介護施設職場活性化実践事例

第
1
部
介
護
施
設
職
場
活
性
化
実
践
事
例
第1部
介護施設職場活性化実践事例
稼働率
環境整備
業務改善
経費削減
人材育成
職場づくり
組織づくり
目標管理
第
2
部
介
護
施
設
職
場
活
性
化
実
践
解
説
稼働率
事例01
デイサービスの
稼働率アップの実践方法
利用者ニーズに対応したブランド力を確立
社会福祉法人武尊会
デイサービスセンター
社会福祉法人 武尊会 事業調査部長/西が丘園 在宅部長
西が丘園
杉本浩司
特別養護老人ホーム 西が丘園の施設概要(東京都 北区)
開設
1
9
9
8年6月3日開設。
事業内容・定員数
入所1
0
0人、短期入所生活介護1
0人、通所介護:一般3
0人・認知症対応型1
2人、
居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問介護、障害福祉サービス
(居宅介護)
。
職員総数
1
3
0人(非常勤職員を含む)
。
私は平成2
0年4月に訪問介護からデ
イサービスへ異動となりました。
当デイサービスは一般・介護予防
コースが定員3
0人、認知症コースが定
員1
2人です。職員の平均年齢は4
7歳で
す。就任当時は定員4
2人に対し、ご利
用者の1日平均の登録者数は3
7.
8人で、
直近の平成1
9年3月の実績は1日平均
32.
0
8人、76.
38%の稼働率でした(図
表1)
。異動した当初、平成20年4月
は、
「稼働率 UP(収入増)
」、
「サービ
スの質の向上」
、
「人材育成」の3つの
図表1 デイサービス全体の平均利用者数の推移 (人)
年度
利用月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
1
0月
1
1月
1
2月
1月
2月
3月
合計
平均
利用者数
稼働率
平成
平成
平成
平成
平成
1
9年度
2
0年度
2
1年度
2
2年度
2
3年度
3
0.
6
0
3
2.
2
7
3
5.
9
6
3
8.
5
4
4
3.
0
4
2
9.
3
3
3
1.
9
3
3
5.
1
9
3
8.
1
5
4
4.
6
2
3
1.
3
5
3
1.
6
0
3
5.
5
0
4
0.
1
9
3
3
0.
3
8
3
2.
0
0
3
4.
8
9
4
1.
6
3
1.
0
0
3
2.
2
7
3
5.
4
6
4
0.
6
2
3
0.
1
2
3
2.
6
9
3
7.
8
5
4
0.
8
8
3
1.
1
5
3
3.
9
3
3
7.
7
4
3
8.
9
2
3
1.
9
2
3
3.
6
8
3
6.
5
2
4
8.
5
8
3
1.
3
2
3
5.
5
6
3
8.
2
0
4
0.
7
2
3
2.
0
8
3
4.
4
6
3
6.
1
3
3
9.
9
9
3
1.
8
8
3
6.
0
4
3
7.
8
3
4
0.
7
5
3
2.
0
8
3
4.
1
9
3
7.
5
2
4
1.
5
2
3
7
3.
2
2
4
0
0.
6
1
4
3
8.
7
9
4
8
0.
4
9
8
7.
6
6
3
1.
1
0
3
3.
3
8
3
6.
5
7
4
0.
0
4
4
3.
8
3
7
4.
0
5%
7
9.
4
9%
8
7.
0
6%
8
3.
0
5%
8
4.
