地球惑星科学II(番外編) 地球進化史 ー46億年史ー 北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/ 1 地球進化史 ー 46億年史 ー • • • • 年代決定の技術 地質時代区分 地球史七大事件 地球進化史概観 参考文献 ・「生命と地球の歴史」丸山茂徳・磯崎行雄著、岩波新書 (次の文献も参照した: 「地学図表」、「はじめての地学・天文学史」、 「進化する地球惑星システム」(東京大学地球惑星システム科学講座編、東京大学出版会)) 以下は最新の文献 ・「人類進化の700万年-書き換えられる「ヒトの起源」-」三井誠著、講談社現代新書 ・「絶滅古生物学」平野弘道著、岩波書店 (教科書「地球惑星科学入門」 の該当箇所は、第II部、特に第14・16・17章) 2 年代決定の技術 • • • 層序学: 地層(堆積岩)と化石との対応を調べる学問(18世紀後半~19世紀初頭に誕生、発展) 地層累重の法則: “地層は時間とともに順に積み重なる” 地質時代: 各地層から出土する化石の種類により分類・同定 “顕生代”(古生代、中生代、新生代): 化石として残る骨格を持つ生物が出現した以降の時代 “先カンブリア時代”(冥王代、太古代(始生代)、原生代): 顕生代以前 生物の誕生・進化・絶滅が示唆される • 絶対年代(放射年代) 幾つかの元素の放射性崩壊の性質を利用する。崩壊速度は元素ごとに決まっている。 崩壊の結果生成する元素も岩石中に固体として残る場合が好都合。質量分析計を用いる。 ウラン-鉛法(半減期7億年)、ルビジウム-ストロンチウム法(半減期488億年)、カリウム-アルゴン法(半減期12.5億年) α線:Heの原子核(陽子2個+中性子2個)、β線:電子(陽電子含む)、γ線:短波長の光・電磁波 3 [地学図表] 地質時代区分 (“紀”名の多くは、初めてその地層が調査された地域名に由来) [地学図表] 4 顕生代の生物 [地学図表] 古 生 代 中 生 代 新 生 代 生きている化石 5 地球史七大事件 (1)45.5億年前 地球の誕生 (化石による時間軸から地球物理学的考察による時間軸へ) (2)40億年前 原始海洋の誕生 プレートテクトニクス 生命誕生 (3)27億年前 強い磁場の誕生 酸素発生型光合成 (4)19億年前 真核生物の誕生 初めての超大陸 (5)7.5~5.5億年前 マントルへ海水注入 硬骨格生物出現 全球凍結? (6)2.5億年前 最大の生物大量絶滅 (古生代-中生代境界) (7)700万年前 人類の誕生 [地学図表] 6 地球進化史概観(1)45.5億年前 太陽系形成期: ・微惑星の衝突・合体、巨大隕石の落下 ・H2、Heは太陽風により剥ぎ取られる ・微惑星よりH2O、CO2、N2が供給される 火星サイズ(現在の0.5倍)まで成長した時、 衝突エネルギーの蓄積+原始大気の温室効果 マグマオーシャンの形成(地表温度1700℃) 月の形成(マグマオーシャンは地球中心まで?) 岩石から鉄が分離・鉄の沈み込み 液体金属核の形成 (重力エネルギー解放でさらに高温化) 大気の様子: ・H2Oを主成分とし、地表気圧は数百気圧 ・激しい対流が生じ、高度300km付近では、 水の活発な蒸発・凝結・降水が生じていた ・雨はまだ地表に到達せず [丸山・磯崎] 7 地球進化史概観(2)40億年前 冷却降雨が地表に到達原始海洋の誕生 海洋誕生 ・大気中からH2Oの大部分が抜ける ・大気中のCO2が海へ大量に溶ける 大気の温室効果が急減し、地球は急冷した 表層岩石が冷却により剛体化(プレート化) (上部地殻を形成する花崗岩は、地球だけに大量存在。 