まちづくりと合併について ~ 富山の地域構造と人口予測を踏まえた戦略 ~ 日本政策投資銀行 もたに 地域企画部 調査役 藻谷浩介 1 講師自己紹介 父は富山、母は小松の出身です。祖父の祖父は小杉町長、曽祖父は越中改進 党党首で県議会議員、祖父は印刷屋で戦前の富山歌壇の主宰者でした (富山城址 に歌碑が建っています)。富山空襲で戦災孤児となった父が、山口の化学メーカーに 就職したため、私自身は高校を卒業するまでそちらで育ちました 。 日本政策投資銀行(旧日本開発銀行)という政府系の銀行に、13年半在籍しており、 今は地域企画部という地域振興に関する調査・企画部門で楽しく仕事しております。 今日はご依頼により仕事として来ています。 幼稚園の頃から旅行と地理が何より好きで、国内のほぼ100%の市町村に行っており、 かつ地それぞれの域特性を覚えています。(海外も53ヶ国行っております)。基本的に 自費で歩いており、公費での視察は好みません。 最近はあちこちから仕事内外で声をかけていただき、市街地活性 化、市町村合併、産業振興などいろんなテーマで話して歩いてお ります。今年は講演の類が年間160回に達しそうです。 議員の先生方に合併の話をするというのは、本来、政策銀行の領分 ではありませんが、富山ゆかりとはいえ今は利害関係のない門外漢 として、正直かつ誠実にお話をさせていただきます。 生意気を申すかと思いますが、どうぞご寛恕くださいませ。 2 これまでの市町村合併の流れ 明治初期の市町村は集落単位だった 身近なコミュニティの範囲と市町村の範囲が一致していた 行政コスト削減のため以後合併が進む(特に戦時統合の影響大) 昭和20年代末期の合併ブーム 人口3万人で市になれる特例措置を受け、市になるための合併がブームに 今日の各市町村の範囲は、この時にほぼ固まった (倉吉市成立もこの時) 昭和30~40年代の合併進捗 新産・工特地域に指定されるための合併 (いわき、倉敷、姫路、福山など) 政令指定都市を目指すための合併 (北九州、広島など …姫路も?) とんと合併のなかったここ20年… 公共工事が地域の主産業となる中、行政コスト削減の気運弱まる ふるさと創生1億円以降、さらにブレーキがかかった感じ 3 何のため・誰のための合併? 合併しちゃえば?という意見 生活圏は今の市町村を大きく超える。 細かい区分はやめて一緒でいいよ。 これから先の時代、小さい自治体に予 算が十分確保できるか不安。この際、 富山にくっついて養ってもらおうぜ。 大きい市になった方が、国からたくさ ん予算を分捕ってこれるのでは? 住所に「市」って書ける方が格好いい。 合併交付金が出るうちに合併しよう! 合併は困る!という意見 町独自の予算がなくなると、地元業者 の仕事が確保できるか不安だ。 大きな市の一部になって、山奥の部落 まできちんと目が行き届くのか? 合併後の議会で、旧町の利害得失をき ちんと訴えて通していけるかな? 子供を役場に入れたいけど、大きな市 じゃあ競争が激しくなりそう… どっちでもいいけど、という意見 公共料金が下がるんなら賛成。一円でも上がるんなら合併なんてやるな! 私が何を考えようと関係なしで、どうせ上の方の力関係で決まるんでしょ。 行政がどうなろうと、私の生活には特に何の関係もございません!? 4 県内東部の市町村の関係 各市町村に住む就労者 (自営含む)と学生(15歳 以上)の何%が、どこに通 勤通学しているか ~通勤通学率による結びつきの程度 朝日町 6% →町内59% 13% 入善町 5% →町内61% 16% 9% 6% 滑川も富山との結 びつきが強い 7% 黒部市 →市内69% 滑川市 24% →市内53% 富山市 10% 9% →市内88% 7% 13% 6% 29% 舟橋村 →村内30% →市内70% 上市町 6% 6% 立山町 35% 大山町 40% →町内47% 5% →町内49% 5% 6% 18% 宇奈月町 魚津市 →町内52% 49% 10% 7% 9% ところが黒部は 魚津と切り離せ ない関係にある 