2015年度 介護報酬改定

誰もが安心できる介護を
特 集 実現するために
今、知っておきたい
2015年度
介護報酬改定
今年度は、3年に一度の介護報酬改定の実施年度にあたります。
高齢化が進む日本社会において、介護サービス利用者をはじめ、その家族や事業者など、
大きな範囲に影響をもたらす介護報酬改定は、何を狙いとし、
どのように定められているのでしょうか。介護報酬の基本情報や目的、
改定のポイントを紹介しながら、日本が目指す介護の未来の姿を探りました。
1
イラスト/浅羽 壮一郎
そもそも
「介護報酬」
って何?
介護報酬改定の基本
「日本の介護」が抱える課題
介護保険制度が始まった 2000 年度の介護費は 3 兆 6000 億円でしたが、2014 年度には10 兆円
に達しました。団塊の世代が高齢者になる2025 年には、倍の20 兆円になると見込まれています。
また、社会保障の充実・安定化へ向けるとされた消費税10%への増税が延期されるなど、増え続け
る介護の財源をどう確保していくのかが課題になっています。
財源
少子
高齢化
介護人材
なぜ3年に1度改定されるの?
そもそも介護報酬とは何を指し、どのような目的で改定しているのでしょうか。介護報酬改定の
基本をおさえながら、改定の背景にある「日本の介護の課題」やこれまでの改定内容をふりかえっていきましょう。
合計特殊出生率は1.43%(2014 年発表)と減少する一方で、65 歳以上
の割合は全人口の25%を超え、少子高齢化が進んでいます。介護保険の
財源を支える労働人口の減少や核家族化が進み、家庭での介護の負担が
増加しています。
介護報酬とは?
介護報酬
支払いの流れ
介護保険が適用される介護サービスを
介護職員は、介護保険が試行された 2000 年の55万人から、現在は170
万人にまで増加していますが、2025 年にはさらに1.5 倍以上必要になる
と見込まれています。今後増大する介護ニーズに対応するため、介護職員
の安定確保、資質向上が求められています。
提供した事業所や施設に、サービスの
③サービス
の提供
対価として介護保険から支払われる費
※1号被保険者:65歳以上の方 2号被保険者:40歳以上64歳以下の医療保険加入者
被保険者(利用者)
④利用者負担
(原則として報酬の1割分)
サービス事業者
用の公定価格を指します。
⑤介護給付費等の請求
①要介護・要支援
認定の申請
②認定
⑥介護給付費の支払い
(原則として報酬の9割分)
保険者(市町村)
介護報酬改定の経緯
介護保険法施行
2000年
介護費3兆 6,000億円
2003年
介護保険法改正
point
●自立支援の観点に立った居宅介護支援の確立 ●自立支援を指向する在宅サービスの評価
高齢化が急速に進む中、介護を必要とする
居宅や通所、施設での介護など、すべての
高齢者が限られた介護保険の財源の中で適
介護サービスに対する介護報酬、人員配置
切な介護を受けられるように、介護報酬を
基準、介護職員に対する給与の原資などが
原則3 年ごとに見直しています。
見直されます。
2005年
地域包括ケアシステムへの取り組みスタート
2006年
報酬改定… ー2.4%
point
●中重度者への支援強化 ●介護予防・リハビリテーションの推進
2009年
報酬改定… +3%
point
●介護従事者の人材確保・処遇改善 ●医療との連携や認知症ケアの充実
2010年
(地域包括ケア推進・複合型サービス創設)
介護報酬・診療報酬
ダブル改定…+1.2%
2012年
2014年
介護費10 兆円超
(%)
報酬改定… ー2.27%
2015年
65 歳以上の高齢者 3,657 万人
(30.3%)
認知症高齢者
(日常生活自立度Ⅱ以上) 470 万人
(12.8%)
2
point
●中重度の要介護者や認知症高齢者への対応強化
●介護人材確保対策の推進 など※
2015年度介護報酬改定率の内訳
●処遇改善加算の拡充
+1.2%
1
●中重度者や認知症高齢者に対するサービス充実
0
-1
2025年
-2
-3
●サービスの基本報酬の適正化
2003
ー2.27%
ー2.4%
2006
2012
2015(年度)
この方に聞きました!
