学術大会抄録集 - 新潟県言語聴覚士会

第3回
新潟県言語聴覚士会
学術大会
プログラム・抄録集
新 潟 県 言 語 聴 覚 士 会 会 長
大会長:井口光開( ゆきぐに大和病院リハビリテーション科科長 )
会
期:平成 27 年 5 月 31 日(日)
会
場:燕三条地場産業振興センター メッセピア
大会長挨拶
学術大会を通して可能性を広げよう
新潟県言語聴覚士会
会長 井口光開
第3回新潟県言語聴覚士会学術大会開催にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
今年の開催は、交通や会場の利便性と予算を考え昨年と同様に会場を三条市の「メ
ッセピア」といたしました。本大会も 3 年目となり、大会運営に関わる準備も比較的円滑
に進めることができました。また、発表演題も例年になく幅広い領域から集まり、これもひ
とえに大会役員と会員の皆様の御協力あってのものと感謝しております。このことも踏ま
え、将来、会員数がさらに増えた場合、地域活性化の意味で県内を4ブロック(新潟市・
上越・中越・下越)に分け、地域の先生方よりご協力を得て、年ごとに開催地を変えるこ
とも考えております。今年は、基礎講座 2 講座、専門講座、一般演題 14、企業展示の
他、ランチョントークと題して、日頃県士会運営に関わっている先生方と会員の意見交
換の場を設けました。是非、日頃の臨床の悩みや職能活動に関するご提言などお聞か
せいただければ幸いです。
さて、今年の介護保険改正は、包括ケアシステム構築に向け、特に地域支援事業に
おいて、大きくリハビリテーション専門職の可能性が広がる内容となりました。我々リハビリ
テーション専門職へ求められるニーズが、これまでと違った新たなステージに入ったと考
えます。当県士会は PT、OT 士会との連携を軸に県や他の職能団体と協力し、地域包
括ケアシステム構築に向けた種々の事業に参画しております。今後は是非、本学術大
会の機会を活用し、心身・機能障害だけでなく、「職種連携」、「活動・参加」「自立支
援」、「介護予防」などをキーワードに、幅広い視点で ST の活動を捉えた発表を期待して
おります。また、各市区町村で活躍されている諸先生方におかれましては、特に介護予
防事業に関わる実践報告なども発表いただき、広く会員への啓発につなげて頂けたらと
考えております。
最後に、社会システムの転換期において、職能団体として、また個々の ST として、必
要な資質が問われています。兎角、「小児と成人」、「医療と介護」、「病院と在宅」など
各々が働いている分野のみに興味が向きがちですが、働いている環境にのみ焦点を当
てた自己研鑚では、自己の持つ可能性を狭めてしまう恐れがあります。自身と違うフィー
ルドでご活躍されている先生方の見識や他領域の知識を吸収することで、2 倍、3 倍に
も自身の資質や ST の職域を広げる可能性が広がります。是非、本学術大会が、皆様に
とって可能性を広げる一助になることを期待しております。
1
目 次
大会長挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
会場案内図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
大会スケジュール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
参加者の皆様へ(諸注意/参加費など)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
専門講座 司会:佐藤卓也先生 (新潟リハビリテーション病院)
13:00~15:00
「言語聴覚療法とワーキングメモリ」
講師:吉村貴子先生 大阪医療技術学園専門学校・・・・・・7
ランチョントーク
12:05~12:45
「地域包括ケアシステムの中で、今 ST に何が求められているのか」
井口光開 市立ゆきぐに大和病院 リハビリテーション科・・・・・・8
「言語聴覚士の義務と職業倫理について」
小林優紀江 済生会三条病院 リハビリテーション科・・・・・・8
「摂食嚥下障害支援の質−介護保険の現場で問われる言語聴覚士の質−」
池浦一樹 らぽーる新潟 ゆきよしクリニック・・・・・・8
一般演題 会場 1
摂食・嚥下障害 座長:神田知佳先生 (新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)10:00~10:50
① 気管切開患者に対する嚥下訓練の経験
―カフスボタン型カニューレの有用性に関する考察
田村俊暁 小千谷さくら病院・・・・・・9
② 輪状咽頭筋弛緩不全を呈した非 Wallenberg 症候群患者の一例
―経鼻栄養チューブ挿入下でのバルーンカテーテル拡張法の実施―
後藤佑介 新津医療センター病院・・・・・・10
③ 超音波画像診断装置による嚥下時食道動態測定の試みとその有用性
佐藤厚 新潟リハビリテーション病院言語聴覚科・・・・・11
④ 嚥下調整食が必要な摂食嚥下障害者の退院支援
―積極的な家族指導と心理的側面へのサポートー
松田貴幸 総合リハビリテーションセンターみどり病院 リハビリテーション科・・・・・12
⑤ QOL 向上に向けた他職種連携による在宅支援の取り組み
ディサースリアと嚥下障害を呈した利用者との長期の関わりを通して
福島弘数 介護老人保健施設みさと苑・・・・・13
2
目 次
調査・報告
座長:伊原武志先生 (長岡赤十字病院)
11:00~11:30
⑥ 新潟県における人工内耳装用児者の検討
大平芳則 新潟リハビリテーション大学 医療学部・・・・・14
⑦ ST のモバイル端末・アプリケーションの使用状況と今後の展望における考察
阿志賀大和 明倫短期大学・・・・・15
⑧ 新潟県言語聴覚士会平成25年度会員実態調査報告(調査部)
金子弘子 介護老人保健施設エバーグリーン・・・・・16
一般演題 会場 3
高次脳機能障害① 座長:堂井真理先生(総合リハビリテーションセンターみどり病院) 10:00~10:30
⑨ 失語症及び情報処理速度の低下を認めた 2 症例
ー自動車運転再開までの経過ー
宮澤さやか 新潟リハビリテーション病院言語聴覚科・・・・・17
⑩ 注意障害を主体とする高次脳機能障害を呈するも自動車運転再開の合否が異なった 2 例
中澤理恵 新潟リハビリテーション病院言語聴覚科・・・・・18
⑪ 家族指導に難渋した重度運動性失語例
小柳佳与 新潟リハビリテーション病院言語聴覚科・・・・・19
高次脳機能障害②
座長:長谷川里佳先生(立川総合病院)
10:40~11:10
⑫ 右小脳梗塞、左後頭葉梗塞により漢字の純粋失書を呈した症例
大湊佳奈子 総合リハビリテーションセンターみどり病院 リハビリテーション科・・・・・20
⑬ 文字カードと絵カードのマッチング課題に関する考察
村越友紀 立川メディカルセンター 悠遊健康村病院・・・・・21
⑭ 左前頭葉病巣による書字障害・タイピング障害が中核症状となったブローカ領域失語の一例
河野晃子 新潟リハビリテーション病院 リハビリテーション部・・・・・22
3
メッセピア会場案内図
-アクセス-
燕三条地場産業振興センター
JR 上越新幹線三条駅(燕側出口)から
徒歩 5 分
北陸自動車道三条燕 IC から車で 5 分
〒955-0092 新潟県三条市須頃 1-17
TEL: 0256-32-2311(代)
5階
4階
会場 3
会場 1
会場 2
会場 1 5 階 総 合 研 修 室
会場 2 5 階 ミーティングルーム
会場 3 4 階 大会議室
4
第3回 新潟県言語聴覚士会学術大会スケジュール
会場1
会場2
会場3
(5階 総合研修室)
(5階 ミーティングルーム)
(4階 大会議室)
9:30
9:55
10:00
9:30
開会式
摂食・嚥下障害
座長:神田知佳先生
10:30
演題:①②③④⑤
10:40
10:50
11:00
11:10
11:30
調査・報告
座長:伊原武志先生
演題:⑥⑦⑧
12:05
参加受付
10時以降の参加受付は
5階ロビーで行います。
受付は15時で終了です
ランチョントークも
同じ会場で受付けます
伊藤綾子先生
10:00
10:30
10:40
高次脳機能障害②
座長:長谷川里佳先生
11:00
演題:⑫⑬⑭
11:10
ランチョン
トーク
受付
ランチョン
トーク
企
業
展
示
井口光開先生
小林優紀江先生
池浦一樹先生
12:45
基礎講座3
『職種間連携』
高次脳機能障害①
座長:堂井真理先生
演題:⑨⑩⑪
基礎講座4
『言語聴覚療法
の動向』
井上真一先生
12:10
12:45
13:00
13:00
専門講座
『言語聴覚療法と
ワーキングメモリ』
吉村 貴子先生
司会:佐藤卓也先生
15:00
15:00
休憩・総会準備
15:20
15:20
平成27年度
新潟県
言語聴覚士会総会
16:25
16:35
閉会式
16:35
5
参加者の皆様へ
《参加者の皆様へ》
