乃木坂RT2013 第5章 上部消化管(食道・胃) の放射線治療 国際医療福祉大学病院 放射線治療・核医学センター 北原 規 1.食道癌 1)食道癌一般 2)放射線治療計画 3)治療成績 4)合併症 2.胃癌 MALTリンパ腫 食道がん 1)食道癌一般 素因:手掌角化症,アルカリによる狭窄, 食道アカラジア,Plummer-Vinson症候群, Barrett食道 飲酒ですぐ赤くなる人→飲酒後うがいは役立つ? 発生頻度:中国,イランで高い,日本は胃癌の1/10 年間1万人が食道癌で死亡 男女比=5:1,頸部食道では1:1 60-70歳代がピーク 病理:日本では90%が扁平上皮癌,米国は60%腺癌 食道がんの疫学・症状 食道がん 食道癌のリスクが高い人 *喫煙、飲酒、あるいはその両方の習慣が ある人,とくに飲酒に弱い人 *60歳以上の人 *男性(女性の3~6倍) *バレット食道(胃からの逆流による刺激で粘膜が 変化した状態) *アカラシア(食道下端の慢性的なけいれん) *硝酸塩、亜硝酸塩が含まれる食物 (ハム、ベーコンなど)をよく食べる人 (がんサポート情報センターHPより) 食道がん アルコールが食道癌に悪い理由 がんサポート情報センターHPより 食道癌患者の背景 日本 JSED99+ 日本 PCS99-01 米国 PCS96-99 男性 88% 87% 77% 年齢 (中央値) -- 68才 64才 KPS>80 -- 76% 85% 扁平上皮癌 93% 99% 49% Stage III / IV 29% / 12%* 34% / 23%* 33%** +放射線治療例以外を含む *取り扱い規約第9版 **Stage III: AJCC83 食道癌放射線治療例の治療法選択 日本 PCS95-97 日本 PCS99-01 米国 PCS96-99 CRT(同時) 26% 53% 86% 手術 29% 32% 32% 術前CRT 5% 17% 27% CRT(opなし) 25% 39% 56% RT単独 44% 27% 10% 臨床試験参加 3% 2% 15% 食道癌手術例の生存率 1988-97 (2002年解析) 食道がんの診断 食道がんバリウム透視 表在型の 内視鏡所見 食道癌取り扱い規約より 食道がん 食道癌:部位分類 Ce 門歯より (胸骨上縁) 18cm Te: Ut (気管分岐下) 24cm Mt Lt (食道裂孔) 40cm Ae 頻度: Mt →Lt →Ut →Ce →Ae (Mt 55%,Lt 23%) 食道癌診療の動向1:新薬承認と新技術など 1999 ←(S-1: 食道癌未承認) 2000 01 02 ←(FDG-PET) 03 04 05 06 07 ←ドセタキセル ←内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD ←FDG-PET(食道癌) 食道がんの占拠部位 食道がん リンパ節転移の頻度 *m癌: 6% M1-2 0-3%,M3 12% *sm癌:40% SM1 27%,SM2 36%,SM3 46% *T2-4: 75% 食道がんの所属リンパ節番号 食道がんの部位によるリンパ節転移 食道がんのTNM分類 食道がんの病期分類 食道がんの標準的治療法 食道癌に対する画像検査法を列挙し、 検査から得られる情報を説明できる 検査名 情報 食道造影 病巣の進展・スキップ病変の有無・狭窄の程度 内視鏡 病巣の進展とスキップ病変の有無 超音波内視鏡 病巣の進達度 CT ・MRI 縦隔への進展とリンパ節転移の有無 早期がん : 内視鏡的切除術、(手術または放射線)。粘膜癌ではリンパ節転移 の可能性が低いため、予防的なリンパ節領域への治療はしない。 進行期 : 手術または化学療法同時併用放射線治療。広範囲にリンパ節転移を きたすことがあるので頸部から上腹部までを検査しておく必要がある。 放射線治療 : 外照射/腔内照射+化学療法の併用 Key words : 腔内照射 食道がん 表在型食道癌のX-P 食道癌取り扱い規約より 食道がん 食道癌のX-P所見 型分類 ( 0:表在 ) 1, 隆起 2, 潰瘍限局 3, 4, 5 潰瘍浸潤 びまん浸潤 分類不能 型分類と 内視鏡所見 食道癌取り扱い規約より 食道がん 食道表在癌の進達度分類 食道がん 食道癌の治療選択 病期 EMR I 粘膜限局 ◎ 粘膜下層 II II nonT4 I T4 IV - 手術 ○ ◎ ◎ ◎ - 放射線 化学放射線 ○ ○ △ ○ △ ○ △ ○ △ ◎ △ ◎ ◎は第一選択として広く受け入れられている治療法 ○は代替治療として考慮されてもよい治療、 △は他の治療が困難な場合に選択される治療、または一般的では ないが選択の余地がある治療一般に高齢者や重篤な合併症が ある 場合などでは手術、化学放射線療法は選択肢から除外される。 