2
9%
(平成2
3年5月末現在)
課題がありました。サービスの質も褒
められたものではありませんでしたが、それよりもこのときの稼働率は75%にも届いてい
ない現状でした。しかし、職員配置は稼働率1
0
0%でも対応できるようになっていました。
ここまではっきり課題が浮き彫りになっていましたので、最初に取り組まなくてはならな
いことは言うまでもなく、
「稼働率 UP(収入増)
」でした。これら3つの課題をクリアす
10
稼働率
事例01/デイサービスセンター 西が丘園
図表2 デイサービスの3年の中期計画目標
目標
平成
2
0年度
平成
2
1年度
平成
2
2年度
①稼働率を9
0%以上にする
こと
稼働率8
0%
収入+1
0%(+9
0
0万円)
※前年度比
②ブランド力を確立すること(生活を守る
③笑顔とありがとうの伝染ができる
ことの実践、利用者のわがままを引き出
スタッフを育成すること
せる)
「生活を止めないこと」
スタッフの考えや思いを私が知るこ
医療ニーズ、困難・ケース、ターミナルケ
と。疑問に思ったことや知りたいこ
アといった、敬遠しがちな依頼でも必ず受
とがすぐに聞ける関係づくり。愚痴
ける
や悪口 OK
『ブランドの設立』
「生活を止めないこと」「生活を守ること」 毎日、何度もスタッフに「ありがと
稼働率9
0%
寝たきりの改善(歩行力の改善)と認知症 う」を伝える。愚痴や悪口はなし。
収入+1
2%(+1,
2
0
0万円)
の周辺症状の改善
スタッフが笑顔とありがとうが伝染
※前年度比
『ブランドの確立』
できる
稼働率9
0%(※定員増)
「生活を止めないこと」「生活を守ること」
「わがままを引き出す」歩行力改善、認知
収入+1
4%(+1,
5
0
0万円) 症の周辺症状改善
※前年度比
⇒わがままを引き出し、実行する
『ブランドの定着』
スタッフが他部署に対しても笑顔と
ありがとうが伝染できるようになる
るために3年の中期計画を立てました(図表2)。
平成21年度からの中期計画
中期計画の目標は、①稼働率9
0%以上、②ブランド力を確立する、③笑顔とありがとう
の伝染ができるスタッフを育成する、の3つです。
①の「稼働率9
0%以上」については平成1
9年度の平均が7
4.
05%でした。この数値がス
タートとなります。平成2
0年度の稼働率は80%を目標としました。そして、平成21年度で
9
0%を目標としました。平成2
2年度は一般・介護予防コースの定員増を考えていますが、
それでも稼働率は9
0%を維持することを目標としました。しかし、稼働率は目安の数値と
捉え、収入の前年度比に重点を置きました。平成20年度は前年度比でプラス10%(プラス
9
0
0万円)
、平成2
1年度は前年度比でプラス12%(プラス1,
200万円)、平成22年度は前年度
比でプラス1
4%(プラス1,
50
0万円)と設定しました。
次に②の「ブランド力を確立する」についてです。平成2
0年度は「生活を止めないこ
と」を目標とし、医療ニーズ、困難・問題ケース、ターミナルケアといった、敬遠しがち
な依頼でも必ず受けることとしました。スタッフの反対や依頼してくるケアマネジャーへ
の説得が必要になり、その都度、
「ご利用者の生活を止めてはいけないんです」と説明し
ました。私が拒否をしてしまったら、このご利用者は在宅生活が継続できなくなります。
そうなった場合は入院や施設入所になります。もちろん、入院先や特養などの施設でも、
関係者はそのご利用者のために親身になってくれると思います。しかし、そこは本当にご
利用者が希望する生活の場所ではありません。私はご利用者が希望する場所で生活してい
ただきたいのです。
11
第
1
部
稼
働
率
第1部 介護施設職場活性化実践事例
医療職は病気を治療し、治すプロです。私たちは介護のプロです。私の介護の定義は、
「その人の生活を守るプロ」です。その人の生活を守るプロですから、ご利用者のために、
生活を止めないための受け入れをしなくてはなりません。つまり、当デイサービスは、そ
の人の生活を守るプロの集団なのです。これがブランド力となり、平成20年度は「ブラン
ドの設立」を目標にしました。
平成2
1年度は「生活を止めないこと」は継続しながら「生活を守ること」にシフトチェ
ンジしました。医療ニーズや困難なケースを受け入れるだけでは生活を守ることはできま
せんので、在宅生活の継続を難しくさせる原因の改善に取り組みました。それは寝たきり
の改善(歩行力の改善)と認知症の周辺症状の改善です。平成21年度はこの2点にこだわ
り、徹底的にサービスの質を上げました。
「ブランド力の確立」です。
平成2
2年度は「生活を止めないこと」
、
「生活を守ること」を実施しながらも、
「わがま
まを引き出す」ことにチャレンジしました。
歩行力が改善し、認知症の周辺症状が改善したご利用者には、意欲を持てるよう、外出
したい場所や、やりたいことを聞き出します。そして、わがままを引き出したら、一人ひ
とりのわがままを実行できるよう、それぞれの計画を立て、実行しました。平成22年度は
「ブランド力の定着」です。
最後に③の「笑顔とありがとうの伝染ができるスタッフを育成する」です。スタッフに
は、平成2
0、21年度は稼働率や収入を上げること、サービスの質を上げることを目標とし
て取り組んでもらいましたが、このことを実行しながら、笑顔とありがとうも伝染できる