※学術大会(専門講座、基礎講座、ランチョントーク)の事前申し込みは必要ありません。
※JAS(日本言語聴覚士協会)の会員で、専門講座または基礎講座を受講される方は、当日『生涯学習受講記録
票』を必ず持参してください。
※専門講座および基礎講座については JAS 生涯学習ポイント取得対象の研修会ですが、両方受講されても参加
証明書の発行は 1 枚のみとなります。
※一般演題は JAS 生涯学習ポイント取得対象ではないため、参加証明書の発行はいたしません。
※参加受付は 9 時 30 分より開始いたします。10 時 00 分までは会場 1 にて、それ以降は 5 階ロビーにて行いま
す。なお受け付けは 15 時 00 分で終了します。
※事前に「第 3 回学術大会参加票」に必要事項を記入の上、当日会場に持参し受付にお渡しください。
※参加費については、下記の表をご覧ください。
《ランチョントーク参加者の皆様へ》
※ランチョントークの受付は学術大会参加受付と別です。お弁当を先着 30 名に 500 円で販売します。
《発表者の皆様へ》
※発表時間 7 分、質疑応答 3 分です。時間厳守にご協力ください。
※一般演題で発表される先生方は、事前に複数の PC で動作確認を行ってください。
※一般演題で発表される先生方は、当日、発表用スライド(パワーポイント Ver 2003 以降)のデータのみが入った
USB フラッシュメモリーをお持ちください。
※発表者は当該セッションの開始 30 分前までに、必ず演題発表会場前で PC 受付を済ませて下さい。
※必ず事前にウイルスチェックを行ってください。
※データのファイル名は『演題番号・氏名』としてください。
※音声ファイルは wav、mp3、wma のいずれか、動画ファイルは mp4、wmv、mts のいずれかで保存してください。そ
れ以外の保存形式では再生されない可能性があります。
※動画を使用される先生におかれましては、事前に下記問い合わせ先にご連絡ください。
問い合わせ先: [email protected] (担当:木戸病院 本田 俊一)
※Mac をご使用の先生は、各自で PC、ケーブルアダプタをご用意ください。
※一般演題の発表につきましては、JAS 生涯学習の症例検討・発表の対象とはなりません。
※発表後はセッション終了後に座長より発表証明書をお受け取りください。
第3回新潟県言語聴覚士会 学術大会 参加費
生涯学習 参加費
新潟県士会員・準会員・賛助会員
他県 ST、他職種
参加費
新潟県在住・在勤で非県士会員の ST
学生
4,000 円
500 円
2,000 円
※新潟県在住・在勤の ST で新潟県士会員でない方のみ 4,000 円、学生の方は 500 円となります。
※学術大会では、生涯学習講座(基礎講座・専門講座)および一般演題を開催します。
参加される内容にかかわらず(一部でも全てでも)、上記のいずれかの金額となります。
6
生涯学習専門講座
「言語聴覚療法とワーキングメモリ」
大阪医療技術学園専門学校
吉村 貴子
認知処理との関連において,短期記憶の概念から,ワーキングメモリ(Working
Memory ; WM)(Baddeley & Hitch, 1974)が提唱されました。WM は,高次の認知活
動の遂行に必要不可欠で,記憶した内容を検索し,参照することにより,現在の活動
遂行を支えることに深くかかわります(苧阪,2002)。
WM には一時的に情報を保持する音韻ループと視空間スケッチパッドがあり,この 2
つの従属システムをコントロールするのが,中央実行系(central executive)です。さら
に,長期記憶からの情報の検索に関するエピソード・バッファー (episodic buffer)
(Baddeley, 2000)が提唱されています。
神経心理学的症例に WM を測定する二重課題やリーディングスパンテストなどを実
施しますと,中央実行系の障害に因る可能性を示す報告もされています。
今回は,WM の機能の概要を示し,その障害として失語症と認知症を例にあげて,言
語聴覚療法に WM の概念をどのように活用できるかについてお話します。具体的には,
失語症と認知症の症例に実施した WM の各評価結果から,各症例に WM を測定する
際の留意点をまとめます。さらに,WM の訓練に関する失語症と認知症での報告を基
に,神経心理学的症例に対する WM に焦点を当てた訓練についての考察を述べる予
定です。
7
ランチョントーク
「地域包括ケアシステムの中で、今 ST に何が求められているのか」
井口光開(市立ゆきぐに大和病院 リハビリテーション科 科長)
今年の介護保険法改正において,一般介護予防事業の中に新たに地域リハビリテーション活動支援事
業が加えられた.これは,平成 24 年2月 17 日の社会保障と税の一体改革において閣議決定された.地
域包括ケアシステムの構築に向け,リハビリテーション専門職への期待が大きく反映したものと言える.他の
職種と比べ未だマンパワーも不足し,医療中心で働いている ST が多い現状で,県士会には職能団体として
の「力量と存在意義」が,個々の ST には「資質と意欲」が問われている.今回,この事業に関するこれまで
の県士会の取り組みや,私の勤務する南魚沼市での活動を例にあげながら,今後,大きく変わる社会シス
テムの中で,「今 ST に何が求められているのか」をお話ししたい.
「言語聴覚士の義務と職業倫理について」
小林優紀江(済生会三条病院 リハビリテーション科)
言語聴覚士法にも規定のある『守秘義務』ですが,「言語聴覚士なら当たり前」と認識していることと思いま
す.IT が普及し誰もがあらゆる情報を気軽に入手できる時代となり,個人情報の取り扱いも,これまで以上
に細心の注意を払う必要があります.
『守秘義務』に限らず,臨床あるいは日常生活の中でも,自分が普段問題ないと考えている様々な行為
が,本当に社会的に問題がないかどうか,省みる必要があるかもしれません.当日は,このような『守秘義
務』や『職業倫理』について,改めて一緒に考えて頂きたいと思います.
「摂食嚥下障害支援の質−介護保険の現場で問われる言語聴覚士の質−」
池浦一樹(らぽーる新潟 ゆきよしクリニック)
介護保険が開始となり 15 年が経過し,主に病院で行われていた摂食嚥下障害者支援が在宅においても
同様に行われるようになってきている.ゆきよしクリニックにおいては言語聴覚士による訪問リハビリの指示が
ある約7割の者に摂食嚥下障害を認めるという結果となっている.このように,言語聴覚士の介護保険下で
の需要が向上している反面,言語聴覚士の一人職場や訪問に出ると一人になってしまうという問題点もあり,
各個人の経験のみが知識となっているのではないかと懸念の声もある.また,病院では行われているような
摂食嚥下障害の症例検討会が介護保健下では皆無といっていい状態であり,早急に教育を整える必要が
ある.そこで,新潟市内で有志により行われている地域摂食嚥下症例検討会や Everyday 食べる会の報告
を行う.
8
一般演題①
気管切開患者に対する嚥下訓練の経験
―カフスボタン型カニューレの有用性に関する考察
田村俊暁1
小千谷さくら病院1
月低栄養と誤嚥性肺炎,多発性脳梗塞,喉頭麻
痺の診断で気管切開.
カニューレ:単管カフなしスピーチ型.
会話明瞭度:2/5(軽度の声量低下,軽度の発
話の短いとぎれ)
.
ADL:ほぼ全介助,経鼻栄養.
経過:H26 年 12 月当院入院.当初経口摂取は行
っておらず,VF にて喉頭拳上範囲・速度の低下,
咽頭残留,嚥下前中後の誤嚥を認めたものの準
備~口腔期が良好であったことから昼の少量の
軟飯開始.
同時に ST 介入開始.
頻度は 4 日/週,
40 分.開口・挺舌訓練,喉頭周囲のモビライゼ
ーション,冷圧刺激を中心に行った.カニュー
レの変更までは嚥下困難を訴え食事も 3~4 口
で終了していた.食後ムセ込みがあり気管孔を
解放すると米粒が吹出してくる状況であった.
しかし,ボタン型に変更した直後に米粒の吹出
しは無くなり,徐々にムセの減少と摂食時間の
短縮を認めた.介入中に RSST は 1 回/30 秒か
ら 2 回/30 秒に改善.
はじめに
気管切開患者の嚥下障害に関して,一方行弁
やカフの有無については多くの報告がなされて
いるが,気管内管のあるスピーチカニューレか
らカフスボタン型カニューレ
(以下,
ボタン型)
への変更による嚥下状態の前後変化について検
討した報告は見当たらない.
今回,重度の嚥下障害を呈した気管切開患者
に対して,ボタン型への変更と間接訓練を実施
したところ,一部経口摂取が可能となった 2 例
を経験したため経過を報告する.
倫理的配慮
対象者に書面および口頭にて同意を得た.
症例
【症例 1】60 代男性.
現病歴:H5 年に球脊髄性筋萎縮症と診断.H23
年に胃瘻増設.H25 年 12 月に誤嚥性肺炎の診断
と窒息のリスクから気管切開.
カニューレ:複管カフ付スピーチ型.
