特別講義信託法 2008年10月7日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義① 樋口 範雄 [email protected] 参照→http://ocw.u-tokyo.ac.jp/ 1 講義予定 2008-2009 5-5-3の布陣 第1回から第5回まで樋口「入門信託と信託法」を教材として、信託の考え方 第6回から第10回まで 実務家に来ていただき、信託の運用例を話してもらう 第11回から第13回まで 神田教授が商事信託法の基本構造を講義する 10月7日樋口① 10月14日休講 10月21日樋口② 10月28日樋口③ 11月4日樋口④ 11月11日樋口⑤ 11月18日 実務家第1回 折原氏(信託協会)「信託業と信託業規制」 11月25日 実務家第2回 早坂氏(住友信託銀行) 「運用型信託ーおよび金銭債権の流動化のための信託」 12月 2日 実務家第3回 佐々木氏(みずほ信託銀行)「不動産事業と信託」 12月 9日 実務家第4回 吉谷氏(三菱UFJ信託銀行) 「個人の財産の信託(相続・贈与と信託)」 12月16日 実務家第5回 田中氏(中央三井信託銀行)「事業自体の信託」 1月13日 神田教授① 20日 神田教授② 27日 神田教授③ 2 わが国の信託法の位相 2007年施行の新信託法 立案の過程 明治期から大正期の信託法関連法の制定 ①民法の弟分としての信託法 ②実際には商事目的で利用されてきた信託法 ③淵源としての英米法 東京大学でも10年前から三者共同の講義 3 目次 1 信託法試験問題 2 信託と委任 3 信託と契約 4 Ⅰ信託法試験問題法科大学院2006/9/5 1 信託と委任契約との違いについて説明しなさい。 2 わが国の信託について、従来の信託法は基本的に民事 信託を想定しており、私法でありながら規制色が強いもの だったといわれる。しかも、日本で行われてきた信託の主 要なものはすべて商事信託であるのに、これにふさわし い法理論が欠落してきたともいわれる。 1)そこで、商事信託は民事信託といかに異なるかを説明し なさい。 2)さらに、信託を規制する信託業法と、私法としての信託 法の役割のあり方の関連と区別について論じなさい。 5 委任契約と信託 例:東山魁夷のもう1つの「道」が発見される 委任→著作権の処理、貸し出し等 信託→著作権の処理、貸し出し等 どこが異なるか??? 異なる点を想像しできるだけ多数指摘しなさい。 財産が不動産なら、金銭なら・・・ 6 信じて託す方法 S T B 手許に価値の→取扱いを託す→収益の帰属 高い絵画 信じて託す2つの方法 委任契約 信託 どこが異なるか 7 関係の入り口で 2つの相違 8 関係の入り口で 2つの相違 1 信託は契約でなくとも可能 2 契約能力からの切り離し 9 関係成立後の違い 6点 10 関係成立後の違い 6点 3 4 5 6 7 8 信託財産の倒産隔離 信用力の切り分け 受託者の信用力と取引の安全 独自の判断権と指示待ちの受任者 受益者の権利 受託者の義務 11 関係終了時・終了後の相違2点 12 関係終了時・終了後の相違2点 9 いつでもやめられる委任とやめられない信託 10 死亡後終了する委任と死亡後も続く信託 13 英米法での信託 合意があっても契約とは異なる なぜか? 英米の契約概念の狭さ 逆に日本法の契約の広さ・曖昧さ 14 アメリカの契約・日本の契約 1995年のがん告知事件最高裁判決 胆嚢がんの疑いのある患者に、医師がそれを 告げなかった事件 債務不履行による訴え(説明義務は債務) 医師側の反論(説明義務は含まれない、 または本件の場合、裁量による) 以上の説明に疑問があるか? →ミシガン大学での授業での経験 15 医師患者関係の性格 準委任契約説が通説 医師の服する法は、 契約法・不法行為法・業法(医師法など) 索漠とした法の理解 →fiduciary law(信認法)の必要性 樋口範雄「医療と法を考える―救急車と正義」 (有斐閣・2007年) 16 弁護士・依頼者関係 伊藤眞その他編『法曹倫理』(有斐閣) ◆ハミルトンとマディソン法律事務所の関係 コカコーラ運搬トラックの交通事故、学バス に衝突し21人の児童死亡、運転手ハミル トンも病院へ。