第20回禁煙医師連盟学術総会 シンポジウム1 職場の健康診断及び自院の診療で役に立つ ニコチン依存に対する心理的アプローチ 認知行動療法の保険適用 2011年2月11日 本日のアジェンダ 1.保険適用の内容(2分) 2.マニュアルの内容(1分) 3.禁煙指導における有用性(3分) 4.当院での実施例(2分) 5.研修の方法(1分) 鵬友会 新中川病院 加濃 正人 医師/臨床心理士 日本人生哲学感情心理学会認定REBT心理士 認知行動療法(CBT)の概念の整理 行動療法 認知療法 狭義の 認知行動療法 論理療法(REBT) 認知療法・認知行動療法の保険適用 • 保医発0305第1号(平成22年3月5日) – 【新設】I003-2 認知療法・認知行動療法 420点/日 – 認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることで治療する ことを目的とした精神療法 – 対象疾患は気分障害 • うつ病、双極性障害、気分変調症等 – 治療計画を作成し、説明を行った上で実施 – 精神科を標榜する医療機関以外でも算定可能 – 研修を受けるなど習熟した医師による – 1回30分以上、一連の治療は16回まで – 厚生労働科学研究班作成のマニュアルに準ずる • レセプト:初回算定日と初回からの回数を記入 厚生労働科学研究班作成 うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル • 慶応大学認知療法研究会グループ (大野裕教授ら)が中心になって作 成 • 構成 – 治療者用マニュアル – 簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)とその 解説 – 認知再構成技法用コラム表 – 患者さんのための資料 • 厚生労働省「心の健康」HPに公開 治療者用マニュアルの内容 • 総論 – 認知行動療法とは – 治療全体の流れ – セッションの流れ – アジェンダ設定の方法 • 各段階での具体的な手順 – 治療目標の設定 – 症例の概念化 – 介入技法 • 自動思考の検証(認知再構成) • スキーマの同定(論理療法) • 問題解決法 • 対人関係改善(アサーション) マニュアル作成グループによる 市販版書籍(DVD付録) 星和書店 禁煙外来における有用性 • 定式的な認知行動療法が実施できる有用性 – 気分障害を有する禁煙希望者に対して、禁煙困難と気分 障害の両方に共通する認知パターンを自己コントロール できるようになることで、両方の問題を改善できる – 薬物療法によって禁煙導入できる患者であっても、将来 の再喫煙を予防するスキルトレーニングになる • 認知行動療法の保険診療枠を利用する有用性 – 精神科以外でも、一定の面接時間に対する診療報酬を 算定できる(時間をかけられる) – ニコチン依存症管理料の算定よりも制限が少ない(回数、 再治療) – ニコチン依存症管理料算定と併用(並列または順次)でき る 考え得る実施パターン 1 2 3 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 4 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 1 2 3 4 5 認知行動療法 ニコチン依存症管理料 事例(Hさん) プロフィール • 30歳代 女性 未婚 両親と兄と4人暮らし • 基礎疾患:気分変調性障害、強迫性障害、糖尿病 • 受診までの経過 – 2010年5月、他院禁煙外来にてニコチンパッチ処方される – 希死念慮が強まり2日で禁煙挫折 – 2回目の受診後も禁煙できる気がせず、受診を中断 – 1か月後、保健所の禁煙相談で当院を紹介され、精神科主 治医と相談の上、自費での禁煙治療を希望して申し込み • ガイダンス面接時所見 – TDS=10、FTND=7、KTSND=23、1日本数=33本 プライバシー保護のため、趣旨に支障ない範囲で改変してある 事例(Hさん) 経過 • ガイダンス(2010年6月)・・・50分 – 治療目標の設定:禁煙達成のための感情コントロール(気分 障害の治療でもある) – 認知行動療法の説明と開始の同意(病名:気分変調症) • #1~#5(6~8月)・・・#1:120分 #2以降:50分 – 精神科基礎疾患と禁煙困難に共通する認知パターンを検討 – 希死念慮増大時の緊急対処法を検討 • #6~#7(8~9月)・・・50分 – 認知行動療法の具体的方法について心理教育 • #8~#9(10~11月)・・・50分 – 日常生活の問題を認知行動療法で整理 • #10~#13(11月~2011年1月)・・・50分 – 禁煙挫折状況について認知行動療法で整理 – 宿題として認知行動療法手順の部分練習 研修の方法 • 明確な規定はなし • 米国認知療法アカデミー – 最低限の初期トレーニングは40時間 • 洗足ストレスコーピングサポートオフィス – 入門:6時間×1日間 – 実践:6時間×3日間 • 日本認知療法学会・日本行動療法学会 – 年次大会時に3時間単位のテーマ別研修 • 日本人生哲学感情心理学会(論理療法) – 入門:6時間×1日間 – 基礎:6時間×3日間 – スキルアップ:6時間×10日間 • 東京認知行動療法アカデミー – 年4回程度3時間単位のテーマ別研修 • 保険適用に伴い、常設の通信研修システムも計画中 以降 予備スライド 依存症に対する2つのアプローチ ニコチン依存 身体的依存 心理的依存 薬物療法 心理的支援 (医学に基づく治療) (心理学に基づく治療) ストレスとは? ストレッサー ↓ 認知的評価 ↓ 感情的混乱 ↓ ← 問題焦点型対処 根本的解決につながるが不可能なことも ← 認知焦点型対処 コツが必要だが慣れれば適用範囲が広い ← 感情焦点型対処 効果は一時的で新たな問題を引き起こすことも ストレス反応 (生理的失調・免疫系失調・精神的失調) 重大性認識と問題解決能力 矛盾の拡大 (状況の正確な評価) 問 題 解 決 能 力 こだわりの再検討 (状況の正確な評価) ピーク 重大性認識の度合い ヤーキーズ・ドッドソンの法則 収益上の問題の回避 • 選定療養費としての予約料の設定 • 保医発第0313003号(平成18年3月13日)「療担規則及び薬担規則並び に療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「選定療 養及び特定療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上 の留意事項について – – – – – – – 10分程度以上の診療時間確保に努める 医師1人につき診察する患者の数は概ね40人を限度とする 各診療科で予約料を徴収しない外来時間を2割程度確保 予約時間から30分程度以上患者を待たせない 予約料の額は社会的に見て妥当適切なものであること 該当事項について院内に分かりやすい掲示と窓口での説明 予約料の設定・変更の場合は所定の様式で地方社会保険事 務局に報告 禁煙外来で行える精神療法の枠組み 通院精神療法 認知行動療法 心身医学療法 社会生活を営むことが著しく 困難な精神疾患 気分障害 心身症 危機介入、対人関係の改善、 認知の偏りを修正し、 心理的影響を与えること 社会適応能力の向上を図る 問題解決を手助けす により傷病からの回復を ための指示や助言 る 図る 精神科標榜医療機関 実施機関制限なし 実施機関制限なし 精神科担当医師 習熟した医師 習熟した医師 330点(5分以上) 400点(30分以上) 420点(30分以上) 110点(初診) 80点(再診) 回数制限なし 一連16回まで 週2回まで(最初) 週1回まで(1月後) 認知行動療法とは? Cognitive Behavior Therapy;CBT . • 個人の抱える身体-心理-社会的問題を「認知」と「行 動」の側面から解消しようとする体系的な心理療法 – 認知:頭に浮かぶ考えやイメージ – 行動:客観的な把握が可能な動作や行為 • • • • 特徴1:起こっている問題状況を図や表に整理する 特徴2:治療者と患者で問題解決チームを作る 特徴3:問題解決スキルの習得が最終目標 特徴4:行うことの手順を計画的にマネジメントする 喫煙者によく見られる認知の歪み (推論の誤り) • 感情的決めつけ(~と感じるから~に決まっている) – タバコなしの生活なら死んだ方がましだ – 自分だけは肺がんにならない • 過度の一般化(どうせ~に決まっている) – 友人はパッチを使って禁煙できなかったから、パッチなど意味がない – 何度も禁煙に失敗しているから、どうせ今度も失敗する • 全か無か思考(~でなければ~だ) – パッチを貼っても吸いたくなるから、パッチは役に立たない – イライラしていたら何もできない • レッテル貼り(・・・は~というものなのだ) – 