会話明瞭度:2.5/5(重度の開鼻声,軽度の構
音の歪み)
.
ADL:一部介助,移動は車椅子自走,胃瘻.
経過:H26 年 3 月当院入院.ゼリーの摂取を試
みたが長時間要し,摂取後に吸引を行うとゼリ
ーがそのまま引ける状態であった.そこで,カ
ニューレをボタン型に変更し,翌日に吸引回数
は減少.VF にて喉頭拳上範囲・速度の低下,鼻
咽腔閉鎖不全,咽頭残留などを認めたが,明ら
かな誤嚥は認めなかった.
この時点で ST 介入開
始.介入頻度は 4 日/週,40 分.喉頭周囲のモ
ビライゼーション,舌の後方移動抵抗訓練,冷
圧刺激を中心に実施.介入当初ゼリー1 カップ
の摂取時間は 40 分程.
その後 2 週間ほどで徐々
に短縮し 15 分程で摂取可能となる.介入中に
RSST は 2 回/30 秒から 7 回/30 秒に改善.
【症例 2】70 代女性.
現病歴:S55 年に痙性対麻痺と診断.H26 年 8
考察
ボタン型への変更は,カフなしスピーチ型で
誤嚥がないことを確認してから行うことが一般
的だが,今回の 2 例は変更直後に誤嚥が減少し
た.また,その後徐々に摂取時間が短縮した.
これらの結果は,ボタン型への変更と適切な時
期の間接訓練の効果を示唆するものと思われた.
特に,カニューレ変更が気道感覚閾値,声門
下圧に,間接訓練が摂食スピードに効果を示し
たのではないかと推察された.
また,従来カニューレは気管と軟部組織を固
定し喉頭拳上を阻害するとされており,スピー
チ型に比してボタン型の方が構造上固定力に優
れ,その点に関して不利と思われた.しかし,
今回は,変更後いずれも喉頭拳上の低下を認め
なかった.従って,構造上の明らかな違いであ
る内管の有無が,喉頭拳上などに関与している
のではないかと考えられたが,今回の経過のみ
では断定できず今後の検討を要する.
9
一般演題②
輪状咽頭筋弛緩不全を呈した非 Wallenberg 症候群患者の一例
―経鼻栄養チューブ挿入下でのバルーンカテーテル拡張法の実施―
後藤佑介
新津医療センター病院
1.はじめに
4.訓練経過
今回,輪状咽頭筋弛緩不全を生じた非
Wallenberg 症候群の症例に関わった.症例は高
齢であることから家族が胃瘻造設を拒否したた
め,経鼻栄養チューブを挿入した状態でバルー
ンカテーテル拡張法(以下,バルーン法)を実施
した.その結果,実用的な経口摂取が可能となっ
た症例の経過について報告する。
1)訓練第Ⅰ期(40 病日~70 病日)
40 病日,間接嚥下訓練中心に介入.口腔ケア,頸
部リラクゼーション,呼吸訓練を実施.
63 病日,14Fr 球形バルーンを使用し,バルーン
法実施.間欠的拡張法,持続拡張法を 2cc より開
始.直接嚥下訓練としてトロミ水を摂取.
2)訓練第Ⅱ期(71 病日~101 病日)
70 病日,直接嚥下訓練としてゼリー 2 個摂
取.4cc の間欠的拡張法,持続拡張法を実施.
80 病日,昼食のみ高カロリーゼリー3 個摂取.
5cc の間欠的拡張法,持続拡張法を実施.
3)訓練第Ⅲ期(102 病日~132 病日)
101 病日,昼食にミキサー食,夕食に経口濃厚流
動食を摂取となり,1 日 2 食となる.8cc の間欠的
拡張法,持続拡張法を実施.109 病日,朝食に経
口濃厚流動食,昼食にミキサー食,夕食に高カロ
リーゼリー3 個摂取となり,1 日 3 食となる.
120 病日,ミキサー食 3 食開始.経口から必要栄
養量確保可能となり,経鼻栄養チューブ抜去.バ
ルーン法は 16fr 球形バルーンを用い,嚥下同期
引き抜き法,間欠的拡張法を 4cc より実施.
2.症例
年齢:80 歳代 性別:男性 利き手:右手
主訴:バナナが食べたい 現病歴:X 年 8 月腰痛,
嘔吐出現し,A 病院に入院.3 病日,癒着性イレウ
スの診断がされ,剥離術実施.6 病日,両側の誤
嚥性肺炎発症.経鼻栄養チューブ挿入となり,ST
による直接嚥下訓練開始となった.33 病日,当
院に加療,嚥下リハビリ目的で入院となった.
既往歴:陳旧性脳梗塞,糖尿病,高血圧
神経学的所見:左片麻痺 Br,stage:上肢・手指
Ⅳ、下肢Ⅲ 神経放射線学的所見:CT にて前頭
葉の萎縮,右被殻に低吸収域が認められた.
ADL:移乗は部分介助で可能.介助歩行は 45M 以
上可能.その他の ADL は全介助.
5.考察
3.評価
今回の症例より,経鼻栄養チューブが挿入さ
れた状態であっても,バルーン法は輪状咽頭筋
弛緩不全の改善に期待できる事が示唆された.
喜多ら(2014)は輪状咽頭筋弛緩不全を生じ
た非 Wallenberg 症候群に対しバルーン法を実
施し,実用的な経口摂取に至るまでの訓練期間
を平均 3.2±2.35 週であったと報告している.
今回,症例は実用的な経口摂取に至るまで平均
よりも訓練期間を要した.その原因として,栄養
滴下時間が日中の大半を占めており,バルーン
法の試行回数が十分でなかった事,経鼻栄養チ
ューブ挿入下でのバルーン法の実施であり,十
分な負荷をかけることが困難であった事の二点
が原因として大きいと考える.
発声発語器官:筋力,筋緊張,運動範囲など明ら
かな低下認められず,発話明瞭度は 1~2.
高次脳機能:HDS-R ;20/30 見当識,短期記憶,知
的柔軟性低下あり.FAB;8/16 知的柔軟性,反応
の選択,行動抑制低下あり.
摂食嚥下機能:MWST;3 FT;3 RSST;3 回/30 秒
VF(39 病日);嚥下反射は咀嚼,液体嚥下とも梨
状窩で生じ,遅延あり.輪状咽頭筋弛緩不全によ
り,食道通過は液体嚥下でも極少量の通過.嚥下
後,両側梨状窩に多量の残留あり.吸気にて嚥下
後誤嚥あり.誤嚥時に咳嗽反射あるが,喀出は不
十分.バルーン法実施後,食道通過量増加し,ト
ロミ水は残留,誤嚥なく嚥下可能.
10
一般演題③
超音波画像診断装置による嚥下時食道動態測定の試みとその有用性
佐藤厚1,5, 小股整2, 石川未和 3, 今井信行 4
新潟リハビリテーション病院言語聴覚科1, 同 リハビリテーション科2,
同 健康管理センター3, 同 歯科・歯科口腔外科 4, 新潟リハビリテーション大学 5
はじめに
摂食嚥下障害に対する画像診断においては各
検査ごとに欠点、利点がある。嚥下造影:VF は被
爆や移動が困難、嚥下内視鏡:VE は侵襲的で苦
痛、嚥下時にホワイトアウトを生じる、といった欠
点を有しているが、超音波画像診断装置(以下 US)
を用いた嚥下機能評価は、他の評価法に比べ非
侵襲的、無被爆な方法として知られている。今回
我々は US を用いて、健常者における上部食道の
動態を水平断方向 M モードで測定し、その有用性
について検討するとともに、実際の症例を撮影す
ることによってその運用の可能性について考察し
た。
結果
統計の結果から、被験者年齢と開大時間との間
に正の相関傾向を認めた。低年齢群と高年齢群
間および男女間において開大時間、移動距離、速
度の平均値に有意差は認められなかった。
摂食嚥下障害患者施行例
【症例 1】76 歳女性、脳出血にて右片麻痺、失語
症、摂食嚥下障害を後遺。食思低下の著明なタイ
プであり、口腔内に食物を貯めてしまう。72 病日
US 施行。
【症例 2】83 歳女性、脳出血にて左片麻痺、発声、
構音障害、摂食嚥下障害を後遺。全量経管栄養
から 41 病日に直接訓練開始、その後昼食のみソ
フト食 1/2 量摂取を開始した頃の 87 病日及び摂
取量を増加した 143 病日に US 施行。
対象および方法
健常成人30名(男性14名・女性16名、年齢24~73
歳・平均45歳±15.52)に対し、USを用い水平断方
向で上部食道を描出(図1)、ゼリー飲料5ccを嚥
下した際の食道開大を動画およびMモードで評価
した。描出結果は直接印象を評価し、
図1. 輪状軟骨直下上部食道描出画像
考察
前
R
気道
を測定した。Mモード測定回数は7回とし、被験者
ごとに最大最小値を除いた5回の平均値を求め
た。測定値から被験者の年齢と各変数の相関係
数を算出し、また低年齢群(50歳未満)、高年齢群
(50歳以上)間と男女間での各変数の平均値の差
を検定した。
嚥下時食道動態に対する US 評価は渡邊らの報
告があり、その有用性が期待されている。US での
上部食道動態は水平方向での描出も可能だが、
数値としての指針を得るにはまだ今後の蓄積を要
するだろう。しかし、今回得られた動画での直接印
象によって今後診断の材料にできる可能性は示
唆されたと思われる。
今回の調査から、食道動態を把握するために
US は矢状方向、水平方向を組み合わせた三次元
的な運動理解が可能なことや、その利便性からも
有用な嚥下評価法の一つにしていける可能性が
ある。
今後は健常者及び症例に対する評価結果を蓄
積し、評価としての施行基準や判断の指標を確立
することが課題と思われる。
L
食道断面
Mモードにて食道前壁における開大開始から最大
開大時までの時間(開大時間)、移動距離、速度
11
一般演題④
嚥下調整食が必要な摂食嚥下障害者の退院支援
―積極的な家族指導と心理的側面へのサポート―
松田貴幸1, 堂井真理 1,江口郁代 2,風間恵子 3
総合リハビリテーションセンターみどり病院
総合リハビリテーションセンターみどり病院
総合リハビリテーションセンターみどり病院
リハビリテーション科 言語療法部門 1
リハビリテーション科 2
栄養科 3
【はじめに】
今回,退院後嚥下調整食が必要であった患者
を担当し在宅での必要なサービスの検討・退院
調整に関わる機会を得た.在宅での食生活を支
援する上での問題点について報告する.