名誉教授
社会保障問題全般のほか、年金、医
療、福祉の制度と政策などに取り組
み、厚生労働省社会保障審議会会
長代理などを務める。
神奈川県立保健福祉大学
山崎 泰彦さん
介護の課題解決を図る
取り組みの一つとして
超 高 齢 社 会 といわ れ る 日 本 は、
高齢者を支える﹁介護﹂において、多
10
くの課題を抱えてきました。介護
倍の額が必要に
2
費は昨年 兆円にも達し、2025
年度にはさらに
なると見込まれており、財源不足
がより深刻になっています。少子高
齢化による労働人口の減少や、介
護を担う人材の不足も、日本の介
護が長く抱え続けている課題です。
このような日本の介護の課題を
解決していくための取り組みの一
3
2009
つとして、2000年の介護保険制
度行われてきました。これ
度開始以降、介護報酬の改定が
年に
までの介護報酬改定の方針と、今
1
+1.65%
+0.56%
ー4.48%
2015年度
改定率 ー2.3%
回の改定の狙いについて、神奈川
県立保健福祉大学名誉教授の山崎
泰彦さんにお話を伺いました。
﹁全体の改定率は実施年によって
変動していますが、改定の基本方
針は一貫して﹃介護を必要とする高
齢者に対してよりよいサービスを効
率的に提供すること﹄です。今回は
2006年 度 以 来の 引 き 下 げにな
りましたが、
急速に増加している認
知症への対応強化や、介護職員の
処遇改善加算の増額などが含ま
れ、﹃必要なところに必要な支援を﹄
というこれまでの方針に沿った改
定になっています。また、事業者が
より良いサービスを積極的に目指
していけるよう、質の向上に対して
加算していくという意図も明確に
なっています﹂
今回の介護報酬改定には、これ
までの基本方針が引き継がれなが
ら、日本の介護が目指す将来像で
ある﹃地域包括ケアシステム﹄の構
築に前進していく意図がより明確
に込められていると、山崎さんは話
します。
それでは、
﹁地域包括ケアシステ
ム﹂とはどのようなしくみで、実現
に向けてどのような取り組みが行
われているのでしょうか。次ページ
で具体的に見ていきましょう。
3
+3.0%
3
point
●在宅サービスの充実と施設の重点化 ●自立支援型サービスの強化と重点化
※詳細はP5に記載
地域包括ケアシステム構築
介護報酬改定率の推移
4
2011年
介護保険法改正
何が変わるの?
報酬改定… ー2.3%
(介護予防重視・施設給付見直し)
労働人口が減少傾向に
なぜ改定するの?
2
「地域包括ケア」の実現に向けて
2015年度の動き
住民税非課税世帯の保険料の軽減割合は現在5割ですが、2017年4月
から7割になります(今年4月から一部実施)
。また、利用者の自己負担
は現在は一律に1割ですが、一定以上の所得のある人(単身で年金収入
のみであれば280万円以上)
については、今年の8月から2割になります。
地域包括ケアシステム
とは
日本の介護が目指す将来像であり、介護報酬改定を方針づけている「地域包括ケア
システム」とは、どのようなしくみなのでしょうか。
今年度の具体的な取り組みと一緒に、ポイントを見ていきましょう。
今年4月以降、特別養護老人ホームに新規入所できる要件を、原則と
地域での在宅生活を
トータルで支援するしくみ
できることなら、老後は病院や
施設ではなく、自宅で過ごしたい
と 考 える人 が多いのではないで
し ょ う か。
﹁ 地 域 包 括 ケ ア システ
ム﹂は、要介護の状態になっても
住み慣れた地域で自分らしく生活
ができるよう、必要なサービスが
ト ータルで 提 供 されるし く みで
す。2005年の介護保険法改正
で打ち出され、2025年の構 築
を目指して進められています。
専 門 的 サ ー ビスで あ る﹁ 介 護 ﹂
﹁医 療 ﹂
﹁予防﹂と、その前提とな
る﹁住まい﹂
﹁生活支援﹂の つの
分野が連携して在宅生活を支援し
ます。各分野の役割を明確にし、
地
域単位でネットワークを強化する
ことで、切れ目ないサービスの提
5
今後増大することが予測される医療ニーズを持つ中重度の要介護者
や認知症高齢者が、
「住み慣れた地域で自分らしい生活を継続できる
ようにする」ために、引き続き在宅生活を支援するためのサービスの
充実を図っていく必要から、介護報酬を増額します。
大半の介護サービスで基本サービスに対する報酬は引き下げられますが、
