評価のための労力↑が,日常業務を圧迫しないように注意しましょう! <対策> 「今現在の仕事量」を定期的に把握し,現実的なキャパシティーを考えて, STASに よる評価が今必要と思われる患者を選ぶ「目」を持つことが必要。 (何でもかんでも,手を広げればいいわけではないですよ!) ② STAS評価が,病棟全体としてひとたび軌道に乗ってきても(ステップⅣ),スタッフの 移動などのために“戦力ダウン”が生じたら,「よい評価」を続けていくために,その規 模を縮小して,細々と続ける時期があってもよいのです! (無理は禁物!「3歩進んで2歩さがる!?」) Ⅱ. 「継続」するのは難しい!?(つづ き) ③ STASで評価することにより良くなったところを,確かめ合いましょう! (コアの立場の人が,他のスタッフに示してあげましょう!) ④ カンファランスで得られたアセスメントに基づいて,具体的なプランを動かす。 ・・・この際の医師の関わり具合が重要! <悪い例> 医師が反応してくれないと,STASがチーム(医師+ナース+α)としてではなく, “ナースだけのもの”に留まってしまいがち!! ⇒ <A>→<P>と円滑に進まず,結果として,提供するケアの質の向上に結びつ きにくいし,ナースの満足度も上がらない。 * どこの世界にも,関心を示さない医師の1人や2人,いるものです。 「導入」の段階で仲間になってくれた医師が,そういった医師との橋渡し役となっ てくれると,こうした問題が解決することが結構あるようです。 今後の課題,方向性 緩和ケアの位置づけ (WHO) 1. 今までの考え方 がん病変の治療 緩和ケア 診断時 死亡 2. これからの考え方 がん病変の治療 緩和ケア 診断時 死亡 支持療法と緩和ケアに関する最近の考え方 抗がん治療 支持療法と 緩和ケア 遺族ケア 専門的緩和ケア 診断時 死亡 Oxford Handbook of Palliative Medicine : 2005 今後の課題,方向性(1) ・対象症例の適応拡大 ・「再発→化学療法」の時期にある患者 ・根治切除不能(姑息切除,非切除)の患者 などを対象とし, ・・・より早い段階から関わり,ギアチェンジを適切に 行えることを目指す。 今後の課題,方向性(2) 地域でのSTAS-Jの取り組み - 点から線,そして面への拡がりへ - 病棟内,病棟間,病院内(各病棟,外来など) <点> <線> ↓ (病院 内) 病病連携,病診連携,在宅ケア <線> (病院外) ↓ STAS-Jという共通のツールを用いた 地域ネットワークの充実 <面> 地域におけるSTAS-J普及のために(私案) ① 地域にSTAS-Jを導入,活用している施設がある場合 ⅰ) その施設が中心となって,普段関わりのある施設のスタッフと一緒にマニュアル を用いた勉強会を行うことなどで,STAS-Jの理解に努める ・・・・ ステップⅠ ⅱ) 個々の症例について,関係する施設同志でSTAS-Jを用いた検討を行い,情報 を共有しながら共通の視点で患者・家族に関わっていく ・・・・ ステップⅡ ⅲ) 症例を1例ずつ増やしていくことを通して,関わりを持つ施設との連携に拡がり を持たせていく ・・・・ ステップⅢ ⅳ) 地域での研究会,検討会の開催 ・・・・ ステップⅣ ② 地域にこうした施設がまだ無い場合 この講習会に参加するなどしてSTAS-Jを学ばれている皆さんが, 近い将来,こうした立場で活躍されるでしょう!! 地域での導入プログラムの例 ( 2005.10,新潟 ) この地域におけるSTAS-Jの浸透状況 複数の医療者(医師,看護師)が,学会などでSTAS-Jを知り,マニュアルを用いた 勉強会を独自に行い,臨床の現場に取り入れようとしている段階。 1日目 : STAS-Jの普及・啓蒙のための講演 (1.5時 間) 知ってもらう! ・・・STAS-Jを 題名 : 「一般病棟における緩和ケアの評価ツールとしてのSTAS日本語版」 対象 : 新潟市~村上市の複数の医療機関の多職種,約90名 内容 : STAS-Jの概説,導入の実際,仮想症例の呈示 2日目 : より実践的なワークショップ ;STASマスター養成講座( 3時 間) ・・・STAS-Jを用いて考え,議論 する! 対象 : 今後,コアとしてSTAS-Jを導入,活用していく立場となる医療者30名 内容 : STAS-Jの概念,スコアリングの方法,Q&A, 仮想症例を用いたグループワーク
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