中新川3町村や大 山町は、富山市と 深く結びついてい る →町内58% 下新川3町は、黒部とのつ ながりが深い 黒部中心でも、魚津中心 でもまとまりにくいところ に、この地区の難しさが ある 7 県内中部の市町村の関係 各市町村に住む就労者 (自営含む)と学生(15歳 以上)の何%が、どこに通 勤通学しているか ~通勤通学率による結びつきの程度 12% 19% 新湊市 →市内58% 11% 32% 下村 →村内28% 10% 富山市 6% →市内88% 7% 高岡市 12% 大島町 27% →市内76% →町内32% 10% 7% 小杉町 32% →町内47% 19% 5% →町内43% 9% 八尾町 10% →町内59% 婦負郡4町村や 大沢野町は、い ずれも富山市と 深く結びつく 35% 婦中町 12% 28% →町内40% 6% 射水郡4町村は 富山・高岡・新湊 の3方と複雑に 結びついている 38% 24% 22% 大門町 15% 10% 6% 山田村 →村内50% 8% 5% 6% 大沢野町 細入村 →町内50% 14% →村内36% 8 県内西部の市町村の関係 各市町村に住む就労者 (自営含む)と学生(15歳 以上)の何%が、どこに通 勤通学しているか ~通勤通学率による結びつきの程度 氷見は高岡と結 びつきが深い 金沢市 高岡市 →市内64% 小矢部も、強いて いえば高岡と結び つきが深い 5% 25% 氷見市 →市内76% 27% 福岡町 10% 9% 小矢部市 →町内48% 5% →市内65% 5% →市内89% 5% 7% 7% 15% 砺波市 →市内58% 7% 6% 福光町 →町内67% 11% 上平村 →村内79% 6% →町内55% 8% 10% 5% 7% 平村 城端町 →村内82% →町内60% 6% 10% 13% 庄川町 9% 11% 5% 福野町 6% 8% →町内47% 10% 5% 砺波平野の市町村は、高 岡と弱く結びつきつつ、地 域内でも複雑につながっ ている 7% 井波町 →町内58% 8% 9% 11% 井口村 利賀村 →村内31% →村内92% 9 28年前から、出生者数は4割減、人口増加は8割減 もう避けられない日本の人口縮小 28年前に出生者数がピーク を迎えた → 今、28歳の人口 がたいへん多い 出生者数は20年間でほぼ半 減した → 20年後、20代人口 は半減する 10 人口減少に転じた富山県 各都道府県の人口増減比較(最近5年間) (出生者数-死亡者数)÷人口 人口 自然増減率 (1995→2000年) 3% 4% 出生>死亡 自然増加だが 社会減少 沖縄 埼玉 愛知 2% 大阪 差引 で人口 全体 は増加 1% 宮崎 佐賀 石 川 静岡 京都 福 井 広島 福島 山形 徳島 群馬 栃木 三重 兵庫 東京 ここ5年の間に、急速に出生者が減り、 しかも人口転出超過になった 転入>転出 そのためついに、 人口減少が始まった 鳥取 島根 出生<死亡 -1% 震災のリバウンド (そ れ以前に大幅減少) 福岡 鹿児島 山口 -1% 滋賀 宮城 ★ 富 山 95 -00 転入<転出 自然減少かつ 秋田 社会減少 ★ 長野 新潟 0% 神奈川 富山 85-90 ★● 千葉 富山 90-95 差引 で人口 全体 が減少 自然増加かつ 社会増加 ★ 富山 80-85 0% 自然減少だが 社会増加 高知 1% 人口 社会増減率 (1995→2000年) (転入者数-転出者数)÷人口 2% 11 少子化で縮み始める富山県 - 90年代前半のトレンドが継続すると前提した楽観予測 長年停滞が続いてきたた め、いつまでもこのまま行 きそうだが… これから人口は減少していく (死亡者が 増えるため、避けられない) ちなみに国勢調査速報値は3千人近 く下振れし、人口は減少に転じた 12 人口減少よりもっとインパクトの大きい 若者減少・後期高齢者増加 新生児は さらに 減 少 五箇山+1% 若者も今から減少 高齢者が大幅に増加 13 魚津・黒部都市圏の人口動態と 将来予測 