九州大学病院 光学医療診療部 九州大学病院 光学医療診療部

九州大学病院 光学医療診療部
九州大学病院 外観
光学医療診療部スタッフ
で臨床工学技士が1名、他スコープの洗浄要員が1名いる。
西日本有数の検査数を誇る
伝統の内視鏡室
年間検査件数は2003年度で9,300件以上と西日本でトップ
クラスの件数を誇っており、1日の検査件数も平均30∼40件、
九州最大の都市である福岡市中心部に近い九州大学病院
多い日は60件以上になる。また、ダブルバルーン式小腸内視
は九州随一の長い歴史をもつ大学病院であり、診療圏は主
鏡、内視鏡的粘膜下層剥離術など最先端の内視鏡検査・治
に福岡市の東部地区となる。
療のほか、研究面では工学部などと協同でバーチャル内視
内視鏡室はそれまで、検査部に属し、血液・細菌・心電図検
鏡、内視鏡下マイクロトランスデューサーの開発などに取り組
査などとひとまとめの形で行なわれていたが、平成11年4月に
んでいる。さらに学外に対しては北九州という地理的・歴史
1つの独立した診療単位に改め、所属診療科に関係なく協同
的に周辺のアジア諸国と交流がある利を活かし、韓国をはじ
運営することになった。
「特定の診療科がリーダーシップを取る
めとするアジア諸国との学術交流を積極的に推進している。
ようなことがなく、広く各科に開かれた部門でありたい」
というの
旧内視鏡室ではあまりにも狭いため、廊下にストレッチャー
が現在の部長、田中雅夫氏の運営理念である。現在のスタッ
を持ち出して、リカバリーベッドとしたこともあったというが、
フは部長(第一外科 田中雅夫教授)
、副部長、助手の3名以
現在の場所に移ってスペースは約4倍になったという。現在、
外に医員が4名(医師は計7名)
、看護師が2名、曜日毎の交代
診療を行なっているスペースは元々ICUがあった場所で7台
の検査台が並んでいてもかなり広く見えるが、平成18年4月に
過去3年間の検査・治療別件数・患者数推移
項
目
は新病院に移る予定で現在よりもさらに1.5倍広い1,000m2と
2001年
2002年
2003年
なり、検査台も1台増えて8台になるという。新病院の光学医
上部消化管
5,287
5,627
6,080
療診療部では患者のプライバシーを重視して、それまでのカ
下部消化管
1,624
1,733
2,124
胆膵
322
372
394
呼吸器
579
635
722
7,812
8,367
9,320
642
621
807
患者総数
うち治療
ーテンで仕切られた検査台から、個室形式などアメニティ向上
を重視することが予定されている。
Doctor Interview
韓国 漢陽大学との交流
実際の動画像を見ることにより、容易に理解することがで
きます。光ファイバーを使ったインターネットの画像では、自
光学医療診療部 医員
分がその場にいるかのようなリアルさで実際の手技を見る
本 田 邦 臣 先生
ことができます。このシステムを利用した内視鏡の研修、画
像診断、内視鏡的治療の即時中継などの展開が期待でき
ます。しかも国際電話回線よりも通信料金は遙かに安価で
■韓国 漢陽大学と内視鏡画像を共有
すし、機材も通常レベルのコンピューターで十分です。
副部長の清水先生がアメリカ留学時代に今の漢陽大学
■韓国の消化器専門医との交流
病院長と同じ研究室に学んでいたことと、本学の工学部が
光ケーブルを使って国際的なデータ交換の試みをしていた
本院には韓国からのフェローシップとして、3名の消化器
相手が、たまたま漢陽大学であったことがきっかけで遠隔
専門医が研修を行ないました。研修の目的は内視鏡技術
医療による日韓の交流が始まりました。
全般ですが、特に日本の最新技術として消化管の早期癌
に対して行なわれている内視鏡的粘膜切開・剥離法
(ESD)
通常のインターネットでやり取りされる動画の画質(0.4メ
を習得することに熱意を持っているようです。
ガ)
は医療用としては遙かにレベルが低く、内視鏡画像で
消化器領域において日本と韓国の大きな相違点と感じ
見る粘膜の微細な変化や、神経、血管像を再現できませ
んが、大容量・超高速の光ケーブルインターネット
(30メガ)
るのは、韓国では消化器専門医が胃や大腸のバリウム検
を使えば、内視鏡医がモニターで見ている画質そのままの
査などのX線検査をせず、全て放射線科医が行うという点
解像度で送受信することが可能です。内視鏡的治療につ
や、内視鏡検査の際に基本的に鎮静剤を使う点が挙げら
いては、論文を読んでもなかなかイメージが湧きませんが、
れます。また、Evidence Based Medicineの意識を常にも
っていて、治療法を
選択するにしても、ど
ちらが有意差をもっ
上部胃腸管の内視鏡検査に対する同意書
