木材の国産資源の活用による環境保全効果の評価

B1-26
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
木材の国産資源の活用による環境保全効果の評価
Evaluation of the Environmental Conservation Effect by Utilization of Domestic Wood
○村野昭人*1)、高瀬浩二 2) 、鷲津明由 3)
Akito Murano, Koji Takase, Ayu Washizu
1) 東洋大学, 2) 静岡大学, 3) 早稲田大学
*[email protected]
1.
はじめに
うち、素材(国産)
、素材(輸入)については物量表の取
わが国の森林面積の 40%を人工林が占めており、それ
引数量(千立米)に置き換える。輸入代替がもたらす誘
ら林地の樹木は伐採時期を迎えている。しかし、輸入材
発効果について、国内誘発の変化量は式(2)
、輸入誘発
に押される形で国産材は十分に利用されていない。その
の変化量は式(3)を用いて算出する。
結果、林業収入の減少、林業従事者の後継者不足といっ
また、木材関連輸入財(製材、合板、木材チップ、建
た現象が引き起こされ、林業の低迷につながっている。
設用木製品 他、木製家具、木製建具)に含まれる素材量
そして林業の低迷が、さらに国産材の利用促進を妨げる
を考慮するために、それらの取引額を産業連関モデルの
という悪循環を招いている。
波及計算により素材換算する。
同じ樹木でも40年程度で成長によるCO2 吸収のピーク
を迎え、それ以後は吸収能力が衰えると言われることか
現
X house
 ( I  Ad )1 I house
ら、国産材を有効利用し林地の高齢化を防ぐことは地球
X
温暖化問題にも貢献する。一方で世界では、2000 年から
2010 年までの 10 年間に、植林等による増加分を差し引い
て、年平均で 500 万 ha 以上の森林が失われており 1)、森
様性の減少が懸念されている。
 ( I  A  ) I house
d
X house  X
代
house
m
A X
現
house
M
現
house
A X
代
house
M
代
house
M house  M
代
house
m
林破壊に伴う洪水や旱魃などの自然災害の増加や生物多
代
house
1
X
現状
輸入代替後
(2)
現
house
現状
輸入代替後
M
現
house
(3)
そこで本研究では、住宅用建材の国産化と輸入代替に
よって、国内森林の若返りおよび海外の森林保全によっ
2.2 国内の森林の二酸化炭素吸収量の推計方法
国内の森林の二酸化炭素吸収量を、森林面積に年平均
てもたらされる効果の大きさとその環境保全効果を試算
成長量、容積密度、バイオマス拡大係数、炭素含有率等
する。
の各係数を乗じることで推計する。国産材利用率を変化
2.
させ、その値が将来にわたって継続されると仮定した際
方法
2.1 住宅建材の国産化による環境影響分析モデル
の二酸化炭素吸収量の推移を求める。樹種や気候条件に
住宅投資のユニットストラクチュアは式(1)のように
伐採に適した時期を迎えることから、林齢 41 年以上の森
表すことが出来る。
X house  ( I  Ad ) 1 I house
m
M house  A X house
よって異なるが、木は一般的に林齢が 40 年以上になると
林を伐採対象とする。全体の伐採面積を林齢 41 年以上の
 (1)
森林の林齢ごとの面積に按分することで、林齢別の伐採
ただし X house : 住宅投資による国内誘 発
面積を求め、伐採面積と同じ面積の植林を行うと仮定す
M house : 住宅投資による輸入誘 発
る。推計方法の詳細については、既報 2)を参照されたい。
I house : 住宅投資1単位を示すベクトル
Ad : 国産財の投入係数行列
2.3 輸入代替による海外の森林の保全効果の推計方法
m
A : 輸入財の投入係数行列
木材需給報告書における需要部門別・材種別素材供給
量の値
3)
に基づいて、植生別の素材輸入量を求める。次
このとき、素材、製材、合板、木材チップ、建設用木
に、
植生別の年間バイオマス純一次生産量のデータ 4)を、
製品 他、木製家具、木製建具の各項目について、輸入係
素材輸入量の値で加重平均する。輸入代替量を加重平均
数を減らしその分国産係数を増加させた場合に、住宅投
値で除することで、伐採を免れた海外の森林面積を推計
資単位あたりがもたらす誘発効果の差分を算出し、環境
する。
影響の変化をみる。
輸入代替後の投入係数行列をそれぞれ Ad ' , Am' とする。
3.