ここでの魚津・黒部都市圏:魚津市+黒部市+下新川郡 高齢者以外の全て の世代が減少 県内最高齢化 平村+1% 自然減少に突入+社 会減少継続 (後期)高齢者のみが 大幅に増加 国勢調査速報値は 13.4 (250人下振れし てしまった) 人口減少が続く 14 富山都市圏の人口動態と将来予測 ここでの富山都市圏:富山市+滑川市+上新川郡+中新川郡+婦負郡+小杉町+下村 35歳以下が減少 利賀村なみ 自然増加水準低下+ 社会増加幅縮小 (後期)高齢者が増加 国勢調査速報値も 54.6 (しかし実は4千 人下振れした) 人口は遠からず 減少に転じる 15 高岡都市圏の人口動態と将来予測 ここでの高岡都市圏:高岡市+氷見市+新湊市+砺波市+福岡町+大門町+大島町 高齢者以外の全て の世代が減少 五箇山+1% 自然減少に突入+社 会減少継続 (後期)高齢者のみ が大幅に増加 国勢調査速報値は 34.2 (900人だけ上振 れした!) 人口減少が加速 16 砺波地域の人口動態と将来予測 ここでの砺波地域: 砺波市(再掲)+小矢部市+東砺波郡+福光町 高齢者以外の全て の世代が減少 五箇山なみ 自然減少幅拡大+転 出超過継続 (後期)高齢者が大 幅に増加 国勢調査速報値 も14.3 (実は400 人下振れ) 人口減少が加速 17 (再掲)射水地域の人口動態と 将来予測 ここでの射水地域: 新湊市+射水郡 35歳未満が減少 利賀村+2% 自然増加幅も、 社 会減少幅も縮小 高齢者が大幅増加 国勢調査速報値は 9.4(300人上振れ) これから人口減 少が始まる 18 実は首都圏以下の全国が人口減少 へ - 90年代前半のトレンドが永遠に続くと想定した場合の予測 一都三県:東京都+神奈川県+千葉県+埼玉県 まだ成長が続いている ため、事態の深刻さに 誰も気づいていないが 実は首都圏は早くも10年後から縮み始める (小子化が最も激しいので当然の結果) 昔のように地方が東京に吸い取られるということではない! もう間もなく、首都圏を含む日本全体が縮小に転じる!! 19 首都圏でも急速に進む高齢化 新生児 は年々 減少 若者は 今から 大減少 利賀村なみ!! 高齢者が激増 20 人口急増地域が必ず抱えることになる 高齢化の時限爆弾(多摩ニュータウンを例に) 若者は 今から 新生児 半減 は年々 減少 当時、日本の全市町 村で最も低い数字 五箇山+1% 高齢者が数倍増 21 以上の分析が教えるもの 合併して合理化しなければ行政はもたない 日本中どこも同じだが、これだけ人口減少・高齢化が確実だと、税収も必ず減る 国が配ってくれる地方交付税(東京で稼いだ金)も、東京の高齢化で激減する 重厚長大型産業への依存度が高い富山では、さらに衰退のリスクが大きい 行政のコスト削減・サービス効率化を進めないと、財政は苦しくなる しかし合併後にバラマキが増えるともっと悲惨 合併できても、旧市町村単位での政争→金の分捕り合いが続くかもしれない しかしそういうお金の余裕は早晩なくなる→財政破綻で土建業者は干殺しへ 補助金目当ての合併は、金目当ての結婚のようなもので、失敗が確実 お互いに痛みを分かち合える範囲で合併しよう 合併しただけで地域の実態が変わるわけではない→成果はその後の合理化次第 一体感がある範囲でなくては、行政合理化の痛みを分かち合うのはムリ → 中心がどこか明確な範囲で、一蓮托生で努力する方がいいのでは? 22 地域のこれからの4つの道 合 併 し た 合 併 し な い うまく回っていく だめになっていく 自治体の体制合理化で、行政コス トをうまく削減 体制合理化に失敗し、かえってバ ラマキが増えて、財政は破綻 そのため、公共料金値上げを抑え られ、サービス水準も向上 隣近所のコミュニティ単位の活動 が強化され、自分達できることは 自分達のお金で実現 国や県から権限譲り受け そのため公共料金は値上がりし、 サービス水準は低下 一方、何でも市任せになって、コ ミュニティは自助努力しなくなる 地域の衰退を、合併したせいにす る (本当はやり方次第だった…?) 