2015/05/28 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 日本経済史 第7回 幕末開港と近代化 近世の社会体制:社会的安定を優先、経済発展には一定の制約 幕末開港:西欧列強からの圧力、先進国へのキャッチアップの必要性 国家間の競合:経済発展が不可欠、国力を左右(国際的地位、軍事力) 明治維新:西欧型社会体制への転換(近代市民社会)、経済発展の基盤 政府 競合 促進 先進国 経済活動 企業 個人 Ⅰ 西欧列強の世界侵出 開港の要求:イギリス、ロシア ペリー来航による開港(1853):西欧列強との和親条約(1854)、通商条約の締結(1858) 東アジアの外圧:軍事的脅威よりも意識や経済の問題 経済的従属:工業製品(高付加価値)の輸入、一次産品(低付加価値)の輸出 モノカルチャー経済(一次産品の輸出依存):脆弱な経済、国際市場の価格変動 西欧列強 工業化:安価な工業製品 一次産品(農産物、天然資源) 自国製品 非西欧地域 農業社会:農産物、手工業 Ⅱ 開港の影響 工業製品の輸入と特産品の輸出 1861 年の輸出入金額 輸入:綿織物(46%)、毛織物(27%)、綿糸(5%) イギリス繊維工業の生産品 1 2015/05/28 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 輸出:生糸(68%)、茶(17%) 日本の特産品 国別貿易額:イギリス(64.3%)、アメリカ(21.5%) 1867 年の内訳 輸入:綿織物(27.6%)、毛織物(20.0%)、武器(10.1%)、砂糖(10.4%) 輸出:生糸(46.2%)、蚕卵紙(19.0%)、茶(16.5%) 工業製品(武器)や砂糖(熱帯産品)の輸入増 幕末における輸出入の総額 単位:万ドル 1860 1861 1862 1863 1864 1865 1866 1867 輸入 輸出 95 149 307 370 555 1,407 n.a. 1,595 395 268 630 1055 900 1,849 n.a. 1,212 出所:1860-64:三和良一・原朗編『近現 代日本経済史要覧』東京大学出版会、2007 年、表 1-14、1-15、1865-67:杉山伸也 「国際環境と外国貿易」梅村又次・山本 有造編『日本経済史 3 開港と維新』岩波 書店、1989 年。 商人や生産者(百姓):国際貿易は収益機会の増加 農家副業による養蚕や製糸(生糸生産)、生糸の売り込み 養蚕地帯の小藩:蚕糸業による領内経済振興、財政収入の増加 幕府の懸念:既存の体制の崩壊、村請制による年貢徴収の破綻 貿易の受益者:一部の百姓や商人 生糸の輸出制限:横浜(貿易港)における数量規制、西欧諸国からの抗議 幕府 抗議、圧力 年貢(米納) 制限 西欧列強 生産者(百姓) 保護 輸出 国内商人 外国商人 利益 (西欧、清国) 利益 生糸、茶 養蚕、製糸 利益 生産者(百姓) 茶 2 百姓 2015/05/28 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 国内流通網と居留地貿易:外商の活動域を居留地に限定 西欧列強の特権:治外法権(自国法の適用)、協定関税(日本側に関税自主権なし) 外商の国内進出を阻止:生産や販売の拠点形成困難(清:外商による国内拠点) 居留地(横浜など) 生糸、茶 売込商 外国商人 保護 国内商人 国内商人 引取商 国内商人 治外法権 綿糸、綿布、毛織物 協定関税 批判と攻撃 攘夷主義者 開港の経済的影響 日本国内の金銀交換比(重量比)[1:5]⇔世界標準[1:15] 金貨の海外流出→金貨の金含有量切り下げ→インフレ(貨幣発行量増大) 輸出産品の価格高騰:生糸や茶の供給不足 日用品の便乗値上げ:都市生活者の困窮、社会不安 大坂における開港後の物価の推移 単位:匁(銀) 銀相場 (対金1両) 72.4 1858 72.9 1859(貿易開始) 72.9 1860 72.3 1861 74.6 1862 84.1 1863 89.2 1864 100.6 1865 114.8 1866 127.0 1867(大政奉還) 1868(新政府誕生) 215.6 菜種油 秩父産絹布 茶 (石) (2反) (10貫) 425 95 310 395 122 310 530 125 275 610 143 600 629 154 600 766 178 600 1,050 254 575 1,224 251 1,719 1,540 266 1,719 2,368 284 1,657 2,239 294 1,407 注 1)表中の価格はいずれも単価を示したものである。