病気になったら…
介護が
必要になったら…
医療
介護
介護職員の給与を引き上げる原資となる「介護職員処遇改善加算」が、
介護人材確保対策の推進
多くの介護サービスで増額になりました。現行のしくみは維持しつつ、さ
らなる資質向上の取り組み、雇用管理の改善、労働環境改善の取り組み
日常の医療
◦かかりつけ医院
◦地域の連携病院
を進める事業所を対象とし、さらなる上乗せ評価を実施します。
税金と介護保険料で支えられている介護保険制度の持続可能性を高
サービス評価の適正化と
効率的なサービス提供体制の構築
め、限りある資源を有効に活用するために、サービス評価の体系化・
◦急性期病院
◦亜急性期・回復期
リハビリ病院
通所・
入所
通院・
入院
住まい
適正化、規制緩和を進めるとともに、効果的で効率化した介護サー
ビスを提供することを目指しています。
◦地域包括支援センター
◦ケアマネジャー
サービスと支援の適正化で
将来像の実現へ前進
在 宅 生 活 を 支 援 していく 上 で、
大きなポイントの一つになるのが、
認知症対策です。今回の介護報酬
改定でも、認知症高齢者や、中重
度の要介護者への在宅対応サービ
スの充実を評価する方針が示され
ています。
介護保険制度改正では、特別養
護老人ホームの入所条件を引き上
げ、軽度者の在宅生活を促してい
ます。また、要支援者へのサービ
スの一部を市町村の地域支援事業
に移行し、市町村のより柔軟な取
り組みを支援しています。
適正なサービスに対する適正な
費用保証を通して、質の高いサービ
スの充実と、その先にある﹁地域包
括ケアシステム﹂の実現を、さまざ
な場面で目指しています。
5
供が可能になります。
また、
﹁介護﹂と﹁医療﹂がより
密に連携していくために、介護報
介護報酬 改定のポイント
中重度の要介護者や
認知症高齢者への対応の
さらなる強化
酬改定も介護の分野だけで完結せ
までの3年間です。
ず、医療との連携強化を踏まえて
予防給付のうち訪問介護・通所介護について、市町村が地域の実情
に応じた取り組みができるようにします。移行期間は平成29年度末
検討されています。2018年度
全国一律の予防給付
(訪問介護・通所介護)を
市町村による地域支援事業に移行
に行われる介護報酬・診療報酬の
軽度者は在宅での介護サービスが中心になります。
﹁ダブル改定﹂では、
双方の連携の
して要介護3以上に限定して(既入所者は除く)
、介護の必要度の低い
取り組みがさらに強く押し進めら
特別養護老人ホームの
新規入居者を
要介護 3 以上に重点化
れていくでしょう。
介護保険制度 改正のポイント
低所得者の保険料の軽減拡大、
一定以上の所得のある利用者の
自己負担引き上げ
住み慣れた地域で安心に暮らす
◦自宅
◦サービス付き高齢者
向け住宅 等
いつまでも元気に
暮らすために…
在宅系サービス
◦訪問介護・訪問看護・
通所介護・小規模多機能型
居宅介護
◦短期入所生活介護
◦ 24 時間対応の訪問サービス
◦複合型サービス
(看護小規模多機能型居宅介
護等)
介護予防サービス
施設・居住系サービス
◦介護老人福祉施設
◦介護老人保健施設
◦認知症共同生活介護
◦特定施設入所者生活
介護 等
地域包括ケアシステムは、お
おむね 30 分以内に必 要な
サービスが提供される日常
生活圏域(具体的には中学
校区)を単位として想定
⽣活⽀援・
介護予防
相談業務やサービス
のコーディネートを行
います。
老人クラブ・自治会・
ボランティア・NPO 等
4
2015年度介護報酬改定
訪問介護
要介護2の人が
20分以上30分未満の身体介護を7回、
45分以上の生活援助を8回利用した場合の月額
事業所が受け取る介護サービス費の単価で
現在
4月以 降
身体介護
2,550円×7回
110円引き下げられます。ただし、人員基
DOWN
身体介護
2,450円×7回
置すると、特定事業所加算が1,720円支払
DOWN
生活援助
2,250円×8回
1,470円から3,170円にアップされます。
UP
介護職員処遇改善加算
3,170円
生活援助
2,360円×8回
介護職員処遇改善加算
1,470円
38,200円
合計
準を上回る常勤のサービス提供責任者を配
合計
現在
184円
増
基本料
9,440円×10日
は、200円引き下げられます。ただし、各
種加算(緊急時訪問看護加算、特別管理加
基本料
