北海道大学農学部生物環境工学科 生物環境工学実験(計測と制御) 2015/6/16,6/30 作物生育量の計測と推定 Ⅰ 実験目的 精密な肥培管理を行うためには,作物の生育量を正確に測定する必要があり,SPAD メータのよ うに葉緑素(クロロフィル)量を計測するセンサが世界中で使用されている。しかし,ほ場面積が大 きくなるに従い,測定に要する労力は膨大となる。そこで,近年,注目されているのが生育量を非 接触・非破壊で測定できるリモートセンシング技術である。本実験では,リモートセンシングに用い られる様々なセンサの計測原理を知り,測定結果を SPAD メータや草高のような実測値と比較する 事で,推定精度とその特徴を把握するとともに,制度改善の方法を検討する。 Ⅱ 生育センサ 1.SPAD メータ SPAD メータは,ミノルタが開発した稲の葉に含まれている葉緑素(クロロフィル)量を,葉をいた めることなく簡単に測定できる装置です。得られたデータをもとに,イネの栄養状態を的確に把握 し,適切な施肥管理を行うことによって,品質の向上と収量アップを図るのが目的です。 クロロフィルは 400~500nm(青)と 600~700nm(赤)に吸収のピークがあり,700nm 以上の近赤 外以上の波長の光をほとんど吸収しません。このことから,600~700nm の赤領域と吸収のない赤 外領域の2つの波長の光学濃度の測定を行い,その差をもとに SPAD 値を求めます。 LED 赤 近赤外 受光素子 a) b) 外観 図1 計測原理 SPAD メータ 2.マルチスペクトルイメージングセンサ 屋外環境下での光学センサは光源が太陽光となる。対象を作物や土壌とした場合,太陽エネル ギは対象物に透過,反射,もしくは吸収される。すなわち,光学センサを用いることでこの太陽光 の土,作物に対する反射率の空間変動を測り,農作業を行う上で有用な情報を抽出することがで きる。例えば,窒素ストレスが葉の可視領域の分光反射特性変化,すなわち色変化として現れるこ とはよく知られており,これを用いることで光学センサによる窒素ストレス検出センサが開発できる。 -1- 図2 MSIS 反射率 100 100 80 80 60 60 40 40 Green Red 20 NIR 光の波長 Sensitivity [%] Normalized transmittance [%] 紫外線 可視光の領域 青 緑 赤 赤外線 図3 葉面の光反射特性 20 Sensitivity 0 450 0 550 650 750 850 Wavelength [nm] 図4 MSIS のフィルタ特性と CCD 感度 図5 MSIS で取得した画像(小麦) 透過波長が制限される光学フィルタをビジョンセンサに装備して観測したい波長領域の反射率を 計ることで,作物と土壌の識別や作物のストレス状態をリアルタイムに知ることができる。本実験で は DuncanTech 社製マルチスペクトルイメージングセンサ(Multi Spectrum Imaging Sensor:MSIS) MS2100 と Skye 社製 Ambient Illumination Sensor(AI センサ)をベースとしたセンシングシステム を使用して,作物の生長,栄養状態を検出する。MSIS は Green,Red,Near Infrared(NIR)の3板 CCD カメラで,解像度は 640×480,それぞれ波長毎に独立して CCD ゲイン,露光時間を, -2- 緑 赤 図6 波長毎に分解した MSIS 画像 近赤外 RS232C を介して制御できる。これは,太陽光強度の時間変化に対して MSIS のダイナミックレンジ を確保するためである。図3は MSIS のフィルタ特性と CCD 感度特性,図4は MSIS を用いて撮影 した小麦画像,図5は図4の画像を波長毎に分解したものである。また,AI センサは3チャンネル 内蔵し,それぞれのフィルタ特性は MSIS とほぼ一致している。MSIS の輝度値を CCD ゲイン,露 光時間,AI センサ出力で正規化し,式(1)を用いて反射率 をもとめる。 C 0GL C1 Ref (1) ( AI C 2 )( Exp C 3 )(e C4 gain C 5 ) さらに,NIR 画像を用いることで植生部分と土壌部分の分離が可能となり,これを用いると画像中 の植生部分の割合を求めることができる。これを植被率 VCR といい,式(2)を用いて計算する。 n plant (2) 100 VCR n pixels AI センサを用いない場合は光量補正が不可能である。このような場合には,NIR に対するクロロ フィルの反射率が他の波長域の光に比較して高いことを利用し,式(3)の NDVI や,式(4)の GNDVI を用いる。 Ref NIR Ref R (3) NDVI Ref NIR Ref R Ref NIR Ref G (4) GNDVI Ref NIR Ref G 3.CropSpec CropSpec とは Topcon の開発した窒素含有量をリアルタイムに計測するセンサである。2チャンネ ルの PLD,2チャンネルのフォトトランジスタを搭載し,その反射率から窒素満足度を式(5)より求め ることができる。 図7 CropSpec -3- R S 2 1 100 (5) 1 R 1 ここで,R1,R2 はそれぞれ 735nm および,808nm のレーザーの反射率,S1 は窒素満足指数を示 す。 これまでも作物生育度をリアルタイムに計測するセンサは存在したが,それらが受動光源(パッ シブ法:太陽光を光源とする)のに対し,能動光源(アクティブ法:センサ自身に光源を持つ)なの で,環境光の影響を受けず,安定して測定できるのが利点である。また,図8のように可変施肥シ ステムと組み合わせて使用することで,適正な施肥管理をリアルタイムに行うことも可能となりま す。 図8 可変施肥システムの例 Ⅲ 実験方法 1.生育センサ あらかじめ設定した数点のサンプリングポイントに対して,SPAD 値,草高,MSIS 画像, CropSpec データを測定する。SPAD 値は第3葉の先から10cm 程度の位置に対して5点測定して 平均値を用いる。MSIS 画像は光量補正を行わず,画像処理ソフトによって得られる Green,Red, NIR の反射率の平均値を用いる。 MSIS 画像より得られる平均反射率(RefG,RefR,RefNIR)から NDVI,GNDVI を求めよ。 NDVI または GNDVI を説明変数,SPAD 値,または草高を目的変数として,その関係をグラ フに示し,最小自乗法により推定(回帰)式を求めよ。 RefG,RefR,RefNIR を説明変数,SPAD 値,または草高を目的変数として重回帰分析を行い, 推定(回帰)式を求めよ。 CropSpec から得られる R1 値,R2 値より S1 値を求めよ。また,S1 値を説明変数,SPAD 値,また は草高を目的変数として,その関係をグラフに示し,最小自乗法により推定(回帰)式を求め よ。 以上の関係より,それぞれのセンサの特性を考察せよ。 2.ほ場マッピング トラクタ上部に CropSpec を取り付け,図9のように施肥量調整を行ったほ場内を一定速度で走行 する。同時に CropSpec によって得られる R1 値,R2 値を測定する。 R1 値,R2 値の時系列データより S1 値の時系列データを求めよ。 -4- トラクタの走行速度が一定として,作成した S1 値の時系列データとほ場マップを比較して,そ の結果を考察せよ。 図9 追肥マップ レポートの提出は,1班は 月 日( )16:30,2班は 月 日(火)16:30 まで。S264 生物生産応 用工学研究室に提出すること。メールでの提出も可だが,1つのワードファイルもしくは PDF にまと めること。計算がわかりにくい場合は質問に来ること。 -5-
© Copyright 2024 ExpyDoc