キリスト教倫理と 経済

経済学トピックス
キリスト教倫理と経済
金、貪欲と神:資本主義は問題であるのではなく
解決策であるのはなぜか
資本主義には金欲がつきものである。
しかし、資本主義と強欲とは違う。ま
た、慈善や援助だけでは、貧困は決し
て解決しない。市場経済の中で競争力
をつけなければ、途上国はいつまでも
自立できない。
2014年6月11日
担当:ボイル・ティモシー
Acton Institute
アクトン卿の格言(Lord Acton’s dictum) Power
corrupts, and absolute power corrupts absolutely.
「権力は腐敗する、専制的権力は徹底的に腐敗する」
Acton Instituteの目的:
経済学、神学と哲学を総合的に考え、宗教者とビジネスの
世界が理解し合い、良き協力者として貧困などの問題へ
の解決を目指して行けるように指導すること。
疑問点:資本主義が貪欲を促して
いるのではないか?キリスト教倫
理と資本主義とは相反するのでは
ないか?
このプレゼンテーションの狙い
1. 講義の狙い:Money, Greed and God の紹介
2. キリスト教会を含む一般社会の多くの人が、資本
主義に対して抱えている誤解を解く。
3. 聖書に教えられている戒め:神が人間に地球の
資源の管理を委託したので、それらを全人類の福祉
のために上手に利用すること。貧困の撲滅を成し遂
げるため、資本主義又は市場経済を上手に活用す
べきです。
富はどのように作り出されるのか?
 現代の市場経済では、物質的な富の
主な源は非物質的なものではないか。
ある意味で、「霊的な」ものではないか。
 “Wealth is created when our creative freedom
is allowed to prosper in a free-market
environment undergirded by the rule of law
and suffused with a rich moral culture.”
 「法の支配」のもとで、倫理観のある社
会の中で機能する自由市場において、
私たちの創造力が自由に働く結果、富
が創出されていくであろう。」
金銭の欲は、すべての悪の根です。
1テモテ 6:10
 問:資本主義は「金銭の欲」に基づいているので
はないか?
 問:ENRONやLEHMAN BROTHERSのような不
正行為による破綻は資本主義の本質を表すので
はないか?
 問:資本主義は不公平な競争を促すのではない
か?
 本書は、これらなどの疑惑を、8つの「神話」にま
とめて、解き明かしている。
第1の神話: 涅槃の迷信(1)
資本主義システムを、実際に実現可能なシステムと比較
する代わりに、実現不可能な理想と比較すること

「正義のある社会」を作るのに、まずこれを定義するこ
とが重要である。そこで、比較すべき対象があきらかに
なる。

ユートピアは実現不可能である。「不正」と判断された
社会を解体しても、その代わりとなる社会がさらに不正
な社会になれば、進展にはならない。

「神の国」と比べたら、実際に存在するいかなる社会も、
その理想に達しえないであろう。
涅槃の迷信(2)
初期の教会は共産主義だったのか?
聖書:
 信じた人々の群れは心も思いも一つにし、一人として持ち物を自分のものだと言
う者はなく、すべてを共有していた。…信者の中には、一人も貧しい人がいなか
った。土地や家を持っている人が皆、それを売っては代金を持ち寄り、使徒たち
の足もとに置き、その金は必要に応じて、おのおのに分配されたからである。(使
徒言行録4:32-35)
 すると、ペトロは言った。「アナニア、なぜ、あなたはサタンに心を奪われ、聖霊を
欺いて、土地の代金をごまかしたのか。売らないでおけば、あなたのものだった
し、また、売っても、その代金は自分の思いどおりになったのではないか。どうし
て、こんなことをする気になったのか。あなたは人間を欺いたのではなく、神を欺
いたのだ。」 (使徒言行録5:3-4)
 ところが、聞くところによると、あなたがたの中には怠惰な生活をし、少しも働か
ず、余計なことをしている者がいるということです。そのような者たちに、わたした
ちは主イエス・キリストに結ばれた者として命じ、勧めます。自分で得たパンを食
べるように、落ち着いて仕事をしなさい。 (2テサロニケ3:11-12)
第2の神話: 敬神の迷信
予測されない結果そのものでなく、自分の行動がよい動機に基づ
いているかどうかに重点を置くこと。
神が弱者の味方となる数多くの聖書箇所:
「弱者を虐げる者は造り主を嘲る。造り主を尊ぶ人は乏し
い人を憐れむ。」 (箴言14:31)
