文化の力によるまちの再生」の考察 ~湯布院映画祭の事例を通して~ A Research on the

「文化の力によるまちの再生」の考察
~湯布院映画祭の事例を通して~
A Research on the Regeneration of Regional Towns by the Power of Culture
指導教官 芸術工学部 児玉徹准教授
九州大学 21世紀プログラム課程
1NC04019K 福原 菜美
はじめに
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地方自治体の財政破綻という夕張ショック
政府・住民に広がる「わがまちは大丈夫か」という不安
本研究では,現在政府(地方自治体を含む)のま
ちづくり現場で注目を浴びている「文化の力によ
るまちの再生」についてその本質を明らかにする。
また湯布院映画祭を事例に挙げ,考察する。
第1章「文化の力によるまちの再生」とは
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2005年10月内閣に「地域再生本部」設置
『2003年度国土交通白書』での特集
「文化の力によるまちの再生」策が乱立
その背景:
中心市街地の空洞化など地方都市の衰退
1.1政府主導から住民主導の「まちの再生」へ
しかし,このような事態への迅速な対応が期待
される地方自治体は,三位一体改革などによる
財政の悪化等により,その政策遂行能力を著しく
制限されてしまっている
その反動で「まちの再生」における住民の政策
当事者能力への期待が飛躍的に高まっている
政府ではなく住民が主体となって,まちの生活を豊かに
しようと取り組み,その自発的発展を期待するもの
1.1政府主導から住民主導の「まちの再生」へ
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「文化の力によって」とは,福祉など政府が行わなければ
いけない最低限の責務からはみ出したものを「文化」とい
う言葉に入れ込み,その政府では完遂しきれない責務を
住民へ受け渡していきたいという思惑
「まちの再生」とは、『公』を再生し、大地の上に人間の生
活を築く戦略である〔神野,2002〕
1.1政府主導から住民主導の「まちの再生」へ
つまり「文化の力によるまちの再生」とは、
公を再生し、地域に住民の豊かな生活を
築くという「まちの再生」を、政府主導型か
ら住民主導型へと転換すること
である
1.2 「創造都市論」の隆盛
1970年以降,地方都市の衰退を経験した欧州の都市が
文化への集中的な投資により都市イメージを強化・転換
「創造都市」とは,地域独自の芸術文化を育て,
その『創造性』により人間的規模を保つ都市
横浜市・金沢市など全国15都市が創造都市宣言を発
表している
1.2 「創造都市論」の隆盛
「芸術文化がもたらす『創造性』でまちづくりを」
⇒地域独自の芸術文化に関わる住民の自発的な文化活動
をまちの再生の一役に取り込み,まちの活性化につなげ
ようとしている
● 『創造性』の本質とは,住民の自発的発展やさらなる連
鎖反応を期待するということ
創造都市論の隆盛の背景には,
やはり「政府主導から住民主導のまちの再生へ」がある
第2章 事例研究:湯布院映画祭
次に、映画祭をケーススタディとし,日本最古の映画祭
で当初から市民ボランティアの手で運営されている「湯布
院映画祭」を事例に上げ、地方都市での住民主導型文
化事業・まちづくりについて考察する
2.1 湯布院、湯布院映画祭基本情報
大分県由布市湯布院
 年間400万人が訪れる観光の町
 豊富な温泉と雄大な風景
 年間を通じて牛喰い絶叫大会・ゆふい
ん音楽祭・ゆふいん文化記録映画祭
など特徴的なイベントが開催される
 「市民による観光地づくり」に成功した
例として有名
湯布院ドットコムより
http;//www.yufu-in.com/
2.1 湯布院、湯布院映画祭基本情報
湯布院映画祭
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1976年8月「映画館ひとつない町、しかしそこには映画がある」という
キャッチフレーズでスタート,以降一度も途切れることなく毎年開催
現存する日本の映画祭の中で最も歴史のある映画祭
「日本映画のファンと日本映画の作り手が出会う場となりたい」とす
べてボランティアにより運営
湯布院映画祭公式ブログより
ttp://www.yufucinema.exblog.jp/
2.2 福岡市、アジアフォーカス・福岡国際映画祭
福岡アジア映画祭基本情報
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2007年8月22日~8月26日、湯布院映画祭にスタッフとして参加
福岡市で開催されている2つの映画祭「アジアフォーカス・福岡国際
映画祭」と「福岡アジア映画祭」を比較材料にあげる
【ヒアリング調査】
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湯布院映画祭: 事務局長 横田茂美氏,実行委員長 伊藤雄氏
アジアフォーカス・福岡国際映画祭: 福岡市市民局文化部映画祭
担当 北田義徳氏
福岡アジア映画祭: ディレクター 前田秀一郎氏
2.2 福岡市、アジアフォーカス・福岡国際映画祭
福岡アジア映画祭基本情報
福岡市
 基本構想の都市像「活力あるアジアの拠点都市」
アジアフォーカス・福岡国際映画祭
 福岡市のアジア施策のもと、福岡市が運営 =政府主導
福岡アジア映画祭
 いち早くアジア映画に注目し、政府の支援を一切受けず
市民ボランティアだけで運営 =住民主導
2.3 比較分析
湯布院映画祭の特徴を
(1)運営
(2)予算
(3)観客のターゲット
(4)まちのPR効果
(5)継続性
(6)今後の課題
の6項目挙げ,他の2つの映画祭と比較・分析
2.4 考察
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住民主導と政府主導による特性・影響の違いが如実に
表れた
また「まちや住民のために」と行われている政府主導の
映画祭よりも、「ただ映画が好きだから」と行われている
住民主導の映画祭の方が住民やまちに根ざしている
映画祭というケーススタディひとつをとっても「政府主導
型から住民主導型のまちの再生へ」と転換が求められて
いるという、その重要性が見てとれた
おわりに
本研究では「文化の力による」、「まちの再生」が何を意
味し、どのような影響が期待できるのか、議論されること
のないままであったその本質を考察した。
地方都市の衰退への迅速なる対応が期待される地方
自治体はその政策遂行能力を著しく制限されるところと
なっており、その反動で「まちの再生」における住民の政
策当事者能力への期待が飛躍的に高まっている。
「文化の力によるまちの再生」とは、公を再生し、地域に
住民の豊かな生活を築くという「まちの再生」を政府主導
型から住民主導型へと転換することである。
この潮流の中、湯布院映画祭は大いに参考とされうる。