大阪市立大学看護学雑誌 第11巻(2015 . 3) 高齢者施設における認知症高齢者の生活環境について ―PEAPに基づく環境支援の取り組み― 岡田 邦子 Kuniko Okada はじめに ようになった。 取り組み2:食事場面の雰囲気づくり 介護老人福祉施設は生活の場であり、介護職員や看護 入居者が食事をするユニット内の共有スペースは無機 職員などが協力して、入居者のその人らしい生活の実現 質で冷たい印象があり、高齢者は誰とも話さずに黙々と を目指して支援している。特に、認知症高齢者の多い施 食べていた。PEAP「環境における刺激と質の調整への 設では、その症状に合わせた環境支援が重要とされる。 支援」を考慮して、高齢者が楽しみながら食事ができる 「認知症高齢者への環境支援のための指針(PEAP)」を ように家庭的な雰囲気づくりを行った。その結果、高齢 参考に、当施設で生活環境支援に取り組んだ例を報告す 者が食事時間に会話するようになり、食べ残しも減少し る。 た。 取り組み3:談話スペースの設置 施設の特徴 ユニット内に居室以外で高齢者がくつろげる空間がな く、また高齢者が交流する場所もない。PEAP「自己選 平成18年3月に、入居定員80名、ショートステイ10名 択への支援」「ふれあいの促進」を考慮して、高齢者が の全室個室のユニット型特別養護老人ホーム(以下特養 居室以外でくつろぐ空間、高齢者や職員と交流できる場 とする)として開設された。入居者の平均年齢は87.3歳、 所を設けた。家庭のリビングを参考に、家具やテレビを 平均介護度3.9で、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲa 置いた。その結果、高齢者が一人でくつろいでいたり、 ∼Mの者が81.8%である(平成24年度)。 仲の良い入居者同士で過ごす姿がみられ、職員と談笑す る場面も見られるようになった。 取り組み例 まとめ 取り組み1:居室の環境改善 82歳女性 要介護4 全盲、難聴、軽度認知機能障害 今回の取り組みを通して、集団生活の場でも高齢者一 (MCI) 人一人の入居前の生活状況を知り、それに近づける環境 施設に入居するまでは自宅内の日常生活動作は自立し 支援が重要であることを再確認した。入居前の生活を知 ていた。しかし、 入居後はベッド上で過ごすことが多く、 るためには家族や在宅サービス従事者の情報が必要であ 日常生活全てに介助が必要な状態であった。PEAP「生 る。高齢者の身体機能の維持や認知症の重症化予防など 活の継続性への支援」を考慮して、自宅から家具や小物 健康管理を担う看護職員として、今後も環境支援に取り などを持ってきてもらい、自宅の部屋のように配置した。 組みたい。 その結果、居室内で衣類の選択やお茶を飲むなどできる −65− −66− 大阪市立大学看護学雑誌 第11巻(2015 . 3) −67− −68−
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