その単位につい ては各列の上部に表示した。 2)価格はいずれも銀匁で示した値である。 出所:安藤良雄編『近代日本経済史要覧 第 2 版』東京大学出版会、1979 年、表 1-27 より作成。 Ⅲ 明治維新による体制転換 知識層(下級武士:福沢諭吉など):社会体制と国力との関係 西欧型市民社会:国家は市民の生命と財産を保護 市民の自由な経済活動:経済発展の原動力、軍事力の向上 3 2015/05/28 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 軍事力 国家 対外脅威 徴税、徴兵 財産保護の要求 市民 富の獲得 軍事的優位 自由な経済活動 創意工夫、 市場経済の発展 科学技術の発展 新政府樹立:雄藩の下級武士主導、幕府の体制を継承 中央集権化の推進:版籍奉還(明治 2 年[1869])と廃藩置県(明治 4 年) 分権的体制の限界:約 250 の藩、財政的困窮(廃藩) 身分制社会の否定:四民平等と秩禄処分(公債支給による禄米廃止) 貨幣制度:銀目廃止[明治元年]、新貨条例[明治 4 年] 1 両=1 円=100 銭(銭の廃止) 天皇 任命 官僚 (旧下級武士) 県 任命 県 知事 臣民(市民) 臣民 4 県 2015/05/28 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 西欧型市民社会:市民の自由な経済活動、個人主義的な社会体制 耕地売買の自由、職業選択の自由、営業の自由 地租改正(明治 6 年~):土地所有関係の確定、個人による納税(金納)、離農の自由 村の役割の継続性:行政組織、社会秩序の維持 村請制 耕作の強制、 耕地の売買の禁止、 大名 米納 年貢納入の連帯責任 米作の強制(米納) 制約、監督 村 商人、職人 百姓 百姓 百姓 商業、工業 政府 課税対象:個人 政府⇔個人 地価の 3%(明治 10 年以降、2.5%) 納税(金納) 臣民 臣民 農業 耕地 売買の自由 営業の自由 臣民(商工業者) 商業 工業 職業選択の自由 教育によるキャッチアップ:経済発展の基盤(労働の質、技術力) ヨーロッパ諸国:私立学校の存在、初等教育義務化の遅れ、ボランタリズム 後発国:先進国(イギリス)よりも早く義務化、キャッチアップの必要性 初等教育義務化の年代 イングランド・ウェールズ スコットランド フランス プロイセン(ドイツ) オランダ スウェーデン 1880 1872 1882 1763 1900 1842 フローラ,P. (竹岡敬温監訳)『ヨーロッパ歴史統計 国家・経済・社会 1815~1975』上巻,原書房,1985 年。 5 2015/05/28 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 新政府の教育改革 初等教育の義務化(1872):在来の庶民教育との連続性(寺子屋) 村による小学校設立:村は末端の行政組織,近世の遺産 教育機関の整備:初等教育(小学校)から高等教育(大学)まで 政府 臣民 高等教育機関 専門知識 官僚、経営者、技術者 初等教育機関 日常生活に必要な知識や技能 読み書き、算術、裁縫(女性)など 初等教育の義務化 教育費用は受益者負担 (明治 33 年[1900]まで) 村(末端の行政機関) 施設の提供 人件費の負担 Ⅴ 幕末維新期の評価 西欧型社会体制への転換:近代経済成長の契機 体制転換の成否:非西欧圏の多くは失敗、社会的不安定(国家体制の不備) 西欧社会との共通性:国家の枠組み、民衆の利害を相応に尊重 過去の遺産:社会的安定(中央集権体制)、村の機能や小農の活動(分権的基盤) 参考文献 石井寛治・原朗・武田晴人編『日本経済史 1 幕末維新期』東京大学出版会,2000 年。 井上勲編『日本の時代史 20 開国と幕末の動乱』吉川弘文館,2004 年。 松尾正人編『日本の時代史 21 明治維新と文明開化』吉川弘文館,2004 年。 梅村又次・山本有造編『日本経済史 3 開港と維新』岩波書店,1989 年。 歴史学研究会・日本史研究会『日本史講座 7 近世の解体』東京大学出版会,2005 年。 6
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