PDF2 - 宮城教育大学

マイコンボードと環境センサを用いた在室人数の自動推定
正会員
会員外
在室行動
呼気
CO2 濃度
相対湿度
Arduino
XBee
1.はじめに
住宅やビルなどの建物内における在室人数の把握・予
測は、環境調整やエネルギーの有効利用を検討する根拠
として重要である。筆者ら 1)、2) は住宅における室内の
CO2 濃度および湿度の変化から在室人数を推定する方法を
提案し、電子回路等を用いて自動的に人数を推定するシ
ステム構築に向けて Arduino というマイコンボードの適用
可能性を示唆した。
本報では、Arduino および環境センサを用いた在室人数
の自動推定装置を試作し、動作実験を行った結果につい
○菅原正則*
残間洋輔**
人体および室内物からの放湿量を表す式
h  mh   h   mh   
 (t )   (0)
100
(4)
m :在室人数[人]、 h ' :一人あたりの放湿量[g/s 人]、
h" :室内物からの放湿量[g/s]、  :比例定数[g/s]、
 (t ) : t 秒後の室内相対湿度[%]
一人あたりの放湿量を表す式
(5)
h   L  B  L   ( h   L )
L :呼吸による放湿量[g/s]、 B :呼吸を除く人体からの
て報告する。
放湿量[g/s]、  :比例定数[-]、 h  :裸の人体からの放
湿量[g/s]
2.在室人数の推定方法
本研究では、室内外に設置された CO2 濃度センサ、温
呼吸による放湿量を表す式
湿度センサおよび室内の人感センサによる計測値に基づ

  L   ( 0)2 (t )
いて、表-1 に示す式から在室人数を推定する1)。
表-1
L  (2.1613  10 9 M 2  9.6943  10 7 M )

(6)
 L :体内の容積絶対湿度(体温を 37℃として 43.774)[g/m3]
住宅内滞在人数推定に用いる式1)
室内 CO2 濃度の非定常変化を表す式
裸の人体からの放湿量を表す式
Q
k 
k  t
C (t )  C o    C (0)  Co   e V
Q 
Q
(1)
h   1.3697  10 8   0.18181
 M  58.939 M  1444.9 
C (t ) : t 秒後の室内 CO2 濃度[mg/m3]、 Co :屋外 CO2 濃
度 [mg/m3] 、 k : CO2 発 生 量 [mg/s] 、 Q : 室 換 気 量
(7)
 :気温[℃]
[m3/s]、 V :室容積[m3]、 t :経過時間[s]
3.自動推定システムの構築
今回作成したシステムは室内環境の計測と人数推定の
呼吸による CO2 発生量を表す式
処理を行う Arduino、および屋外環境の計測とそのデータ
k  mk '  mMP
(2)
m :滞在人数[人]、 k  :一人あたりの CO2 発生量[mg/s
人]、 M :一人あたりの代謝量[W/人]、 P :単位エネルギ
ー発生量あたりの CO2 発生量(=0.085)[mg/J]
の無線通信を行う XBee からなる。
3.1 Arduino による室内環境データの取得
Arduino は 2005 年に「Interaction Design Institute Ivrea」
というイタリアの専門学校で開発されたマイコンボード3)
で、簡便な操作性と機能の多様性を備えている。しかし
処理能力の制限もあり、例えば本研究で使用した
室内湿度の非定常変化を表す式
Q
h 
h  t
 (t )   o     (0)   o   e V
Q 
Q
Arduino2009 の場合、有効桁数は7桁、処理速度は 16MHz、
(3)
 (t ) : t 秒後の室内容積絶対湿度[g/m3]、  o :屋外の容
積絶対湿度[g/m3]、 h :人体および室内物からの放湿量
[g/s]
Automatic Estimation of the Number of People Staying in the Room
using Micro Computer and Environmental Sensor
メモリサイズは 30,720 バイトである。
室内環境データの取得には、表-2 に示す仕様の温度、
湿度、CO2 濃度センサを使用した。センサを選定する際に、
筆者ら 4) による在室人数における推定精度に影響を与え
る項目(以下、誤差関連項目)の検討結果を参考にした。
その検討にあたっては、まず菅原1)の実験データ 90 組を
SUGAWARA Masanori and ZAMMA Yosuke
標準条件(室内外の環境や在室人数推定の計算過程に用
いのシリアルナンバーを入力するだけで無線通信が可能
いられる係数に関して、検討の基準となる条件)として、 となる。シリーズ 2 のレギュラータイプ(1mW 出力)の
表-3 に示す①~⑪の誤差関連項目に対して、正答が得ら
ものであれば、室内通信距離は 40m、見通し通信距離は
