コンピュータが変えるクスリづくり ~薬剤のデザインはこうして行う~ 関西分子設計研究会 Computer-Aided Molecular Modeling Research Center Kansai (CAMM-Kansai) 合田 圭吾 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 1 September 20, 2003 コンピュータが変えるクスリづくり クスリが効くとは? クスリづくりとコンピュータ ≫ スクリーニング試験 ≫ 候補化学物質の最適化 ≫ 薬物の体内動態 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 2 September 20, 2003 医薬品(クスリ) H N O R S N O HO OH CH3 O CH3 O アスピリン アオカビから発見 1928年、フレミング 抗生物質 細菌の細胞壁の生合成を阻害 → 異物の体内進入を阻止 Keigo Gohda / CAMM-Kansai O O ペニシリン CH3 3 ヤナギ樹皮の抽出エキス物質由来 1897年、ドイツバイエル社 解熱鎮痛消炎薬 プロスタグランジンの産生抑制 → 体内の代謝・機能の正常化 September 20, 2003 病気の発症メカニズム ~「鍵と鍵穴」理論 情報伝達物質 病気の情報が伝達される 伝達物質-受容体 複合体 標的受容体 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 4 September 20, 2003 クスリの作用 ~「鍵と鍵穴」理論 情報伝達物質 クスリ候補の 化学物質(鍵) 結合できない 標的受容体 病気の情報をブロック Keigo Gohda / CAMM-Kansai 5 September 20, 2003 「鍵と鍵穴」理論 ?? 化学物質 標的受容体 病気の情報をブロック 「鍵と鍵穴」理論: クスリの効き目の基本的な仕組み ↓ 「鍵」を探すことが、すなわちクスリづくり 1988年ノーベル生理学・医学賞受賞 「薬物療法における重要な原理の発見」 James W. Black, Gertrude B. Elion & George H. Hitchings Keigo Gohda / CAMM-Kansai 6 September 20, 2003 新薬の研究開発の流れ 非臨床試験 (動物試験) 創薬研究 標的受容体の同定 スクリーニング試験 候補化学物質の 最適化 期間 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 5 薬効薬理試験 毒性試験 安全性試験 ~ 8 年 臨床試験 第1相試験 第2相試験 第3相試験 3~7 年 7 承認申請 審 査 発 売 2~3 年 September 20, 2003 創薬研究 ~スクリーニング試験 創薬研究 標的受容体の同定 スクリーニング試験 候補化学物質の 最適化 スクリーニング試験: 疾患細胞や病態モデル動物に化学物質を 手当たり次第に試験 ↓ 効き目のある化学物質(ヒット物質)を探す → 偶然に頼る方法、確率は0.1%以下 疾患細胞 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 化学物質 8 病態モデル動物 September 20, 2003 創薬研究 ~スクリーニング試験 高速大量処理スクリーニング: HTS ロボットを使って、数万~数十万の化合物を 短期間にスクリーニングする方法 → 大規模な設備が必要 化学物質 標的受容体 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 9 September 20, 2003 計算化学的手法: ヴァーチャル・スクリーニング ヴァーチャル・スクリーニング: コンピュータ ・スクリーニング 効き目の強さを、鍵と鍵穴の形の一致度を計算することで予測する クスリ候補 (ヒット物質) 化学物質(鍵) Keigo Gohda / CAMM-Kansai 10 September 20, 2003 ヴァーチャル・スクリーニング ~実際例 抗がん剤: タモキシフェン(鍵) - エストロゲン受容体(鍵 穴) N O OH タモキシフェン (TMX) N 化学物質(鍵) O エストロゲン受容体 OH タモキシフェン (TMX) 標的受容体(鍵穴) Keigo Gohda / CAMM-Kansai 11 September 20, 2003 ヴァーチャル・スクリーニング ~実際例 ● 3段階のスクリーニングを実施 → 1000個+1個(タモキシフェン:TMX)の化学物質 1st スクリーニング: TMX 354位 2nd スクリーニング: TMX 58位 1. BLT00023 2. BR00129 3. BTB00333 -27.0 kcal/mol -26.6 -26.6 1. BLT00019 2. BTB00244 3. BLT00039 -31.1 kcal/mol -30.6 -29.8 354. TMX -12.9 58. TMX -24.7 3rd スクリーニング: TMX 1位 1. TMX 2. BLT00019 3. BLB00244 4. BLT00039 Keigo Gohda / CAMM-Kansai タモキシフェン(TMX)が1001個の 化学物質の中で、最もよいエストロゲン 受容体との形の一致度を示した。 ↓ タモキシフェンが最も効き目が高い -9.07 kcal/mol -7.83 -7.76 -7.37 12 September 20, 2003 ヴァーチャル・スクリーニング ~実際例 エストロゲン受容体-タモキシフェンの複合体 計算構造(緑) 計算構造(緑) vs X線構造(青) ヴァーチャル・スクリーニングを、スクリーニング試験の前に用いることによって、 実際に試験をする化学物質の数を大幅に減らすことができる Keigo Gohda / CAMM-Kansai 13 September 20, 2003 製薬企業比較 ~研究開発 02 01 製薬会社 百万ドル 1 2 グラクソ・スミスクライン (英国) 28,871 2 1 ファイザー (米国) 28,288 2000年産業別研究費の対売上高比率 ( 総務省「科学技術研究調査報告」) 3 3 メルク (米国) 21,446 全産業平均 3.04% 4 7 アベンティス (仏) 18,441 医薬品工業 8.60% 5 4 アストラゼネカ (英国) 17,343 ソフトウエア業 5.79% 6 8 ノバルティス (スイス) 17,175 電気機械工業 5.65% 7 6 ジョンソン・エンド・ジョンソン (米国) 17,151 総合化学・化学繊維工業 3.64% 8 5 ブリストル・マイヤーズスクイブ (米 国) 14,705 自動車工業 4.09% 食品工業 1.01% 9 10 12 ロシュ (スイス) 12,806 9 ファルマシア (米国) 12,037 15 15 武田薬品工業 7,227 22 22 三共 3,743 23 23 エーザイ 3,727 25 24 山之内製薬 3,471 28 30 藤沢薬品工業 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 14 2,882 September 20, 2003 創薬研究 ~候補化学物質の最適化 創薬研究 標的受容体の同定 スクリーニング試験 候補化学物質の 最適化 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 候補物質の最適化: スクリーニング試験で得られ たヒット物質を、さらに効き目が 高くなるように、化学実験により 構造の最適化を行う。 15 September 20, 2003 創薬研究 ~候補化学物質の最適化 コンピナトリアル・ケミストリ: 化学合成を手助けするロボットを用いて、様々な化学物質を一度に数多くつくる → 化学者は1年間で50 - 100個の化学物質を合成 → 50,000個/年以上の化合物 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 16 September 20, 2003 計算化学的手法: 薬物受容体構造に基づいた医薬品設計法 (Structure-Based Drug Design: SBDD) SBDD: コンピュータグラフィックス上で視覚的に鍵と鍵穴の形の相補性が最適 になるように化学物質の形を調節 化学実験による最適化 SBDD法による最適化 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 17 September 20, 2003 薬物受容体構造に基づく医薬品設計法 ~実際例1 解熱鎮痛消炎剤: 「アスピリンから、スーパーアスピリンへ」 OH O CH3 O O アスピリン、非ステロイド抗炎症剤 → 胃腸出血、血小板凝集阻害、腎毒性、肝毒性 アスピリン 炎症などを引き起こす物質(プロスタグランジン)を産生する酵素: COX(シクロオキシゲナーゼ) COX1: 胃腸粘膜の保護、正常な腎機能、血小板の凝集 COX2: 1990年に発見。炎症状況下で発現。