ような仕掛けをしました。平成2
0年度はスタッフの考えや思いを私が知ることで、疑問に
思ったことや知りたいことがすぐに聞ける関係づくりをしました。何でも言える関係づく
りをしたので、平成2
0年度は愚痴や悪口があっても問題としませんでした。愚痴や悪口な
どがあった場合は、納得するまで話し合いました。
平成2
1年度は、稼働率もサービスの質も高くなっています。その感謝の気持ちをスタッ
フに、毎日、何度も「ありがとう」と伝えています。そして、個人に感謝の気持ちを伝え
るだけでなく、ほかのスタッフがいる終礼の場でも再度、
「ありがとう」を伝えます。そ
して、ご利用者とのエピソードも共有できる時間をとります。このことを毎日行うことで、
平成2
1年度中にはスタッフは気付いたら愚痴や悪口がなくなり、笑顔とありがとうを伝染
できるスタッフになりました。そして、平成2
2年度には他部署に対しても、ある程度では
ありますが、笑顔とありがとうを伝染できるようになりました。
平成20年度(1年目)
稼働率を本格的に高くするのは平成2
1年度にして、平成20年度は稼働率を除々に高くし、
来園されるご利用者の人数増と対応にスタッフが慣れること(体で慣れる)を短期目標と
12
稼働率
図表3 デイサービス介護報酬の推移
年度
支給月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
1
0月
1
1月
1
2月
1月
2月
3月
合計
平均
報酬額
平成1
9年度
7,
1
5
1,
4
2
0
7,
3
6
5,
2
6
2
7,
6
4
6,
1
8
7
7,
3
6
8,
7
2
3
7,
6
7
4,
3
3
7
6,
9
6
0,
7
2
8
7,
8
2
5,
2
9
8
7,
7
0
6,
3
8
9
7,
2
2
3,
6
3
4
7,
1
0
0,
6
2
6
7,
3
8
6,
9
1
0
7,
8
8
5,
5
0
9
平成2
0年度
平成2
1年度
7,
6
3
8,
3
2
7 8,
9
1
2,
1
4
1
8,
0
2
2,
8
3
5 8,
8
2
2,
3
2
1
7,
5
5
6,
3
7
1 9,
0
5
1,
6
9
9
8,
2
1
7,
4
0
8 9,
0
2
5,
2
8
3
7,
9
9
6,
4
9
2 8,
7
3
4,
0
7
4
8,
1
3
8,
0
8
1 9,
4
1
5,
5
9
6
8,
8
2
3,
9
2
0 9,
9
2
1,
8
3
2
8,
1
6
1,
4
7
2 8,
9
4
3,
3
5
4
8,
5
1
0,
4
2
7 9,
1
7
6,
5
8
3
7,
9
0
8,
6
8
1 8,
7
3
3,
7
7
1
8,
1
6
5,
7
0
7 9,
2
0
5,
3
1
7
8,
2
1
0,
9
3
8 1
0,
0
9
8,
7
4
0
事例01/デイサービスセンター 西が丘園
(円)
平成2
2年度
第
1
部
平成2
3年度
9,
9
8
3,
7
5
6 1
0,
9
7
1,
2
2
0
9,
6
6
6,
1
9
5 1
1,
5
4
8,
8
0
2
1
0,
5
0
1,
0
6
4
1
1,
1
7
0,
0
4
5
1
0,
3
9
0,
6
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1
0,
3
8
1,
9
5
9
9,
9
6
3,
7
4
4
1
0,
0
4
3,
2
7
3
1
0,
2
6
5,
3
9
5
9,
6
1
6,
3
5
1
9,
9
9
5,
3
1
2
1
0,
9
2
4,
1
5
9
稼
働
率
8
9,
2
9
5,
0
2
3 9
7,
3
5
0,
6
5
91
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0,
0
4
0,
7
1
11
2
2,
9
0
1,
9
3
8
7,
4
4
1,
2
5
2
8,
1
1
2,
5
5
5
9,
1
7
0,
0
5
9 1
0,
2
4
1,
8
2
8 1
1,
2
6
0,
0
1
1
(平成2
3年5月末現在)
しました。稼働率は8
0%、収入の具体的目標として、前年度比10%増としました。新規は
認知症コースのご利用者を積極的に受け入れました。その理由は2つです。
1つ目は、稼働率が高くなる前に認知症コースのご利用者を増やし、認知症コースのご
利用者の対応をスタッフに慣れさせたいということです。認知症のご利用者の介護には専
門的知識が必要です。正直、当時のスタッフのレベルでは、全体の稼働率が高くなってか
らでは、認知症コースのご利用者の対応は難しいと考えました。稼働率が高くないうちに
専門的知識を身に付け、実践していく。このほうが効率がいいと考えたからです。
2つ目は介護報酬の単位の高さです。要介護3のご利用者では、一般コースと認知症
コースでは1回の利用で1
50単位以上の差があります。稼働率を除々に高くしていくので、
報酬単位が高い方を選択しました。
この2点を理由に新規受け入れは認知症コースに力を入れて行いました。
また、全利用者に対して、個別ケアシートを作成し、ケアの統一と情報の共有を図りま
した。
結果、収入は介護報酬のみで前年度比9.