「主の霊がわたしの上におられる。貧しい人に福音を告げ
知らせるために、主がわたしに油を注がれたからである。
主がわたしを遣わされたのは、捕らわれている人に解放
を、目の見えない人に視力の回復を告げ、圧迫されてい
る人を自由にし、主の恵みの年を告げるためである。」
(ルカ4:18-19)
「はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい
者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのであ
る。」(マタイ22:40)
Piety is no substitute for technique
敬虔さは技巧に取って代わられるものではない
 イエスは言われた。『心を尽くし、精神を尽くし、思
いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさ
い。』(マタイ22:37)
 貧しい人たちを本当に助けたいなら、思慮分別を
働かせることが重要だ。つまり、世間の現実をよ
く理解した上、行動すること。
”The art of economics consists in looking not merely at the
immediate but at the longer effects of any act or policy; it
consists in tracing the consequences of that policy not merely
for one group but for all groups.” Henry Hazlitt
経済学の優れた技法は、いかなる行動又は政策
の即時的な影響だけではなく、その長期的な影
響も見極める点にある。また、一つのグループに
対してだけではなく、全てのグループに対する政
策の結果を突き止める点にある。
ヘンリ・ヘイズリット
思慮分別に欠けている「慈悲深い」方針の例
(1)
 「生活給」 (a living wage):実際は、給料は、
労働需要と労働供給の関係で決まる。法で決ま
る最低賃金は一種の「談合」によって、富が創
出される前に分配することに等しい。
 対外援助:税金で集められた資金を他の国の
政府に援助することは、その国で
富の創出を促進することとは、
あまり関係がない。
思慮分別に欠けている「慈悲深い」方針の例
(2)
 行政の行う生活保護:長期的に、資金を
貧しい人に贈与し、その人を実際に助け
るということは困難である。
 実際に助けとなる形で人々に富を譲るこ
とはいかに難しいことだ。行き過ぎた福
祉(生活保護)が受け取る側に害を及ぼ
す。士気をくじくし、
人生を台
無しにするほど、
習慣性の依
存症にかかってしまう。
(George Gilder,
“Wealth and Poverty”)
貧困撲滅への解決策
 一般的には、はびこった貧困を実際に無くすことの でき
る唯一の方法は資本主義と自由市場である。
 法的に定められている財産所有権、「法の支配」、勤勉
さや倹約のような個人レベルの美徳化、社会的な信頼
感、満足感を延期できる余裕などの要素が富の創出に
繋がる。
 緊急の場合、大いに援助を授ける必要があるが、それ
が逆効果(依存症を促す形)にならないように注意する
必要がある。
第3の神話:ゼロサムゲームの迷信
取引には、勝利者と敗北者の両方が必然的に存在
すると信じること
 資本主義は不公平な競争を生み出すという
疑惑がある。また、「弱肉強食の世界」だとよ
く言われている。これらの疑問に対し、どう答
えられるのだろうか?
 3種類の「ゲーム」:
勝ち-負け、負け-負け、勝ち-勝ち
 自由な交換は、「勝ち-勝ち」なのか。
おもちゃ交換のゲーム
7つ
の原理
1. 物品そのものは変わらなくても、自由な
交換によって価値が加えられる
2. 交換パートナーが多ければ多い方がいい
(Metcalfe's Law)
3. 自由交換は「勝ち-勝ち」ゲームになる
4. ルールが事前に確定されれば、ゲームは
「勝ち-勝ち」となり得る
5. 現実に、物品には希少性がある
6. 交換のため,代価を払わねばならない
7. 経済的価値は,見る目によって変わる
私有財産権
 市場が機能できるように、私有財産が絶対条件
の一つ。品物だけではなく、自分の労働力、時
間や知的財産も含まれる。私有財産権を重要視
する社会が成立するために、盗難や詐欺などを
禁じる法律の実施が不可欠。
 私有財産制度が西洋文化に発展した理由は
聖書的世界観に基づいていたからだ。
資本主義は私有財産制度が根付いていない
社会には成功することが困難だ。
第4の神話:唯物論の迷信