【症例】
70 代,男性.X-5 年にパーキンソン病の診断
をうける. X 年 10 月,自宅にて転倒.疼痛が
増強した為,7 日後 A 病院受診.左大腿骨転子
部骨折の診断にて同日 B 病院へ転院.14 日後骨
接合術施行.22 日後リハビリ目的で当院入院.
PT・OT 情報より,麻痺は見られないものの,上
部体幹~頚部の可動性低下,体幹~下肢の筋力
低下を認めた.FIM は 43(運動 30,認知 13)
,
Hoehn-Yahr 重症度分類では stageⅤ.身長 150
㎝,体重 44.3 ㎏で BMI19.7,ALB3.5,TP6.4 で
あった.
コミュニケーション面では,日常会話の理解は
可能.表出は,重度開鼻声・構音の歪みにより
発話明瞭度 4/5,発話自然度 2/5.MPT は 6.9sec
であった.
嚥下機能面では RSST 2 回/30 秒,MWST では Gr4
で一口に対し 3~4 回の複数回嚥下が必要であ
った.喉頭位置は相対的に下降位.藤島嚥下
grade7,ペースト食で 3 食とも経口摂取可能で
あった.VF 検査所見では喉頭蓋谷~食道入口部
咽頭残留,喉頭侵入を認めた.
【経過】
①訓練は,鼻咽腔閉鎖・喀出力向上目的に
Blowing 訓練,舌骨上筋群の筋力強化目的に開
口訓練,頸部周囲のリラクゼーション・可動域
拡大目的に頚部の可動域訓練等を 1 回 30 分,2
ヶ月にわたり実施した.2 ヵ月後の再評価時に
は MPT10.8sec・RSST3 回/30 秒と全般的に嚥下
12
機能の向上が見られたため,VF 検査を実施して
みるも,嚥下動態の変化は認められず誤嚥所見
も見られた.退院後を想定した際,肺炎を起こ
すリスクが高いこと,また病前の食形態摂取は
困難と判断した.
②自宅退院を目標とし,ペースト食の状態で在
宅に戻るには,嚥下調整食の調理が必須であっ
た.
主介護者である妻は姑の介護も行っており,
二人の要介護者の介護に不安や負担を感じてい
た.また初めて嚥下食を調理することになり調
理への戸惑いや時間・手間がかかるのではない
かという不安も感じていたため,当院管理栄養
士と連携し調理指導を複数回実施した.加えて
ST では在宅での自主トレの説明,食事の介助方
法及び注意点の説明,嚥下機能の説明,ペース
ト食の調理練習を実施した.
③原疾患の進行及び相対的な活動量の低下によ
り今後嚥下機能の低下が懸念されたため,複数
の在宅サービスを検討したが,地域のサービス
資源の状況から,実際にはある程度限定された
サービスのみの利用となり,デイケアの利用と
PT・OT による訪問リハビリの設定となった.そ
の後,情報収集する中で栄養ケアステーション
と電話によるサポート体制を作ることが出来た.
【まとめ】
介護者は在宅介護に対し不安が多いもので
ある.今回,摂食嚥下障害患者様の自宅退院を
調整するにあたり,患者様自身の介入だけでな
く,家族への教育・指導など心理的サポート体
制を整え,入院中から自宅に戻った場面をイメ
ージした介入を行うことの重要性を感じた.そ
れら具体性を示すことで,自宅で介護出来るか
もしれないという自信を高めることに繋がると
考える.
一般演題⑤
QOL 向上に向けた多職種連携による在宅支援の取り組み
ディサースリアと嚥下障害を呈した利用者との長期の関わりを通して
福島弘数1, 高橋卓2,井口光開3
介護老人保健施設みさと苑1, 県立十日町病院2,南魚沼市立ゆきぐに大和病院3
てアドバイスが欲しい.
」発話明瞭度の向上・安
全な食事摂取を目標に口腔運動,発声練習を中
心に ST 介入開始.
デイサービス利用中も介護職
員による嚥下体操・発声練習を行った.また,
嚥下状態・食事形態の注意点・トロミの必要性
についてデイサービス・家族へ伝達を行った.
2015 年 1 月時点で MPT13 秒と延長し,発話の短
い途切れ・気息性嗄声が改善し,発話明瞭度 1
と実用性が向上した.一方で嚥下障害は残存し
2013 年下旬・2014 年下旬・2015 年上旬に誤嚥
性肺炎にて入院となる.2015 年 3 月家族・病院・
デイサービスとのサービス担当者会議にて,
粥/
ミキサー食へ形態の変更・在宅生活時のトロミ
の使用の確認を行う.
【はじめに】
当施設では施設サービスの他に通所リハビ
リ・訪問リハビリ・短期入所サービスを通じて
在宅生活支援を行っている.短期入所サービス
を通じ他施設との連携を図った結果,特に発話
面の機能改善につながり,結果として症例の
QOL 向上を図ることができた.今回,本ケース
を通じた在宅支援の課題や対応方法を整理し,
在宅支援における ST の役割や必要性について
報告する.
【症例】
[症例]80 歳代男性.介護度:要介護 4.障害
老人の日常生活自立度:B2.認知症老人の日常
生活自立度:Ⅰ.
[既往歴] 2000 年脳梗塞発症.2006 年多発
性脳梗塞発症(小脳梗塞)
.脊柱管狭窄症.2011
年ラクナ梗塞発症.2012 年下旬アテローム血栓
性脳梗塞発症.小脳失調,左片麻痺.
[ADL]起き上がり・移乗・移動は全介助.食
事・寝返りは一部介助.在宅生活では週 5 回他
施設のデイサービス,
週 1 回の訪問診療を利用.
[初期評価]痙性・失調性ディサースリア,摂
食嚥下障害.発話明瞭度 3.5.MPT4 秒.気息性
嗄声・発話の短い途切れあり.嚥下反射タイミ
ングの障害により飲食物・唾液によるムセあり.
[食事形態]施設:粥/一口大食 ポタージュ
状のトロミを使用. 自宅:常食/常菜 トロミ
使用せず.
【経過】
2013 年 5 月より,家族の介護負担軽減,ST・
PT リハビリを目的に月 1 回(4~5 泊程度)当施
設短期入所サービス利用開始.ST へのニード
「もっと声の通りを良くしたい.
」
「食事につい
13
【考察】
本症例に関して①ST 介入頻度の確保困難②
在宅生活時の情報の不足③安全な食事に関して
デイサービス職員・家族の認識不足④入院時の
担当医と在宅時の主治医の意見の相違が課題で
あった.課題解決に向け在宅 CM・デイサービス
職員・家族に対して ST の評価結果・訓練方法に
ついて伝達し介護職員による訓練を行なった.
また在宅時・デイサービス利用時の情報も収集
し短期入所時の訓練・指導に反映させ多職種と
の情報の共有を図る必要があった.
【まとめ】
利用者の QOL 向上に向けた取り組みとして多
職種連携が重要であり,結果としてコミュニケ
ーションの機能的改善が図られたことは,本利
用者にとっての QOL 向上に寄与出来たと言える.
一方,食事援助(嚥下機能)においては,長期
支援の視点から,
今後も継続して ST が介入して
いく必要がある.