水の存在により玄武岩が含水鉱物を作り変質するため。) プレートテクトニクスの開始 (海嶺でプレートが生まれ、海溝でマントルへ沈む) 原始生命誕生(38億年前の岩石に有機物生産の証拠) ・有害紫外線を避けた海水中に棲息 ・中央海嶺の熱水噴出孔(ブラックスモーカー) よりエネルギー得ていた [丸山・磯崎] * 35億年前の海水総量は現在よりも30%も多い。 7.5億年前より、マントル内の低温化により、 沈んできた含水鉱物が脱水せず蓄積し始めたことによる。 8 地球進化史概観(3)27億年前 [丸山・磯崎] [地学図表] 地球磁場の急激な強化 ・“地球ダイナモ”(外核内対流)にスイッチが入る ・原因諸説あり。(固体核形成開始;マントル対流 が二層から一層へ;地球-月系の力学共鳴) (地球の歴史を通じ、27億年前と19億年前が、 もっとも激しい火成活動(マグマ生産)がおきた時代) 地表へ降り注ぐ宇宙線量の激減 生物は太陽光エネルギーの利用が可能に 浅い海へ移動し、酸素発生型光合成を開始 (シアノバクテリア(ラン藻類)によるストロマトライト層状岩石) CO2+H2O+光エネルギー 有機物+O2 [丸山・磯崎] (呼吸と有機物の酸化により、正味のO2増はほとんどないが、 有機物が海底に沈殿し堆積岩に固定されると、海洋・大気中 9 で(わずかながら)正味のO2増となる。) 地球進化史概観(4)19億年前 放出されたO2はまず海水中に溶けていた 鉄イオンを酸化・沈殿 縞状鉄鉱層の形成(25~20億年前がピーク) その後、大気中O2濃度が徐々に増加 ・DNA酸化を防ぐ核膜を持つ真核細胞へ進化 ・酸化反応により発生する大きな化学 エネルギーを利用、大型化・多細胞化 地球の冷却が進み、マントル対流が組織化 (乱流的 二層対流 一層対流) スーパーコールドプルームの誕生 ・その周辺では全てのプレートが一点に集まる ・大陸の衝突・付加・融合 “ウィルソンサイクル” 超大陸の分裂から次の超大陸誕生まで (3~9億年周期) 19億年前: ヌーナ超大陸 10億年前: ロディニア超大陸 5.5億年前: ゴンドワナ超大陸 3億年前: パンゲア超大陸 10 [丸山・磯崎] (現在、アジアの下にスーパーコールドプルーム形成) 超大陸の消長とプルームテクトニクス [丸山・磯崎] 地球の冷却 マントル対流の組織化:マントルオーバーターン、プレートの巨大化 ・スーパーコールドプルーム 超大陸形成 寒冷化・氷河発達(?)、世界的大海退 ・ホットプルーム 火山活動、堆積盆地 粉塵による太陽光遮蔽(むしろ温暖化?) 光合成停止 海洋酸素欠乏イベント 生物大量絶滅 11 地球進化史概観(5)7.5~5.5億年前 7.5億年前:海水がマントルへ戻され始めた (マントル内部の温度が閾値を下回る) 海水総量が減少(現在も減少中) 海水準の低下(海退)(陸地面積5%30%) 陸上に巨大河川発達、大量の堆積物が海へ。 海底に大量の堆積岩生成。 海水塩分濃度増大; 大気中のO2量急増(*) 4.5億年前オゾン層形成・地表紫外線量減少 ・浸透圧上昇により古来の生物は脱水・絶滅 ・酸素呼吸型の大型多細胞(硬骨格)生物出現 生物は海から淡水の河川、陸上へ進出 (様々な化石が堆積岩中に残されるようになる) (*)現在O2は21%。23~35%を越えると植物は自然発火。 現在はO2が限界まで増加した状況。危険! 