富が創出されることなく、譲渡されるだけだと信じること
• "The rich get richer and the poor get
poorer"
• 貧富の格差の広がりの原因は、富裕層が
貧困層から奪い取っているという誤解
• 「世界の金持ちの top 3が最も貧困の6億
人より多くの富を支配している」
• 問題は富ではなく、貧困なのだ
www.gapminder.org
神と共に創造する「創造主助手」
創世記の物語に神が六つの「創造の日」に地
球とあらゆる生命を創造し「よしとされた」。そ
して、最後に人間をご自分の似姿に象って創
造して、地球と生命の管理を委託した。こうし
て、人間の創造性は神によることだ。
人間が一種の「創造者」だから、富の創出が
可能となる。新しい富は物質そのものから生ま
れるのではなく、知性によって、物質を変形さ
せることから創出される。
貧富の格差が広がる一方
貧困層の実情は平均的に少しずつ改善する
が、貧富の格差の広がりが加速している。
不法に搾取する場合を別として、その格差の
広がりは富裕層が貧困層から富を奪い取るこ
とによることではない。
貧困層が殆ど新しい富を創出していないこと
に問題があり、その所為で、格差が大きくなる。
貧困の唯一の解決策:富の創出
第5の神話:貪欲の迷信
資本主義の本質は貪欲であると信じること
聖書:
あらゆる貪欲に対してよくよく警戒しなさい。たと
いたくさんの物を持っていても、人のいのちは、持
ち物にはよらないのである。(ルカ12:15)
人を汚すのは外面的な事柄ではなく、内面的なこと
なのだ。つまり、心から出てくること。貪欲は殺意、
姦淫や詐欺などの罪のリストに含まれている。
(マルコ7:1-23の要約)
すべてみだらな者、汚れた者、また貪欲な者、つま
り、偶像礼拝者は、キリストと神との国を受け継ぐ
ことはできません。このことをよくわきまえなさい。
(エフェソ5:5)
市場の「見えざる手」アダム・ スミス
 ...he intends only his own security; and by directing that
industry in such a manner as its produce may be of the
greatest value, he intends only his own gain; and he is in this,
as in many other cases, led by an invisible hand to promote
an end which was no part of his intention.
人は自分自身の安全と利益だけを求めようとする。この利益は、例
えば「莫大な利益を生み出し得る品物を生産する」といった形で事
業を運営することにより、得られるものである。そして人がこのよう
な行動を意図するのは、他の多くの事例同様、人が全く意図して
いなかった目的を達成させようとする見えざる手によって導かれ
た結果なのである。
『諸国民の富の性質と原因の研究』第四編
「経済学の諸体系について」第二章
私利と利己の違い
 スミスの主張は皆が自分の狭い関心の領域(私利)だけ
を追い求めても、だれも支配していない驚くべき秩序が
現れてくる。
 その裏にある動機が信心深いものであっても、利己的で
あっても、この要素が変わらない。そのメーンポイントは
貪欲ではなく、制限されている知識だ。市場は全ての人
間の総合知識を遥かに超える高次秩序だ。
 資本主義は貪欲を必要としない。貪欲はどこに行っても
はびこっている。資本主義は当然な私利だけではなく、
貪欲をも社会的に望ましい結果に向けてくれる。
ユートピア=非現実
私心のない行動だけを必要としている経済システムは自
滅するのは時間の問題だけだ。ユートピア的なシステム
は長続きしない。社会主義の弱点はこの点である。人間
の現実と合わない。人間を妥当な私利から引き離して、
人間の利己性を窃盗や死蔵のような社会にとって破壊的
な行動へと向けてしまう。
資本主義はこれとは逆で、聖書に示されている人間の有
様と合致する、現実的なシステムだ。聖書によると、人間
が堕落している。だから、利己的になりやすい。社会主義、
共産主義はその利己を制限しない。資本主義は自由市
場を通して、その「見えざる手」によって、健全的な方へと
向けてくれる。
第6の神話:暴利の迷信
金融システムが必然的に不道徳であることや利子を取ることは搾
取的であるとを信じること
聖書
• もし同胞が貧しく、自分で生計を立てることができないと
きは、寄留者ないし滞在者を助けるようにその人を助け、
共に生活できるようにしなさい。あなたはその人から利子