れる許容範囲を求めた。そして、標準条件からのずれ
120m となっている。出力が 10mW と強化された XBee-
(許容範囲の上下端の中間値と標準条件との差)と許容
PRO Series2 というものもあり、こちらは室内通信距離
範囲の較差(最大値と最小値の差)の関係について、正
60m、見通し通信距離は 1.5km となっている。
答を得ることのできる条件が次式、
(2)データの取得方法
屋外環境も室内と同じセンサを用いてデータを取得する。
(許容範囲の較差)≧(標準条件からのずれ)×2
(8)
のように表せることから、誤差関連項目ごとに許容範囲
表-2 から分かるように湿度センサや CO2 濃度センサに関し
ては出力電圧が最大で 4~5V 程度になる場合がある。しか
の較差の平均値に対して正答が得られる(式(8)を満た
し XBee の基準電圧は 1.2V であるため、センサからの出力
す)場合の標準条件からのずれの範囲を求めた(表-3)。
電圧も 1.2V までしか読み取ることができない。そこで半固
これによれば、①④気温(屋外、室内)、②相対湿度(屋
定抵抗器(つまみを調節することによって抵抗値を変化さ
外)、③CO2 濃度(屋外)については、センサの精度が充
せることのできる抵抗器)を用いてセンサからの出力電圧
分であると言える。高い精度が求められる室内の⑧⑩相
を 1/4 に分圧(抵抗分圧)し、XBee への入力電圧を 1.2V
対湿度および⑥⑪CO2 濃度は、計測時間間隔を短くし、統
以内に収まるようにした。
計処理を行うことによって解決できると考えられる。こ
れについては今後の課題とし、今回の自動推定システム
(3)レギュレータ回路の製作
外部環境データを取得するセンサボードには XBee と各セ
には適用しないこととした。
ンサを接続する必要があるが、XBee と各センサに必要な電
源電圧が異なっている。表-2 よりセンサ類には共通して 4.5
表-2 各センサの主な仕様注1)
CO2 濃度
には 2.7~3.6V の範囲の電圧を供給しなければならない。そ
4~5.8VDC
4.5~14VDC
こで、XBee へ安定した電圧を供給するために 3 端子レギュ
0~100%
0~2000ppm
レータを用いることにした。レギュレータとはある入力電圧
±30ppm
から一定の出力電圧を発生させるもので、4.3~12V の入力
±3%rdg
電圧に対して、3.3V の出力電圧を発生させる部品注2)を使用
温度
湿度
動作電圧
4~20VDC
測定範囲
0~100℃
±1℃
±3.5%
精度
応答時間
出力電圧
※
90 秒
※
0~1000mV
~5.8V の電圧を供給すればよいことが分かる。一方、XBee
5秒
20 秒、拡散時間
0.7~3.8V
※※
1~5V
した。なお、XBee の最大消費電流は 205mA であるのに対し、
使用したレギュレータの出力電流は 1000mA であるため、電
筆者らが、防水密封したセンサを 25.3℃の空気中から
圧電流ともに使用条件を満たしている。XBee を用いた屋外
39.1℃の水中へ没入させて計測した値。
環境データ計測装置を図-1 に示す。
※※25℃下で 5V の電圧を供給した場合の値。
表-3 推定人数が正答となる場合の標準条件からのずれ4)
①気温(屋外)[℃]
②相対湿度(屋外)[%]
③CO2 濃度(屋外)[ppm]
④気温(室内)[℃]
⑤室換気量[m3/s]
⑥はじめの CO2 濃度[ppm]
⑦比例定数 β[g/s]
⑧10 分後の室内相対湿度[%]
⑨比例定数 γ[-]
⑩はじめの室内相対湿度[%]
⑪10 分後の CO2 濃度[ppm]
標準条件からのずれ
±0.8℃以内
±3.5%以内
±60.4ppm 以内
±0.8℃以内
±0.001553m3/s 以内
±12.9ppm 以内
±0.002089g/s 以内
±0.2%以内
±0.113207 以内
±0.3%以内
±11.9ppm 以内
図-1
XBee を用いた屋外環境データ計測装置
(左:表側、右:裏側)
3.3 在室人数推定のスケッチの作成
Arduino の動作には独自の Arduino 言語でプログラミング
された「スケッチ」を用いる。Arduino 言語は C 言語をベー
スに簡略化されたものであるが、スケッチの構造は C 言語
3.2 XBee を用いた屋外環境データの取得
(1)XBee の概要5)
XBee とは Digi インターナショナル社が販売する無線通
のそれと良く似ており、多様な制御が可能である。そこで図
信用モジュールのことである。通信を行うには 2 台以上
では体表面積を 1.5m2 としたため、1met=87.3W、基礎代謝
のモジュールが必要であるが、任意に設定した ID とお互
0.7met=61.1W としている1)。また、人数推定を行う部屋の
-2 に示した在室人数推定手順のフローチャートを基に、在