===============================================================================
登録番号: 患者様氏名: 性別:男 /女
年齢: 才
て効果があったかと
診断名:
検査名: 検査医:
上部胃腸管の内視鏡検査は、食道や胃或いは十二指腸に発生する様々な種類の疾患(例:胃
癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道炎など)
を診断するのに最も基本的な検査です。上部胃腸
管造影術のような放射線検査とは異なり、内視鏡検査では、異常所見が発見されれば、
より
正確な診断のために即時に組織検査、ヘリコバクター感染の診断のための検査、色素散布
いうことを 聞 か れ 、
我々にとってもいい
刺激になっています。
などの追加的な検査を行なうことができます。診断のための内視鏡検査は、
よく行われる検査
ですが、稀に合併症が発生することもあります。内視鏡検査のために使用する様々な薬物に
より、じんま疹、喘息などの過敏反応、不整脈や心筋梗塞症などの心血管系統の合併症、
低酸素症や吸引、肺炎などの呼吸器系統の合併症、発熱や敗血症などの感染症、出血、
穿孔、腹痛などが発生することがあります。合併症の発生を防ぐためのあらゆる措置を取って
おり、内視鏡室にはこのような合併症に対して備えた様々な装置が配置されております。万一、
緊急の事態が発生した場合は、本院の医療スタッフはその解決に最善を尽くしますが、稀に
合併症により入院、あるいは手術などの治療を受けなければならないこともあります。
私(または代理人) は、上部胃腸管の内視鏡検査に対して施術の必要性、
検査施行過程、検査後に発生しうる合併症と後遺症およびこの検査方法以外の代替検査
方法について、医師 から説明を聞いており、その内容を理解しています。
したがって私は、貴病院に、上記の検査の実施を、書面をもって要請します。そして、既往症
などにつき下記に誠実に記入します。
薬物アレルギー:有/無
高血圧:有/無
脳梗塞およびその他の血管疾患:有/無
呼吸器疾患:有/無 前立腺肥大症:有/無 緑内障:有/無
その他の疾患や現在服用している薬物があれば空欄にお書きください。
患者様(または代理人)の住所
氏名 (印)(患者様とのご関係: )
立会人 氏名 (印)
200 年 月 日 病院長殿
韓国 漢陽大学病院での
内視鏡検査インフォームド
コンセント用紙(左)
と
日本語訳(右)
Doctor Interview
診療科間の壁がなくなり、待ち時間、残業の軽減にも効果
光学医療診療部 部長
(第一外科教授)
光学医療診療部 副部長
(助教授)
田中 雅夫 先生
■光学医療診療部独立によるメリットは
清水
光学医療診療部としての独立により、従来に比べて
診療各科間の風通しが非常によくなりました。従来の診
療体制は1週間を各科毎に割り当てていたのですが、1
つの組織になったことで診療枠の配分がずっとフレキシ
ブルにできるようになりました。
田中
こうしたことは各科の緊密な連携が取れるようにな
清水 周次 先生
ングされ、端末で自由に参照できるだけでなく、使用
薬剤、検査内容、診断結果を含めたレポーティングま
でがデータ化されます。
■リスクマネージメントの取り組みについて
ご紹介ください
田中
光学医療診療部というより、病院全体の管理として、
って初めて可能になったことで、それが最大のメリット
キシロカインスプレーやプレメディの注射はアレルギーの
だと思います。また、そうした診療体制の改善によって、
有無を入力しないとオーダーできないようになっていま
患者さんの待ち時間が短縮され、スタッフの残業も減り
す。また、リスクマネージメントについての院内セミナーな
ました。移転予定の新病院では、診療スペースがさらに
ども年に5、6回開催しています。
広くなり、患者さんにとって精神的に非常に良い影響が
当部門関連としては、業者が設定を変更したために自
あると思います。
動洗浄機が規定よりも短い時間で運転が止まってしま
また、自分たちの考えでソフト・ハード両面の改善
うとか、緊急内視鏡を行った患者が翌日になってHIV
を計画的に実行できるようになりました。経費面でも
感染者と判明した事例があります。当部門ではすべて
直接病院側と交渉できますから、以前よりも予算を獲
の患者について、スコープの徹底消毒を行なうという
得しやすくなったと思います。現在の計画では、気管
規定がありますので、幸い二次感染を防ぐことができ
支鏡の感染対策を施した検査室の設置が予定されて
ました。
清水
います。そのほかに内視鏡画像のファイリングシステム
も更新されます。単に内視鏡画像が自動的にファイリ
■今後の課題としてはどのようなことが
