民主化促進の為の国際 協力:現状と日本の課題 廣野良吉 成蹊大学名誉教授・NPO法人民主化・平和構築 支援委員会理事長 2004.12.8 FASID研究会 1.はじめに 2.民主化促進のテンプレート 3.国際社会における民主化の進展 4.民主化促進の為の世界の国際 協力の現状 5.日本の民主化促進協力国際 協力 6.今後の課題 1.はじめに 1) 民主主義は世界の人々が共有できる普遍的価値観であり、民主化促 進に反対する国はない。 2) しかし、それぞれの国がおかれている初期条件が異なっており、民主化 への道程は国家間で異なる。 3) 欧米先進国、特に米国が現在進めている民主化促進の為の国際協力 は、各国間の経済的・政治的・文化的差異に十分配慮していないという 見方が世界的に大きい。 4) 日本は民主化促進が途上国の内政干渉になるという伝統的な外交政 策の下で、そのための国際協力はきわめて限定的である。 5) MDGの達成こそ、途上国の現在の優先順位であり、民主化促進はそ の次の目標であるという国が多い。 6) しかし、途上国内における市民社会運動の急速な展開の中で、MDGの 達成と民主化促進は同時並行的に推進すべきであるという主張も、現 在途上国内外で強い支持を得ている。 7) そこで、ADP委員会の出番。 2.民主化促進のテンプレート 部門 部門別目的 助成形態 1.選挙過程 公正な選挙 強固な政党 民主的憲法 独立的・効果的司法機関 有効な代議制議会 住民本位の自治体 民主的軍隊 NGO、CBOの活性化 選挙支援 政党樹立 起草支援 法治形成支援 立法強化 自治体整備 文民統制 NGO支援体制 の強化 市民教育 メデイア支援 労働立法 2.国家機関 3.市民社会 市民の政治的成熟化 独立メデイアの設立・強化 独立労働組合の形成・強化 3.国際社会における民主化の進展 (1) 1) 2) 国際社会における政治の民主化、2001年現在 ア)民主的政権樹立へ踏み切った国 88カ国 イ)軍事政権から政党政権へ踏み切った国 33カ国 ウ)複数政党選挙実施国 140カ国 エ)国際的に認証・登録されたNGO 37,000団体(1990年 以来1/5増) オ)国連経済社会理事会協議地位保有NGO 2,150団体 カ)独立的マスコミを持った国と人数 125カ国で38億人 キ)途上国における日刊紙の発行部数の増加(1970-96) 1,000人あたり60から90へ ク)途上国におけるテレビ保有台数の増加(1970-96) 16倍 ケ)国際経済社会文化権利条約批准国と国際民権 ・政治権利条約批准国(1990-2001) 90から150カ国 コ)国会議員の30%以上が女性の国 10カ国 サ)国際犯罪司法裁判所の批准国 60カ国 国際社会における経済の民主化、2001年現在 ア)絶対的貧困人口(1990-99) 29%から23%へ イ)東アジア地域の絶対的貧困人口の削減(1990-99) 50% 3.国際社会における民主化の進展 (2) ウ)南アジア地域の絶対的貧困人口の削減(1990-99) 7% エ)東アジア地域の一人あたりGDPの年間伸び率 5.7% オ)南アジア地域の一人あたりGDPの年間伸び率 3.3% カ)インターネット利用者数の増加(2001-2005)5億人から10億人へ キ)1990年以降飲料水利用可能者数の増加 8億人 ク)1990年以降衛生施設利用可能者数の増加 7.5億人 ケ)2015年までに飢餓人口の半減を実現出来ると 予想される国(世界人口の半分) 57カ国 コ)HIV/AIDSとの戦いに積極的な効果を上げている国 (例:ウガンダでは1990年代に14%から6%へ) 12カ国 サ)5歳未満乳幼児死亡率の削減(1970-2000) 1,000人あたり96人から56人へ シ)初等教育就学率の向上(1990-98) 80%から84%へ ス)初等教育就学率100%を2015年までに達成できると 予想される国(世界人口の41%) 51カ国 セ)初等教育就学率で男女間平等を2015年までに達成できると 予想される国(世界人口の60%) 90カ国 3.国際社会における民主化の進展 (3) 3) ソ)1990年代には国内紛争による死亡者数は激減 約700,000人から約220,000人へ タ)90カ国の1,400以上のNGOの連帯により地雷 禁止条約批准国 123カ国 国際社会における政治的民主化の停滞 ア)1980年以降民主化に踏み切った81か国中 民主的政権を維持している国 47カ国 イ)世界全体で民主国家と呼べる国 82カ国 ウ)国際労働機構結社の自由条約未批准国 51カ国 エ)国際労働機構団体交渉権条約未批准国 39カ国 オ)国連広報局認証・登録NGO1,550団体のうち 途上国NGO団体数 251 カ)独立的マスコミがない国(世界人口の38%) 61カ国 キ)2001年に取材中殺戮されたジャーナリスト 37名 ク)2001年に投獄されたジャーナリスト 118名 ケ)2001年に脅迫されたジャーナリストと報道機関 600名以上 コ)主要な人権、政治的自由を束縛されている国 106カ国 サ)経済社会文化権利国際条約の未署名・未批准国 38カ国 3.