02%増の8,
055,
636円増となりました(図表3)。
収入の具体的目標に1%足りませんでしたが、除々にご利用者の人数を増やしていくこと、
認知症コースの稼働率を上げ、さらに、認知症コースのご利用者の対応に慣れるという短
期目標は十分クリアできたといえます。稼働率の平成2
0年度平均は7
9.
49%で、こちらも
目標の8
0%には惜しくも届かなかったです。予想していた以上にスタッフの理解を得るの
に時間を要したことが理由としてあげられます。しかし、医療ニーズや困難ケースなどの
受け入れは行えました。当デイサービスの特徴が初めて出せた年度になり、
「ブランドの
設立」をすることができました。
また、スタッフとの関係づくりは、私の方針に対して異論もありましたが、その都度、
本音で話し合い、愚痴や悪口は多くても、何でも言える環境をつくることはできました。
13
第1部 介護施設職場活性化実践事例
図表4 認知症利用者数の推移と稼働率
年度
利用月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
1
0月
1
1月
1
2月
1月
2月
3月
合計
平均
利用者数
稼働率
平成1
9年度
平成2
0年度
(人)
平成2
1年度
平成2
2年度
平成2
3年度
5.
5
6
5.
5
9
6.
2
7
6.
0
4
6.
0
7
5.
9
2
6.
5
2
6.
6
2
6.
1
2
6.
9
6
6.
7
2
7.
0
4
6.
5
8
6.
3
7
6.
1
6
6.
4
4
6.
7
7
8.
4
2
9.
2
2
9.
4
0
9.
7
6
9.
4
2
9.
3
3
7.
6
5
7.
5
8
7.
7
3
8.
0
0
7.
2
2
7.
1
5
8.
0
8
7.
9
3
8.
1
2
8.
8
0
8.
6
7
9.
0
0
8.
3
0
8.
0
0
7.
9
6
8.
5
0
8.
1
9
7.
4
2
7.
7
3
7.
0
0
6.
9
6
8.
4
0
7.
7
1
9.
0
0
8.
1
1
9.
4
6
1
0.
7
7
7
5.
4
3
9
5.
5
2
9
6.
5
8
9
4.
9
8
2
0.
2
3
6.
2
9
7.
9
6
8.
0
5
7.
9
2
1
0.
1
2
5
2.
3
8%
6
6.
3
3%
6
7.
0
7%
6
5.
9
6%
8
4.