発熱、痛み、腫れ → COX2だけを選択的に阻害すれば、副作用が少なくできる Keigo Gohda / CAMM-Kansai 18 September 20, 2003 薬物受容体構造に基づく医薬品設計法 ~実際例1 COX1とCOX2の受容体(鍵穴)構造の比較 NH2 O S O NH2 O S O N N N N CF3 O CF3 O S NH 2 N N F3C COX2 COX1 セルブレックス (スーパーアスピリン) → COX2の鍵穴にうまく一致するが、COX1の鍵穴には入らない Keigo Gohda / CAMM-Kansai 19 September 20, 2003 薬物受容体構造に基づく医薬品設計法 ~実際例1 COX1とCOX2の鍵穴の違い COX2 COX1 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 20 September 20, 2003 計算(Compute)化学(Chemistry) ~語源 計算する: Compute ラテン語 PUTARE 「木を剪定する」 → 比喩的に「判断する」の意 → COMPUTEは「共に判断する」 ⇒ 「計算する」 化学: Chemistry ラテン語 ALCHEMY 「錬金術」 → 13~17世紀のヨーロッパ、銅や錫から 金を人工的につくる、不老不死の薬 化学の知識の発見、磁器の製法発見、 アイザック・ニュートン ⇒ chemistry 化学、相性 ENIAC (1946年:ペンシルバニア大 学) Keigo Gohda / CAMM-Kansai 中世ヨーロッパの錬金術師 21 September 20, 2003 薬物受容体構造に基づく医薬品設計法 ~実際例2 抗インフルエンザウイルス薬: ノイラミニダーゼ(NA) NA阻害剤が理論的に デザイン 1993年、世界最初の NA阻害剤ザナミビルが 合成・開発 出 芽 吸 着 膜 融 合 侵 入 Keigo Gohda / CAMM-Kansai 22 September 20, 2003 薬物受容体構造に基づく医薬品設計法 ~実際例2 抗ウイルス剤が結合した状態 ノイラミニダーゼ酵素の立体構造 HO O N H HO HO O O H2N OH O O OH N H O O OH シアル酸(酵素の本来の鍵) Keigo Gohda / CAMM-Kansai 抗ウイルス剤ザナミビル 23 September 20, 2003 非臨床試験 ~薬物の体内動態 非臨床試験(動物試験) 薬効薬理試験 毒性試験 安全性試験 非臨床試験: 創薬研究で見出されたクスリの候補物質の 体内での働きを実験動物を用いて調べる 薬物の体内動態(ADME) 吸収(Absorption) 分布(Distribution) 代謝(Metabolism) 排泄(Excretion) Keigo Gohda / CAMM-Kansai 24 September 20, 2003 計算化学的手法: 薬物の体内動態シュミレーション 市販薬の化学物質(分子)の大きさ 25 全体の割合(%) 20 15 10 5 0 less 150 200 250 300 350 400 450 500 550 600 more 分子の大きさ Keigo Gohda / CAMM-Kansai 25 September 20, 2003 薬物の体内動態シュミレーション(in silico ADME) in silico ADME: 計算によって、化学物質の性質(物理化学的性質: 脂溶性、溶解性、水素結合能など)を算出し、薬物の 体内動態を予測 例) Lipinski の「rule of 5」 ・ 分子量 > 500 (膜透過性) ・ clogp > 5.0 (溶解性) ・ 5個以上の Hbond donors (膜透過性) ・ 10個以上の Hbond acceptors (膜透過性) ↓ 経口薬剤となるためには、これらの性質を 満たすこと Keigo Gohda / CAMM-Kansai 26 N H 分子量 = 133.1937 clogp = 2.185 Hbond acceptors = 1 Hbond donors = 1 September 20, 2003 コンピュータが変えるクスリづくり: まとめ クスリが効くとは? ⇒ 「鍵と鍵穴」理論 クスリづくりとコンピュータ ≫ スクリーニング試験 計算化学的手法 ⇒ ヴァーチャル・スクリーニング ≫ 候補化学物質の最適化 ⇒ 薬物受容体構造に基づく医薬品設計法 ≫ 薬物の体内動態 ⇒ in silico ADME Keigo Gohda / CAMM-Kansai 27 September 20, 2003 今後の展開 ゲノム情報の解析に伴って、計算化学的手法を 用いた研究開発は重要性を増す テーラーメイド / カスタマイズド治療 → 副作用が少なく、より安全で有効なクスリづくりを目指して Keigo Gohda / CAMM-Kansai 28 September 20, 2003
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