室人数を自動的に推定するスケッチを作成した。ただしここ
室内外の環境データを取得
式(1)、式(3)より CO2発生量 k
それぞれの m に対応
それぞれの m に対応
および加湿量 h を求める。
する M を式(6)に代入
する M を式(7)に代入
し、呼吸による放湿量
し、裸の人体からの放
L を求める。
湿量 h  を求める。
k を式(2)に代入して
室内の総代謝量 mM を求める。
総代謝量 mM に応じ
L および h  を式(5)に代入し、
て場合分けをする。
61.1≦ mM  122.2
1 人当たりの放湿量 h' を求める。
122.2 ≦mM<183.3
h' を式(4)に代入し、室内物
からの放湿量 h" を求める。
m=1
183.3 ≦ mM  244.4
式(4)より得られる関係式
推定結果の表示
h"  
m=1,2 それぞれの
場合の M を求める。
100
る h" と比較し、その差が最も
小さい場合の m を推定される
m=1,2,3 それぞれの
M:1 人あたりの代謝量
 (t)   (0) で得られ
人数とする。
場合の M を求める。
m:推定される人数
推定結果の表示
図-2 在室人数推定手順のフローチャート
換気量を既知とする。そのため、部屋は気密性が高く、換気
■在室状況
成人男性 2 名、椅座位、事務作業
は機械換気のみによって行なわれていることを前提とする。
このとき、家での活動6)のうち 5 分以上継続可能と考
えられるのは、代謝量の多いもので「掃除:掃き掃除、
ゆっくり、ほどほどの労力(3.8met)」、「洗濯:洗濯物を
干す、衣類の手洗い、ほどほどの労力(4.0met)」が挙げ
られることから、 M の上限は 349.2W/人(4.0met 相当)
とする。これによって L や h  の上限が設定できるため、
推定精度の上昇が期待される。なお、 mM <61.1W の場合
は推定不能となるが、人感センサを併用して在不在が分
かれば、0 人もしくは 1 人の判断ができる。
4.Arduino を用いた在室人数の自動推定実験
4.1 実験内容
■日時 2015.2.6 16:30~18:30(調整時間含む)
■場所
宮城教育大学 1 号館 4 階
保育学(環境衛生学)第二実験室
(室寸法=6.0×3.3×2.4m、図-3)
図-3 実験の様子
■目的
・ XBee を 用 い た 屋 外 環 境 デ ー タ の 無 線 通 信 を 伴 う 、
Arduino による在室人数自動推定システムの動作確認。
・推定精度の検証。
表-4 実験における計測値および推定人数
5分前
0分
外気
temp_in(℃)
RH_in(%)
CO2_in(ppm)
temp_in(℃)
RH_in(%)
CO2_in(ppm)
temp_out(℃)
RH_out(%)
CO2_out(ppm)
k(mg/sec)
mM(W)
h(mg/sec)
推定人数m(人)
0分
1分
2分
3分
4分
32.75
25.53
1726.3
18.65
22.14
506.45
26.39
25.97
1418.38
18.77
22
513.49
26.39
25.02
1301.08
19.47
22.6
527.57
25.9
25.15
1225.32
19.47
22.32
527.27
25.9
25.44
1156.89
18.77
21.72
523.49
■実施内容
5分
6分
7分
8分
9分
10分
11分
32.75
26.39
26.39
25.9
25.9
25.9
25.42
25.53
25.97
25.02
25.15
25.44
25.78
25.44
1726.30 1418.38 1301.08 1225.32 1156.89 1090.91 1044.48
25.9
25.42
24.93
24.93
24.93
24.93
24.44
25.78
25.44
31.03
25.73
26.05
26.36
25.86
1090.91 1044.48
971.16
932.06
890.52
866.08
834.31
18.65
18.42
29.68
19.35
18.65
18.65
18.65
22
22.41
31.03
22.6
22
21.86
21.86
513.49
513.49
736.36
522.87
508.8
508.8
508.8
-7.97
27.46
-16.11
20.44
20.41
24.22
21.07
-93.73
323.03 -189.58
240.42
240.11
284.92
247.88
-0.0043
0.2124 -0.1307
0.2082
0.2436
0.2539
0.2208
推定不能
1 推定不能
1
1
1
1
12分
24.93
25.76
971.16
24.44
25.86
809.87
19.35
22.45