2
9%
(平成2
3年5月末現在)
平成21年度(2年目)
平成2
0年度は種まきでしたが、平成2
1年度は実質的な勝負の年と位置付けました。その
上で認知症コースの受け入れに関して変更しました。平成20年度の認知症コースの稼働率
は6
6%でした。そこから上昇させることがとても難しかったことは事実です(図表4)
。
新規依頼があった際に、認知症コースの対象者と思われるご利用者でも、一般コースを希
望される方が多いのです。認知症コースは単価が高く、敬遠されるのです。ですから、平
成2
0年度に認知症コースの稼働率を上げた際も、緊急性がある方、重度の認知症の方がほ
とんどでした。
認知症コースのご利用者の対応にスタッフも慣れたことから、平成21年度は一般・介護
予防コースの稼働率を上げることを積極的に行うことにしました。また、営業日の登録者
数を常時5
0人にすることを短期目標としました。平成19年度からのデータを振り返ると、
ショートステイの利用や体調不良などで、平均欠席者数は登録者数の20%弱という数値で
した。9
0%以上の稼働率を考えたときに登録者数の平均は50人になります。
サービスの質の向上として、寝たきりの改善と認知症の周辺症状の改善に取り組みまし
た。基本ケア(水分・食事・排便・運動)を徹底することで、歩行力をつけて安定した歩
行と寝たきりの防止を図り、毎日の散歩で外気浴と軽い運動による認知症の周辺症状の改
善を目指しました。車椅子で来園された方には、デイサービスで過ごされている間は椅子
に移っていただき、できたなら1歩からでも歩行をしていただきます。最初はサークル歩
行器で2人介助の方もいますが、繰り返し行うことで歩き方を思い出してきますので、1
人介助に移行していきます。
毎日の散歩は5∼1
0人程度で行い、暑い日や寒い日、雨の日や台風も関係なしに散歩を
14
稼働率
事例01/デイサービスセンター 西が丘園
行います。月に1度は、当日ご利用の方全
第
1
部
員で公園に行き、ゲートボールなどを行い
“逆デイ”を実施しました。車椅子から椅
稼
働
率
子の移乗を繰り返すこと、毎日の散歩で外
気に触れること、軽い運動の継続で歩行が
安定し、意識もはっきりしてきます。
水分補給も徹底しました。デイサービス
写真 毎日の散歩
利用中に1,
00
0ml を摂取していただけるよ
う提供しています。脱水と思われる症状が出ているご利用者(特に認知症コースの方)に
は1,
0
0
0ml では足りないので、必要量を摂取していただいています。水分補給も、必要量
を摂取すると覚醒水準が高くなり、ご利用者の水分補給に対する意識の変化が出てきます。
認知症の周辺症状の改善も見られています。このようなご利用者の変化がご家族、ケアマ
ネジャーに伝わり、新規依頼や利用日追加依頼が急増しました。
現在は毎日の登録者数も5
0人に到達して、空き待ちをしていただくようになりました。
これが「ブランドの確立」です。
私がすべきことは、ご利用者の状態を改善し、これらの取り組みを継続してくれている
スタッフへ感謝の気持ちを伝えることです。個人にありがとうと言うだけでなく、終礼で
もエピソードを紹介し、ありがとうを共有しています。
さらに、どんなことがあっても絶対に私のコアがぶれてはいけません。コアがぶれては
スタッフは不安になります。
また、人間は同じことを繰り返し行っていると飽きやサボるという思考になりがちです。
そこで、毎日の朝礼で以下の7点を必ずスタッフに伝えています。
①水分補給1,
0
00ml を摂取すること
②車椅子から椅子に移って過ごしていただくこと
③一歩からでも歩行のアプローチをすること、1km 歩行を目指すこと
④介助する際は、
「説明・同意・実行」を必ず行うこと(説明=今から行う介助を説明し、
提案。必ず疑問形で聞く。同意=提案に対して、本人の意思で決定し、同意していただ
く。実行=本人の同意をいただいて、はじめて介助を実行できる)
⑤行動指針は安全!接遇!ケアの順番
⑥笑顔とありがとうの伝染をすること
⑦全てのケアが「生活を止めない」
、
「生活を守ること」につながっていること
毎朝同じことを、気持ちを込めて2年以上言い続けています。おかげでスタッフは飽き
ることもサボることもなく、取り組みを継続することができています。「生活を守ること」
を実践し続けられるのは、朝礼と終礼でのコアとエピソードの共有を図ることが大きいと
15
第1部 介護施設職場活性化実践事例
図表5 一般利用者数の推移と稼働率
年度
利用月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
1
0月
1
1月
1
2月
1月
2月
3月
合計
平均
利用者数
稼働率
(人)
平成
平成
平成
平成
平成
1
9年度
2
0年度
2
1年度
2
2年度
2
3年度
2
5.
0
4
2
5.
6
9
2
8.
3
8
3
0.
5
3
3
3.
5
8
2
3.
7
4
2
5.
5
6
2
7.
4
6
3
0.
1
9
3
3.
8
5
2
5.
0
8
2
5.
4
4
2
7.
5
0
3
1.
6
9
4
2
4.
3
5
2
5.
5
6
2
7.
6
7
3
3.
4
2
4.
9
3
2
5.
5
0
2
8.
3
1
3
3.
1
9
2
4.
2
0
2
4.
2
7
2
9.
7
7
3
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1
5
2
4.
