収穫指数(harvest index) 収量を、単位面積あたり全乾物重と収穫指数

栽培学
008-1
収穫指数(harvest index)
収量を、単位面積あたり全乾物重と収穫指数の2つの要素に分けて考える見方
収量=全乾物重×収穫指数
乾物(dry matter):植物体重から水分の重さを引いたもの。つまり主として光合成産物で、一部は土壌
から吸収したミネラル。全乾物重は個体全体の乾物重(ただし、通常、根は含まな
い)
収穫指数(harvest index)=収穫部位の乾物重/全乾物重
全乾物重は生物学的収量(biological yield)、収量は経済学的収量(economic yield)とも呼ばれ、収穫指
数は経済学的収量が形成される効率といえる
このような見方に立てば、収量の向上は
単位面積あたり全乾物重の増大
および/または
収穫指数の向上
によって可能といえる。
イネ収量の歴史的な向上過程を振り返ってみると、全乾物重、収穫指数のいずれもが増大しており、両
者の効果によって大幅な収量向上が実現されている。
単位面積あたり全乾物重
=1 日あたり単位面積あたり乾物重増加×生育期間長
=個体群生長速度×生育期間長
=CGR(crop growth rate)×生育期間長
よって、CGR が大きく、生育期間の長い作物は高収量となるポテンシャルを持っているといえる
同一作物種では晩生品種の方が早生品種より収量が高い傾向にある。これは生育期間長の効果によ
る。
しかし、品種が固定された場合(例えばコシヒカリ)、出穂の時期は栽培技術的に変えることはできな
い(施設園芸作物ならば温度や日長処理により可能)。
栽培期間長は、イネの場合、出穂の時期によってほぼ決まり、出穂の時期は日長と温度の2つの環
境要因を感じとる遺伝的性質によって決まるから。
よって、ある品種の収量を増加させようとする場合は、CGR を増大させる必要がある。
CGRを増大させるには
CGR は 2 つの要素に分解される
CGR
[g/m2/day]
=
NAR
×
[g/m2/day]
LAI
[m2/m2]
NAR=純同化率(単位葉面積あたりの乾物重増加速度:net assimilation rate)
LAI=葉面積指数:leaf area index
1m2 の耕地に生育している作物の葉面積が何 m2 かを示す値
NAR は単位葉面積あたりの乾物重増加速度だから、光合成の能率の尺度の一つといえる。
栽培学
008-2
ただし、NAR は葉の光合成速度ではない
乾物重増加速度=光合成速度-呼吸速度
=(総光合成速度-葉の昼間の吸速度)-(葉の夜間の呼吸速度+葉以外の呼吸速度)
=純光合成速度-植物体の呼吸速度*
(*葉の昼間の呼吸速度は除かれている)
よって、NAR は葉の純光合成速度が高いほど、また、植物体の呼吸速度が小さいほど大きくなる。
純光合成速度 net photosynthetic rate(見かけの光合成速度 apparent photosynthetic rate)
=真の光合成速度(true photosynthetic rate)
-暗呼吸速度(dark respiration rate)
-光呼吸速度(photorespiration rate)
NAR の構成要素の純光合成速度は、真の光合成速度、暗呼吸速度、光呼吸速度の 3 要因で決まる。
純光合成速度は、葉の窒素濃度(葉緑素含量)が高いほど高く、葉のエイジの影響も受ける。また、気
孔開度(気孔の開き具合)に影響する、空気湿度、気温や風速、土壌水分状態の影響も受ける。
同じ環境条件であれば一般に、C3 植物より C4 植物の純光合成速度が高い。これは C4 光合成回路の CO2
固定能力が高いことに加えて、C4 植物には光呼吸によるロスがない(光呼吸がない)ことにもよる。
個葉光合成能力 最も高い光合成速度を示す葉(通常、完全展開直後の葉)の光飽和(十分な光強度)、
大気の CO2 濃度、最適温度条件下での純光合成速度(つまり、その植物種の最大の純光合成速度)をそ
の植物の個葉光合成能力(または単に光合成能力)(P0 )という。
作物の最大 CGR は個葉光合成能力と関係があり、個葉光合成能力(個葉光合成速度)が高いほど最大
CGR も高い傾向にある。つまり、多くの作物や品種を比較した場合、CGR の支配要因として重要なの
は、LAI よりも NAR ないし、その基礎となる個葉光合成能力である。よって、個葉光合成能力は作物
の生産力の基本的要因の1つといえる。また、NAR が個葉光合成能力に近いほど、呼吸によるロスが少
ないことになる。
CGR の支配要因として NAR や個葉光合成能力が重要なのは、多くの作物や品種を比較した場合で、一
つの作物種や品種について CGR の支配要因を見た場合は、個葉光合成能力の重要性は低下してくる。
なぜならば、作物種や品種が限られると、個葉光合成能力の変異の幅は、多くの作物種について見た場
合にくらべて小さくなるが、一方で、作物種や品種が限られても、CGR は栽培の条件や環境によって大
きな変異を示すからである。