一般演題⑥
新潟県における人工内耳装用児者の検討
大平芳則1,2, 泉 修司 2, 窪田 和 2, 堀井 新 2
新潟リハビリテーション大学 医療学部1, 新潟大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2
2011
2012
2013
2014
合計
【はじめに】
本邦において、人工内耳(CI)の埋め込み術が
医療保険の対象となったのは 1994 年であるが、
そ
れ以来、CI を装用する患者は増加の一途をたどっ
ている。本県においては、2000 年 5 月に新潟大学
で県内初の手術が施行されて以来、装用者は 100
例を超えるまでになった。
およそ 15 年間にわたる
新潟県の CI 医療について、
現状を報告するととも
に、その問題点と対応策を考えたい。
【対象】2000 年 5 月~2014 年 12 月までの 14 年 8
か月の期間に、
新潟大学で CI の埋め込み術を受け
た全患者 104 人を対象とした。その内訳は、男 43
人、女 61 人、手術時年齢は 1 歳 2 か月~87 歳で
あった。
【方法】
新潟大学の電子カルテおよび CI マッピン
グソフトウエアから、生年月日、手術施行日を抽
出し、年ごとの症例数、年齢別の症例数をカウン
トした。
【結果】
年ごとの症例数(小児成人別)を表 1 に、手術
時年齢ごとの症例数(男女別)を表 2 に示す。
西暦
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
6
3
5
3
52
12
9
13
10
104
表 2 手術時年齢別の症例数
手術時年齢
男
女
合計
1歳
6
6
12
2歳
7
13
20
3歳
3
3
6
4歳
3
1
4
5歳
4
3
7
6歳
0
0
0
7-12 歳
1
2
3
13-18 歳
2
1
3
19-29 歳
1
1
2
30 代
4
6
10
40 代
3
4
7
50 代
1
5
6
60 代
5
9
14
70 代
3
5
8
80 代
0
2
2
合計
43
61
104
【対象および方法】
表 1 年別の症例数
0-17 歳
18 歳以上
0
4
0
7
1
2
0
0
4
2
2
3
2
3
2
4
4
1
6
3
4
6
6
6
8
7
52
【考察】
装用者が増えるにつれ、十分な人員が確保でき
ないため、
新潟大学の CI 外来はほぼ飽和状態とな
っている。そのため、中越地区の医療機関に CI
担当医師が週に 1 回赴き、そこでもマッピングを
行なう態勢を築きつつある。本県の地理的条件を
考慮すると、今後さらに広い地域に広げることが
必要であろう。
術後の聴覚(リ)ハビリテーションは、特に言
語獲得前の小児では極めて重要である。現在は新
潟・長岡の聾学校がその支援を行なっているが、
量的に限度があるのも事実である。今後、医療機
関の言語聴覚士による CI 装用児への支援を検討
していくべきである。
合計
4
7
3
0
6
5
5
6
5
9
10
14
一般演題⑦
ST のモバイル端末・アプリケーションの使用状況と今後の展望における考察
阿志賀大和1,2, 笹岡岳3,小島香4
明倫短期大学1 新潟リハビリテーション大学2, 元 大西脳神経外科病院 言語療法室3
国立長寿医療研究センター リハビリテーション科4
はじめに
2010 年の iPad の登場以来,モバイル端末(端
末)の普及や数多くのアプリケーション(アプ
リ)の開発が進み,医療や福祉分野で用いられ
ている.ST 領域においても例外ではなく,様々
なアプリが用いられ始めており報告も増えてい
る(Elizabeth L.H;2014,Gretchen S;2014,
青木ら;2014)
.しかし,端末やアプリの使用状
況は明らかではないため,言語聴覚療法におけ
るアプリの使用状況についてアンケート調査を
行い,今後の展望も交え考察した.
機能性に関する回答が最も多く、デメリットは
「使いなれない人も多い」といった適応に関す
るものが最も多かった。アプリ使用群の 87%は
今後も使用していきたいと回答した.
表 1 所属機関別アプリ使用割合
医療所属
介護所属
アプリ使用 アプリ未使用
55(62.5)
138(130.5)
24(16.5)
79
p<0.05,オッズ比:0.45
27(34.5)
165
合計(人)
193
51
244
( )内の数値は理論値
考察
対象および方法
対象:本研究の主旨に同意が得られた現職の
言語聴覚士(ST)
.方法:メールまたは郵送にて
アンケートを配布し,回収した.アンケート実
施期間:2014 年 11 月 20 日~12 月 15 日.統計
解析:GraphPad Prism5J を用い,有意水準は 5%
未満とした.
結果
247 名より回答が得られた(男:女=103:142
(無回答 2 名)
,平均経験年数:9.0 年)
.回答
者の内訳は医療分野 74%,介護分野 20%,その他
6%であった.
対象領域は多い順に摂食嚥下障害,
失語・高次脳機能障害,発声発語障害,言語発
達障害,聴覚障害であった.端末・アプリを使
用している者(使用群)は 32%で,平均使用ア
プリ数は 3.4 個であった.使用群と未使用群の
間に経験年数の有意差は認めなかった
(p=0.192,
Mann-Whitney 検定)
.領域別では言語発達障害
で使用割合が最も高く(55%)
,聴覚障害(43%)
が続いた.所属機関別アプリ使用率は,医療領
域 28%,介護領域 47%で,医療領域は介護領域に
比べ有意にアプリ使用率が低かった(p<0.05,
オッズ比:0.45(0.24-0.84)
,Fisher の正確確
率検定)
【表 1】
.使用のメリットは携帯性や多
15
結果より,アプリ使用は 32%にとどまり,領
域や所属機関で差があることが明らかとなった.
しかし,使用群の多くが今後も継続して使用す
ることを希望しており,その有用性がうかがわ
れた.今後,専門性の高いアプリの開発が進む
ことで使用率の低い領域においても症例に適し
たアプリの使用や使用法の工夫によって,有用
な訓練道具・教材になりうると考えられる.
現在,電子カルテの普及や ICT を活用した地
域医療連携システムも充実しつつあることから,
今後は端末を使用した患者情報の情報更新・共
有も進むことが予測される.しかし,所属機関
ごとで使用率に差があり,そのためには端末の
普及がさらに進む必要がある.また,メリット
として携帯性が高いことを挙げた回答が最も多
かったが,携帯性が高いことは紛失・盗難のリ
スクも孕んでいる.
また,端末はインターネット
環境下での使用も想定され,情報管理面の整
備・強化が必要となる.
まとめ
端末やアプリのデメリットやリスクも踏まえ
たうえで,
症例に合わせて使用することにより,
ST 領域においても有用な道具として今後も普
及する可能性がある.
一般演題⑧
新潟県言語聴覚士会平成25年度会員実態調査報告(調査部)
金子弘子1, 深沢治2
介護老人保健施設エバーグリーン1, 黒崎病院2
介護保険領域では介護予防事業に取り組んでい
る施設が 37.5%となっていた.臨床実習につい
ては受け入れ施設は前回3割弱から4割に増え
ているものの1~2名の少人数の受け入れが過
半数を占める.
はじめに
超高齢社会を迎え,地域社会での医療や介護
の在り方が問われている昨今,私たちが働く社
会はめまぐるしく情勢を変えている.言語聴覚
士(以下 ST)は,医療,福祉,教育など種々の
領域において,多職種連携の観点より活用が求
められている.新潟県言語聴覚士会(以下県士
会)では,4 年ごとに会員実態調査を行い,県
士会活動に役立てている.今回平成25年9月
に実施した会員実態調査の結果をもとに県士会
の課題を整理し,今後求められるであろう県士
会活動について考察を加え報告する.
2.個人調査では県士会登録会員数 312 名中,
回収数は 148 通,回収率 47.4%であった.会員
数が前回よりも大幅に増加し,中でも男性の比
率が増加した.日本言語聴覚士協会への登録状
況は 10%以上の増加を認めた.県士会活動への
参加については会員数の増加に比べると横ばい
の状態であった.災害協力については 96%の会
員が協力してもよいと考えているが,内容によ
っては協力したいが半数以上を占めている.
目的
新潟県内の ST の現状を把握すること,県士
会の運営に会員の意向を反映させていくこと,
そして国や県のニーズに対応できる県士会の組
織作りを行うことを目的に実施した.
まとめ
前回結果と比較して,ST の所属施設は介護保
険領域の施設・一般診療所・事業所などの増加
が特徴的である.これは増加し続ける高齢者が
病院以外の施設や地域に大勢対象としているこ
とを反映しているといえる.国の施策である地
域包括ケアシステムの中でも医療・福祉・介護
の地域連携が期待されており,より生活の視点
で介入していくことが求められ,リハビリ専門
職への期待が高まっている.