ただし A  A d  A m  A d '  A m' である。ここで、 Ad , Am の
3.1 輸入代替がもたらす誘発効果
- 64 -
結果
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
国産材利用率を現状水準である 25%とした場合の、住
増加を負の値で表現している。国内の森林の CO2 吸収量
宅建築(木造)による誘発効果を算出した結果、住宅投
の増加分については、50 年間の平均値を採用した。海外
3
3
資 100 万円あたりで国産材 0.798m 、輸入木材 1.272m の
の森林の吸収量については、木材の伐採に伴う炭素放出
生産を誘発することが分かった。同様にして、木造住宅
のみを分析している。これは、海外の森林は非常に広大
に利用されている輸入材をすべて国産材で代替したと仮
であり、日本の輸入代替分の森林の吸収量増は、全体に
定した場合の誘発効果を算出した結果、国産材 1.167m3、
対して無視できるほど小さい一方で、貧しい国での森林
3
輸入木材 0.903m の生産を誘発することが分かった。
破壊を回避できる効果が大きいと考えたためである。
表 1 輸入代替による環境保全効果(kt-CO2/year)
3.2 輸入代替による二酸化炭素吸収量の変化
国産材利用率を 25%から 50%~300%へと変化させた
国産材比率
国内吸収量
海外吸収量
国内誘発CO2
海外誘発CO2
林地残材利用
合計
場合の、二酸化炭素吸収量の推移を図 1 に示す。国産材
50%
539
305
-149
149
1,847
2,690
利用率を高めて大規模に植林を行っても、二酸化炭素吸
75%
1,076
609
-297
297
3,694
5,379
収量において効果が表れるまで15年ほど必要であること
100%
1,612
914
-446
446
5,540
8,067
が分かる。
国産材利用率が現状のまま推移すると、森林の高齢化
4.
に伴って二酸化炭素吸収量は現状水準の 1/6 程度にまで
低下することが分かった。国産材利用率を 100%にしても、
おわりに
本研究では、住宅用建材における国産材使用率を増加
させた場合の環境保全効果を試算した。
現状水準の 4 割程度にとどまる結果となった。現状水準
本稿の分析では、すべての人工林について木材の利活
を維持するためには国産材利用率を 300%、すなわち今の
用が可能と仮定したが、実際には林道が未整備な地域な
木材使用量の 3 倍に相当する量の国産材を毎年利用する
ど、現状では利活用が困難な地域が多く存在する。また、
必要があることが分かった。
伐採された森林はすべて利用されると仮定したが、現実
の木質資源の再資源化施設では、利用先の確保に苦戦し
ているところも多い。従って、得られた結果は過大評価
50,000
となっている可能性が高く、それらの要素を考慮して分
40,000
析することが今後の課題となる。
さらに、国産材の利用拡大がコストの増大を招く可能
25%
30,000
50%
性があり、そのことが産業構造に与える影響を考慮して
75%
100%
20,000
150%
200%
10,000
0
2000
300%
いない。今後は、
「間伐材や破材の利用による林業収入の
増大→林道などの整備による林業コストの低下→木材価
格の低下」
、
「二酸化炭素吸収量の拡大→排出権収入の拡
大」などの径路を、分析モデルに今後取り入れていく予
2020
2040
2060
2080
2100
2120
定である。
図 1 国産材利用率の変化による CO2 吸収量の推移
(kt-CO2)
謝辞:本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究
(B)
「消費の多様性が環境負荷にもたらす影響と持続可
3.3 輸入代替による環境保全効果
能なライフスタイルに関する考察」
(平成 23 年度~26 年
植生別の年間バイオマス純一次生産量の値を基に、海
度)の一部として行われた。ここに感謝の意を表する。
外の森林伐採面積を算出した結果、国産材利用率を 1%増
加させることによって、約 1700ha の森林が伐採を免れる
参考文献
ことが分かった。
1)Food and Agriculture Organization of the United Nations:
Global Forest Resources Assessment 2010: progress
次に、住宅に投入される木材の輸入代替による環境保
towards sustainable forest management, (2010)
全効果として、国内の森林の CO2 吸収量、海外の森林の
CO2 吸収量、国産材増加による国内・海外の直接間接 CO2
2)村野昭人,松野浩一:国産材利用率の向上が森林の公
誘発排出量、林地残材のエネルギー利用(A 重油代替)
益的機能に与える影響の評価,第 27 回建築生産シン
による CO2 削減量効果を算出した。国産材利用率 25%に
ポジウム論文集,pp171-176,(2011)
おける値との差分の算出結果を表 1 に示す。表では環境
3)農林水産省統計部:平成 19 年木材需給報告書,(2008)
にプラスになることを正の値として表現している。すな
4)R.H.Whittaker and G.E.Likens:Primary productivity of the
わち、吸収量の増加、代替効果の増加を正、誘発 CO2 の
- 65 -
biosphere, pp.305-328, Springer- Verlag, New York,(1975)