食道がんの治療ガイドライン 食道表在癌治療のガイドライン 食道がん 2) 放射線治療計画 照射野:幅-----6〜8cm 長さ---腫瘍から上下5cm 頸部〜上部胸部食道 ---両鎖骨上窩,縦隔 線量 :2Gy/日,週5回,前後対向二門, 40-45Gyで斜入二門,計60-70Gy 他 :加速多分割照射---一日2回法 field within a field法 食道がん 食道癌:照射野 Ut Mt 上のものは鎖骨上窩まで,下のものは腹腔内まで Lt 食道がん3次元照射の照射野 食道がん予防照射のリンパ節領域 Field at 2 beams Dose distribution 107%Red 100%Green 95%Blue 90%Yellow Showa University Hospital DVH at 2 beams and preset parameters Global @ Max i j 127 Cursol Volum i j 29 Max Dose i j 117 Mean Dose i j 108 Showa University Hospital Field produced from the 2 beams dose distribution Modified dose distribution with total 4 beams 107%Red 100%Green 95%Blue 90%Yellow Showa University Hospital DVH at 4 beams and preset parameters Global @ Max i j 115 Cursol Volum i j 88 Max Dose i j 108 Mean Dose i j 103 Showa University Hospital Field produced from the 4 beams dose distribution Modified dose distribution with total 6 beams 107%Red 100%Green 95%Blue 90%Yellow Showa University Hospital DVH at 6 beams and preset parameters Global @ Max i j 115 Cursol Volum i j 100 Max Dose i j 106 Mean Dose i j 101 Showa University Hospital Field produced from the 6 beams dose distribution Modified dose distribution with total 8 beams 107%Red 100%Green 95%Blue 90%Yellow Showa University Hospital DVH at 8 beams and preset parameters Global @ Max i j 107 Cursol Volum i j 100 Max Dose i j 104 Mean Dose i j 100 Showa University Hospital 食道がん 食道癌:腔内照射法 良い適応:早期癌や外照射後壁内残存が少ない例 非適応:強い狭窄,深い潰瘍,大きなLN転移 ------------------------------------------高線量率腔内照射装置が主体 線源:Ir-192,以前はCo-60 アプリケータ:バルーン型が望ましい 線量評価点 :粘膜下5mm 最近は化学放射線療法の進歩→退潮,使用されず 食道癌に対する腔内照射治療 治療前 腔内照射 治療後 食道がん 食道癌治療成績1 手術:Stage Iでは5年生存率は50%以上, それ以上のstageでは不良 内視鏡的粘膜切除(EMR) :表在癌(粘膜内限局) 放射線治療単独: 5年生存率10%前後 局所制御:Stage I---- 50-75% Stage II/III--9-36% 生存期間中央値:Stage I--20か月 Stage II/III--8-12か月 術前照射: randomized studyでは,生存率は不変→50Gy で切除率は向上するので実施施設あり 食道がん 食道癌治療成績の2 術後照射:50Gyで局所再発は少なくなるが, 生存期間への影響なし 加速多分割照射---5年生存21〜33%(JMU:多い) 化学放射線療法:randomized study で明らかな差が あり,今後は全てこの方向 ---5Fu,MMC,CDDPなど -------------------------------------------- 手術 vs. CRT vs. CRT+手術 3年生存 局所再発 15-35% 30-60% 30% 45-54% 32-37% 19% 食道がんの化学放射線療法 1)近年食道がんの化学放射線療法は手術に匹敵 する治療成績が報告されている。 2)標準的併用薬剤は、CDDP+5FU(同時併用) 3)本邦では切除可能な食道がんに対しても化学放射 線療法が1次治療として用いられる。 4)肺・心臓等に対する晩期障害の発生に注意が必要 である。 5)目的は①放射線の局所効果を化学療法により増感 と②化学療法による潜在性微小遠隔転移の制御 である。 食道癌の化学療法剤 (2006) 保険適応あり – 5-FU (注射のみ) • 放射線療法との併用 • 他の抗癌剤との併用 保険適応なし – UFT – VDS – S1 – BLM – VCR – CDDP(シスプラチン) – MMC – CDGP(ネダプラチン) – CBDCA – TXT(ドセタキセル) – TXL (全症例中での施行割合) CRT施行率(臨床病期) 87% 69% 61% 50% 35% 30% 18% 12% 6% 0% Stage 0-I Stage II CRT Stage III CRT→手術 Satage IVa 同時併用CRT施行率(年齢層・臨床病期) (非手術例:CDDP/CDGP & 5FU) Stage I 71% Stage II Stage III/IV 74% 68% 59% 56% 49% 50% 30% 32% 30% 32% 19% 4% 0% -64 65-74 75- 年齢 total 食道がんのCRT 食道がんのCRTスケジュール 食道がん 化療併用の際の照射線量 RTOG94-05 INT0123: Minsky, JCO 2002 *236名,cT1-4NxM0 *scc 85%,adenoca. 