看護経済学 第2回 わが国の医療制度の問題点と 医療政策 1 東京医科歯科大学大学院 わが国の医療費の政策課題 少子・高齢化が早いスピードで進んでいる 日本の国民医療費は年間約数千億円増加 1989年 19兆7,290億円 1999年 30兆9,337億円 “医療費の無駄使い”、 “医療費の安定的な財源確保”の 相反する問題に直面 2 東京医科歯科大学大学院 診療報酬点数表の構造 日本の支払い方式は出来高払い方式が原則 (一部定額払い方式が導入) 各診療行為の評価を示す「診療報酬点数表」で は、各診療行為の難易度などに応じ点数化これ は基本となる診療行為の比率により点数を示し たもので、点数が金額 3 現行の方式は1点=10円 東京医科歯科大学大学院 国民医療費の内訳 Ⅰ 4 1999年の国民医療費30兆円の内… 各病院53.1%、一般診療所24.6%、歯科診療所 8.2%、調剤薬局7.8%、入院時食事療養費3. 5%、老人保健施設2.5%老人訪問看護ステー ション0.3%で分配されている。 諸外国の病院医療費、特にアメリカの33.9%ドイ ツの33.7%、フランスの44.6%と比べわが国は、 そのウエイトが若干高い 東京医科歯科大学大学院 国民医療費の内訳 Ⅱ 日本の一般医療費のうち、 入院医療費は36.8%、外来医療費は40. 8% 診療行為別1日あたりの点数で見ると、 入院医療費は入院料が最も高く61.4%、 手術9.8%、注射7.9%、検査6.4% 外来診療は投薬が最も高く25.2%、診療17.9%、 検査13.7%、処置12.3% 5 東京医科歯科大学大学院 一般診療医療費 24兆132億円(1999年度推計) 一般診療医療費の年齢階層別構成割合は、 65歳以上が50.5% 6 5割以上の医療費が65歳以上、 一人当たりの医療費に換算すると、57万2,800 円で、一人当たりの平均医療費の約3.02倍 東京医科歯科大学大学院 国民医療費の使途の特徴 1.約5割を占める人件費率 2.医薬品の割合が比較的高い 3.外部業者へのウェイトが低い 4.減価償却費の割合が低い 7 東京医科歯科大学大学院 病院と診療所の較差 国民医療費の分配で、病院のウエイトが高まる 一方で診療所のウエイトは下降 技術集積度が高く、システム化された病院医療を選択 する病院志向が、医療費の高騰一因となっている 診療所の下降傾向の原因は、開業医の高齢化。 労働市場に若い医師を入れ、“かかりつけ医として 地域医療に根ざさす必要性がある 8 東京医科歯科大学大学院 医療費の財源 Ⅰ 一般に医療費財源を何に求めるかにより、以下の3つ のモデルをあげることができる。 1.国営モデル:一般的な財源は租税とし医療提供体制は 国営である。 2.社会保険モデル:財源を国民皆保険に求めるが医療 提供体制は公的または私的な所有を 組みあわせている。 3.私保険モデル:自由に民間保険に加入し原則私的 所有とする。 9 東京医科歯科大学大学院 医療費の財源 Ⅱ 日本は社会保険モデルを原則としているが、 公費負担の割合が高い。 10 同じモデルを適用しているフランスやドイツの公 費割合はそれぞれ0.8%、0%である。 東京医科歯科大学大学院 国民医療費の負担 Ⅰ 1.職域保険 政府管掌保険・・・中小企業向け(H13年3月末現在加入者数 1,945万人) 組合健康保険・・・大手企業が運営(同1,551万4千人) 各種共済組合・・・公務員、私学教職員(同3,219万人) 2.地域保険 国民健康保険(同3,306万8千人) 3.老人保険制度 11 70歳以上の高齢者に、主に各種保険拠出金と公費を財源とす る、少ない自己負担で高額な医療サービスを受けられる制度 東京医科歯科大学大学院 国民医療費の負担 Ⅱ 国民医療費資金調達源の内訳 (1999) 15% 健康保険 52% 33% 12 国、都道府 県、市町村 患者の自 己負担 東京医科歯科大学大学院 混合診療の禁止と特定療養費制度 混合診療の禁止 診療科は「診療報酬点数表」に、薬剤科は「使用薬剤の購入 価格」にそれぞれ定められている。 “混合診療の禁止”の原則 特定療養制度 13 ”混合診療の原則“については明分化された法令、通知などはない。 特別なサービス(選定療養)や高度先進医療を受けた場合、 療養全体にかかる費用のうち一般の保険診療と共通する基 礎部分についてのみ保険給付し、特別なサービスや高度先 進医療にかかる費用を患者などの自己負担とする制度 東京医科歯科大学大学院 同一価格の医療サービスの原則 日本の診療報酬体系は“患者平等の原則”が大 前提。 日本の診療報酬が公定価格になっている理由 1.患者は、医療の質に関する知識がないので、医師及び病院 が、価格を勝手に吊り上げる恐れがある 2.価格を自由市場に任せると、“お金持ち”しか受けられない医 療サービスが出現 3.特に緊急を要する医療サービスには、購入時に効果とコスト を比較するといった合理的な判断ができない 4.公的保険医療制度の枠組みの中で、医療サービスの価格を 自由価格にすると、国民医療費増大の歯止めがきかない 14 東京医科歯科大学大学院 診療報酬制度の問題点 Ⅰ 現行の診療報酬体系がもたらしている弊害 1.原価主義からの乖離 診療報酬の金額が実際のコストとかけ離れてい ること 2.分配上の弊害 15 医療費が公平に分配されていない 東京医科歯科大学大学院 実際原価と標準原価 病院の原価は “実際原価”と“標準原価”に区分 1.実際原価 実際に消費した医療サービスの量を見積もって計算した原価。 2.標準原価 16 医療サービスの消費量を科学的、統計的調査に基づいて、 能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格または正常 価格をもって計算した原価。 能率の尺度としての標準とは、その標準が適用される期間に おいて達成されるべき原価の目標を意味する。 東京医科歯科大学大学院 診療報酬制度の問題点 Ⅱ 真の原価として、理想的には標準原価を採用すべき だが・・・ わが国では医療の標準化が進んでいないので、 すぐに標準原価を採用することは困難 そこで・・・ 短期的には適正原価として平均原価を採用しつつ、長期 的に標準原価を採用する方法を取る 17 東京医科歯科大学大学院 診療報酬制度の問題点 Ⅲ 1.利益率の格差 規模別格差(利益率) 公私間格差(利益率、税率、補助金、給与、賃金水準、設備投資 額) 地域別格差(人件費、物件費、キャピタルコスト、利益率) 2.公的な評価の欠如 診療科間の利益率の格差 患者の重症度 医療従事者の経験年数や技量の差によるパフォーマンスの差(患 者の満足度、 治療率、手術の所要時間、社会復帰に要する日数 など) 18 東京医科歯科大学大学院 診療報酬制度の流れ 一般病棟で、看護配置(および看護師比率)により入院基本 料1から5まで平均在院日数によりⅠ群(28日以内)とⅡ群 (29日以上)が設定 加減算の設定 出来高から包括評価へ 19 14日以内の加算および15~30日以内の加算、180日以上の減算 入院診療計画・院内感染防止対策は入院基本料に包括評価され、 未実施の場合には減算 一般病棟に90日を超えて入院する老人については、包括点数(検 査、投薬注射、一部処置を包括)により評価 老人病棟・療養病棟においても検査、投薬、注射、および一部の処 置を包括した評価へ一本化 東京医科歯科大学大学院 診療報酬制度の流れ 看護料の内容 現在の看護料の支払い方式には経験年数や看護の所要時間、患者 の満足度は全く考慮されていない。 看護料は公平に分配されているわけではなく、看護種別によって格 差が存在 診療報酬体系の見直し “分配上の弊害”には、「医療機関の機能や特質」「患者の属性」の2 つの歪みが存在する 抜本的な医療保険改革の一環としての診療報酬体系の見直しのポ イントは、 20 医療供給者が努力をすれば報われるシステムを志向しつつ、 一方で医療費の増大に歯止めをかける 東京医科歯科大学大学院
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