自治体間の広域連携の強化で、行 政コストをうまく削減 単体ではなかなか財政が立ち行か なくなり、経済が沈滞 そのため公共料金値上げはある程 度抑えられサービス水準も確保 自治体の中で、コミュニティ単位の 活動が強化され、自分達できること は自分達のお金で実現 ユニークな市(町)政で個性発揮 そのため公共料金は値上がりし、サ ービス水準は低下 一方、何でも役所のせいにする気風 が強まり、コミュニティにほころび そのため地域が衰退するのを、合併 しなかったせいにする 23 地域のこれからの4つの道 合 併 し た 合 併 し な い うまく回っていく だめになっていく 自治体の体制合理化で、行政コス トをうまく削減 体制合理化に失敗し、かえってバ ラマキが増えて、財政は破綻 そのため、公共料金値上げを抑え られ、サービス水準も向上 隣近所のコミュニティ単位の活動 が強化され、自分達できることは 自分達のお金で実現 国や県から権限譲り受け そのため公共料金は値上がりし、 サービス水準は低下 一方、何でも市任せになって、コ ミュニティは自助努力しなくなる 地域の衰退を、合併したせいにす る (本当はやり方次第だった…?) 自治体間の広域連携の強化で、行 政コストをうまく削減 実際には地域に 単体ではなかなか財政が立ち行か なくなり、経済が沈滞 そのため公共料金値上げはある程 傑出した 度抑えられサービス水準も確保 リーダーが 自治体の中で、コミュニティ単位の いないと 活動が強化され、自分達できること は自分達のお金で実現 難しい道 ユニークな市(町)政で個性発揮 そのため地域が衰退するのを、合併 しなかったせいにする 24 合併も広域連携 そのため公共料金は値上がりし、サ もできないまち ービス水準は低下 は、こうなる 一方、何でも役所のせいにする気風 が強まり、コミュニティにほころび 危険性が高い 合併して大きくなるだけではダメ 行政単位の将来像 講師が勝手に考える これまで 将来像 国 国 市町村 国際関係(金融・通商関係含む) 全国レベルの所得再分配 全国レベルの衡平・機会均等 道州 内政関係 地域内レベルの所得再分配 地域経済振興・インフラ整備 広域都市圏 民生関係 現場レベルの所得再分配 都市振興・生活インフラ整備 都道府県 合併 役割 このままではここに 大きな穴がある → 皆が親方日の丸に流れ 地域のバランスが崩れる 25 合併して大きくなるだけではダメ 行政単位の将来像 講師が勝手に考える これまで 将来像 国 国 市町村 国際関係(金融・通商関係含む) 全国レベルの所得再分配 全国レベルの衡平・機会均等 道州 内政関係 地域内レベルの所得再分配 地域経済振興・インフラ整備 広域都市圏 民生関係 現場レベルの所得再分配 都市振興・生活インフラ整備 このままではここに コミュニティ 大きな穴がある 住民の自助努力促進 → 皆が親方日の丸に流れ 生活インフラの管理・運営 地域のバランスが崩れる 都道府県 合併 役割 26 意味のある合併や広域連携のための 3つの提言 今の中心集積をそれぞれ大事にした合併・連携 合併を口実に新しい集積や施設をつくる必要は、住民からみれば本当はない 合併は行政合理化のためのものなのだから、コスト増を招くのはやめたが得 建設業者としても、仕事先食い→将来ジリ貧、となるのは止めた方が得策 ハコモノは、相互に使いあえばよいのであって、たくさんは不要 それとは別に、コミュニティ単位の再建を! 下部組織として、校区単位くらいの大きさのコミュニティを再建する ごく少数のスタッフと小額の特定目的財源を委譲し、代表者選挙も行う → 公園管理、清掃、学校運営などを、住民の自助努力を喚起しつつ担当する IT化による行政能力向上と、地域戦略再建を! 合併や連携を機会に、これまでの体制・戦略を大きく改める必要がある 明治維新なみの発想と戦略の飛躍をしないと、地域は沈滞していくだろう 27
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