国際社会における民主化の進展 (4) シ)民権・政治的権利国際条約未署名・未批准国41カ国 ス)全世界中で女性国会議員の比率 14% セ)女性国会議員皆無の国 10カ国 ソ)世界貿易機構では一国一票であるが、主要な意思決定は 経済大国間で決定 タ)世界銀行におけるG5, ロシヤ、サウジアラビアの議決権 46% チ)国際通貨基金におけるG5, ロシヤ、サウジアラビアの議決権 48% 4) 国際社会における経済的民主化の停滞 ア)世界の最富裕人口5%が保有する所得は最貧困層5%の所得の114 イ)1990年代のサブサハラ砂漠以南アフリカ地域の最貧困層人口の増大 242百万人から3億人 ウ)中東欧諸国と中央アジア諸国における1990年代の 一人あたり所得の年間減少率 2.4% エ)サブサハラ砂漠以南アフリカ地域における1990年代の 一人あたり所得の年間減少率 0.3% オ)一人あたり所得が1990年以下になったサブサハラ砂漠以南 アフリカ諸国(同地域人口の50%以上) 20カ国 3.国際社会における民主化の進展 (5) カ)一人あたり所得が1975年以下になったサブサハラ砂漠 以南アフリカ諸国 23カ国 キ)先進国のインターネット利用人口は世界の同人口の 72% ク)サブサハラ砂漠以南アフリカ地域におけるこども感染症 予防接種比率 50%未満へ ケ)現在の削減率で行くと、世界の飢餓人口ゼロの達成年 2135年 コ)2000年までのHIV/AIDSによる死亡者 22百万人 サ)2000年までにHIV/AIDSにより死亡した両親ないし 片親をもったこども 13百万人 シ)2001年現在のHIV/AIDS感染者 4千万人以上 ス)2001年現在のHIV/AIDS感染者のうち途上国国民の割合 90% セ)2001年現在のHIV/AIDS感染者のうちサブサハラ砂漠以南アフリカ地 域在住国民の割合 75% ソ)回避可能な病気で毎日死亡しているこども達 3万人 タ)妊娠や出産時の病気、治療ミス等により毎年死亡する女性 50万 チ)就学適齢期で未就学児童数(97%が途上国児童) 113百万 ツ)初等教育就学傾向を示すデーダが不備の国(世界人口の39%) 93カ国 3.国際社会における民主化の進展 (6) テ)小学校未就学児童のうちの少女の割合 60% ト)世界の非識字成人人口 854百万人 ナ)世界の非識字成人人口のうち女性人口の割合 554百万人 ニ)内紛による殺戮人口1992-95 ボスニア 20万人 1994年ルワンダ 50万人1990年代 世界全体 360万人 ヌ)2001年9月11日 ニューヨーク世界貿易センター へのテロリスト攻撃による死亡者 3000人 ネ)1990年代の国際・国内難民の増加 50% ノ)戦争による民間人死亡者のうちこども 50% ハ)現在こども兵士 30万人 ヒ)中国、ロシヤ、米国は地雷禁止条約未署名 フ)現在大規模な地雷敷設下にあったり、不発爆弾 を抱えている国 90カ国 へ)地雷爆発による毎年の被害者 15千人から2万人 4.民主化促進の為の世界の国際 協力の現状 1) 民主化支援の為の国内体制の整備:民主化支援財団・基金の創設 ドイツ:FES(110million Euro),KAS (100million Euro), FNS(40million Euro),HSS,HBS,RLS 米国:NED(US$40million, 80カ国の500のNGOへの助 成),NDI,IRI,ACILS,CIPE 英国:WFD (50:50) フランス:FRS,FJJ カナダ:ICHRDD(C$5million,民主主義の進展、女性の権 利、人権、少数民族の権利) オランダ:IMD(議会に籍を置く全政党参加) 台湾:TFD(US$4.25 million、2/3:1/3,アジア太平洋民 主化リソースセンター) 2) 援助機関による民主化支援 USAID:民主化支援プログラム;ODA: 民主化支援プログラム 3) 国際機関による民主化支援 UNDP: ガバナンス支援プログラム、ガバナンス支援センター 世界銀行:ガバナンス支援プログラム、地域別情報教育センター 国際民主化選挙支援機構(IDEA):22カ国加盟。日本はオブザー バー 5.日本の民主化促進協力国際 協力 1) 民主化支援の為の国内体制の整備 ア)民主化支援財団・基金は未整備ー先進諸国で唯一。 イ)ADP支援議員の会:超党派組織:綿貫会長、羽田会長代行、亀井久興 事務総長、井上和雄事務局長等 2) 援助機関による民主化支援 外務省、JICA:例 アフガニスタン復興雇用計画、暫定行政機構基金、 元兵士武装解除社会復帰計画;東チモール行政能力強化、復興開発 計画、元兵士社会復帰・安定計画;コソボ行政能力強化、復興開発計 画;パレスチナ裁判行政能力強化計画;ソロモン諸島元兵士社会復帰; タジキスタン元兵士武装解除・雇用機会創出計画;シエラレオーネ元兵 士社会復帰 3) NGOによる民主化支援:選挙監視、地域社会開発支援 4) ADP委員会による民主化支援:民主化支援国際ワークショップの開催、 現地人権擁護・環境保全・民主化推進NGOとの各種共同プログラムの策定 と実施 6.今後の課題 1) 民主化支援国内体制の整備 ア) 欧米先進国に見るような議会による民主化支援 基金の創設 イ) 公的援助機関による民主化支援プログラムの多様 化と強化 ウ) 民主化支援NGOの強化と国内外NGOのネット ワーク活動の強化 エ) 民主化支援人材の養成 2) 海外の公的・NGO民主化支援プログラムとの協力 3) 民主化促進のための二国間・多国間国際協定の締結 4) 東アジア共同体結成へ向けた海外関係機関のパート ナーシップの強化
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