また災害対策,認知症リハビリ,がんのリハ
ビリ,高次脳機能障害支援,学校教育連携など
様々なトピックスがあり,他団体との外渉渉外
業務や連携を求められる機会が増え ST の活躍
の場が急速に拡大している.今後も社会からの
信頼を得ながらリハビリテーション専門職であ
る ST の認知度を広めることや,
種々の資質を有
した人材育成を行うことが必要と考える.しか
し,他県と同様に研修会への参加率や参加層の
偏りが問題となっており,研修会を企画・運営
する上で配慮すべき点が増えている.今後は,
さらに会員への周知方法やニーズ把握に努め,
時勢に応じた研修会の開催と参加率向上につな
げていきたいと考える.
方法
平成 25 年 9 月までに県士会に入会した会員
所属施設 136 施設,県士会登録会員 312 名に無
記名式郵送調査にてアンケートを依頼.1つの
施設につき代表者 1 名が回答する代表者調査と
個人の会員がそれぞれ回答する個人調査の 2 種
類を実施した.
結果
1. 代表者調査では県士会員所属施設数 136
施設中,回収数は 89 施設,回収率は 65.4%で
あった.
ST の所属施設の種別は病院が 56%と半
数以上を占め,次いで老人保健施設が 30%,一
般診療所が 4%という順であり,施設や地域で
活躍している ST が増加していた.ST 対象者の
年齢区分では成人対象が 58 施設(65%)
,次い
で就学前・後が 8 施設(9%)
,全年齢層対象は
14 施設(22%)であった.摂食嚥下については,
VF・VE 検査での検査件数の増加や NST 委員会の
実施施設の増加を認めた.
16
一般演題⑨
失語症及び情報処理速度の低下を認めた2症例
―自動車運転再開までの経過―
宮澤さやか1,橋本一穂1,佐藤卓也1,村山拓也2,小股整3, 﨑村陽子3
新潟リハビリテーション病院言語聴覚科1, 新潟リハビリテーション病院作業療法科2
新潟リハビリテーション病院リハビリテーション科3
はじめに
今回,失語症及び情報処理速度の低下を認め
たものの,自動車運転再開に至った2症例を報
告する.
症例紹介
【症例 1】56 歳 男性 右利 教育歴 12 年
職業:自営業
現病歴:X 年 Y 月 Z 日脳梗塞発症.右片麻痺,
中等度運動性失語あり.発症 17 日当院転院.
頭部 MRI 所見:左前頭・頭頂葉白質を中心に梗
塞巣を認める.
神経学的所見:右片麻痺
(Br.stageⅥ-Ⅵ-Ⅵ)
ADL:歩行自立,セルフケア自立
神経心理学的所見:中等度~軽度運動性失語,
注意障害,情報処理速度低下.
WAB 失語症検査:
(発症 3 ヶ月)AQ68.6,
(発症 9
ヶ月~)
.MMSE:23/30.BIT:140/146(通常検
査のみ実施)
.TMT:A100 秒,B331 秒.BADS:行
為計画検査 4/4,鍵探し検査 4/4.
WAIS-Ⅲ:VIQ91,
PO103,PS54.CPT:SRT309.0m 秒±48.2,X574.3m
秒±69.5,AX551.1m 秒±81.8.
Rey 複雑図形検査:copy 33/36,recall 20/36.
自動車教習所評価(発症 10 ヶ月)
:動体視力:
平均,夜間視力:回復時間:やや低下,眩光下
視力:やや優れている,運転適性診断:普通,
運転行動:普通.
総合評価:全体として慎重な運転操作.安全確
認怠らずに実施可能.処理速度低下から左右の
判断が遅れ慌ててウィンカー,ブレーキ操作を
することがある.
自宅近辺での運転にとどめる事を条件に,発症
13 か月目からの運転再開となる.
【症例 2】62 歳 男性 右利 教育歴 12 年
職業:自動車整備工場管理職.定年後農業.
現病歴;X 年 Y 月 Z 日脳梗塞発症.右軽度不全
17
麻痺,右半身感覚低下,失名詞失語,近時記憶
障害あり.発症 24 日当院転院.
頭部 MRI 所見:左視床に脳梗塞を認める.
神経学的所見:右不全麻痺
(Br.stageⅥ-Ⅵ-Ⅵ)
右半身感覚障害(表在・深部感覚鈍麻)
ADL:歩行自立.セルフケア自立
神経心理学的所見:失名詞失語,
近時記憶障害,
注意障害,情報処理速度の低下.
WAB 失語症検査:
(発症 1 ヶ月)AQ78.8,(発症 2
ヶ月~)
.MMSE:23/30.BIT:144/146,81/81.
TMT:A99.9 秒,B158 秒.
BADS:プロフ得点 15/24,
標準化得点 85,年齢修正得点 88(平均下),行為
計画検査 4/4,
鍵探し検査 1/4.
WAIS-Ⅲ:VIQ89,
PIQ90,FIQ88,PO93,PS84.CPT:SRT289.8m 秒±
45.7,X690.9m 秒±151.5,AX757.8m 秒±82.0.
Rey 複雑図形検査:copy 28/36,recall 8.5/36.
自動車教習所評価(発症 4 ヶ月):動体視力:平
均よりやや低下,夜間視力:やや劣っている(回
復時間,眩光下視力とも)
.運転適性診断:同年
齢群では普通,運転行動:普通.
総合評価:全体として十分に安全確認をしてル
ールに従った運転が可能.右下肢感覚低下は視
覚情報で補うことが可能.以上より本人が危険
を認識している事から,慣れた道での運転を条
件とし自動車運転再開に至る.
考察
今回、2 症例とも失語症と情報処理の低下を認
めたが、運転実車評価を行い運転再開すること
ができた。症例の共通点は①失語症が日常会話
に支障のないレベルであること、②劣位半球症
候群と比較して病識が保たれており慎重に運転
していたことが運転再開へとつながったと考え
られた。いずれの症例も実際の運転状況下での
情報処理と機敏な対応が可能かどうかを見極め
る事が重要であり,それらの評価として実車評
価が再開を決定づける重要な要素であると考え
られる.
一般演題⑩
注意障害を主体とする高次脳機能障害を呈するも
自動車運転再開の合否が異なった 2 例
中澤理恵1,佐藤卓也1, 宮澤さやか1,村山拓也2,菊池達哉 3,﨑村陽子 3
新潟リハビリテーション病院言語聴覚学科1, 新潟リハビリテーション病院作業療法科2
新潟リハビリテーション病院リハビリテーション科 3
いずれも再開保留となっている)神経心理学的
はじめに
所見(発症 3 年 4 カ月):注意障害(分配性・持
脳血管障害発症後,注意障害を主体とする高
続性・選択性)
,情報処理速度低下,ワーキング
次脳機能障害を呈し,自動車運転再開支援を行
メモリ低下.TMT:A85 秒エラー0,B251 秒エラ
った 2 例について報告する.
ー1.CPT:SRT741.2±103.5 m 秒,X829.7±68.1
m 秒,AX896.8±63.8 m 秒.WAIS-Ⅲ:VIQ85,
症例紹介
PIQ90,WM67,PS66
【症例 1】:42 歳 女性 教育歴 13 年 右利き
院内ドライブシミュレータ所見(Honda セーフ
事務職員.現病歴:X 年 Y 月 Z 日脳梗塞発症.
ティナビ)
:情報処理速度の低下や注意障害によ
右片麻痺認める.発症 31 病日当院転院.CT 所
り,道路混雑時や慌てている際の人物・標識の
見:左側橋に病巣認める.神経学的所見:軽度
見落としあり.
右片麻痺(Br.stage:上肢Ⅲ,手指Ⅲ~Ⅳ,下肢
実車評価(発症 3 年 9 カ月)運転適性診断:普
Ⅳ)
.ADL:歩行自立,セルフケア自立.神経心
通.運転技能:やや不安.総合評価:ハンドル
理学的所見(発症 5 カ月)
:注意障害(持続性・
操作に関しては拙劣さが見られ,急カーブでは
分配性・選択性)
,情報処理速度低下,ワーキン
特に上手く曲がれずセンターラインをはみ出し
グメモリ低下.TMT:A35 秒エラー1,B89 秒エラ
たり,左側へ寄り過ぎる傾向が見受けられた.
ー0.CPT:SRT609.5±152.6m 秒,X690.3±105.1
教官の再三の指示に対しても修正することが困
m 秒, AX776.6±162.9 m 秒.WAIS-Ⅲ:VIQ105,
難であった.
よって,
今回は再開保留と判断し,
PIQ76,WM79,PS69.
経過観察後再評価となる.
院内ドライブシミュレータ所見(Honda セーフ
考察
ティナビ)
:スピードコントロール不良による衝
突事故や走行位置が中央寄りになることあり.