15% *CF 4コース *64.8Gy vs. 50.4Gy *2年生存率: 31% vs.40% *癌死: 40% vs.51%, 局所再発50% vs.55% 差なし ☆ CRTによる局所効果と生存率(目安) 深達度 CR導入率 CR維持率 5年生存割合 T1b 95% 65% 65% T2-3 65% 35% 35% T4 35% 15% 10% JCOG試験、がんセンター、東北大学などの報告をまとめて CRになった症例でも局所再発する例は少なくない 局所再発例には追加治療で生存が得られる場合がある 食道がん 手術とCRTとの比較 食道がん CRTの組織学的効果判定基準 食道がん 放射線治療合併症 食道耐容量 volume 1/3 2/3 3/3 5/5 60 58 55Gy 50/5 72 70 68Gy 有害事象 急性合併症:食道粘膜炎 ---30Gy位から嚥下痛,嚥下時狭窄感など症状 (対策)消炎鎮痛剤,粘膜保護剤 晩期合併症:食道狭窄,食道潰瘍,放射線 肺線維症,放射線心膜炎など 食道がん 食道癌放射線成績と合併症のポイント 1.早期のもの:EMRや腔内照射の適応あり 2.化学療法併用の放射線治療が主流となり つつある 3.急性:食道炎 晩期:食道狭窄,潰瘍,放射線肺線維症 食道がん CRT後の晩期有害事象 • 対象:CRT実施してCRとなった78例 Grade 2以上 有害事象発生 ドレナージ必要 • 胸水 19% 10% 心のう水 21% 8% Ishikura 2003,JCO Salvage Surgery (救済手術) 総線量50Gy以上の根治的化学放射線治療 後の遺残と再発に対する根治的手術 (術前CRT後に予定された食道切除術は含まない) ∥ Planned Surgery 第58回日本食道学会 2004 現時点の位置づけ 化学放射線療法が外科手術に匹敵するという 成績は、少なくない頻度で必要となるSalvage手 術を含めたもの Surgery ≒ CRT + Salvage Surgery ※日本からの第3相試験の報告はない Salvage手術に関して CRTにより組織の線維化と瘢痕化が生じる 術前無治療群とくらべて、縫合不全、肺炎、気管・気管 壊死、反回神経麻痺などの合併症が生じる頻度が高い 頚部郭清を行うと合併症のリスク増大 CRT後の瘢痕化は経時的に進行するので、 安全なSalvage手術のためには、早期の適応検討が 望ましい 食道がんの術前・術後照射 術前CRTの効果と手術について 効果あり T1-3 (切除可能) T4 (切除不能) 否定的な傾向 評価未確定 臨床試験なし 臓器合併切除例 は予後不良 効果なし ◎ 関係なし 否定的な傾向 評価未確定 (手術不能) 食道がん 治療ガイドライン がん情報 サポート センターHPより 食道がん治療前後の画像所見 食道癌の放射線治療に おけるDo not! 1. 治療前のステント留置 2. 拡張不良例に対する腔内照射 3. 治療期間中のルゴール散布と生検 ステント留置後の放射線治療 有害事象 G0-2 G3 G4 G5 吐血・消化管出血 37 3 0 7 瘻孔形成 34 5 2 6 肺炎 43 3 0 2 Nishimura IJROBP 2003 • 重篤な有害事象が生じる危険性が高い • 経口摂取の必要性をその時々で評価 • ステントのかわりに胃瘻やTPN、バイパス術も考慮 食道がん放射線治療上のポイント 食道がん 食道癌まとめ *食道癌の素因,飲酒との関係 *従来の食道造影は内視鏡にとって代わら れつつある *smを越えると,リンパ節転移の頻度大 *食道癌の部位に応じて,リンパ節領域を 含めて治療計画が必要 *手術と化学放射線療法の成績に差なし *前後二門の照射法では晩期合併症 *腔内照射の意義はなくなりつつある その他の臨床的課題 CRTの治療効果判定 3次元照射による有害事象低減 根治的CRTの総線量 (50.4Gy vs. 60Gy+α) EMR/ESDとCRTの併用 新薬を含めたCRTの有効性 PETの有用性・・・標準的診断法となるか 2.胃 一般 放射線治療計画 成績 合併症 胃癌の診療ガイドライン • 日本癌治療 学会 4.胃 胃癌の外科治療成績 4.胃 胃癌:手術単独vs.手術+RT Zhang ZX et al. IJROBP 42:931, 1998 4.胃 胃悪性リンパ腫 特にMALTリンパ腫 ピロリ菌除去→改善しないものは 放射線治療 4.胃 Marginal zone B cell lymphoma に対する放射線治療 限局期胃原発例---ピロリ菌除去 その後, 放射線治療単独25-30Gyで 高い治癒率 一般には30-36Gy non-bulky MALT lymphoma 25-45Gyで治癒 61M, 胃MALT 胃MALTリンパ腫の照射野 4.胃 胃癌,胃リンパ腫のまとめ 1.胃癌に対する放射線治療の役割は あまりない(術中照射のみ) 2.胃のリンパ腫(MALTリンパ腫)に 対しては,胃温存の観点から 放射線治療が非常に重要と なりつつある おことわり 図表は 北原 規・相羽恵介編著 ・「化学放射線療法プラクティカル ・ガイド」2009より引用 (一部改変)致しました。
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