527.57
22.04
259.31
0.204
1
すると、6 分の時点の推定人数は 2 人となる。このように、
1 分間隔で室内と屋外の環境データを計測し、5 分前の
推定手順において用いられるいくつかの係数を、実態に
データと比較をしながら1分ごとに人数推定を行うとい
合わせて絞り込むことによって、正答率を高められる可
うスケッチにより Arduino を作動し、結果を記録した。
能性はある。係数の絞り込みは、本研究で開発している
■事前準備
在室人数自動推定システムを用いて実験を繰り返すこと
・換気は、窓に取り付けたファンを用い、換気量を一定
により、達成できると考えられる。
(380m3/h 程度)に保った。
・相対湿度の経時変化に対する室内物からの放湿量の割合
を表す比例定数βおよび、皮膚からの放湿量に対する着
衣時の放湿量の割合を表す比例定数γは菅原1)の実験デ
ータより引用し、β=0.68g/sec、γ=0.35339 とした。
・室内の CO2 濃度を屋外よりも 2 倍以上高い値にするた
め、石油ファンヒーターを用いて CO2 濃度を上昇させ
た後、完全に停止させてから計測を開始した。(CO2 濃
度の室内値と屋外値が近いと、計測誤差が換気量や CO2
発生量の推定値に大きく影響するため。)
・室内の CO2 濃度や温湿度の分布を一様にするため、扇
風機を用いて室内空気を撹拌させた。
4.2 実験結果および考察
実験で得られた計測値と、それに基づいて推定された在
室人数を表-4 に示す。実験にあたって、無線通信や換気量
が安定せず、また、CO2 濃度の内外差が 2 倍以上であるの
が望ましいため、人数推定のための有効な計測は 12 分間に
留まった。短時間ではあったが、Arduino および XBee によ
る環境データの計測および在室人数自動推定システムの動
作は確認できた。しかし、人数推定を行った 5 分~12 分の
8 回中、2 回は推定不能で、6 回は 1 人と推定された。在室
人数は 2 人であったので、正答率は 0%である。
正答が得られなかった要因は、実験回数が少なかった
以外には、当日の屋外風が強く、換気量を一定に保てな
かったことが考えられる。また、相対湿度の経時変化に
対する室内物からの放湿量の割合を表すβに、既往の実
験値1) を充てたことも要因の一つである。当時の実験を
行った部屋と同じ建物内、同じ材質、同程度の室容量と
いう条件ではあったが、推定を行いながら自動的に更新
される必要がある。
なお、 M の上限を下げて 305.6W/人(3.5met 相当)と
*宮城教育大学 教授・博士(工学)
**宮城教育大学 大学院修士課程
5.まとめ
本報では、無線通信を伴う Arduino を用いた在室人数の
自動推定システムが正常に動作することを示したが、実
験の結果、正答は得られなかった。改善策として、計測
値の統計処理や、推定手順における係数の絞り込みが考
えられるが、そのためには自動推定システムによる繰り
返し実験が必要である。
謝辞 本研究は、JSPS 科研費 26560031(研究代表者 菅
原正則)の助成を受けました。
注釈
1)温度センサは LM35DZ(ナショナルセミコンダクタージ
ャパン)、湿度センサは HIH-4030(Honeywell)、CO2 濃
度センサは CO2 Engine K30(サカキコーポレーション)
の公開資料による。
2)UPC2933BHB-AZ(ルネサスエレクトロニクス)
参考文献
1)菅原正則:居住者からの CO2 および水蒸気発生を利用し
た室内滞在人数の推定:日本建築学会大会学術講演梗概
集、D-2(2009-8)、pp. 801-802
2)残間洋輔、菅原正則:電子回路を用いた在室人数の推定
に関する研究:第 3 回学術・技術報告会論文集、空気調
和・衛生工学会東北支部(2014-3)、pp. 83-86
3)小林茂:Prototyping Lab「作りながら考える」ための
Arduino レシピ:(株)オライリー・ジャパン(2010-5)
4)菅原正則、籾山愛:居住者からの CO2 および水蒸気発生
を利用した在室人数推定における誤差の許容範囲:日本
建築学会東北支部研究報告集、第 75 号、計画系(20126)、pp. 247-250
5)Robert Faludi:XBee で作るワイヤレスセンサーネットワ
ーク:(株)オライリー・ジャパン(2011-11)
6)国立健康・栄養研究所:改訂版『身体活動のメッツ
( METs ) 表 』: 2012-4 改 訂 、 http://www0.nih.go.jp/
eiken/programs/2011mets.pdf(2015-4 参照)
*Prof., Miyagi University of Education, Dr.Eng.
**Graduate School Student, Miyagi University of Education