も利息も取ってはならない。あなたの神を畏れ、同胞があ
なたと共に生きられるようにしなさい。その人に金や食糧
を貸す場合、利子や利息を取ってはならない。(レビ記
25:35-37)
• 金持ちになろうとする者は、誘惑、罠、無分別で有害なさ
まざまの欲望に陥ります。その欲望が、人を滅亡と破滅
に陥れます。金銭の欲は、すべての悪の根です。金銭を
追い求めるうちに信仰から迷い出て、さまざまのひどい
苦しみで突き刺された者もいます。 (テモテへの手紙
一 6:9-10)
古代と現代の金に対する考え方
の違い
 中世以前の世界では、貨幣は不毛な大地の
ようなもので、貿易を促す単なる手段として
考えられていた。受動性のあるものだった。
 金に対する現代の考え方は違う。能動的
(活動的)なもので、富の創出をもたらす
手段として考えられるようになった。
 暴利の定義が変わった。
Protestant Work Ethic:労働に対するプ
ロテスタントの価値観
 マックス・ヴェーバー(Max Weber)『プロテスタンティズムの倫理と資本主
義の精神<Die protestantishe Ethik und der Geist des Kapi-talismus>』
(1905)
 ヴェーバー説:カルヴァン主義の二重予定説によると、人は神の一方的な
選択によって永遠の命か滅びかに定められている。しかし、自分がその
「神の選民」に含まれているかどうか分からないので、自分も選民の一人
であることを確認するために、忠実に働くことが強調された。禁欲的労働と
生活による富の獲得は神の恩恵のしるしであると考えていたため、これは
資本主義の基盤となった。「天職」という概念も強調され、商業に向いてい
る人はそれを神から与えられた使命として受け止められた。こうして、カル
ヴァン主義のキリスト者がビジネスに成功して、得た富を貴族のようにぜ
いたくな生活にせず、再び投資して、さらに富を創出した。これが資本主義
の精神。
ヴェーバーの思想(続)
ヴェーバーが貪欲そのものが資本主義の毒になるとよく分
かっていた。ただの貪欲は満足感の延期を拒むことで、法
律違反をも生み出す。こうして、歴史的な事実として、資
本主義が一番成功したのはプロテスタント(特にカルヴァ
ン主義)が主流となっていた場所と重ねていた。しかし、
ヴェーバーが間違っていたのは、その因果関係を強調し過
ぎたことだった。資本主義のルーツそのものはカルヴァン
主義にあったのではなく、カルヴァンのずっと前にあった。
中世のヨーロッパに近代の商業インフラストラクチャーが
開発された。国際的な銀行システムとそれに必要とされる
複式簿記、外国為替市場、保険制度や株式会社の土台が宗
教改革のずっと前にできていた。カルヴァン主義のプロテ
スタントの社会がそれらを発展させただけだった。
第7の神話:芸術の迷信
審美的判断と経済学論拠の混同
• 資本主義を批判する者が自由市場と人間が自
由に選ぶ悪をよく混同してしまう。
• 自由市場そのものが徳の高い市民を作り出す
のではない。
• 消費主義は長期的な立場から見れば、資本主
義を衰弱させる。快楽主義と資本主義が両立
できない。持続性のある資本主義の経済は消
費だけではなく、貯金と投資が不可
欠
だ。
第8の神話:“Freeze-Frame” Myth
現在の傾向がずっと変わらないと信じ込むこと;例:人口増加の傾向が
無期限に継続することや現在の「資源」がいつまでも必要とされること
» 聖書の見解:神が創造した自然界の良き管理を人
間に委託している。人間が皆のために上手に管理
する責任がある。
» 「地とそこに満ちるもの、世界とそこに住むものは、
主のもの。」(詩編24:1)
» 神はお造りになったすべてのものを御覧になった。
見よ、それは極めて良かった。(創1:31)
資源の公正な利用
神のみ旨は人間が自然界をよい目的のために利
用して管理すること。人間の堕落以前に「神は
人を連れて来て、エデンの園に住まわせ、人が
そこを耕し、守るようにされた。」
(創世記2:15)
人間が働いて大地を開発することは神の恵みの
一部だ。罪によって、それが苦労に変わった面
があるが、本来はそうではなかった。そういう
理解は労働に対する生きがいをも生み出す。
人間の創造力:最大の資源
現在の経済を支える資源がなくなることが懸念
されているが、最大の「資源」は人間の創造力
だ。
さまざまな問題に直面しているが、それらを克
服できる創造性が人間に存在する。これは神か
らの贈り物だ。問題は、私たちが責任を持って、
それらの問題に立ち向かって、与えられた創造
力を活用するかどうか。その可能性を一番引き
出せるのはやはり資本主義だ。
まとめ
議論の出発点として
理想から現実へ