コカコーラから弁護士派遣。 ◆病床で聞いた事故の模様を検察に。業務 上過失致死で起訴。ハミルトンは弁護士 を訴える。 ◆抗弁としての契約関係不存在→信認関係 17 契約だけですべてをまかなう日本 信認関係・信認義務というもう1つの法的概念が 有用ではないか? →日本にはなじみのない新しい概念? →実は信託法には80年前から存在する 18 アメリカの信託・日本の信託 アメリカにおける信託法の重要性 日本において信託に脚光が・・・ 1 信託の授業 2 信託法改正・信託業法改正 3 信託の広がり 「受託者責任」への注目 19 受託者はつらいよ 「私が思うに、受託者の任務というのは、幸福な 運命をもたらしてくれるものではない。ささやか な報酬と引き換えに、常に苦境に立たされる。 そして、受託者のバイブルには次のルールが 書かれている。『いつも悪いのはおまえだ』。こ うして見ると、どうしたら受託者になろうとする 人が出てくるというのだろうか?」* Schuyler, The Fiduciary Must Know the Law, 56 N.W.U.L.Rev. 177, 189 (1961). 20 契約関係と信認関係 1 2 3 4 5 契約 自己責任 義務は限定 救済=損害賠償 私的自治 財産は無色 信託 依存関係 義務は広範 利得吐き出しなど多様 公的介入ありうる 財産に色づけ 21 1 自己責任・依存関係 (アメリカでの)契約関係 (contractual relation) リスク配分の明確化=責任限定の手段 互いの自己利益の追求が合致 それぞれに自己責任 信認関係(fiduciary relation) 一方が他方に依存 権限・財産を相手方に 委ねられた者に信認義務=受託者責任 22 2 義務は限定・義務は広範 契約 義務を限定する仕組み 合意された義務のみ負う 信託 任意規定ではあるが一定のセットメニュー ★注意義務 ★分別管理義務 ★忠実義務 ★情報関連義務(守秘義務・情報提供義務) 23 義務の違いの一例 例1:継続的な売買契約を結んでいた売主が、 満了後の新規契約のために別の業者Cと交 渉した。まだ契約関係にあるBとの関係でこ のことに問題があるか?Bからの新たな提示 額をCに伝えることはどうか? 例2:土地を受託したTが、売却権限を委ねられ、 委託者の希望額は1億円。しかし、売却先を 探す過程で土地は1億5000万円の価値が あることがわかった。1億円で売却してよい か、さらに自ら購入するのは? 24 3 救済 損害賠償・利得吐き出しなど多様 契約違反に対する救済 損害賠償が原則(金銭で損害を賠償) 信託違反に対する救済(アメリカ、日本は*) 損害賠償 * (但し基準時の相違あり) 利益(利得)吐き出し 第三者へも効果の及ぶ救済 * (さらに懲罰賠償もありうる) 25 4 私的自治・公的介入ありうる 契約=私的自治 自己責任原則が貫かれ、裁判所その他の公的 介入も限定的 信託=依存関係で、強者・弱者の関係 弱者保護のための公的介入がありうる 同じ私的関係でありながら、(裁判所の)後見的 役割が認められ、信託法が発展してきた 26 5 財産は無色・財産に色づけ 契約=債権関係 関連する財産も一般財産 他の債権者と競合 信託財産=受益者の財産として色づけ 委託者の財産からの隔離 受託者の財産からの隔離 受益者の財産からの隔離 Bankruptcy remote=Nobody's Property 27 契約と信託 英米ではまったく異なるもの 信託は契約より古い 日本 契約こそ中心、信託も契約の一部 日本では、信託の特殊性は信託財産に関する特 殊な取扱いが中心となる 28 参考文献 『フィデュシャリー[信認]の時代』 (有斐閣・1999) 『アメリカ信託法ノートⅠ・Ⅱ』 (弘文堂・2000,2003) 『入門 信託と信託法』(弘文堂・2007) 29
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