Kekkaku Vol. 90, No. 3 : 401_405, 2015 401 結核患者に対するピラジナミド投与と薬剤性肝障害 1, 2 堀田 信之 1, 2 宮沢 直幹 要旨:〔背景〕ピラジナミド(PZA)は 1950 年代には 40 ∼ 70 mg/kg/day という高用量で投与され,肝障 害を高率に発症した。現在は 20 ∼ 25 mg/kg/day の低用量が推奨されている。低用量の PZA を他の抗 結核薬に加えることで薬剤性肝障害の発生率が増加するかは不明である。 〔方法〕横浜市立大学附属 病院の結核病棟に 2008 年 1 月から 2012 年 9 月に塗抹陽性肺結核の診断で入院し,HRZE または HRE レジメで治療をされた 20 歳以上の患者を後方視的に解析した。治療開始後 2 カ月間の薬剤性肝障害 のリスクを Cox モデルを用いて評価した。 〔結果〕195 人の患者(男性 123 人,63%/女性 72 人,37%), 平均年齢は 65±19 歳,HRE 65 人(33%),HRZE 130 人(67%)を解析した。治療開始後 2 カ月以内に 薬剤性肝障害を発症した患者は 29 人(15%)であった。PZA を含む HRZE レジメは薬剤性肝障害との 関連が見られなかった(hazard ratio=0.55,P=0.263)。 〔結語〕低用量(20 ∼ 25 mg/kg/day)の PZA は HRE レジメに加えても薬剤性肝障害を増加させない可能性がある。 キーワーズ:高齢者,副作用,後方視的コホート研究,観察研究,ガイドライン 緒 言 HRZE レジメよりも HRE レジメが好まれる1) 7) 8)。 各結核薬には臨床上特徴的な薬剤性肝障害の発症様式 ピラジナミド(PZA)は現在最も頻用される 4 つの がある。イソニアジドは肝細胞障害型,リファンピシン 抗結核薬のうちの 1 つであり,しばしば薬剤性肝障害を は胆汁鬱滞型が多く,PZA はしばしばトランスアミナー 1) 引き起こす 。現在の推奨投与量は 20 ∼ 25 mg/kg/day で ゼの高度上昇を伴う肝障害を生じるとされる7) 8)。しか あるが,1950 年代には 40 ∼ 70 mg/kg/day という高用量 し,真の原因薬剤を突き詰めることは通常困難であり, で投与され,許容できない高い確率で肝障害を発症する 仮に PZA を含むレジメ投与中に肝障害が生じても,ピ 2) と報告されていた 。1970 年代以後は薬剤性肝障害を避 ラジナミドが薬剤性肝障害の原因薬剤であるかどうかは けるために,以前と比較すると低用量の PZA が投与さ 断定しにくい。また,現在使用されている低用量の PZA れるようになった。この比較的低用量の PZA を用いる を加えることで薬剤性肝障害のリスクが増加していると 戦略は効を奏し,薬剤性肝障害の発生率を下げることが 判断する根拠は未だ存在しない。本邦のガイドラインで できたと同時に,十分な抗結核菌作用があることが示さ は 80 歳以上の高齢者に PZA を避けるべきであるという れた 3) ∼ 6) 。それ以後,低用量の PZA を他の抗結核薬に上 推奨があるが,これは諸外国のガイドラインにないわが 乗せすることで薬剤性肝障害の発生率が増加するかどう 国独自の推奨である1) 8) 9)。 かは十分に検証されていない。イソニアジド+リファン この研究は,結核治療の初めの 2 カ月において,HRZE ピシン+ピラジナミド+エタンブトールによる 4 剤併用 レジメが HRE レジメに比べて薬剤性肝障害のリスクが (HRZE)レジメはイソニアジド+リファンピシン+エタ ンブトールによる 3 剤併用(HRE)レジメよりも結核菌 の殺菌作用に優れている1) 4) 5)。しかし,薬剤性肝障害の 高いかどうかを評価するために行われた。 方 法 リスクが高い患者においては,治療開始後の 2 カ月間に 今研究は横浜市立大学附属病院における倫理委員会に 1 公立大学法人横浜市立大学大学院医学研究科呼吸器病学,2 恩 賜財団済生会横浜市南部病院呼吸器内科 連絡先 : 堀田信之,公立大学法人横浜市立大学大学院医学研究 科呼吸器病学,〒 236 _ 0004 神奈川県横浜市金沢区福浦 3 _ 9 (E-mail : [email protected]) (Received 4 Sep. 2014 / Accepted 20 Oct. 2014)
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