酸化エネルギー利用可能; 人類は火を容易に利用。 全球凍結(“Snow Ball Earth”)の可能性 ・この時期、2回の大氷河期。氷河性堆積物が当時の赤道域にも。 ・理論研究よると、地球システムは、部分凍結状態(現在)、 無氷床状態(白亜紀など)、全球凍結状態(7.5、6億年前?)、 の3つの安定状態を取り得る(気候ジャンプ)。 12 ・“ice-albedo feedback”メカニズムが鍵。 [丸山・磯崎] [丸山・磯崎] 地球進化史概観(6)2.5億年前 P/T境界:古生代-中生代境界(2.5億年前)[内因] ・地球史上最大の生物絶滅事件 (海棲無脊椎動物種の96%が絶滅) ・海洋酸素欠乏イベント(2000万年間)(還元鉄層の存在) ・超大陸パンゲアの形成 三つの事件をつなぐ地球物理学的仮説: 巨大ホットプルーム(パンゲア分裂開始、火山活動激化) 大気中の粉塵量増大 太陽光遮蔽 光合成衰微 ( 有毒火山ガス(CO2)、酸性雨(SO2)) 生物基礎生産に致命的打撃 食物連鎖の崩壊 [地学図表] K/T境界:中生代-新生代境界(6500万年前)[外因 . . .+] ・恐竜等爬虫類、裸子植物、アンモナイトの絶滅。 哺乳類、被子植物の優勢化 13 ・直径10kmの巨大隕石の衝突巨大津波、粉塵による太陽光遮蔽、酸性雨 . . . +寒冷化 地球進化史概観(7)700万年前 [地学図表] 700万年前: アフリカで人類が誕生。チンパンジーと分化。 (直立二足歩行、犬歯の縮小) 250万年前: 石器の作製、脳の大型化開始 (この間、体毛の喪失、火の使用) 20万年前: アフリカで新人(ホモ・サピエンス)誕生。シナイ半島 を通り、各地へ拡散。多様化。(言語の使用、芸術) 1.2万年前: (最終氷期終了) 農耕の発明。 5000年前: 四大文明 400年前: 産業革命。工業と科学の発明。 気候改変・大量絶滅 14 [丸山・磯崎] [丸山・磯崎] 大気・海洋の生成と変化 [ 海洋 ] 原始海洋形成(44~43億年前) CO2飽和の状態で始まる O2は幾つかの不連続増加を示す 35億年前 27億年前:光合成開始。鉄酸化 縞状鉄鉱層形成 21億年前 5.5億年前:急増。藻類浅海へ 塩分濃度増大:7.5億年前 海水準低下大陸地殻侵食 ( 生物界に多大なインパクト) [ 大気 ] 原始海洋形成(44~43億年前) 大気中H2O激減。 大気中CO2分圧も10~30気圧程度まで下がる (cf. 現在の金星が90気圧) 以降、40億年強かけて0.0003気圧まで下がる ・岩石起源Caイオンと結びつき、炭酸カルシウムが沈殿 ・27億年前の光合成開始 生物遺骸の沈殿・堆積岩化 O2: 5.5億年前に急増。同時にオゾン層形成開始 15 N2: ほぼ変化なし。生物遺骸の堆積岩化により多少減 まとめ ー 地球進化史 ー • 年代決定の技術2種 • 年代・時間軸:化石と地球物理学的考察と • 地球史七大事件 (1)地球の誕生、(2)海洋・プレート・生命の誕生、 (3)磁場・光合成、(4)真核生物・超大陸、 (5)海水減少・化石出現、(6)生物大量絶滅、(7)人類 • 地球史:冷却の歴史。構造化・組織化 • 生命の歴史:固体地球と宇宙の変動に支配。 大量絶滅と新しい生物群の繁殖・拡散 • 生物圏による地球表層環境の改変: 大気・表層の酸化、オゾン層形成、 人類による大気組成改変、などなど 16
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