消化器・肝胆膵内科 排便の状態にあらわれる 疾患のサインを見逃さない 消化器・肝胆膵内科部長 内科統括部長 中村 武史 下痢や便秘にも種類がある ヒトの体では、飲食による水分と、唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液などの消化液を合わせ た約 10 リットルの水分が、毎日消化管に流れこみます。そのうち 80~90%が小腸で吸収 され大腸では残りの水分のほとんどが吸収されて便となって排出、正常便は水分を 70~ 80%含んでおり、これより水分が多いと下痢、少ないと便秘となります。 急な下痢の原因としては、暴飲暴食や細菌、ウイルスによる感染症(食中毒)や抗菌 薬などの薬の飲みすぎが考えられます。慢性の下痢の原因としては、特殊な腸炎、乳糖不 耐症(※)、慢性膵炎や、胃の手術後などが挙げられます。軽度の下痢はこまめな水分 補給と休息でほぼ収まりますが、発熱やおう吐を伴う激しい下痢や原因不明の下痢、症状 が長引く場合は医療機関を受診してください。 便秘の種類は大別すると、大腸の疾患(腫瘍や閉塞)による器質性便秘と、消化管の 機能が低下している機能性便秘の 2 つがあります。慢性便秘の多くは機能性便秘で、腸の 蠕動運動や腹筋力が弱いために起こる弛緩型、便通を我慢しすぎて便意を感じなくなる直 腸型、大腸がスムーズに動かない痙攣型があります。 便秘対策には十分な水分と繊維質の食事がポイントです。朝食後がもっとも便意が起こ りやすいので、朝食後はできるだけゆったりと排便しましょう。それでも解消されない場合は、 薬による治療が必要です。病院で処方する便秘薬・酸化マグネシウムは、大腸内の浸透 圧を高めることで水分を引き出し、便を軟らかくするため、習慣になりにくく自然な排便が得 られます。ただ、腎臓が悪い場合などは注意が必要です。市販薬には腸を無理に動かし便 を排泄させるタイプ(刺激型下剤)もあるので、一時的には効いても、長期に常用すると 腸の働きが落ち自力での排便が困難になることがあります。慢性便秘の場合はまずはきちん と調べ、医師の指示を仰ぐことをお勧めします。 ※乳糖分解酵素欠乏により乳製品を分解できない状態 大腸がんは進行するまで症状がない、進行すると 下痢や便秘を繰り返す 最近、下痢や便秘が続く過敏性腸症候群が増えています。先進国に多く見られ、日本の 働く人口(20~60 歳)の 15%が過敏性腸症候群との報告もあります。原因としてストレ スがあることがわかってきました。ゆっくり排便する時間がないことも拍車をかけています。男性 は下痢型、女性は便秘型が多く、下痢・便秘混合型の人もいます。男性の場合、激しい 腹痛を伴う下痢を生じるので受診されますが、女性は単なる慢性便秘と思い放置されるこ とが多いようです。治療は腸神経に作用する薬が効果的ですが、ストレス解消が症状緩和 につながることはいうまでもありません。 大腸がんは下痢と便秘を繰り返す病気として知られていますが、それはかなり進行して腸 神経に障害が出ている状態です。初期はほとんど症状がなく、進行するにつれ便に血が混じ る、便が細くなるといった症状が出てきます。早期発見には便潜血検査が有効で、陽性の 場合、二次検査として大腸内視鏡検査を受けます。当科では年間約 2700 件近い大腸 内視鏡検査を実施しており、新病院になってからは更衣室を増設するなど、検査を受けや すい環境づくりにも努めています。大腸がんや大腸ポリープは遺伝性が高いため、家族に罹 患者がおられる場合は、大腸内視鏡検査を一度受けていただきたいものです。下痢や便秘 はとかく我慢しがちですが、重篤な疾患が隠れていることもあるので、ぜひ早めの検査を心が けてください。 <排泄の異常・消化器・肝胆膵内科でわかるおもな病気> 過敏性腸症候群 大腸がん・大腸ポリープ
© Copyright 2024 ExpyDoc