2 症例はいずれも神経心理学的評価では注意
実車評価(発症 6 カ月)
:運転適性診断:注意不
障害を認め,シミュレータ上では衝突事故や標
足.運転技能:普通.総合評価:実車評価では
識の見落としがみられた為,院内評価の時点で
大きな危険なく,慎重な運転が行えていた.し
は運転再開が危ぶまれた.しかし実車評価では
かし,院内検査で見られた反応速度や処理速度
一方は慎重な運転操作可能であり,一方が危険
の低下がシミュレーター検査でも見られ,咄嗟
な運転操作であった.
結果,
「条件付き運転再開」
,
の判断や複雑な状況での判断の遅れ,誤りの危
「再開保留」となる.
険あり.本人の危険認識・慎重さを踏まえ,運
症例によっては,院内評価から想定される結
転可能なレベルとは考えられるが,通勤の慣れ
果とは異なる場合もある為,神経心理学的評
た道などに限定し,交通量の多い道や初めての
価・シミュレータ・実車評価の全評価を総合し
道は避けた方が良いと考えられる.
て判断することが重要であると考えられる.
【症例 2】
:66 歳 男性 教育歴不明 右利き 農家.
現病歴:X 年 Y 月 Z 日脳出血発症.左片麻痺認
める.発症 26 病日当院転院. CT 所見:右放線
冠を中心に病巣認める.神経学的所見:左片麻
痺(Br.stage:上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅳ)
,軽度
構音障害,左顔面神経麻痺.ADL:歩行自立,セ
ルフケア自立.
(過去 1 回自動車運転評価行い,
18
一般演題⑪
家族指導に難渋した重度運動性失語例
小柳佳与1, 横野紗知1, 佐藤卓也1, 﨑村陽子 2
新潟リハビリテーション病院言語聴覚科1, 同リハビリテーション部2
はじめに
今回,重度運動性失語症例の在宅復帰に向け
て家族指導を行ったが,病状理解も含め,協力
が得られにくかった例を経験したので報告する.
症例
65 歳女性.右利き.教育歴 12 年.
家族構成:7 人家族 (夫,息子夫婦,孫 3 人).
主介護者である夫は日中廃品回収の仕事あり.
【主訴】ジェスチャーにて言葉が話せないと反
応あり.
【既往歴】高血圧症.
【現病歴】2014 年 X 月夕食の支度中に頭痛,嘔
吐あり A 病院へ救急搬送.来院時意識覚醒,麻
痺なし.頭部 CT でクモ膜下出血,3DCTA にて左
中大脳動脈瘤破裂認め,第 2 病日開頭クリッピ
ング術施行.術後軽度の右不全麻痺あったが改
善.第 9 病日頃より徐々に右不全麻痺,失語症
状悪化.脳血管攣縮の所見あり.第 52 病日リハ
ビリ継続目的にて当院転入院.
【画像所見】第 52 病日頭部 CT にて左前頭葉~
頭頂葉に低吸収域認める.
【神経学的所見】
右不全麻痺 (Br.stage Ⅳ-ⅢⅤ).感覚は表在,深部共鈍麻.
【神経心理学的所見】意識覚醒.礼節保たれ,
検査にも協力的であったが注意障害認めた.言
語機能は話量はほぼみられず,
発話は非流暢で,
努力性に比し歪みを特徴とする anarthria 認めた.
「あー」等母音の引き伸ばしや「うんうん」と
相槌が主で,時に無意味性再帰性発話認めた.
喚語困難も強く,有意味語の表出困難.ジェス
チャーも曖昧で聞き手の推測は必須であったが,
コミュニケーション態度良好.聴理解は語レベ
ルから低下で浮動的.簡単な指示でも入る時と
入らない時あり.以上より,重度運動性失語と
考えられた.WAB 失語症検査より自発話 0/20.
話し言葉の理解 3.7/10.復唱 0/10.呼称 0/10.
読み 3/10.書字 1.5/10.行為 (左手) 2.3/10.
構成 7.5/10.その他,行為課題より観念運動失
行,観念失行認めた.
19
【ADL 場面】歩行時右側を壁にぶつけること多
く,右半側空間無視認めた.また失行の影響や
状況理解の不十分さ,注意障害により ADL 全般
に介助を要す状態であった.
【経過】症例自身コミュニケーション意欲は非
常に高く,
指差しや頷き,
首振りにて訴えるが,
伝達能力は低い状態.主介護者である夫とのや
りとり上手くいかず,語気を荒げること頻回で
あった.家族に対して病状理解の促しと言語機
能改善の実感を目的に,
週 1 回程度の ST リハビ
リ場面の見学を依頼.
その後夫より「何かを伝え
ようとしているが,自分にはそれが分からない
から見て見ぬふりをしている」と発言あり,
面会
日数は減少し,面会時にも症例と顔を合わせず
に帰ることが増え,症例との関わりを避けるよ
うになった.その後家族指導行うが,夫は退院
後の具体的なイメージできず,短絡的に考えて
いる様子であったため,非同居家族にも家族指
導行った.
訓練経過としては,初期には機能訓練も取り入
れていたが机上課題は浮動的であり,明らかな
改善認めなかったため,絵の模写や歌唱等,症
例が意欲的に取り組める課題を中心に行ってい
た.入院期間の中で,状況理解向上に伴い,病
棟内であれば安全な生活を送ることが可能とな
り,入浴時の介助を除き ADL は自立となった.
しかし外泊時には,転倒や一人での火の使用も
みられた.第 212 病日に退院となり,外来継続
となった.
考察
各療法士や看護師等,スタッフ間の情報共有を
密に行い,対応等を工夫した.また,早期から
失語症の理解を得るべく同居,非同居家族へ家
族指導を行った.しかし,家族指導として症例
の現状と援助をただ伝えるだけでは家族からの
協力は得られにくく,理解不十分なまま退院と
なった.このような症例と家族に対し,ST とし
てどのように関わっていくか,若干の考察を加
えて報告する.
一般演題⑫
右小脳梗塞,左後頭葉梗塞により漢字の純粋失書を呈した症例
大湊佳奈子 1, 堂井真理 1,川村邦雄 2,工藤由理 2
総合リハビリテーションセンターみどり病院 リハビリテーション科 言語聴覚療法部門1
総合リハビリテーションセンターみどり病院 リハビリテーション科 2
はじめに
今回,右小脳梗塞,左後頭葉梗塞により多彩
な認知機能障害を持つ症例を経験した.その中
で失語を伴わない失書症状に関し,得られた神
経心理学的検査結果を考察を加えて報告する.
症例
60 歳,男性,右利き【教育歴】12 年(高校
卒)
【職業歴】電機関係会社員【既往歴】高血圧,
高脂血症,出血性胃潰瘍,肺気腫【現病歴】立
ち上がった瞬間にこれまでにない強いめまいで
発症.眼振が著明でA病院入院.右小脳梗塞,
左後頭葉梗塞の診断.
発症 47 病日で当院回復期
病棟へ入院.
所見(120 病日~)
【画像所見】右小脳に広範な梗塞巣と左側頭
葉底面から左海馬,海馬傍回,紡錘上回にかけ
て梗塞巣を認める.
【神経学的所見】右上下肢不
全麻痺(Brs:上肢Ⅵ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ)【神経心
理 学 的 所 見 】 意 識 覚 醒 .【 認 知 機 能 評 価 】
MMSE21/30 点,WAIS-Ⅲより FIQ78,
VIQ86,PIQ72.
【言語機能評価】発話は流暢,錯語なし.喚語
困難を認める.
【書字評価】SLTA に加え,STRAW
より 37 文字を実施.漢字想起困難に加え,意味
性錯書,新作漢字を認めた.自身の書字の誤り
に気付いていた.仮名は拗音での付加や置換の
誤りが多かった. 写字は漢字,仮名ともに可能
だが書字構成の不良が伺えた.検査より注意障
害,近時記憶障害,脱抑制,純粋失書を認めた.
【ADL 所見】移動は歩行器歩行自立.入浴は見
守りでその他の ADL 自立.多弁だが制止可能.
日常会話の理解は良好.
考察
本症例は若干の喚語困難を認めるものの,失
20
語を伴わない純粋失書を呈していた.特に,仮
名書字は良好であるにも関わらず,漢字におけ
る失書症状は明らかで,文字想起困難に加え,
錯書や新作文字を認めていた.
37 文字の書字評価より,エラー数は 20 字
(54.0%)であり,その内容は実在語への錯書
が 65.0%,無反応が 30.0%,新作文字が 5.0%
であった.また,実在語への錯書は形態性錯書
20.0%,意味性錯書 15.0%,類音性錯書 0%,
無関連 30.0%であった.また,この無関連の錯
書は保続反応で書かれたと考えられる文字及び
形態や音韻が類似している要素がない文字を分
類できないものとした.
これまで報告されている左側頭葉後下部損傷の
漢字の失書は無反応が多く,漢字の想起困難が
主体となっている報告例が多い.小森ら(2009)
は無反応以外の反応として新作文字が多くみら
れた症例を報告している.