8,140円×7回
特別管理加算
5,000円
合計
KEEP
緊急時訪問看護加算
5,400円
KEEP
特別管理加算
5,000円
68,780円
新規
UP
サービス提供体制強化加算
120円×10日
UP
サービス提供体制強化加算
180円×10日
介護職員処遇改善加算
1,900円
UP
介護職員処遇改善加算
4,270円
101,700円
算、ターミナルケア加算)のいずれも一定
合計
割合以上の実績がある事業所に、新設の看
(自己負担10,170円)
(自己負担6,878円)
※訪問看護ステーションの場合。病院・診療所の場合は異な
ります。
看護体制強化加算
3,000円
認知症加算
600円×10日
新規
中重度者ケア体制加算
450円×10日
1日600円が加算されます。また、要介護
に、中重度者ケア体制加算が1人につき1
日450円加算されます。
110,970円
在宅・通所介護サービスに
手厚い改定
今回の介護報酬改定では、これ
まで以上に施設・居住系から居宅・
通所系へ重点が移行し、利用者の
自己負担額は訪問介護や通所介護
現在
4月以 降
基本料
9,470円×30日
基本料
8,940円×30日
DOWN
各種加算
1,040円×30日
を受け入れる事業所は、利用者1人につき
(自己負担11,097円)
要介護5の人が定員50名の施設で個室へ入居した場合の月額
などのサービスがやや増加し、特
別養護老人ホームなどのサービス
が軽減する結果になっています。
居宅・通所系も基本報酬はマイ
ナスの改定の中、サービス利用料
が上がるのは、介護職員の処遇改
善のための事業所への報酬などが
手厚くなるほか、より高いスキル
を持つ職員の配置や人員体制の強
化など、サービス充実へ向けて取
り組む事業所には加算がつくため
です。一方、施設・居住系は、サー
ビス評価の適正化とサービス提供
効率化の観点から減額になったた
め、利用者負担が軽減する結果に
なっています。
﹁介護を必要とする高齢者が適切
年ごとに見直しが行われる
な 介 護 を 受 け ら れる ﹂こと を 目 的
に、
介護報酬改定。誰もがいつまでも
安心して暮らせる社会に向けた重
要な動きに、今後も注目していき
たいものです。
7
認知症対策の強化で、認知症の研修を受け
合計
927円
増
160円
増
70,380円
(自己負担7,038円)
3
自己負担
新規
自己負担
合計
通所介護
3以上の利用者が一定の割合以上いる場合
機能訓練
460円×10日
護体制強化加算3,000円が支払われます。
緊急時訪問看護加算
5,400円
基本料
8,980円×10日
DOWN
機能訓練
420円×10日
事業所が受け取る介護サービス費の単価で
4月以 降
4月以 降
※自己負担割合は1割で計算しています(ただし2015年8月
以降、
年金収入が年間280万以上ある場合は2割にアップ)
。
※費用は「1単位=10円」
(約76%の自治体が該当)で計算し
ています。
た職員を雇用し、一定以上の認知症高齢者
訪問看護
要介護5の人が
30分以上60分未満の訪問看護を7回利用した場合の月額
DOWN
代表的なサービスを事例別にシミュレーションで見ていきましょう。
自己負担
(自己負担4,004円)
基本料
8,340円×7回
今回の介護報酬改定で、介護サービス利用者の自己負担額は、
具体的にどのように変わるのでしょうか。
要介護3で認知症の人が10日利用した場合の月額
40,040円
現在
利用料金シミュレーション
われます。また、介護職員処遇改善加算が
特定事業所加算
1,720円
新規
(自己負担3,820円)
は、身体介護費が100円、生活援助費が
各種加算※
1,300円×30日
UP
315,300円
合計
(自己負担31,530円)
自己負担
810円
減
※各 種 加 算(日 額)のうち、処 遇 改 善 加 算 が
570円(310円増)、夜勤配置体制強化加算が
220円(50円減)
特別養護
老人ホーム
今回の改定で基本料が9,470円から6%近
く減額されて8,940円になります。各種加
算は1人につき1日あたり260円アップし
ますが、特別養護老人ホームが受け取る報
酬は、要介護5の入居者(個室)1人あたり
8,100円が減額となり、入居者の自己負担
は810円減ることになります。
307,200円
合計
(自己負担30,720円)
6