6
3
2
4.
7
0
2
9.
8
1
3
1.
9
2
2
5.
3
0
2
4.
2
8
2
8.
4
0
3
1.
6
2
2
5.
2
0
2
5.
8
0
2
9.
4
0
3
2.
3
2
2
5.
1
3
2
5.
0
4
2
7.
4
5
3
2.
2
5
2
5.
1
6
2
6.
7
1
2
8.
8
3
3
1.
7
5
2
5.
0
4
2
6.
5
4
2
9.
2
2
3
3.
4
0
考えています。
平成21年度の結果は、収入は介護報
酬 の み で 前 年 度 比1
3.
04%増 の
12,
690,
052円増となり、収入目標はク
リアできました。稼働率の年度平均は
87.
06%です。一般・認知症コースの
稼働率は99%を超える月もあり、一般
利用者の平成21年度平均は95.
06%と
かなり高い数値となりました(図表5)。
2
9
7.
8
0
3
0
5.
0
9
3
4
2.
2
0
3
8
5.
4
5
6
7.
4
3
2
4.
8
2
2
5.
4
2
2
8.
5
2
3
2.
1
2
3
3.
7
2
全体の稼働率が90%の目標値に約3%
8
2.
7
2%
8
4.
7
5%
9
5.
0
6%
8
8.
7
3%
8
4.
2
9%
足りないのは、認知症コースが伸びて
(平成2
3年5月末現在)
いないことがあげられます。質の高い
ケアを提供していても、
利用単位が高いことから新規の依頼につながりにくいこと、特養な
どに空きがあると入所してしまうことなどから、稼働率を上げることができませんでした。
笑顔とありがとうはデイサービスのスタッフ間で伝染が始まりました。おかげで、愚痴
や悪口が以前とは比べものにならないくらいなくなりました。雰囲気が良くなるだけでな
く、スタッフ同士がお互いの動きをよく見るようになったことで情報の共有も図れるよう
になりました。今後はデイサービス内で笑顔とありがとうをもっと伝染させることと、平
成22年度に向け、他部署にも少しずつ伝染していくことが課題となりました。
平成22年度(3年目)
平成2
2年度は一般・介護予防コースの定員を5人増やし、1日の定員を3
5人とします。
ご利用者のニーズと平成2
1年度の稼働率が高いということの2点で定員を増やすこととな
りました。定員を5人増やしましたが、高稼働率維持と新規依頼が続きました。秋に併設
の特養に入院者が多く出て、空床をショートステイで使用することとなりました。デイ
サービスのご利用者がショートステイを多くご利用されたために一時的に稼働率が下がり
ました。しかし、特養の入院者が落ち着くとまた高稼働率になったので、1月には一般・
介護予防コースの定員をさらに5人増やし、1日の定員を40人としました。
平成2
2年度の結果は、収入は介護報酬のみで前年度比1
1.
69%増の1
2,
86
1,
227円増でし
たが、収入目標には惜しくも届きませんでした(図表3)
。稼働率は年度途中で定員増を
しましたが8
3.
0
5%と高い数値を達成できました(図表1)。私が異動する前年の平成19年
度の年間の介護報酬の8
9,
2
95,
0
2
3円に対し,平成2
2年度の年間の介護報酬は1
22,
901,
938
円で3
7.
6
4%増の3
3,
6
0
6,
9
1
5円の増収となりました(図表3)。
ある程度ではありますが、他部署への「笑顔とありがとうの伝染」を実践できました。
16
稼働率
事例01/デイサービスセンター 西が丘園
参考図表
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第
1
部
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今後、他部署にもデイサービスのスタッフ間で行えている程度の伝染をし、より良い部署
間の関係を構築していきます。
平成2
3年度の4、5月は稼働率、介護報酬ともにより高い数値を達成できました。収入
面、サービスの質、人材育成ができ、ご利用者もスタッフもみんなが笑っている、そんな
デイサービスになっていることでしょう。
今までやってきたことを継続するためには、法人、施設の理念の遂行と私のコアである、
「生活を止めない」
、「生活を守る」
、
「わがままを引き出す」
、「笑顔とありがとうの伝染」
を全スタッフがぶれないよう、導いていかなくてはなりません。今後も、施設の理念、コ
アの遂行、そして相手を想い人の為に在る、ということを伝え続けていきます。
(『介護人材 Q&A』2010年4月号、加筆・修正)
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