私はタバコがやめられない人間なんだ 認知行動療法の歴史 • 【1950年代】旧来の心理療法(精神分析など)に疑問をなげ かける形で行動療法が生まれる • 【1960年代】認知療法(ベック)、論理療法(エリス)等の認知 的アプローチが生まれる • 【1970年代】これらが自然な形で融合、認知行動療法として 主要な心理療法理論になっていく • 【1980年代】各種コンポーネントを組み合わせ、さまざまな治 療パッケージが開発される • 【1990年代】科学的な評価によって疾患別の適用基準が提 唱される 坂野雄二 こころの科学 121:26-30,2005 の記述より 禁煙に対する認知行動療法(CBT)の効果 • RCT(ランダム化比較試験)によるエビデンス – Patten CA et al(1998) • うつ病/アルコール依存既往の喫煙者;RCT;追跡1年 • [行動療法 12.5%]vs[行動療法+認知行動療法 46.2%](p=0.04) – Burling TA et al(2001) • 薬物依存/アルコール依存既往の喫煙者;RCT;追跡1年 • [通常ケア 0%]vs[認知行動療法 12%](p<0.0001) – Alterman AI et al(2001) • DSM-IV診断のニコチン依存症;RCT;追跡1年 • [パッチ+指導 12.0%]vs[パッチ+指導+認知行動療法 34.7%] • 米国精神医学会治療ガイドライン(2006) – 「心理-社会的治療もニコチン依存の治療に効果的であるが、これに は認知行動療法(CBT)[I]、行動療法[I]、短期介入[II]、動機強化療 法(MET)[II]がある」 – [I] 確固たる臨床的信頼性とともに推奨される – [II] 中程度の臨床的信頼性とともに推奨される – [III] 個々の状況に基づいて推奨されるかも知れない 禁煙に対する認知行動療法(CBT)の効果 Patten. J Stud Alcohl 59:327-335 1998 80% 禁 煙 率 60% ( 呼 気 40% 測 定 で 検 20% 証 ) 行動療法(n=16) 69.2% 行動療法+認知行動療法(n=13) 69.2% 46.2% 31.3% 46.2% 31.3% 25.0% 12.5% 0% 治療後 1M 3M 12M 新中川病院禁煙外来の治療スケジュール • ガイダンス(15~50分):内科診療として算定 – プログラム内容とスケジュールの説明と合意、保険か自費の選択 • 初回(1~4週後;90~120分):ニコチン管理料(#1)算定 – 性格傾向テスト、リセット禁煙式面接、禁煙補助薬選択と使用法説明 • 2回目(1週後;15~50分):再診料のみ算定 – 禁煙時の生活指導 • 3回目(1週後;15~50分):ニコチン管理料(#2)算定 – 初回性格傾向テストの結果説明 • 4回目(1週後;15~50分):再診料のみ算定 – 認知行動療法(論理療法)ガイダンス • 5回目(1週後;15~50分):ニコチン管理料(#3)算定 – 患者の実際の問題に則して論理療法面接(1回目) • 6回目(2週後;15~50分):再診料のみ算定 – 患者の実際の問題に則して論理療法面接(2回目) • 7回目(2週後;15~50分):ニコチン管理料(#4)算定 – 患者の実際の問題に則して論理療法面接(3回目) • 8回目(2週後;15~50分):再診料のみ算定 – 患者の実際の問題に則して論理療法面接(4回目) • 最終回(2週後;15~50分):ニコチン管理料(#5)算定 – 性格傾向テスト、初回からの変化を説明、修了証授与 – 緊急の問題があるときはその相談を優先、毎回呼気測定と動機づけ面接法を施行 禁煙外来データ • 新中川病院禁煙外来受診者の治療成績(2008年1月~) 100% 100% 100% 100% 88% 80% 80% 60% 60% 40% 36% 57% 40% 20% 20% 0% 0% 12週治療継続率 79% 継続者の禁煙率 論理療法施 行群(16) 論理療法非 施行群(8) 全国調査 (3471) 禁煙外来データ • 認知行動療法施行者の終了時アンケート 100% 「禁煙に役立った順番を教えてください」 80% 順位4 順位3 順位2 順位1 60% 40% 20% 0% 論理療法 リセット禁煙 禁煙補助薬 その他
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