本症例は形態性錯書,
次いで意味性錯書が多く,新作文字や類音性錯
書は少なかった.Weeks ら(2003)は漢字の書
き取り過程を聴覚的に提示された漢字を音韻情
報から意味情報の賦活を経て形態情報へ至る経
路と,音韻情報から直接漢字の形態情報が賦活
される経路が存在し,その後,書字運動が企画・
遂行されるとモデル化している.本症例をこれ
にあてはめると,漢字の音読と読解は可能なこ
とから音韻情報や意味情報の賦活に問題はなく,
加えて筆順や運筆は正常であることから,書字
運動の企画と遂行にも問題がないと考えられ,
本症例の漢字の想起困難は形態情報の賦活に問
題があると考えられた.
まとめ
これまでの報告では純粋失書のエラー内容ま
で触れていないものが多い.また,新作文字と
形態性錯書が生じる機序に関して,詳細に比較
検討できなかった.エラーの分析が行われるこ
とで,各処理過程に関係する脳領域を検討して
いくことが今後の課題と考えた.
一般演題⑬
文字カードと絵カードのマッチング課題に関する考察
村越友紀,久保貴哉
立川メディカルセンター 悠遊健康村病院
はじめに
失語症訓練で,絵から文字へのマッチング課
題を行なった際,文字から絵への課題に比し,
やりづらそうな印象を受けた.そこで 2 つの課
題を比較してその原因について考察した.
450
対象および方法
300
400
350
(秒) 250
対象:SLTA にて漢字・仮名単語の理解が 8 割以
上可能な失語症患者 10 名
方法:文字カード(以下 wc)と絵カード(以下 pc)
のマッチングを以下の 4 通りで実施し所要
時間を測定した.
①漢字 c→pc
②pc→漢字 c
③かな c→pc
④pc→かな c
①~④のセットを 1 回とし,1~4 回実施し
た.
手順: 机上に pc もしくは wc を 4 段×5 列の計
20 枚並べ,wc もしくは pc を被検者に 1 枚ずつ
渡し,マッチするカードの上に置いていっても
らう.誤りがあった場合はそのつど回収し,そ
のカードは最後に再度渡すこととする.
1 枚目のカードを渡してから 20 枚目のカード
を置き終わるまでの時間を測定した.なお誤り
が見られた場合には 20 枚あたりの補正値を用
いることとした.
補正値=(誤りを含む所要時間/(20+誤数))*20
200
150
100
50
誤り総数
①
②
③
④
8
17
18
19
図 1 各課題の所要時間及び誤数
には文字からその概念イメージを想起するのに
対し,手元の pc を見た時には,まずその絵から
概念イメージを想起し,呼称→文字変換といっ
た言語処理が行なわれると考える.
今回の対象患者においては,読解に比べ呼称
課題で困難を示すものが多かった.この呼称能
力の低下が pc→wc の課題に時間がかかったこ
との原因と考える.
結果
まとめ
各課題の所要時間を図 1 で示す.
Wilcoxon 検定により①と②および③と④に
1%水準で所要時間に有意差が見られた.
誤数に関しては,各課題で有意な差は見られ
なかった.
・ wc→pc と pc→wc の課題では課題遂行時間
に差がみられた.
・ wc→pc と pc→wc とではその処理過程が異
なると思われる.
・ pc→wc のマッチング課題での課題遂行時間
遅延は,患者の呼称能力の低下が原因と推
察される.
考察
wc→pc と pc→wc のマッチングで施行時間に
差が生じたことから,両課題においては,その
処理過程が異なると考える.
手元の wc を見た時
21
一般演題⑭
左前頭葉病巣による書字障害・タイピング障害が中核症状となった
ブローカ領域失語の一例
河野晃子1, 佐藤卓也1,村田翔太郎 2,﨑村陽子 3
新潟リハビリテーション病院 リハビリテーション部 言語聴覚科1,
高山赤十字病院 リハビリテーション部 2,新潟リハビリテーション病院 リハビリテーション科 3
【はじめに】今回,我々は書字障害・タイピン
グ障害を中核としたブローカ領域失語の症例を
経験したので若干の考察を加えて報告する.
【症例】
59 歳,男性,右利き,教育歴 12 年,会社役員
主訴:単語が出てこない.読めるけど書けない.
既往歴:特になし. 現病歴:言葉がうまくでな
いことに家人が気づき救急外来受診.頭部
CT,MRI で左前頭葉皮質に脳梗塞認め入院.画像
所見から心原性梗塞と診断。11 病日にリハビリ
目的に当院転入院.
頭部 MRI 所見(33 病日):左前頭弁蓋から中前頭
回を中心に高信号域を認めた.
神経学的所見:中枢性麻痺(-)感覚障害(-)
神経心理学的所見(11 病日~):意識覚醒.自
発話は流暢,努力性なし,アナルトリーなし.日
常会話レベル可能.時に迂言あり.呼称では喚
語困難,意味性錯語,保続あり.復唱は 24 音節
可能.聴理解は日常会話レベル可能.複雑文の
助詞理解低下あり.読解は文短文~長文レベル
可能.複雑文の助詞理解低下あり.書字は短文
レベル可能だが時間かかる.漢字の想起低下,
音韻性錯書,形態性錯書,仮名文字の音韻性錯書
あり.パソコン入力は短文レベル何とか可能だ
が非常に時間がかかり,音韻性のエラーあり.
WAB 失語症検査では流暢性 10,理解 8.6,復唱
9.8,呼称 8.3,読み 8.6,書字 6.1.Kohs 立方
体 IQ112.
【考察】
本症例は左前頭弁蓋から中心前回の病巣で,中
心前回は保たれており発話にアナルトリーはな
く喚語困難,文理解障害,漢字仮名の錯書,タイ
ピング障害を認めた.
ブローカ領域失語は相馬ら(1994)によって
報告されたブローカ野近傍に限局した損傷の症
例であり,発話にアナルトリーはなく,喚語困
難と文理解障害が中核症状である.本症例も病
巣はブローカ野近傍を中心とし,発話にアナル
トリーはなく喚語困難と文理解障害を認める点
で一致している.
また関ら(2000)は,中・下前頭回後部を主
体とする病巣により,失語の改善にも関わらず,
仮名の錯書が持続した 3 症例について報告して
いる.本症例の病巣も左前頭弁蓋を含んでおり,
比較的軽度の失語症状に対し仮名の錯書が認め
られるという点で一致している.
大槻(2012)は,特に左半球に関しては,中前
頭回後部損傷で書字障害が出現し,病巣がこの
部位に限局すれば,純粋失書の形となるが,実際
の臨床ではこの領域を含むもう少し広い病巣を
持つことが多いため,失語症状と合併すること
が多いとしている.Otuki ら(2002)はキーボ
ード入力の障害は,書字障害と同様に、音声言
語を変換する過程での障害とし,また大槻
(2008)は左中前頭回から弁蓋部にかけての部
位のいずれかが,音声言語をキー入力という運
動への変換に関与している可能性を示唆してい
る.今回の症例も左前頭弁蓋から中前頭回にか
けての病巣で,軽度の失語症状とともに失書が
存在し,音声言語を変換する過程の障害により
書字障害とキー入力に影響している可能性が考
えられた.
今後の失語症評価において,タイピングの評価
も必要となってくると考えられた.
【文献】
1)相馬芳明,大槻美佳,吉村菜穂子,ほか
Broca 領域失語による流暢性失語,神経内科,
41,385-391,1994.
2)
関理絵,石合純夫,小山康正,佐藤志津子,関啓
子,中・下前頭回後部病巣による失語と仮名錯書,
神経心理学,16,127—134,2000.
3)大槻美佳,前頭葉・基底核の高次脳機能障害,
高次脳機能研究,32,194-203,2012.
4)OtukiM.,Soma,Y.,Syoji,A.,etai,:Distypia:
Isolated typing impairment without aphasia,
aparaxia or visuospatial impairment.
Eur.Ndurol.,47:136-140,2002.
5)大槻美佳,前頭葉,基底核の高次脳機能,高次
脳機能研究,28,163-175,2008.
22
賛助会員
福祉・労災指定:各種車椅子・座位保持装置・ベッド
コミュニケーションエイド・福祉機器一般
介護保険レンタル・介護住宅リフォーム相談
㈱ G・T・B
(オーエックス新越)
〒 956-0017
新潟県新潟市秋葉区あおば通
2 丁 目 28-27
TEL 0250 -25-2626
FAX 0250-25-7710
http://www
.gtbniigata.jp/
23
主催 新潟県言語聴覚士会
大 会 運 営 :第3回学術大会実行委員会
阿志賀大和、大平芳則、蓮子浩行、
本間桜、佐藤卓也、五十嵐武士、
飛田靖人、本田俊一、宮下亜衣、
藤間紀明
新潟県言語聴覚士会ホームページ
http://www.niigata-st.org/
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