ありますか
清水
人的な課題としては、年間1万件近い検査件数に
対し、看護師が2名というのはあまりに少なすぎますし、
事務職員もいないので、受付、検査室への誘導、電話
の応対なども看護師が行っており、患者サービス面で
改善すべきと考えます。
田中
内視鏡技師についても、せっかく看護師さんが内
視鏡技師の資格を取っても配置転換でほかの部署に
行ってしまうということがあり、有用な人材の適所への
配置という観点からは問題があります。
Doctor Interview
ダブルバルーン式小腸内視鏡の導入
た。これはトライツ靱帯の先までゾンデを送り込み、バルー
光学医療診療部 助手
矢田 親一朗 先生
ンを膨らませて固定。直接バリウム・空気を挿入し、胃透視
と同じように空気の二重造影を行って、診断する方法です。
この方法は小腸の精密検査として、かなり診断精度が高い
方法です。
■最新の内視鏡検査について
今、こちらで行われている最新の内視鏡検査の1つはダブル
一方、ダブルバルーンは病変を実際に確認できる点と生
検、ポリペクトミーや出血に対する焼灼、クリップなどが行え
るというメリットがあります。
バルーン式の小腸内視鏡です。頻度としては、週2∼3例くらい
で、今年の春から実施しています。主な適用は出血例での原
因検索や小腸ポリープの術前診断などです。現段階では主に
診断的に行なっていますが、止血などの治療も始めています。
■従来法と比べたダブルバルーンの利点
一般的に行なわれていたのは経口小腸X線検査です
が、小腸ゾンデによる二重造影法なども行なわれていまし
■小腸検査におけるリスク対策
小腸に関しては、検査時間の上限を1時間前後とし、患者
さんに負担を掛けないようにしています。また、検査時は軽
度の麻酔を掛け、血圧、心電図、酸素飽和度等をモニター
します。穿孔などの危険性は否定できませんが、スコープの
進み具合、硬さ、X線透視下でスコープの曲がり具合に注意
しながら実施しています。
Doctor Interview
研修資材・情報公開としてのホームページ活用
光学医療診療部 医員
高橋 誠 先生
最近のトピックスでは、小腸内視鏡や細径上部内視鏡な
どが新たに導入されましたので、このことなども検査を受けら
れる方に広くアピールしていきたいと考えています。
ホームページを閲覧していただいた方が、どのように受け
取られているのかが分かりませんので、現在その意向が反
■研修資材としての側面
学内向けのページでは、最近問題になっている内視鏡検
査時の同意書や、光学医療診療部に関するトピックスなどを
映できるような方法を模索しています。
■ホームページの立上げ秘話
( 浜の町病院 外科
川本 雅彦先生より )
掲示し、院内の方々に活用していただいています。また研修
「光学医療診療部」
というまだ歴史の浅い診療部門につ
資材の内容については、毎週行われているスタッフの会議
いて、その特性や診療内容を世間に広く認知していただく目
で検討し、随時更新していくようにしています。
的で開設しました。閲覧性の良さを最重視してフォーマットを
■情報公開としての側面
が十分な時間が取れなかったのが残念です。おかげさまで
検査を受けられる方に、安心して検査を受けて頂くため、
検査前に必要な処置や検査の流れなど分かり易く掲示して
います。
また待合室にはホームページをプリントアウトしたものをファ
イルにして置いており、こちらも検査待ちの方に自由に閲覧
して頂いています。
作成しています。デザインをもっとカッコ良くしたかったのです
Yahoo!(Google)
の「光学医療診療部」での検索で1位・2位
にランクされるようになりました。ソースの中心キーワードとして
「光学医療診療」
をうまく入れていることや、Yahoo!に推薦文
を投稿したことが効いているのかもしれません。
ホームページアドレス
http://www.med.kyushu-u.ac.jp/endosc/
●
DIGSCOPE :内視鏡学の研究と発展を意味する造語
DIGは消化管(DIGESTIVE ORGANS)
と研究する
(DIG)の2つの言
葉から、SCOPEは内視鏡(ENDOSCOPE)からきている。
看護師に聞く
転倒・転落リスクをカラーシールで表現した検査順番表
在の精神状態などをいかに確実に把握するかが一番の
ポイントだと思います。看護師が代わった場合にも、患
看護師長
者さんについての注意事項が確実に伝わる方法はない
秋好 美代子 さん
かと考えて、現在の形になりました。
■問診票の作成とそのメリットについて
秋好
当初は問診票を使用することで、作業量が増加す
るのではないかという懸念がありましたが、安全面で事
前に患者さんの状況をより確実に把握するために不可
副看護師長
欠であること、リスクマネジメント上も記録が必要であると
後藤 龍子 さん
判断し作成しました。
後藤
従来から、患者さんの基礎疾患、前処置薬の禁忌
などは口頭でダブルチェックしていたのですが、記録に
■患者情報の共有化について
残すことが医療安全管理において重要になってきていま
秋好
す。もう1つは患者さんがいろいろなことを書いてくださる
検査別・検査順に担当医師名、患者さんの氏名、
処置名、前処置のチェック、検査台番号などを記した通
ので、コミュニケーションが取りやすく、患者さんの思いが
常の順番表に、患者さんの転倒・転落リスクや介助のポ
理解できるようになりました。
イントを色別に表した丸いカラーシールを貼るようにしまし
秋好
口頭で確認していた頃は、患者さんもゆっくり話せ
た
(写真下)
。身体的に問題がある方は赤、意志疎通困
ない状態だったのですね。書いてくださった内容を読む
難な方は青、精神的に問題がある方は黄色、視力障害
と、今までこちらが十分聞いてあげられていなかったと
がある方は緑で表します。
反省しています。当初の予想以上に「患者さんの気持
後藤
介助の際に、身体面のサポートが必要なのか、メン
タルのケアが必要なのか、特に気を付けなければいけな
いポイントが識別できます。
秋好
内視鏡検査の看護では患者さんの基礎疾患、現
ちを引き出すツール」
としても有効だと評価しています。
■問診票で高血圧をチェック
後藤
血圧と心臓の病気は結びつくことが多いので、二重
チェック的な意味で入れてあります。血圧が高い場合、
心臓に異常がある可能性もあるからです。
銀行などで見かけるあと
何人待ちかを表わした番
号。患者さんだけでなく医
師も患者さんの待ち状況
を把握できるので便利。
当部門が編纂したガイドブック。
「内視鏡
検査・治療・ケアがよくわかる本」照林社
臨床工学技士に聞く
日々のメンテナンスがトラブルを未然に防ぐ
臨床工学技士
定松 慎矢さん
臨床工学技士
三島 博之さん
■内視鏡検査室での役割
峰
機器の保守点検、スコープ等の故障の修理・管理、ス
臨床工学技士
峰 慎太郎さん
いように気を付けています。
峰
スコープを格納庫に収納する際には、スコープ自体に
コープについての情報提供などです。具体的には診療
テンションが掛からないようにし、格納前には感染予防
開始前にスコープの始業点検があります。また、検査中
対策として鉗子口から消毒用アルコールを吹き付け、内
の機器のトラブルについては、その場で対応しますが、
部を短時間で乾燥させ、格納庫の下に敷くタオルも頻
手に負えないものはメーカーに依頼します。
繁に取り替えるようにしています。また、気管支鏡では
小野
始業点検は送気・送水、吸引、フリーズなどの操作
これまでディスポの吸引口および鉗子口のキャップを付
確認とレンズが曇らないためのレンズクリーナー塗布、
けたまま保管していたのを、使用直前に装着するように
ホワイトバランスの確認などが含まれます。
変更することで、より清潔を保つようにしました。
三島
日常のメンテナンスをきちんとせずに、検査中不都
合が起こった場合、一番苦しむのは患者さんです。始業
■内視鏡関連での関心事項
点検はそのようなことを防ぐ意味で最も重要なことと認
中島
識して実施しています。
内視鏡というのは一見単純な検査に見えますが、
勉強していくと大変奥が深い検査なので興味のあるこ
■故障の種類、原因の中で頻度の高いものは
とはたくさんあります。また、ドクターの目から見た患者
さんの疾患的な部分に関しては私たちにはわかりませ
一番多い故障は、鉗子や注入針を使う際、鉗子口
んので、疾病関係の勉強や、スコープを通じた感染症
の中に穴があくというもので、鉗子や注入針を使うとき
という面で細菌についての知識など高めたいと思って
に完全に閉じていないことが原因です。そのほかには
います。
定松
スコープ先端をぶつけ、被覆しているゴムに亀裂が入る
ことも多いです。また、洗浄の際に漏水コネクタを閉め
忘れて内部に水が入ってしまうこともあります。
■メンテナンスでの注意点、保管上のルール
■他施設の臨床工学技士の方との
交流はいかがですか
岩下
内視鏡室へ来てまだ4か月くらいで、そういう経験
はありませんが、同じ職種同士の情報交換は必要だと
佐々野 検査中に故障が起きないために始業点検を行う
思います。共通の話題について話をして、その中で互
ことと、その日の検査終了後に必ず漏水の点検をしてい
いに学んでいくことで、いいものは採り入れることがで
ます。それとスコープを持ち歩く際には過度に屈曲しな
きると思います。
臨床工学技士 小野貴司さん
臨床工学技士 佐々野浩一さん
臨床工学技士 中島緑子さん
臨床工学技士 岩下邦夫さん
CODE GL(1)
069
2004年 月作成